2011年3月1日 21時43分 更新:3月1日 22時51分
11年度予算案は1日未明に衆院を通過したが、子ども手当の支給や税制改正に必要な関連法案の成立の見通しは立っていない。年度を越えても、この状況が続いた場合、国民生活や企業活動に幅広く影響しそうだ。また、関連法案のうち特例公債法が成立しなければ、国の借金である赤字国債を発行できず、歳入不足で予算執行に支障が出ると、更に混乱が広がる恐れがある。
現在の子ども手当法は今年度限りの時限立法のため、11年度の子ども手当法案が廃案になれば旧児童手当に戻ることになる。旧児童手当は支給額や対象が子ども手当と異なるため、支給事務を行う市区町村の準備作業に数カ月を要し、年度最初の支給月の6月(4、5月分を支給)に間に合わない恐れもある。
児童手当の支給業務を担う各市区町村は、所得把握やシステム改修などが必要となる。6月支給に間に合わせるためには「3月前半までが限界」(厚生労働省幹部)。
受給者側の手続きも煩雑になる。09年度に児童手当を受給していた世帯は自動的に切り替わるが、それ以外の人は改めて申請しなければならない。手当は申請翌月から支給されるため、廃案が確定して4月に請求しても5月分からしかもらえない。転居した場合には、前の自治体で所得証明書などの書類を取り寄せる必要もある。
こうした混乱を避けるため、政府・民主党内には2~3カ月程度のつなぎ法案で子ども手当の最初の支給月である6月を乗り切り、改めて与野党で協議する案も浮上している。「混乱回避」を大義名分にすれば、野党側の協力も得られるとの読みだ。
ただ、滞納給食費や保育料からの天引きなど、11年度の法案での改善点が生かされなくなる。子どもの国内居住要件も設けられないため、海外に子どもを残してきた外国人にも引き続き支給される。【鈴木直】
税制改正法案を巡っては、年度内に成立しないと、3月末で期限を迎える税負担軽減などの優遇措置が延長できず、失効するという問題がある。
鉄鋼製造で用いる輸入石炭への石油石炭税は、2年ごとに免税措置が延長されており、3月末が期限に当たる。延長ができなければ、課税で粗鋼1トンあたり500円程度のコスト増となる。業界全体の負担増は400億円を超える見通しで、海外大手としのぎを削る鉄鋼各社の競争力低下が懸念される。日本鉄鋼連盟の林田英治会長(JFEスチール社長)は2月23日の会見で「足元の懸念は、石油石炭税の免税措置が3月末で切れること」と年度内成立を強く求めた。
このほか、農林漁業用A重油への石油石炭税の免税が3月末で失効すれば、漁船の燃料やビニールハウスの加温用燃料の価格が上昇。イカ釣り漁船では、年18万円の負担増になるとの試算がある。住宅売買時の登録免許税の減免措置の失効によって、住宅購入者の負担も重くなる。離島路線の航空機燃料税の減免の失効は、運賃の上昇で島民への影響が懸念される。
政府は影響を回避するため、年度内に法案が成立しない場合は、暫定的に優遇措置を延長する「つなぎ法案」の成立を目指す公算が大きいが、野党の協力を得られるかが焦点。
また、税制改正法案に盛り込まれている新たな減税措置などは実施することができない。特に、法人実効税率の5%引き下げは政府の目玉政策だが、野党の反対で原案通りに実施できるめどが立っていない。
輸入牛肉やチーズなどへの関税の軽減措置の延長などを盛り込んだ関税改正法案は、国民生活への影響が多大で、野党も法案成立に協力する方向だ。【久田宏】
11年度の予算関連法案のうち特例公債法案は、38.2兆円の赤字国債発行と特別会計などから2.5兆円を一般会計に繰り入れるための根拠となるもので、不成立の場合は歳入の44%にあたる計40.7兆円が不足。政府は税収や税外収入、建設国債発行による51.7兆円の範囲内でしか支出ができなくなる。
4月以降に成立がずれ込んだ場合、政府は月々の税収や、建設国債(11年度は6.1兆円)の前倒し発行、20兆円を上限に発行できる財務省証券の発行などでやりくりするが、歳出が51.7兆円に達すればそれ以上の支出はできなくなる。10年度の場合、10月末で51.9兆円を使い切っている。
さらに、与野党対立が続いたまま通常国会会期末(6月22日)が迫った場合、「政治不信から財政不安が高まり、国債が売られる可能性がある」(日興コーディアル証券の野村真司チーフ債券ストラテジスト)。国債価格が下落(長期金利は上昇)すれば、住宅ローンや企業向け貸出金利も上昇。住宅販売の投資にも打撃を与えかねない。【坂井隆之】