色々あって前書き、後書き抹消、ソレ用に一枠取りました。
~総督部地下~
若い士官が厳重なセキュリティをひとつひとつ開けていく。
「はい、ここですよ、まことさん。」
案内されるがままに地下の一室に入る。
「ここは?」
暗かった室内に明かりがともる。
4台のコクピットが並んでいる、バーチャルシュミレーター用のヤツか。
「あなたの戦闘データ、見せてもらいました。
突然でなんですが、あなたをテストパイロットとして当基地で雇用したいのです。」
彼が手にしたデータチップ、アレはおれの多摩型の…。
どうやら受けなきゃならないみたいだな…。
コレだけのセキュリティのところに足を踏み入れちまったんだ、断ってしまえば、ただでは帰してくれないだろう。
促されるままに一台のシュミレーターに入る。
「引き受けてくれてありがとう、自己紹介がまだだったね。僕は加藤学、中尉だ、よろしくね。」
よく言う…。
「俺は篠田まこと、少尉(予定)だ。」
にしても、このコクピット、金をかけているのがわかる。
こういうシュミレーターは実機と同じ造りをしているもんだが…、ここまで装備が整っている機体、コストがかかり過ぎないか?
「まこと君、いいかい?さっそくシュミレーションを始めるよ。」
加藤少尉の声と共に、シュミレーター内のモニターに映像が映し出される。
「?このWLJ-004(AN)ってなんぞ?」
起動時に映し出される文字列、
「ああ、それはその実験機の型番ですよ、WLなんたらっていう型番は多摩型にもあったでしょ?」
そういや、そうだったっけ。
ずっと多摩たま呼んでたからな、そんなモンすっ飛んでたぜ…。
「いくよ、任務は簡単、敵機を全て撃破すればいい。」
READY?
指を操縦桿に食い込ませる、慣れない機体でどこまでやれるのか。
だが、シュミレーターならそうそう酔いは来ないからな、なんとかなるだろう。
「見せてくれ、君の力を…。」
GO!!
状況は市街戦、昼、上空より侵入した敵WLの撃破。
仮想敵機は「清-08式」、華国の機体なのだが、いいのか?勝手に敵扱いして…。
まぁいいか、
音響、その他のセンサーで敵の位置を確認しつつ機体を滑らせる。
若干ノイズが大きいが、なんとか識別できる。
だが…この上下への揺れはどうにかならんもんかな、完璧に再現されている…うっぷ……。
並行して自機の兵装を確認。
「…嘘だろ?」
パネルに表示された武装は2つ、そのどちらもが俺を動揺させた。
ライトアーム…レールガン
レフトアーム…レーザーブレード。
実用化されていたのか、レーザー兵器が…。
てっきり実態弾系の武器がすべてだと思っていたが、あるじゃないか…ビー○サーベル。
こんな大電力を消費する兵装をWLに積みこむなんて…、一瞬で電力を吸い取られるんじゃねぇのか?
あ……そうでもないのか。
レールガンもレーザーブレードも、電力供給はバッテリーパック形式だ。
マガジン形式のバッテリーだけでコレが撃てるとは、驚異的だ…。
とはいえ、どちらも長期戦には向かない装備だな。
コクピット内に警報が鳴る。
捕捉されたようだ、後方からの攻撃が至近距離に着弾する。
アサルトライフルのようだ。
「やってみるか!」
機体を振り返らせ、照準をつける。
敵機の主兵装はまだ有効射程内ではないはずだ、なのに撃ってくる
…所詮はバーチャル、か…。
レールガンへの電力チャージが完了する。
思ったよりも早い。
砲身からが青白い光が漏れだしている。
右手の動きと連動して、モニターが一瞬青白く染まる。
昼、という設定なのになんて明るさ…。
光が直進し、
敵の脚部へ命中する、
破壊した敵機がうつ伏せに倒れ、脚部から黒煙を上げ始める。
無駄にリアルに作り込んである、まるで現実だ、これは…。
無論武装による爆発、土煙等も完全に作りこまれている。
ゆえに実戦同様の戦術が使えるみたいだ、何回かシュミレーターに乗ったことはあったが、これだけのモノは初めてだ。
レールガン下部からバッテリーパックが排出される、1発あたり1パック使うのか…。
残りのパックは両肩シールド裏に各2、腰部アーマーに2個。
レールガン自体の弾倉も残り6発。
今の戦闘で他の奴らが寄ってくるなこりゃ、
腰部のパックをレールガンへ装着し、機体を移動させる。
すごくなめらかなで、静かな挙動が、俺の酔いにやさしい…。
~せんとう前~
「ここか、その銭湯とやらは。」
おれは件のカメラを胸に銭湯の戸の前に立つ。
「わ~い♪お姉さまとお風呂~♪」
モヤシの言ったように行方不明者リストに名前が載った嶋野(小)だが、堂々と外に出てきた。
ペットの鳩まで一緒とは…。
幼女は射程外なんだが、まぁニーズはあるだろう。
「じゃあ行くか。」
リュウが戸を開け、中に消えていく。
続いて真田、雄、有田秘書官、ウルフ小隊の面々が続く。
おれは戸の脇に立って皆を先に入れる。
レディーファーストってヤツかな?若干男どもも先行ったが…。
「すまんな小野田。」
「さんきゅ~♪」
嶋野姉妹が通る。
これで終わり、おれも中に入るべ。
「いらっしゃいませ、横須賀の方々ですね、話は聞いております、ごゆっくりどうぞ。」
さあさぁ、と老・経営者に指し示されるままに男湯の方へと向かう。
女湯へ行くには番頭の婆さんの前を通る必要があるな…。
正面突破はやはり無理そう。
「じいちゃんたち!あたしのトーコ、預かっといてね!」
「おお?ひよっこ共のお出ましか!遅かったなぁ!!」
「んが?」
鬼軍曹に三崎整備長…既に出来上がってやがる…。
そいつらに自分の鳩を預けるとは、中々度胸があるじゃないの。
ってか風呂にも入らず休憩所で酒盛りをしているのか。
真奈美ちゃんにとっては愛するペットの預り所と化しているが…。
まぁさして邪魔にはならないだろう、どうせずっと酒飲んでるんだろうし。
男湯ののれんをくぐり、
更衣室の木製ロッカーに衣類を脱いで放り込む。
無論たたみなんてしない。
大事なカメラ、でかいバックパック(防水密閉式)を両手に湯への道を開ける。
ここの銭湯については来る前に調べ済みだ。
まずは屋内の湯、大して広くない湯船に、やや広めの流し場、一枚の壁を挟んで女湯がある。
一歩一歩タイルを踏みしめる。
そしてあの奥の戸、アレが露天への入り口だ…。
ここの目玉、周りの私有林の真ん中に位置する大露天岩風呂。
私有林の周りは高い塀で囲まれているが、隣接する男湯・女湯から私有林へは低い柵しかない。ちなみにこの露天、広いうえにいびつな形の湯船、更にあちこちに岩が入っている。
さらにさらに!!
今は真夜中、暗いうえに、夏とはいえ気温もそれほど高すぎはしない。
つまり、湯気でもカムフラ出来るんだよ、これが…。
正面が無理でも裏からの突破なら不可能ではない!!(クワッ
とはいえ、ここの名物は露天、女性陣も速攻で外へ出ていることだろう。
いくら湯煙があるからといっても見つかりかねん。(ショボーン
とりあえず勇者たちを集める必要があるだろう、団結しておけば色々役に立つ。
まずは……
「おい!雄!!ちょっといいか?」
湯煙で真っ白な中、雄二の姿を見つける、まずは親友を引きこんでおくべきだろう。
ウブなわりにムッツリだから大ジョブなハズ。
「これから女湯へ行く、仲間になれ。」
は?という顔を浮かべる雄。
「ええ?覗くの?」
「バカ!覗かネーよ!撮るんだよ!!」
手にしたカメラを見せびらかす。
「でもさ…。」
なかなかしぶといな、
むぅ、致し方ない、こうなれば…。
「いいか、雄、耳をすませろ。いいから!!」
騒ぐ雄を押さえつけ、無理やり女湯側の壁に押し当てる。
向こう側は花園、そうじゃない会話もそれらしく聞こえるはずだ、そうなりゃこっち側の人間にできる。
・・・
・・・・・・
…・・………・…………・・・・・・・。
「どうだ、これでもまだ行かないか?」
…?
「雄?」
水音が…?
赤い水が雄の鼻からおかしいくらいに漏れだしている。
視界の一部が赤くにじむ。
雄ぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーー!!!
「おいっ!雄!?
ちょ、そこのアンタ!運ぶの手伝ってくれ!」
たしかウルフ小隊唯一の男パイロット…名前は知らないけど、助けを借りることにした。
とりあえずカメラとバックパックを近くに置く。
俺が頭、奴に足を持ってもらい、更衣室へ出る。
「おーい!ばあちゃん!!氷嚢とか、持ってきてくれー!」
さっきの番頭していた婆さんに色々と物資を要請した。
その間ウルフの彼は雄の尾翼を押たりして止血してくれていた。
「健太だっけ?お前の連れどうしたよ?まだ湯に浸かってねぇんだろ?」
「あーあー、まぁ気にしないでくれ、コイツムッツリだからサ。」
「ムッツリか!ははは、鼻血吹くなら実物拝んでからにするんだな!」
だろ?
と下らないことで場が盛り上がる。
「はいはい、この方の手当ては私に任せなさい、せっかく銭湯来たんだ、満喫しとくれよ。」
よっしゃ、とウルフの彼が立ちあがる。
「んじゃ、任せましたよ。」
おれも、満喫しなくちゃな!
残念だが、雄はもう戦えないだろう。
リュウや真田は堅物だし、あとはコイツに賭けるしか……。
そう思い、彼をじっと見つめる。
「!、俺も行くぜ!!」
まだ何も言っていないのに…。
コイツ…やるな!
「白井良一だ。」
「おれは小野田健太。」
おれと彼は改めて中へと入っていく。固く握った俺たちの拳がその決意を表していると言っても過言ではない。
~総督部地下~
4台並ぶシュミレーターのうち、手前の一つが激しく稼働する。
なるほど、ね。
僕はシュミレーター横でパネルを見ている。
中々、まこと君は才能あるみたいだ、初めて扱う機体にクセのある兵装を使っているのに
人並み以上に戦えている。
シュミレーターのライブモニターが青白い光で包まれる。
今ので3機目か。
ん……?
だが、その割にスコアが伸びない。
アレだけ正確に敵機を撃破しているのだからもっと高いスコアが出てもおかしくはないのに…。
パネルを操作し、撃破した機体の詳細を表示する。
「なるほど…ね。」
全ての被弾個所が脚部に集中している、それも一番脆いヒザ関節。
このシュミレーションにおいては敵機の完全な撃破が高得点につながる。
彼の戦い方では低いスコアになるのもいたしかたないか…。
「これでは選べないな。」
何人かの候補パイロットから実機訓練をする者を決めるつもりだったのだが…、これでは比べられない。
「まこと君?これから別のシュミレーションを開始する。少し待ってくれ。」
まことの入ったシュミレーターと、隣のヤツとをリンクさせる。
あとは僕が入るだけ、
パネルでデータの回収ができていることを確認して、急ぎ隣のシュミレーターへと入る。
飛びこむようにシートに座り、シートベルトをつける。
パネルを叩き、設定を始める。
使う機体は…北秋型でいいな。
まこと君からもらったチップを元に作った北秋型のデータ、シュミレーターのシートの造りとは異なるが、使ってみたい。
僕に実機は使えないが、シュミレーターなら十分にいける。
「待たせたね、今度の敵は1機、そいつを破壊すればシュミレーション終了だ。」
「わかった、やってみるよ。」
まこと君は気付いていないようだ、これが僕とのサシだということに。
READY?
毎度の文句がモニターに表示される。
GO!
始まる、
フィールドはさっきと同じ市街地、僕の使う武装は11式突撃銃を2丁。
加えて両腕甲にブレードソードを装備している。
あわせてかなりの重量になるが、障害物も多いし、この機体の機動力は高い、特に問題ないだろう。
射程は向こうに分がある、速やかに接近する必要があるな…。
機体を滑走させ、まこと機の方へと接近していく。
「それに…その機体の弱点はわかっている!」
彼の使う機体、WL-004(AN)は東日本で、空自・海自が共同で開発した新鋭機。
空・海での広域戦闘を想定してセンサー類の感度が、デフォルトで引き上げられている。
その耳の良さが命取りだ…。
脇の計器をいじくり、バックパックの射出口を開ける。
次にいかにもスイッチ、な音をたたせて指を弾く。
北秋型からチャフ・フレア弾頭が上空に放り出される。
多摩、日原、北秋型はそれぞれ同型のバックパックをしょっており、そこに色々便利な物が詰まっているのだ、
この射出時の、ワイン栓を抜いた時のような音がたまらなく好き。
暇があってはシュミレーターで遊んでしまう。(イケナイんだけどね…
そうこうしているうちに小さな破裂音が戦場に花咲く。
辺りが金属片やら熱源やらでいっぱいになる。
こちらのセンサーもオジャンだが、有視界戦闘なら自信がある。
それに、向こうのセンサーはこっちとは比べられない程酷くなっているはずだ。
無論機体のセンサー感度を落とせば対処できるだろうが、初めて使う機体ではそれもできまい。
「耳が聞こえない中どう戦うのか、見物だよ。」
機体がセンサーの闇に溶け込んでゆく…。
~せんとう開始~
「いいか、作戦を説明する。」
おれの言葉に白井が頷く。
とりあえず身体をあっためるために露天に入りながら議論することにした。
テンションも俄然あがってくる。
「いいか、目標は露天に集中している、
今音紋照合(盗み聞き)したところ身体を洗っているウルフ2、つまり赤嶺由真以外が集結している。」
ふむふむ、と相づちを続けている。
「唯一有田忍中佐の居場所が判明しないが…かねてからの予定どうり、まずは目標の注意を入り口側にそらそうと思う。」
「なるほど、で?策は?」
フフン、と鼻を鳴らす。
余裕こそが成し得る所業だろう。
露天のドアに影が映る…。
頃あいだ。
「そこはもう考え済みだ!
銭湯になくてはならぬ必須アイテム!そしてなおかつ万人の心を掴んで離さないアルティメットアイテム!!」
正義のヒーロー的な決めポーズを決める、身体が火照ってテンションゲージが振り切りつつあるようだ。
「さぁさ!牛乳は要らんかね?有料だけどさ!」
曇りガラスのドアがスライドされ、牛乳瓶を入れたトレーを両手に、婆さんが入ってくる。
「おう!!おばちゃん俺フルーツ牛乳ね!」
「あいよ!」
近くまで寄ってきた婆さんがトレーから黄色い包装をされた瓶を取りだす。
そう、これぞマジックアイテム。
「そっちはなんにするね?」
「俺?俺は…フツーの牛乳かな?」
外しにくい紙蓋を爪ではがし取り、一気飲みをする。
…っ・・・っ…っ・・・っ…かーーーーーーー!
まったりとした甘さがたまらない。
この世にこれだけ人を満足させるアイテムがあるだろうか。(反語
「ばあちゃん、コレ女どもにもあげてやってくれねーか?俺の奢りって言ってやってくれ!」
コレが止めだ…。
「あいよ。あっちの旦那達にもやってから行くからね、ちっと待ってぇな。」
そう言って婆さんはリュウ・真田の方へと歩き出す。
奴はコーヒー牛乳派…だったっけか?
空いた牛乳瓶をタイルの上に置く、コトリと音をたてるのがまたいい。
風呂場の中で飲む牛乳は格別だナァ。
「なるほどね、アレがリーサルウェポンってか?」
ちびりちびりと飲む白井が感心したように話しかけてくる。
我が戦略に一点の曇りなし…。
「ってか、よく先にこっち来るってわかったな、女湯に行った後だったら無理だったんじゃねーか?」
ふふふ、
「ばかめ、婆ちゃんってのは男の子を可愛がるモンなんだよ!番頭がどんな奴かも予習済みさ。」
ほへー、としきりに感心し続ける白井良一を横目に、ちょっと得意げになる。
「あとは婆さんが向こう行ったのを確認して突撃すればいい。」
「だな!」
しかし、湯…ったけぇ…。
これは、いいものダァ……。
もやもやっとした湯けむりが夢心地に拍車をかけてくる。
「それじゃ、女湯の方にも行ってくるよ!」
リュウにも売り終わったらしく、いそいそとドアの方へと向かう番頭の婆さん。
「おうよ。」
「覚悟しときなよ?私の見立てだと、あの女性陣は飲むよ?」
どんとこいだぜ、
それ以上のモンを見せてもらうわけだから安いもんだ。
カメラ等の機器は露天の奥に隠してある、このもやでは発見される心配もない。
腰の曲がりかけた婆さんがドアの向こうに消え、影も見えなくなる。
……。
急に帰ってくる心配もなさそう。
「出撃るぞ!」
「ああ!!」
漢には進まねばならぬときがある。
ややもすれば死ぬかもしれん作戦でも、そこに桃源郷が存在するのであれば…。
おれと白井は、湯水をかき分けながら露天奥へと歩を進める。
~総督部地下~
「敵の機種は…?」
新たな追加シュミレーションが開始されて数分が経過する。
敵機の種類もわからない。
音響センサーは街の喧騒で、あちこちから反応が出てきている。
モニターのあちこちに通常車両、走って逃げようとする民間人が表示されている。
「なにもこんなところまで作り込まなくってもさ!!」
もしも流れ弾が当たったら、と思うとぞっとする。そこまで作りこまれていないことを切に願うが…。
この時点でアテになるのは磁気と熱量センサーなのだが…どっちも自動車とかのノイズが入る。
わかりにくい…。
めっちゃ不利じゃねーか?コレ…。
!!?
上空で爆発?
同時に全ての索敵装備が使えなくなる。どこもノイズで完全に埋まってしまった。
チャフに、フレアか!?
っ…、
忌々しく歯を噛み合わせる。
今度の敵はさっきのバーチャルとは違う!
ココまで徹底的にこっちのセンサーを狂わせにくるとは…。
汗で操縦桿が滑る、
が、そんなこともお構いなしにモニターを食い入るように見つめる。
機体の頭部が左右に振られ、情報をモニターに映し続ける。
どこから来る?
普通に考えるなら背後から…、だがその裏をかく、ということも考えられる。
しかもこっちのメインアームは連射が効かない、
仕留めるなら一瞬で仕留めねばこっちがやられるだろう…。
「なら!」
フットペダルを深く踏み込む。
多摩型とは比べ物にならない推力がスカイブルーの機体を持ち上げる。
上空ならこちらも敵を見つけやすい、既に捕捉されているからこそできる選択だった。
地面の一点が激しく光る。
「見つけた!!」
こちらの突然の挙動に焦って発砲したのか、二筋の火線がこちらに伸びてくる。
上空にいれば下が被害を受けることもない。
…所詮はシュミレーションなのに、もうクセだな。
機体を削る乾いた音が響くが、大したダメージは受けていない、
肩部シールドにあたったようだ…。
足の動きが激しさを増し、空中での機動が素早くなるにつれ、機体背部の2枚のウイングバインダーがオートで展開する。
上空での姿勢制御をサポートしているようだ、いつか多摩型で大ジャンプをした時とは大違いの安定性能。
充填済みのレールガンを敵機に向ける、
最大出力で射出された実体弾がにもないアスファルトを大きくえぐり土煙をたてる。、
「外した!?」
こちらが撃つよりも早く建物に隠れた、
思ったよりも素早い…、本当に北秋型か?
ノズルの温度上昇を示すサインがパネルに点滅する、
そういつまでも滞空してはいられないか…。
目を下方カメラに移す。
……!
すぐ近くに空き地がある、
一旦休ませよう…、
この機体、かなり余裕のあるスラスターを持っているようだが、やはり長時間の連続噴射では熱が籠ってしまうようだ。
大きな地響きが土煙を巻き起こす。
3辺をビルで囲まれた空き地、ここなら守りやすいだろう。
それぞれの窓には若干ながら人影が見え隠れする。
先ほどカラになったパックを排出、新たに装着する。
残弾は残り3発、
相も変わらずセンサー類は騒がしい、本命の影すら見えない。
「まだか?」
どれだけ時間が経っただろうか、たった数秒が永遠の時に感じられる。
!?
装甲をなでる瓦礫の音…。
?
影…?
自機の影が急に大きく、いびつになる。
これは…!?
「上か!!」
背後のビルの上から!
落ちつけよ、状況は…、
確実に仕留める気なら、敵はブレードで近接戦を挑んでくるはずだ。
操縦桿を全力でひねり、全速で振り向かせる、
親指を、武器と連動したスイッチに当て、レーザーブレードを振り向きざまに薙ぎ払う。
瞬間火力を最重視されている兵装ゆえに長時間の使用はできない、が、一瞬であるあらば、
「負けはしない!!」
ブレード発振器から形成されたレーザーが空を斬り裂く。
一瞬だった…。
どうなったかはもう詳しくはわからない、無我夢中だったんだ。
ただ、切り落とされた敵機のブレードが遠くのコンクリートに突き刺さり、北秋型が道路の方向に流れていった、
そして、電力を使い切ったパックが大地に沈んだのは確かだ。
態勢を崩し、倒れ込んだ北秋型がアサルトライフルを構える。
「!!」
とっさにフットペダルを踏み込んだ……
はずが、足が動かない。
正確には動かせなかった…、今ここをどけば…後ろのビルは……。
至近距離から放たれた55ミリが雨霰のように降り注ぎ、前面装甲をはがしていく。
コクピット内が轟音に包まれる。
「しまった!!」
ダメージパネルが一気にレッドゾーンに達し、頭部が黒く塗りつぶされる。
頭部が失陥した…、それと同時にモニターのほとんどが消えてしまう。
今見えるのは肩部のサブカメラに腰部の下、後部カメラのみ…、
そうか、これはシュミレーションだった…。
…気にする必要は、ないんだった…。
瞬く間に各部位とのコネクトが途絶え、シュミレーターが停止する。
撃墜、されちゃったみたいだ…。
俺は首を横に振りながらシュミレーターから出る。
目と鼻の先にある情報収集機、入る前までそこにいた加藤中尉はそこにはいなかった。
「あれ?中尉?」
「ここですよ!」
背後から彼の声、
振り向けば彼もまたシュミレーターから出てくるところではないか。
「アレ?なんでそこに?」
「あら、気付かなかったんですか?さっきの北秋型は僕ですよ!」
ああ、
なるへ~、どおりで前の清-08とはダンチなわけだ。
人が操ってたんじゃあナァ…。
「だけど、あんなに強いんだったら中尉の方が向いてるんじゃない?テストパイロット。」
なにか照れくさそうに頭をかきはじめる加藤学。
「ふふふ、ありがと。
でもね、僕、実機になると途端に操縦できなくなるんだ。だからこいつのテストパイロットは無理なんだよ。」
?
「シュミレーターではいけるのに?乗り物酔いが酷いとか…?」
「さぁね、特に乗り物に弱くはないんだけど…
と言うより、乗り物に凄く弱かったらシュミレーターも無理でしょ!」
ははは、確かに…、
俺はこらえてるけどな。
「とりあえず今日は夜分遅くにありがとう、手間、かけちゃったね。貴重なデータは今後に生かさせてもらうよ。」
そういや今、夜だっけか…。
シュミレーションが真昼間だったもんだから、時間感覚が一瞬ずれちまったぜ。
夜だと自覚し始めると、急に身体が眠気を探し出してくる。
「そうそう、君の部隊員たちはこの近くの銭湯に行ってるはずだよ、まこと君も疲れ落としてきたら?」
銭湯か…大好きだけど、今は眠いんだ……。(それに財布が…
「タダだよ!」
シャキーン!!
なら話は違うな、無料ときたら行くしかねぇ、どんなに疲れていてもだ!!
差し出されたチケットを掴み、もと来た道を駆けだす。
ここのセキュリティ、出る分には身分証等は要らないようだ…。
シュミレーターの騒音もなくなり、静まり返った研究施設。
「元気だね、彼…。」
やはり彼が一番向いているかもしれない、
手にした複数の資料のうち、1枚を除いてシュレッダーにかける。
あとは司令に連絡すれば今日の仕事は終わり、僕もゆっくりしよう…。
~決戦(銭湯)~
「どうだ!?」
向こうの壁に耳を当てている白井、ヤツに状況を聞く。
「……イケルな!案の定牛乳婆に喰いついてやがる。」
よし、あとは突撃あるのみだ。
「行くぞ!油断するなよ!!」
「了解!!」
露天の岩によじ登り、裏の林とを区切る竹製の柵を乗り越える。
あとは向こうへと歩くだけだ…。
「ここが正念場だ、ぬかるなよ?」
「当たり前だぜ!」
男湯、女湯を隔てるベルリンの壁。
今まさに、それを乗り越えるのだ。(迂回して
壁の向こうを念のため確認する。
……いない、な。
よし、牛乳飲み放題が効いたようだ。
財布は寒くなるが心は熱い!
「行くぜ!!」
迅速に柵を乗り越え、音・波たてないよう静かに露天に滑り込む。
しばし、女湯に浸かる一時を味わう。
これは、一人の男にとっては小さな1歩だが、漢達にとっては偉大な飛躍である…
コレわ歴史に残るな…。
ワレ・モクヒョウ・ニ・セッキン・セリ
アト・ニ・ツヅケ…
ハンドサインを送り、柵の向こうで待機している良一に行動を促す。
そろそろ目標が露天に戻ってくるはずだ…。
バックパックから双眼鏡を取りだし、偵察する。
…、湯けむりのおかげでよく見えないか。
とはいえシルエットはわかる、
興奮に胸が高まる。
お?
おおお?
おおおおお?
タッパの小さな、しょっちゅう動く奴・出るとこ出て締まるとこ締まってる奴・あとは……、
ちっ惜しむらくは靄ではっきり見えないことだが…まぁパソコンでデータ修正すれば何とかなるだろう。
いそいそとカメラで撮影を開始する。
「で?小野田君の本命は誰だ?」
「本命?そりゃ嶋野桐栄さんに決まって………って?え??」
背後からした声、どう考えても白井良一のモノじゃあない。
双眼鏡にかろうじて見える人数は3人、となると……?
ゆっくり振り返ると、身体にタオルをビッチリ巻いた中佐が湯につかっていた。
タオル巻いて湯に浸かるのはマナー違反だお…。
てか汗がとまらない、
………。
「中佐…?なんで、ここに?」
おれは恐る恐る聞く、まだ岩の上にいる良一も口をパクパクさせている。
「いや、ただひとりで温まっていたら、君らが見えてな、中々いい作戦だ…。」
…中佐の顔が赤いぞ、キレてる!?キレてるよね!?
まずい、非常にマズイ…。
ここでバラされたら間違いなく死亡する。
ダブルバイオレンスで間違いなく片道切符が手に入っちまう!!
「わっ、わわっ!!」
高い水柱と水音をたてて、良一がお湯に落ちる。
ビビって滑りやがったか、コノヤロ……。
「…?忍さぁーん?大丈夫ですかぁ?」
聞きなれない声がする、恐らくアレがウルフ小隊員、赤嶺由真だろう、
ってマヂメに分析している暇はないじゃねーか!!
激しくせき込む良一の口を押さえ、とっさに岩陰に隠れる。
「なんでもない!少し足を滑らせただけだ!!」
??
「気をつけてくださいねー!」
「心配掛けてすまない!」
????
なんで?
有田中佐が向こうの女性陣をあしらってくれた・・・?
どゆこと?
「予め一人でいたいと彼女らには言っておいたからな、私の傍にいればバレなくて済むぞ?」
…悪魔的な笑顔で顔近づけないでください、ホント頼みますから。
「なんでですか?」
ぐったりしている良一に代わって中佐に聞く。
なにかよからぬことをたくらんでいるに違いない。(おれらのコレはよからぬことではない
「なに、ただ此処で潰すよりもいじった方が面白いと思ったからだ、気にするな。」
…、
鬼か、このおばはん…。
「どうする?私の写真でも撮るか?」
腕を頭の上で組み、悩殺(?)的なポーズをしてくる。
ぬぅぅぅぅ、思ったよりもいい体つきしてやがる…、
さっき見えた一番ムチ×2な奴よりはアレだが…オバンのくせしてなかなか…・…。
だが…負けん!おれにはおれのポリシーがある。おれは…無防備なシーンが撮りたいんだ!!
「誰が撮りますか!オバサンなんて!!」
「お、オバ…!?」
悔しさまぎれに発した一言、
まさかそれが死亡フラグだったなんて……。
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
「あ…あの?忍中佐・・・?」
彼女の周りの湯が大きく波紋をたてる。
湿っているはずの髪が怒髪天になっている…、
ちょ、コレ…ヤバくね?
「わ、私は…私はまだ28だぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
ありた しのぶ が あらわれた !!
コマンド
たたかう けんた りょーいち
どうぐ HP 30 / 30 HP 10 / 40
▶にげる MP 15 / 50 MP 2 / 30
どげざ
頭の中にRPGのせんとうBGMが流れる。
「逃げるっきゃねーーーーー!!!」
完全に噴火している。
土下座なんてしたところで人生・The・Final的な感じで即終了になっちまう!
女性に年齢ネタは禁物だが…ここまでキテルとは思わんかった…、
起きた良一と共に湯をかき分け、出口へと向かう。
間には女連中がいるがもうかまやしない、突っ切って逃げないと死ぬ気がする…。
ええい、足にまとわりつく湯がわずらわしい!
「うわ!!?ケンタ!?」
「なんで!?白井が!?」
慌てふためく女性陣のど真ん中を突っ切る。
激しい水しぶきが辺りを覆う。
恥ずかしそうにタオルで隠すその様子、その反応が堪らんのだが…、
「今はそんなこと言ってられねぇぇーーーーーーーーーーー!!!!」
背後に死神が迫っているのだ、立ち止まってホンワカしている暇などない。
いかに危険な状況とはいえ、カメラだけはしっかりと握る。
白井と共にドアをぶち破り、室内の浴室になだれこむ。
女湯のドアは木製のようで、蹴破っても留め具が外れたぐらいだ、すぐ直せるだろ…。
転がるようにタイルの上を走り、滑り、駆け抜ける。
「待たんか貴様らあぁぁぁぁ!!!!」
つるつる滑るタイルと焦りが心拍を跳ね上げる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいって!!
確実に指一本だけでどっかの冷蔵庫粉砕できるって!!
戦闘力、桁がヤバいって!!!
やっとの思いで更衣室に飛びこむ。
まだある程度距離がある。
「良一!なんかでドアを固定しろ!!これじゃ逃げ切れん!!」
即座に白井が近くにあった清掃用のモップで、戸につっかえ棒を立てる。
この辺の反応の早さは軍ならでは、と言えるか。
「よし!これなら…」
ゲ!!
凄まじい破砕音が脱衣所に響き渡る。
砕け、飛散した木片が板打ちされた床に落ちていく、
安心したのも束の間だった、怒りに震えた彼女が徐々に姿を現す。
どうやって逃げろと…?
ためらいもなく備品破壊したぞ……。
「健太!破られた!!逃げよう!!」
「言われんでも逃げるわ!!!」
こうなったら逃げる先はただ一つ、
「外行くぞ!」
タオル一枚腰に纏っただけだが、逃げ切るにはそうするしかないだろう、男湯に逃げたところでフクロられるのがオチだ。
それに、少しでもオバンに理性が残っているのなら、女がタオル一枚で外へ飛び出す、なんてことはしない……はず。
折れ曲がった通路を駆け、のれんを抜ける。
視界のはしっこで飲んだくれているおっさんどもが妙に憎たらしい。
あと少し、たった5m…
隣で派手にこける良一。
足の裏が濡れたまま全力で走ったからだ…、足ふきマットはちゃんと踏んでおけって…。
キミの勇姿は忘れない…(ブワッ
出口までほんの少し、
背後からのプレッシャーが近づいてくる。
ほんのちょっと、あと1歩…
おれは出口に向かって飛びこむ。
床を蹴った体が宙を飛ぶ。
「小野田ぁぁぁぁぁぁ!!!」
背後からも床を蹴る大きな音が聞こえる。
止めを刺しに来たか!?なんとか逃げねば!!
「さぁて、あったま・……ってえ?」
閉まっていた戸がスライドする。
え?
向こうにいるのはモヤシ……。
「ちょ!?モヤシ!どけって!!」
「へ?」
何が起こっているのか全く読めていないモヤシ、どうすることも出来ずにただ立ち尽くしている。
恐らく、ヤツの目には飛び込んでくる2人が映っているに違いない。
ゴシャッ!!
まさに擬音どおり聞こえた鈍い音。
おれの飛びこみがモヤシにヒットした音ではないらしい。
あっ!?
右手に持ったカメラがはずみで吹っ飛ぶ。
カメラが飲んだくれの方向へ…、一瞬一瞬がスローモーに見える。
コマ送りに見える世界の中、上では足の裏を、顔面で受け止めているモヤシ。
オバン…その格好で飛び蹴りとは、やるな…。
モヤシを蹴り飛ばした反動で中佐は着地、タックルする形になったおれはモヤシと共に表の土の上に放りだされる。
もう見えないが、機械が壊れる音がする。
カメラが…(ショボーン。
「し、忍…さん、げ…元気そうで、なにより…です。」
何言ってんだ?モヤシ…。
元気過ぎて困るぐらいだっつーの!
「し、篠田!?すまない!!」
モヤシを心配して駆け寄る中佐の声も足音も、俺には死刑執行のカウントダウンにしか聞こえなかった。
任務、失敗……。
エピローグ
「なんだ?そりゃ…?」
もう何杯目になるだろうか、杯をテーブルに置き、勝男がワシに聞いてくる。
「知らん、フィルム…みたいじゃがのう。」
ついさっき足もとに転がっていた小さな円筒形の物体、カメラのフィルムのようだ。
「さっきの騒ぎと関係あるのか?」
アレだけ飲んでまだまともに会話が成り立つ、というのは驚異的なのだろうか。
「さあな、興味もないわい。」
「だな!!」
手にしたソレをそこらに投げ捨てる。
どこか狭いところにでもハマったのか、小刻みにはねかえる音が聞こえる。
「ホレ、お前も飲むか?」
小皿に熱燗をなみなみと注ぎ、もうひとり(?)の飲み仲間に差し出す。
その晩、
鳩の舌鼓(鳴き声)と2人の断末魔が銭湯に響いたという…。
銭湯盗撮大作戦 決算
女湯露天ドア 修理費 31,200円
女湯脱衣所ドア 修理費 66,150円
牛乳代 男湯 100×4 400円
女湯 100×42 4,200円
カメラ修理費 36,758円
計 138,708円也(健太、良一持ち)
作戦失敗