松木謙治郎編 うれしかった 3000円のポケットマネー 

“精密機械”小山正明氏が語る「猛虎豪傑列伝」3回目は、第3、7代監督の松木謙治郎氏。 “無口”だった指揮官から怒鳴られた話や、完投勝利後に思わぬ小遣いをもらったエピソードなど、小山氏との逸話が盛りだくさん。個性的な豪傑たちをまとめた松木氏の姿に迫ります。

怖かった

 2回連続で話した藤村富美男さん同様、この人も無口な方やったねえ。松木さんで強烈に覚えているのは、僕が打席に入って三振に終わり、照れ笑いを浮かべながらベンチに戻ったときのこと。これに監督がむちゃくちゃ怒ってなあ。「グラウンドでニタニタ笑うな!」とこうや。そらもう怖かったわ(苦笑)。

 当時は“軍隊帰り”の方が多かったからね。藤村さんしかり、弟さんの隆男さんしかり、梶岡さんしかりや。この人たちはみんな兵役を体験しているはずやで。

 僕が入団した昭和28年(1953年)の話。大阪球場での2軍戦で勝って風呂に入っているとき1軍昇格を言われ、その年に5勝したんやが、最後の方に名古屋遠征があった。「ここで勝てば2位確定」という中日球場(後のナゴヤ球場)での試合に、僕が先発して完投勝ちした。デーゲームやったから、主力選手はええ気分で名古屋の繁華街へ繰り出すわな。

 でも、僕はまだ1軍に上がって間もないし、街だってよお知らん。仕方ないから、自分の部屋で寝転がってたんよ。そこに、当時スカウトだった青木一三さん(のちクラウンライターライオンズ球団代表)が来てこう言うたんや。

恐る恐る

 「おい(松木)監督が呼んどるぞ」と。試合には勝ったのに何やろ?怒られるようなことした覚えはないけど…てなことを考えながら、恐る恐る監督の部屋を叩いた。すると、丸いちゃぶ台の横に松木さんが座っとる。「ここに座れ!」と横に正座させられ、間髪入れず「どや?きょうは疲れたか?」ときた。

 まだ若かったし、疲れた、なんて言われへんがな。「大丈夫です!」ときっぱり言うと「そうか」とうなずいた後「そんなら何で街に出ていかんのや?」と聞いてきた。「いや、街も知りませんし、宿で寝ている方がいいです」と僕。すると、松木さんが財布を取り出して「これ持って街へ行ってこい!」と言うわけよ。びっくりした。何と3000円やで。

びっくり

 当時、1軍の最低月給が1万円で、僕の年俸が6万円だったことを思えば、3000円という“小遣い”は破格も破格。びっくりしたと同時に、本当にうれしかった。あの3000円は今でも忘れられへん。

 それともう1つ。ある年の国鉄戦で、徳網さんとバッテリーを組み、箱田という選手と対戦したんやが、徳網さんの「スライダーを外にはずせ」というサインに、僕は真ん中に投げて打たれてしもうた。ベンチで徳さんに「どこに投げとるんや!」と怒られた。これを見ていた松木監督が一言こうや。「こらっ、徳!お前が悪い!!」。ベンチはシーンよ。こっちだってたまらんわな。

 今では考えられんような光景が、ベンチでいっぱいあったなあ。

〈WHO’S WHO〉

▽小山 正明(こやま・まさあき)1934年7月28日生まれ、75歳。兵庫県出身。高砂高から53年、阪神にテスト生として入団。62年には27勝を挙げ、優勝に貢献。64年、山内一弘との“世紀のトレード”で、東京(現ロッテ)に移籍。73年の大洋を最後に現役引退。最高勝率・最多奪三振・沢村賞(いずれも62年)、最多勝(64年)。通算856試合320勝(歴代3位)232敗、防御率2・45。01年、野球殿堂入り。現本紙評論家。

▽松木謙治郎(まつき・けんじろう)1909年1月22日生まれ。福井県出身。現役時代は内野手。敦賀商業学校(旧制)から明大、名古屋鉄道局、大連実業団を経て、36年に阪神入団。首位打者・最多安打・本塁打王各1回(いずれも37年春)。40年に阪神の選手兼任監督となり、41年に引退(監督も退任)。戦後は50〜54年・阪神監督(50〜51年は選手兼任)、55年・大映打撃コーチ、56年途中〜57年・大映監督、58〜60年・東映打撃コーチ、69〜70年途中・東映監督を歴任。現役通算成績は479試合、448安打、18本塁打、224打点、打率・263。監督通算成績は1255試合628勝602敗25分け、勝率・511。78年に野球殿堂入り。86年2月21日死去。

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