INAX(現LIXIL)の子会社と業務委託契約を結んで製品修理を個人で請け負う「カスタマーエンジニア」(CE)が、労働組合法上の「労働者」に当たるかが争われた訴訟で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は12日、「労働者に当たる」との判断を示した。そのうえで、団体交渉を拒んだ会社の対応を不当労働行為とする判決を言い渡した。こうした就業形態は個人の立場を不安定にするとの批判がありトラブルも多いが、請け負う側に有利な判決となった。
CEは「INAXメンテナンス」(愛知県)からINAX製のトイレや浴室の修理補修を請け負っている。04年にCEらが加入する社外の労働組合が労働条件改善を訴えて団体交渉を求めたが、会社側は「CEは『労働者』ではない」と拒否した。
労組法は労働者を「給料やこれに準ずる収入で生活する者」と規定している。
CE側は「社員同様会社の指揮監督を受け、労働の対価として事実上の賃金を得ている」と主張。
会社側は「CEは個人事業主であり発注業務を拒める。報酬も委託業務に対して支払われている」と反論した。
小法廷は「CEは会社側の依頼に応じるべき立場にあった」と指摘。「報酬は会社が等級や加算額を決めており、労働の対価と言える」として労働者性を認めた。
訴訟では、東京地裁が08年にCEを労働者と認めたが、東京高裁(09年)が1審を取り消す逆転判決を言い渡していた。
小法廷は同日、CEと同様に新国立劇場運営財団(東京都渋谷区)と契約を結んで公演に出演しているオペラ歌手についても労組法上の「労働者」に当たるとする判決を言い渡した。【伊藤一郎】
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■解説
最高裁は、契約が形式的に「委託」や「請負」であっても、実態が「雇用」と同一視できるなら労働法の保護対象とすべきだとする判断を示した。労働組合側が「偽装雇用」や「名ばかり事業主」と批判する企業の手法に警鐘を鳴らしたといえる。
今回のCEのようなケースでは、企業は契約相手の個人に社員と同様の労働をさせながら、「雇用」していないとの理由で社会保険などの負担を免れている。働き手には最低年収の保障もなく、残業、出張手当が払われないこともあるが、組合を通じた団体交渉やストライキ権が否定されることが多い。
労組関係者によると、同様の契約形態はトラック運転手や建設作業員、駅の売店従業員など幅広い業種に及び、総数は100万人以上との見方もある。地裁や高裁では契約を重視して企業による団体交渉拒否を正当とする判断も示されてきたが、最高裁判決により不安定な立場で働く人々の救済に向けて道が開かれる形となった。
一方で、法律上の「労働者」の定義があいまいだったことが問題の背景にあるとの指摘が以前からあり、厚生労働省の研究会が7月に中間報告を出す予定だ。
今回の判決も踏まえ、労使の紛争を増やさないような明確な基準策定が求められている。【伊藤一郎】
毎日新聞 2011年4月13日 東京朝刊