歯に衣(きぬ)きせぬ物言いで「名物OB会長」として鳴らした田宮謙次郎氏が、1950年代の阪神を支えた名外野手だったことを知る人は少ないだろう。しかも、投手で入団していたことなど…。後年茨城県下館市(現筑西市)の市議会議員も務めた同氏が今回の「猛虎豪傑列伝」の主人公。後輩の本紙評論家・小山正明さんが、エピソードを交えてその人柄を語った。
田宮さんは僕より6年先輩なのかな。この方も努力家でねえ。最初、投手で入団されたんやな。略歴を見たらわかるけど、1949年(昭和24年)に入団して、52年途中まで投手として活躍されてた。新人の年に11勝しとるんやから、肩の故障さえなければ相当活躍できたんやないかな。
結局外野手に転向するんやけど、監督だった松木さん(謙治郎氏)にかなりしごかれたようや。体形が“ずんぐりむっくり”やったからね。
かなりウエートがあったんで、今で言う「ダイエットをせんといかん!」と、断食をしたことがあった。1週間食を断って体重を落としたんや。僕らが入って間もないころやから、外野手に転向して2年目の53年(昭和28年)かな。それ以降、太らん体質になったというんやから…。そら、断食は辛かったと思うよ。
ただ、そんな努力が実を結んで、54年に初めて打率3割を打ち、58年に首位打者のタイトルも獲得した。決して足が速い選手でもなかったという印象があるけど、それでも8年連続2ケタ盗塁(通算190個)と結構走りもした。
バッティングそのものもなかなか渋くてなあ。球を手元まで引き込んできて、スパッと打つわけや。今の選手で言うたら金本の打ち方に近いかもしれん。首位打者を獲った58年は、新人やった巨人・長嶋の3冠王を阻んだんやから立派なもんやで。田宮さん本人の努力に加え、松木さんの“しごき”もいい方に出たということやろう。だから、田宮さんも松木さんには頭が上がらんかったんと違うかな。
性格的にも温厚な方やった。ものの考え方が「常識的」「正統派」というかな。ただ酒が大好きで、奥井さん(成一氏=1948年阪神入団、49年からマネージャー、62年にフロント入り)なんかと地べたにへたり込んだら一升瓶があっと言う間に空や。そら楽しく愉快な酒やった。
僕らのような後輩にも気配りをしてくれる優しい先輩やったよ。だから後年、長い間OB会長として一癖も二癖もある連中をまとめられたんやと思う。これに関しては皆納得の人選やったね。
2000年(平成12年)に地元の茨城・下館市で市議会議員に当選したその年のOB会で、僕が田宮さんの顔を見るなり「先生、おめでとうございました!」と言うと「何が先生だよ、バカ野郎!!」とこうや(笑)。それでもうれしそうに笑ってたなあ。
僕もそうやけど、田宮さんも阪神一筋で現役を全うしたわけやなかった。58年オフに大毎に移籍し、当時言われた「ミサイル打線」の中核として活躍した。そのとき、同じく中心打者として働いていた山内さん(一弘氏=09年没)と僕が、交換トレードで球団を入れ代わるんやから、何とも不思議な縁やわな。
▽田宮謙次郎(たみや・けんじろう)1928年2月11日生まれ、82歳。茨城県出身。下館商(旧制)から日大(中退)を経て、49年に投手として阪神入団。52年途中から外野手に転向した。59年に大毎(現ロッテ)移籍後、63年現役引退。首位打者(58年)、ベストナイン5回(56〜58、60〜61年)。通算成績は投手で50試合12勝12敗、防御率4・85、打者で1488試合4807打数1427安打106本塁打597打点、打率・297。引退後は東映・日拓で監督、中日、阪神でコーチを歴任。01年まで阪神OB会会長も務めた。02年野球殿堂入り。
▽小山 正明(こやま・まさあき)1934年7月28日生まれ、75歳。兵庫県出身。高砂高から53年、阪神にテスト生として入団。62年には27勝を挙げ、優勝に貢献。64年、山内一弘との“世紀のトレード”で、東京(現ロッテ)に移籍。73年の大洋を最後に現役引退。最高勝率・最多奪三振・沢村賞(いずれも62年)、最多勝(64年)。通算856試合320勝(歴代3位)232敗、防御率2・45。01年、野球殿堂入り。現本紙評論家。
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