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特集ワイド:原発を知るキーワード

福島第1原発。左から1号機、2号機、3号機、4号機=福島県田村市上空で2011年3月13日午後4時8分、本社ヘリから西本勝撮影
福島第1原発。左から1号機、2号機、3号機、4号機=福島県田村市上空で2011年3月13日午後4時8分、本社ヘリから西本勝撮影
福島第1原発1~3号機の構造
福島第1原発1~3号機の構造
被ばく量と健康への影響の目安
被ばく量と健康への影響の目安

 東京電力福島第1原子力発電所で事故が続き、見えない不安が列島を覆っている。東電、原子力安全・保安院の会見では専門用語が飛び交い、「健康に影響はない」と繰り返す。原発事故の「今」を理解するために、必須の基本用語をまとめた。【夕刊編集部】

 ■原子炉建屋

 東京電力や東北電力のホームページ(HP)などによると、核燃料は通常、「五重の壁」に守られている。

 第1は、ウラン燃料を陶器のように焼き固めたペレット(直径1センチ、長さ1センチの円柱形)。東電HPでは「大部分の放射性物質はペレットの中に閉じ込められるようにしています」とある。

 第2はペレットを覆っているジルコニウム合金製の管。ペレットの外に出てきた少量の放射性物質をこの管で閉じ込める。

 第3は厚さ約16センチの鋼鉄製の原子炉圧力容器。東北電力の場合は高さ約20メートル、直径約5メートルの円柱形。核分裂を起こす燃料集合体が入っており、発電に必要な蒸気がここで作られるため「原発の心臓部」とも呼ばれている。

 第4は、厚さ約3センチの鋼鉄製の原子炉格納容器。東北電力の場合は、高さ約30~40メートル、直径10~20メートルの円柱形で圧力容器をスッポリと包んでいる。

 第5は厚さ約1~2メートルのコンクリート製の原子炉建屋。天井部が吹き飛ばされて骨組みがあらわになった映像や写真が今回映し出されている。

 1980年代から原発の危険性を指摘してきた作家の広瀬隆さんは「ウラン燃料を覆う容器の融点は基本的には鉄が溶ける約1500度とさほど変わりはない。約2800度で起きる炉心溶融が始まれば、容器も溶ける」と話している。

 ■燃料棒

 原子炉の燃料となるウランを固めたペレットを、長さ4メートルの金属製の管に入れたもの。燃料棒を50~80本束ねたものを燃料集合体と呼ぶ。福島第1原発のような沸騰水型軽水炉にはこの燃料集合体が400~800個設置される。

 燃料棒は、第1原発1~3号機では原子炉内や使用済み核燃料プールに、4~6号機では同プールにある。いずれも核分裂は止まっているが、核分裂の際にできた「核分裂生成物」が「崩壊熱」と呼ばれる放射線と熱を出し続ける。

 このため原子炉を停止したり、燃料棒をプールに移した後も、冷却し続けることが必要になる。通常、プールでは数年間冷却される。

 元日本原子力学会会長の、住田健二・大阪大名誉教授によると「ごく大まかにいうと、緊急停止した原子炉は、運転中の1%程度の熱を発生させている。停止後数日たつと0・1%程度となり、この状態が長期にわたる」という。

 現在3号機、4号機のプールの水がどれぐらい残っているかは不明だが「プールを満たして、温度を安定的に保つには少なくとも数十トン単位の水が必要」(住田名誉教授)で、「燃料が露出して燃え始めれば、さらに冷却水が必要」になる。

 ■ECCS緊急炉心冷却装置

 何らかの理由で、原子炉内の水が減少、流出した場合などに、原子炉に大量の注水を行ったり、燃料棒に直接水をかけたりする装置。ECCSが作動しないと炉心が過熱して溶け、放射性物質が露出する大事故になるため、頑丈に造られている。

 東電は、福島第1原発のECCSを作動させるため、外部から送電する作業を急いでいる。「ECCSを動かすことができれば、やっと本格的な事故対応といえる」(住田名誉教授)などと関係者は期待を寄せている。

 ■放射線

 今回の震災では、原発のある福島県を中心に、広範囲で放射性物質が検出されている。

 放射線は、放射性物質から放出されるエネルギーを意味する。電球に例えると、電球が放射性物質にあたり、電球から出る光が放射線ということになる。

 放射能とは、原子核が崩壊して放射線を出す能力を意味し、電球が周囲を照らす能力に置き換えられる。

 ただ、一般的には放射性物質そのものを放射能と呼ぶ場合もある。

 自然界には、もともと放射線が存在する。放射線は宇宙や大地から微量ではあるが出ており、食べ物にも放射性物質はわずかに含まれる。

 日常生活のなかで自然放射線を受けるとともに、病院でのエックス線検診やCTスキャン撮影検査で受ける医療放射線などの人工放射線がある。どちらも体に受ける放射線の量が同じであれば、影響も全く同じ。

 ただ今回の報道では、福島第1原発から漏えいした数値と比較して、医療放射線などの数値が例示されることもあるが、単位が違う場合があるので注意が必要だ。

 元原子力安全委員長代理の松原純子さん(放射線疫学)は、「放射線量は、時間に比例する。今回の事故は、毎時で発表されているので、1時間その場所にいた場合の数値となり、1日いたとすれば24を掛ける。一方、例えばCTスキャンであれば、検査1回分に浴びた全量だ」と説明する。

 ■放射性物質

 放射性物質には多くの種類があるが、既に検出されているのはセシウム137やヨウ素131など。現状では人体に大きな影響を与えるレベルではないとされている。

 セシウム137は、カリウムなど人体に必要な元素と化学的性質が似ていることから体内に取り込まれやすい。土壌から食物を通じて吸収されると、筋肉や生殖腺などに集まり、がんや遺伝障害の引き金となる。放射線を出す能力が半分になる半減期は30年。

 一方、ヨウ素131は体内に入ると甲状腺に蓄積し、甲状腺がんの原因になる。86年のチェルノブイリ原発事故では、セシウム137とともに土壌や食品を汚染して問題となった。半減期は8日。

 ■被ばく

 放射性物質が出す放射線を体に受けること。体外被ばくと体内被ばくに分けられる。

 体外被ばくは大気中の放射性物質が皮膚に付着すること。髪や体を洗う、洋服を洗濯するなどでかなり洗い流すことができるが、水が利用できない場合にはウエットティッシュや布などでふき取り、ふき取った布等はビニール袋に入れて捨てる。診断のためのエックス線検査は、放射線を当てることによる被ばくがある。

 体内被ばくは大気中の放射性物質を吸い込んだり放射性物質の付着した食べ物を摂取することで生じる。一定量以上被ばくした場合は安定ヨウ素剤を服用し除染する。予防のためヨウ素を含むうがい薬等を飲むのは、ヨウ素以外の物質を含み体に有害な可能性があり、絶対にやらないこと。

 高い放射線量に被ばくした場合には血液障害や消化管障害などを引き起こし、低い放射線量の被ばくでも数年後にがんや白内障等が生じる危険性もある。

 ■シーベルト

 放射線が当たった時の人体への生物学的な影響の度合いを測る単位。「線量当量」ともいう。

 放射線の強さを物質に与えるエネルギーで示した場合の単位は「グレイ」(吸収線量)だが、アルファ線、ガンマ線、中性子線など放射線の種類によって生物学的影響は異なる。

 シーベルトはグレイに種類ごとの係数を掛けるなどして算出しており、シーベルトが同じなら人体への影響は同じ。同じ1グレイの放射線でも、ガンマ線はほぼ同じ1シーベルトだが、中性子線はそのスピードにより2~10倍になる。1シーベルトは1000ミリシーベルト。1ミリシーベルトは1000マイクロシーベルト。

 人間が自然界から受ける放射線量は平均で年間2ミリシーベルトで、日本ではそれ以外の被ばく線量は一般人は同1ミリシーベルト、放射線業務従事者は同50ミリシーベルトが限度。受けた放射線の積算量が200ミリシーベルト以下なら、直ちに健康への影響はないが、それを超えれば、吐き気などが起き、さらに高線量なら即死の危険もある。

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毎日新聞 2011年3月18日 東京夕刊

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