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福島第一原発、高濃度放射能汚染水が太平洋に、止水できず

2011年04月03日
(約7300字)

 東京電力福島第一原子力発電所は、建屋を破壊され、外界に放射性物質を放出する異常な事態に陥っている。4月2日、通常運転時の原子炉水の万倍単位の高濃度の放射能を帯びた汚水が太平洋に流れ込む経路の一つが見つかった。午後、コンクリート詰めにして水流を止めようとしたが、夜、それが功を奏さなかったことが確認された。4月2日、東京電力は原発の危機にどう対処したのか。東京都千代田区内幸町の東京電力本店から報告する。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽関連記事:   連日連載・東京電力本店からの報告


 ■弧を描いて流れ出る汚水

 2日午後2時45分、原子力設備管理部の都築(つづき)進課長らの記者会見が始まる。

 「福島第一原子力発電所2号機取水口付近からの放射性物質を含む液体の海への流出について」と題する資料が読み上げられる。

海側に水が漏れる様子。白い水の流れが水面に落ちて、白く泡だっている=4月2日午後零時40分ごろ撮影(東京電力提供)

 「本日午前9時30分頃、2号機の取水口付近にある電源ケーブルを納めているピット内に毎時1000ミリシーベルトを超える水が貯まっていること、およびピット側面のコンクリート部分に長さ約20センチメートルの亀裂があり、当該部分よりピット内の水が海に流出していることを発見いたしました」

 「ピット」というのはコンクリート製の立坑のことで、問題のピットは2号機タービン建屋の東方の海に面したところにある。縦1.9メートル、横1.2メートルの広さで、深さは2メートルほど。

 毎時1000ミリシーベルト超という高い放射線量が測定されたのは上から0.6メートルほど下がったあたり。水面からは上に1.2メートルほどになるあたり。水深は10〜20センチほどと推定された。ピット上部の空間線量は毎時400ミリシーベルトあった。

汚染水が海に漏れている様子を示すために東京電力が公表した断面図

 そのピットと壁をへだてたところが取水口の入り口。流木やゴミが入らないようにする鉄格子のような柵(スクリーンの一部)があるものの、外部の海とつながっている。その柵の奥をのぞくと、壁から水が弧を描いて流れ出ているのが見つかった。その流出箇所はピットと表裏の関係にある。

 3月21日以降、福島第一原発の周辺の海の水から高い濃度の放射能が検出され、それは増加傾向にあった。どこからか「水のかたち」でまとまった量の放射性物質が漏れている疑いが以前から指摘されていたが、やっと、その漏出源の一つが特定されたのだ。

 ■コンクリート注入

 午後6時半、原子力・立地本部の松本純一本部長代理が3階の大会議室で記者会見に臨む。

 「流出を止めるべく、本日の午後4時24分から、このピットの中にコンクリートを注入する作業を実施しております」

漏水しているとみられるピット=4月2日午後3時40分ごろ撮影(東京電力提供)

 問題のピットには2立方メートル。その西隣にある別のピットには3立方メートルのコンクリートを注入し、水の流れを覆いつぶしてしまおう、という狙いだ。

 問題のピットの中にある水と、その水が漏れ出ている先の前面の海の水を採取して、1ccあたりの放射能を測定した結果の一端も明らかにされる。

 「ヨウ素131で10の6乗というレベル、前面の海水は10の5乗というレベルを示しておりまして、従来たまっていたトレンチ内の水と何らかの関係があるというふうに考えておりまして、引き続き調査を進めていきたい」

 通常運転中の原子炉の中の水の放射能は数百ベクレル程度なので、問題のピット内の水はその万倍、そのそばの海の水は千倍の濃度の放射能を帯びているといえる。

 2号機タービン建屋の海側には立坑があり、それにつながって地下に配管トレンチ(坑道)がある。そこには高い濃度の放射能で汚染された水がたまっており、毎時千ミリシーベルト以上の高い放射線を出している。その立坑から、問題のピットにつながる取水電源トレンチに別のトレンチ(断面は1.8メートル四方のほぼ正方形)が伸びていて、その境は木製のふたで閉じられただけだったことが新たに分かったという。

 したがって、タービン建屋の地下にある汚染水が立坑トレンチを経て問題のピットに至った可能性が強い、という。3か所それぞれの汚染水の水面がいずれも海抜3メートル(福島県いわき市の小名浜の海面を基準にした高さが3000ミリ)でほぼそろっているとみられるのもその推定の根拠の一つだ。問題のピットの汚水は厚さ20センチの壁にできた亀裂を抜けて海に注ぎ込まれている。

 ――今回見つかった汚染源だけでなく、複数の汚染源があるという可能性が強いとお考えか?


 今回、朝、午前中にこういったピットから水が流出しているところが発見されましたので、私どもとしては、1号機から6号機まで、パトロールを行いまして、こういった同様のピットの中に水があるのかないのか、岸壁といいますか土手のところからそういった流出があるかどうか再確認したところ、流出があったのはこの1カ所だけでした。5つのプラントについては現在直接的に水が流出したところはないと考えております。


 ――これが主たる汚染源?


 海の状況のサンプリング結果を見て判断したいと思います。


 ――広がりのシミュレーションをするシステムはあるのでしょうか?


 まずサンプリングをして、どんなところにどれくらいの量の放射性物質があるのかを確認することと、何らかのシミュレーションでできるのかどうかを今後やっていきたいと考えています。


 ――今の時点で海流の流れとか何かできているということではないのですね?


 今の時点でどういうふうに放射性物質が拡散していくかというところのデータについては今のところ持ち合わせておりません。


 ――これが見つかった経緯なんですが、漏れているところを見つけようと探していて見つかったというのではなくて、ここで何らかの作業をしようとサーベイ(放射線量測定)をしてたまたま見つかったということなんでしょうか?


問題の漏水ピットに汚染水が流れた経路として考え得るものとして東京電力が公表した平面図。汚水は「緑色の立坑トレンチ(海水配管ダクト)から流出した可能性が考えられる」という。「O.P.」というのは「小名浜ポイント」の略で海面からの高さを表す。

 今回のいきさつについてご報告いたしますが、先日らい問題になっておりましたこのタービン建屋の緑色で示させていただいたところ(2号機タービン建屋から海側に延びる立坑トレンチ)に水たまりがあって、高レベルの放射性物質を含むということでございましたので、こういったところに監視カメラをつけるということで、昨日から事前の調査をやっておりました。そのときに、ピットの周りに行った際に線量が高いということで、本日、改めてこの付近の線量を正確にサーベイしようということで、本日、この付近に行ったときに、海側のスクリーン側をのぞいてみると、流出を見つけた、というのが経緯でございます。


 ――以前から海で、けっこう高い放射能を帯びた水が観測されていたかと思うんですが、おそらく、それについては炉の中の濃い放射能を含んだものが漏れてその結果そうなったのではないかという疑いをもっておられたと思うんですけど、今までは海側の捜索、パトロールをなぜしていなかったんでしょうか?


 その点については、今回、申し訳ないと思っておりますが、今回初めてこの海辺のところの確認をしたのが事実でございます。地震後につきまして、至急、海の周りを点検するということについては、もともと津波でひどい状態になっていたということもございまして、地震後の確認としては今回初めて行ったということでございます。


 ■流出源特定が遅れたのはなぜ

 高濃度の放射能を帯びた水がいったいどこから海に漏れているのか。単純に考えれば、福島第一原発の敷地と海の境界、つまり、海辺のどこかだと推測できる。したがって、放射線量を測定するサーベイの計器を持って、海辺を歩いて岸壁に目をこらせば、漏出源を特定できるのではないか。そんなアイデアは以前から繰り返し記者会見で取り上げられていた。

問題のピットを指さす作業員(東京電力提供の写真から)

 たとえば、3月31日夕の記者会見では、朝日新聞の記者と武藤栄副社長との間で次のようなやりとりがあった。

 ――炉の水が海水のほうに漏れている疑いがあると思うんですが、その流出源について、敷地内で、どこから漏れているかをサーベイ(放射線量の測定)をして調べるとか、もっと網の目を細かくして調べるとか、そういう方策は考えていないんでしょうか?


 発電所の中のいろいろな地点のサーベイはやっておりますが、その分布から「ここから」と決めるようなデータはまだ得られておりません。引き続き調べないといけないと思っておりますので、そこを、どういう対策をとるのかをあわせて考えていきたいと思います。原子炉建屋から出てくる可能性がある場所につきまして、あたりまして、どういった対策が考えられるか考えたい。


 ――海辺をくまなくサーベイして歩くということはできないものなんでしょうか?


 海上につきましても、いま、陸地側からサンプルを取れるところでサンプルを採ってますけど、沖合どうなっているのかにつきまして、データを取る手配をしているところです。


 しかし、2日夕方の記者会見での松本本部長代理の話では、今回の漏出箇所は2日になって初めて目で見たという。

 ――数日前の武藤副社長の会見でも、海辺をずっとサーベイして歩くということについてお尋ねしたところ、「検討する」というようなお答えをいただいたと思うんですが、きょう、これが見つかった後になって初めてパトロールしたということですね? それはなぜそうなったんでしょうか?


 取水電源のトレンチは基本的には電線管が走っているところでございましたので、まず、水が入ってくるということには思いが至らなかったということと、もう一つは、緑色の配管ダクト(立坑トレンチ)につきましても、立坑の水位がオーバーフローする(あふれる)レベルまでは上昇してなかったということから、私どもとしては、この海水配管ダクト内(トレンチ内)に(汚染水が)とどまっていると判断したということでございまして、ご指摘の通り、パトロールが十分でなかったことについては問題であったと思います。


 ――加えてお聞きしたいんですけれども、海水からかなり濃い濃度の汚水が見つかっていて、それは中から水の形で漏れていた疑いが強いと1週間以上前からお聞きしておりました。なぜ流出源の捜索をしていなかったのか重ねてお聞きしたい。


 結果的にそういった活動ができていなかったということは誠に申し訳ないと思っております。ただ、私どもとしましても、こういった作業環境を考えまして、全力を尽くしていたというところでございますけれども、判断が甘かったということでございます。


 のちに補足されたところによれば、取水口の鉄格子(スクリーン)の奥であるため見えづらかったという要因もあったという。

 午後7時33分、松本本部長代理の会見が終わる。

 ■漏出とめられず

 2日午後11時過ぎ、放射能汚染水が海に「だだ漏れ」になっている問題のピットの写真が公開される。続けて午後11時11分、松本本部長代理らの再度の記者会見が始まる。

コンクリートを注入されたピット=4月2日午後4時50分ごろ撮影(東京電力提供)

 それによれば、午後7時に問題のピットに2度目のコンクリート注入を行ったが、海側から出てくる水の流れの勢いは変わらなかったという。つまり、今も汚染水の漏洩は続いている。

 松本代理は次のように説明を続け、記者の質疑に答える。

 漏洩している水の量に大きな変化が見られなかったということでございます。つきましては、新しい止水方法を検討しまして明朝からそれに取り組みたいと思います。高分子ポリマーを使う。それに必要な資機材、専門家を現場に送りたい。1時には東京を出発して、明朝には取りかかりたいと思います。

 高分子ポリマーというのは水を吸収する材料で、水を吸収すると膨張してブヨブヨした状況になる。それを管路の手前のところ、トレンチの天井をはつりまして、穴を開けて、そこから高分子ポリマーを流し込み、高分子ポリマーがふくらんで、ふさぐ。そのあとコンクリートを注入する。


 ――海に漏れている状況は変わらない?


 本日午前9時半ごろ漏水が確認され、12時20分ごろもう一度、確認。そのときの水の出方と、今回、2回目にコンクリートを入れて現場を離れる際の水の出方と大きな差がなかった。現時点でも水が出ているという状況です。


 ――ピットに完全にコンクリートで埋めたように見えるのですが、それでもなおこの亀裂から水が出るというのは?


 ほかにどういったルートが考えられるのか検討しておりますが、今回のこの地点は流れがある状態で、コンクリートを入れただけではなかなか固まらなかったという点が一つと、このピットが地震か津波かで破損した際に破損物が下のほうにたまっていて、上から注入したコンクリートが下まで届いていない可能性があろうかと思います。


 ――水の量が少ないので水ごと固められるのではないかという見通しの下にこの作戦(コンクリ注入)は行われたと思うが。


 当初、私ども、ピットをのぞいた際に10センチから20センチの水の深さだろうと思っていたので、コンクリートを上から流し込むことで水を止められると思っていたのですが、現実としては、うまくいかなかった。

 流入量が多くてうまくいかなかったのか、がれきがあってうまくいかなかったのか分からないですけど、いずれにしても、うまくいかなかったということ。

 当初ひどく茶色に濁っている水でございました。午前中確認した者の証言では茶色の水が出ていた。この作業が終わって確認したところでは、茶色ではなく、比較的透明な水が出ていた、ということでございます。これに対する技術的な説明は今は難しいと思っています。出る場所は同じなんですけど、当初、茶色い水が出ていたんですけど、今回、変わった。


 ――ポリマーを入れるということですが、ポリマーは小さい高分子ですが、水の量が多ければ多いほど、流されてしまうのではないか?


 現時点では確実にこれで成功するという段階ではありません。流れがやっぱり速くて、ポリマーが膨張する前に流されてしまうのではないかという懸念もありますし。あしたの朝、止水の専門家と現場を確認した上で作業に着手したいと思います。


 ――漏出の流量は?


 写真の通りこれくらいの量が出ているというだけで、1時間あたり何立米というのは測定できていません。


 ――とりあえずは今の流量を抑えるという趣旨で取り急ぎ立坑の水位を下げることは考えられないか?


 立坑にどんどん水を吸い上げても、タービン建屋から回り込んできますので、結果的には同じ。


 ――ピットから(海に)水が流れ落ちているという理解でいい?


 今の段階では、ピットにたまった水が流れ落ちているという理解です。


 ――水流の海面からの高さは?


 約2メートル。


 ――亀裂の外から止める手立てはない?


 この箇所は、海水から取水する際に、ごみを取水しないように網(鉄格子のようなスクリーン)があって、この網を取らなければならない。


 ――この水流の下に受けるということはないんですか。


 スクリーンを外すにはすごい工事が必要。この中に受けを作るのは難しいです。


 ――あした現地に行かれる専門家の人数は?


 一人でございます。こちらはダムですとか、土木構築物の社内の専門家を派遣する予定です。


 ――この漏出を止める作業の一方で、ほかのやらなければいけない作業は?


 同時並行でやっております。復水貯蔵槽への移送は継続的にやっております。


 ――きょう、菅総理がJヴィレッジを訪問したと思いますが。その際に、ピットの水について報告したんでしょうか?


 菅総理がおこしくださった際に、2号機からこの水が漏出しているという報告はさせていただいております。


 ――菅総理に昼間に報告しているのに、なぜここでの発表が遅れたのか?


 当初、現場でこういう状況があると、その後12時10分に漏水があると確認したという状況です。皆さまへの報告は15時になったということでございます。


 ――ポリマーを入れるというのはコンクリが失敗することを想定して考えられていたのか、それとも、その後に考えたかのか?


 高分子ポリマーの使用につきましては、当初考えていたコンクリート注入がうまくいかなかったことを受けて検討した対策でございます。もしポリマーがうまくいかなかった場合については具体的には決まっておりませんけども、バックアップをどうするかは検討を進めています。


 ――コンクリートを入れたら水が濁ったものが出てきそうな気がするんですが、それでもなおここが亀裂の元だと思われたのは?


 そのへんの説明につきましては、私どもとしては、何も申し上げることができません。


 ――コンクリートでふさぐというのは一般的なやり方ですか?


 当初、私どもの判断としては、コンクリートで止水できるのではないかと判断しました。


 ――24時間たっても止められなかったというのは相当な非難を受けると思う。


 おっしゃる通り、高濃度の放射性物質を含んだ水ですので、うまい手立てを講じられずに止水ができていないということについては誠に申し訳ないと思っています。現場の作業条件等もございますので、やれること、やれないことがございますので、今回はあしたの朝から高分子ポリマーを入れるということに全力を尽くしたい。


 ――放射性物質が漏れ出ていた期間は?


 地震以降、ここを見たのが(きょう)初めてですので、いつから漏れているということは判明していません。いつからこの漏水が始まったかは明確なことは分かっていません。原子炉建屋から水があふれてタービン建屋に入っていって、ダクトにつながってこういったところに来たと思っておりますので、ある程度、(地震から)期間がたってから来たと思っております。


 午前零時18分、松本代理の記者会見が終わる。引き続き、各プラントの復旧の状況について原子力設備管理部の3人の課長による記者会見が始まる。

 2日、午前6時半の時点で、福島第一原発の構内で働くのは東電社員272人、「協力企業」作業員81人。

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