2011年2月27日 21時16分 更新:2月28日 2時56分
27日に行われた東京マラソンで、埼玉県立春日部高定時制事務職員、川内優輝選手(23)が2時間8分37秒で日本人トップの3位となり、8月開幕の世界選手権代表に内定した。県職員として仕事をこなしながらの市民ランナーの快挙をたたえる声が上がった。
川内選手がスパートをかけたのは残り8キロ地点だった。苦しかったが、「どうしても負けられない」とペースを落とさずゴールに飛び込んだ。力を出し切り倒れ込んだ。
身に付けたグリーンと白のユニホームには「埼玉」の文字。1月の全国都道府県対抗駅伝に県代表として出場した際に着用したもの。アンカーを務めたが、9人に抜かれた。「埼玉の名誉に傷をつけてしまった。何とか名誉挽回したい」。東京マラソンではそんな思いも一緒に走った。
鷲宮中、県立春日部東高と進んだ。学習院大時代には箱根駅伝にに学連選抜で2回出場。09年に県庁に採用され、春日部高校定時制職員となった。「県職員として埼玉のための仕事をしたい。公務員としての仕事を身につけたい」と、同高の松田敏男校長(59)に語った。
職場での仕事ぶりは実直で寡黙。自分からマラソンの話をすることはほとんどないという。午後1時半から同9時半までフルタイムで働き残業もこなす。毎日午前中に地元で2時間ほど走り、昼過ぎには出勤している。この日の東京マラソンでは、同高の給食職員が給水所に置くはちみつ入りのスペシャルドリンクを用意したという。
母校である春日部東高の山崎道雄校長(60)はゴール直前にテレビ中継で大記録の瞬間を見た。「画面の8分台は何の数字だろうと思ったらタイムだった。優勝もすごいがタイムがすばらしい」と絶賛した。
同高では昨年、活躍するOBとして川内選手を招き在校生を前に講演してもらった。川内選手は目標を持つ大切さを説いたという。「早速、全生徒に伝えて、世界陸上は全校で応援したい」と話した。
春日部東高時代に、陸上部監督として川内選手を育てた菅原和浩さん(50)=県立越谷西高教諭=は「まじめを絵に描いた選手だった」と振り返る。高校当時は1500メートルの選手として関東大会レベルだった。山登りの練習では、全国トップレベルのチームメイトが音を上げるなか、「行ける、行ける」と1人前向きな言葉を叫びながら前に出たという。「苦しい状況ほど力を出せる選手だった。東京マラソンも川内らしい勝ち方だ」と手放しで喜んだ。「日の丸を背負っても、思う通りの走りを見せてほしい」とエールを送った。
上田清司知事は同日、知事公館で記者団に「仕事が主で、スポーツは従の部分。その中でこういう成果を収めたのはすごくうれしい」と語った。