本紙評論家・小山正明氏が語りつづってきた「猛虎豪傑列伝」も、いよいよ今回がフィナーレ。最後を飾るのは先週に引き続いて“ザトペック投法”村山実氏です。性格、投球スタイル共に対照的だった両雄だが、小山氏は村山氏を基本的には認めていた。最終回でその胸中を余すところなく語った。
村山の投球スタイルが「常に全力投球やった」ということは、前回に書いた通り。どんなに点差が離れとっても、最後のフタをするまで決して手を抜かんかった。つまりゲームセットの声がかかるまで、本当に全力で投げとったんや。これには「見事!!」というか、頭が下がったね。
後に“ザトペック投法”(※1)と言われる独特の投げ方やったが、あれだけ投げても故障がなかった。身体は175センチと決して大きな方と違うよ。むしろ小さな部類やなかったかな。それでも、柔軟性に富んでいたし、身体の割に腕が長かった。それに加え手の指も長かった。フォークを操るには格好の体形やったと思う。
“フォークの神様”と言えば中日の杉下さん(茂氏=1949〜58年・中日、61年・大毎)やけど、村山はその次に位置するんじゃないか。指から抜くフォークは球威が落ちるのが普通やが、彼のそれは比較的速かった。そら球速の乗ったフォークに打者はきりきり舞いやったで。“きめ細かさ”という点では物足りない部分はあったものの、もし今、彼に似たようなタイプがいたら「投手はこうあるべし!!」と言いたいわな。
村山、と言えば巨人・長嶋との対決が代名詞のようになっとるけど、確かに意識の仕方は半端やなかった。オフにOB戦があると、両軍が半々に分かれて記念写真を撮るんやが、村山は何を思ったか巨人側に行って長嶋の横に座るんよ。その意図が何やったか僕にはわからんけど、それほど意識しとったということやろう。もっとも、長嶋自身はそうでもなかったと聞いたけどね。
彼との思い出で今でも忘れられんのは、1962年(昭和37年)のリーグ優勝後の“ビールかけ”やね。当時、甲子園の近所に合宿所「虎風荘」(※2)があって、そこの庭でやったんやが、そのとき、村山に僕はこう言うたんや。
「マスコミの間で『小山‐村山の確執』が言われとるけど、お前はそんなもん一切気にするな。耳を貸すなよ!!」
あんまり周囲がうるさいんで、直接言うたわけやが、村山も「もちろんわかってますよ」と普通に返してきた。ただ、そのころの村山は酒を飲まんかったんで、一緒にメシを食べる機会もなかった。ヘッドコーチの青さん(青田昇氏)が「ムラ、メシでも行こか?」と誘っても「いいですわ」と言うとったし…。もし、彼と酒を酌み交わしていたら、あそこまでマスコミに言われることはなかったやろう。
彼が永眠したのは、僕が阪神の投手コーチを務めていた1998年(平成10年)の8月22日やった。61歳やったから、まだ若いわなあ。結果はともかく、2度監督も務めたんやし「好きな野球をやり切った」ようには思う。これはあくまで、僕の推測やけどね。
いろんな「豪傑たち」を振り返ってきたこの連載も、ひとまずお開き。今度は他球団の選手の話もしたいなぁ。
▽村山 実(むらやま・みのる)1936年12月10日生まれ。兵庫県出身。現役時代は投手。住友工高から関大を経て、59年阪神入団。最高勝率(70年)、最優秀防御率3回(59・62・70年)、最多勝2回(65〜66年)、最多奪三振2回(65〜66年)、最優秀選手(62年)、ベストナイン3回(62・65〜66年)、沢村賞3回(59・65〜66年)。72年現役引退。背番号「11」は永久欠番。通算成績は509試合222勝147敗、防御率2・09。70〜72年は兼任監督、88〜89年は2度目の監督を務めた。93年野球殿堂入り。98年8月22日死去。
▽小山 正明(こやま・まさあき)1934年7月28日生まれ、75歳。兵庫県出身。高砂高から53年、阪神にテスト生として入団。62年には27勝を挙げ、優勝に貢献。64年、山内一弘との「世紀のトレード」で、東京(現ロッテ)に移籍。73年の大洋を最後に現役引退。最高勝率・最多奪三振・沢村賞(いずれも62年)、最多勝(64年)。通算856試合320勝(歴代3位)232敗、防御率2・45。01年、野球殿堂入り。現本紙評論家。
(※1)村山の闘志むき出しで全身を使ったピッチングは、52年のヘルシンキ五輪で陸上長距離3冠(マラソン、10000メートル、5000メートル)を成し遂げ「人間機関車」と呼ばれたエミール・ザトペックに例えられた。
(※2)62年3月〜94年10月まで使用された阪神の独身選手寮。甲子園球場の東隣にあった。
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