東京電力福島第一原子力発電所は、建屋を破壊され、外界に放射性物質を放出する異常な事態に陥っている。4月3日、津波で行方不明になっていた運転員2人が遺体となって発見された事実が公表された。通常運転中の原子炉水の万倍の濃度の放射能を帯びた汚染水が海に流れ出るのを止めることはこの日もできなかった。4月3日、原発の危機に東京電力はどう対処したのか。東京都千代田区内幸町の東京電力本店から報告する。
▽筆者:奥山俊宏
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■2人の遺体が見つかる
3日午前11時17分、資料が記者たちに配布される。
「福島第一原子力発電所において行方不明となっていた当社社員について」と題されている。
3月30日午後、4号機タービン建屋の地下1階で、2人が見つかり、死亡が確認された、という。
小久保和彦さん(24歳)。
寺島祥希さん(21歳)。
午前11時22分、鈴木和史・広報部長らの記者会見が1階の会見室で始まる。
説明によれば、2人は、福島第一原発の第一運転管理部に所属しており、3月11日に地震が発生したとき、中央制御室にいた。「原子炉が緊急停止した場合は現場を確認する」というマニュアルに従って、タービン建屋に向かったが、そのまま行方不明になった。これまで捜索する努力は続けられていたが、3月30日午後3時25分ごろ、3時53分ごろに、同じ部屋で相次いで見つかった。部屋にはまだ照明がともっておらず、真っ暗闇の中で、たまった水の水面は油に覆われていた。そのため発見が遅れた。31日に検視が行われた。医師によって作成された死体検案書に記載された死亡推定時刻は「3月11日午後4時ごろ」、つまり、「津波到達直後くらいではないかと思われる」という。死因は「多発性外傷による出血性ショック」。2日、遺族に遺体は引き渡された。
勝俣恒久会長の談話が発表される。
地震・津波に襲われながらも、発電所の安全を守ろうとした二人の若い社員を失ったことは、痛恨の極みであります。故人に対し、深くご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆さまには謹んで哀悼の意を表します。
当社は、故人の尊い死に対して、二度とこのような悲劇を繰り返さないことを誓うとともに、福島第一原子力発電所の事故収束に向け、全身全霊をかたむけていく所存です。どうか安らかにお眠りください。
それまで記者に配布されてきた「時報」を呼ばれる発表資料には、2日午前11時の段階で「当社社員2名が現場において、所在不明(3月11日発生)」と記載されていた。事実に反する発表が続いていたことについて、鈴木広報部長は「ご遺族のお気持ちも踏まえて」と説明した。
■汚染水の流出を止められず
3日午後5時28分、原子力・立地本部の松本純一本部長代理の定例記者会見が3階の大部屋で始まる。
この日の焦点は「2号機の取水口付近からの放射性物質を含む液体の海への流出」。それが止まったかどうかだ。
前日、汚染水が流れ出ている岸壁の亀裂の裏側にあって漏出源と断定された「ピット」と呼ばれるコンクリート製の立坑に、コンクリートを埋め立てるように上から流し込んだ。それでも漏出の勢いに変化はなかった。
吸水ポリマーの入った袋を手に持って説明する東京電力原子力・立地本部の松本純一本部長代理=4月3日午後6時、東京都千代田区内幸町の東電本店3階で
そこで、3日は、ピットに通じる管路(横110センチ、縦70〜90センチ)の入り口の手前(流出箇所から20メートルほど西方の内陸側)に上から1メートル四方の大きさの穴を開け、2日午後1時47分から、まず、おがくず(60キロ)を放り込み、午後2時半にかけて、吸水ポリマー(中村建設の「水ピタ」)8キログラム、ちぎった新聞紙(ゴミ袋3袋分)を投入した。さらに、おがくずやポリマーを管路に流れ込ませるために、バイブレーターで現場の水を攪拌した。ポリマーは水を吸収すると、体積が約20倍に、質量は約70倍に膨張する。それらを管路の内部にある直径10センチの電線管に詰まらせることで、水流を抑えようという狙いだった。しかし……。
「現時点で漏水量の明らかな減少は認められませんで、投入したおがくずが取水口から出たことも確認されませんで、管路の中で滞留しているのではないかと思われます。明日まで、こういった状況を監視しながら、本日実施した閉塞措置の効果を見極めたいと思います」
午後5時53分、記者たちと松本代理の質疑応答が始まる。
――今回の措置に効果がなかった場合に次の措置はどのようなものを考えているのか?
この措置がだめだった場合にはどうするのか、現在、いろいろな手段をバックアップとして考えているところですが、この管路の周辺に即効性のコンクリートを注入して地面ごと固めるというようなことを手段として検討しておりまして、その準備を進めているというところです。
――ピットへのコンクリートの投入なんですが、結果的に、間違いであったと考えざるを得ませんが、これに関してどういう報告が判断する人に上がったのか、確認したい。同じような情報の伝達ミス、対応ミスが繰り返されているような気がする。
今回の2号機の、高濃度の放射性物質を含む水が海のほうに漏水しているということについては昨日の9時30分に現場を確認しています。そこで12時20分に最終的に現場の確認をして漏水があると判断いたしました。その後については、本店の土木建築部門、統合本部でどういった方策があるかを検討して、昨日夕方、コンクリートの注入をすると決定した次第です。結果的にはうまくいかなかったのですが、早く止水するということを大前提として検討しましたので、昨日の判断としてできるだけのことをやったと思います。
――あれだけの水量が出ていると本部に報告が上がっていたら、「コンクリートを入れれば止まるだろう」と判断することはないのではないか?
そのへんにつきましては、きちんとした情報のほうは上がってきておりまして、本部のほうとしても、水流があるところなので、コンクリートの粘度のようなものを少し堅めにして投入したほうがいいのではないかと検討して判断したということでございます。
――ピットの漏水なんですが、やはりこれ、思ったほど、最初の状況認識より、食い止められない、厳しい状況にあるのか? あと、いつごろまでに食い止められるのか見通しがあるのであれば、教えていただきたい。
少なくとも、昨日、本日と作業をやっておりますけど、水が現時点では止まっていないのが現実でございますので、実態としてはうまくいっていないので、引き続き全力をあげたいと思います。見通しでございますが、明確にいつごろまでに何とかなりそうだというところは持ち合わせておりませんが、なるべく早く環境への流出を止めたいと思います。
――今朝、先ほど細野豪志・総理補佐官が民放テレビに出た後に記者団に次のように語っています。「事故発生直後はメルトダウンの危機的な状況を経験したし、原子炉格納容器が破断するのではないかという危機的状況も経験した」。この二つの部分の説明に関して、改めてなぜ補佐官がこういうことを言ったのか具体的に説明してください。「メルトダウンの危機的な状況」というのはどんなことがあったのか、「格納容器の破断」というのは何のことを指しているのか、お聞かせください。
「メルトダウン」につきましては、私どもとしましても、今回の1号機、2号機、3号機におきましては、炉心に注水する手段が一時的になくなりまして、炉心を冷やすことができない、したがいまして、燃料が損傷して、いわゆる「水―ジルコニウム反応」で水素が発生するというような事態ということでございましたので、私どもといたしましても、燃料が損傷するような状況ということで、危機的な状況であったと認識しています。
格納容器でございますけども、2号機の格納容器の圧力抑制室のところでございましたけれども、原子炉建屋で当時大きな音がしたということと、その際に格納容器の中の圧力抑制室の圧力を測っておりましたときにその圧力計の指示が下側に振り切れたという事象(ダウンスケール)があったので、格納容器が一部損傷したのではないかと考えております。
しかしながら、いずれにいたしましても、細野補佐官のご発言の趣旨を私どもとしてはきちんと伺っていないので、お答えになっていないかもしれませんけども、現時点ではそういう認識でございます。
――ここまで時間がかかっているのはどうしてなんでしょうか? こういう事故が起きた場合のガイドラインはありますか?
想定した過酷事故ということに対するもともとの対策については、それまでに決めていたものがございます。今回のように全交流電源が喪失したような場合とか、非常用炉心冷却器が全部使えないという場合の対策とか、隣の原子炉から電気を回すとか、今回もやりましたけど、消防車とか代替注水手段を確保して原子炉を冷やすとか、そういったシビアアクシデント対策は持っておりましたけれども、今回これほどまでに事故が悪くなったということにつきましては、1号機から4号機まで同時に被害を受けて海水系ポンプを中心に使えなくなったということと、もう一つは、その事故の進展の結果として、炉心の損傷に伴う水素爆発が発生いたしまして、周囲の放射線量が高くなったということで、作業環境としては非常に効率が悪い状況になったということで、事故の対応につきましても、ふだんだったら数時間、あるいは、簡単に行けるよう場所でも、今回のように必要な装備をして、出かけていって、実際の作業時間については数分あるいは数時間もいられないというようなところでやっておりますので、そういったところが今回、事故について、時間を要している原因だというふうに考えております。
午後6時39分、松本代理の記者会見が終わる。引き続き、松本代理ら会見参加者は記者の個別取材に応じる。
午前零時前に記者会見した原子力設備管理部の都築(つづき)進課長によれば、この日の作業は午後7時に終わったが、その時点で、海への漏水の勢いに変化はない。
3日、午前6時半の時点で、福島第一原発で働くのは306人。うち東京電力社員は260人。「協力企業」は46人。
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