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東日本大震災:福島第1原発事故 放射能不安、各国に拡大 避難勧告、続々

 ◇日本からの入国者、検査

 東京電力福島第1原発を巡る事態の深刻化に世界各国が警戒を強めている。米国が同原発の半径約80キロ以内に住む米国人に避難を勧告したのに続き、韓国、オーストラリアも同様の措置を取った。日本から国外に退避の動きも出たほか、日本からの入国者に放射能汚染の検査を実施する国も出てきた。米国やロシアでは放射線被害を減少させるヨウ素剤を買い求める人も現れ、世界各地に不安が広がっている。

 ■中国

 ◇ヨウ素買い占め騒動の沈静化図る

 中国外務省の姜瑜(きょうゆ)副報道局長は17日の定例会見で、福島第1原発の放射能漏れに関連し、「日本側が現場の状況や評価、予測を迅速かつ正確に公表することを希望する」と述べた。中国では放射能漏れ事故を受けて、ヨウ素を含んだ塩に「被ばくを予防する効果がある」などのうわさが広がり買い占め騒ぎが起こった。衛生省は正しい安定ヨウ素の摂取法を公表するなど沈静化を図った。

 一方、香港特別行政区政府保安局の黎棟国副局長は17日の記者会見で、「原発事故は非常に深刻で、さらに状況が悪化すれば脱出が困難になる」として東京からの退去を香港人に呼びかけた。黎副局長によると、香港のキャセイパシフィック航空が17、18の両日に東京から香港に向かう便を1便増やすという。【北京・成沢健一、米村耕一】

 ◇中国人の死亡確認

 【北京・成沢健一】中国国営新華社通信によると、宮城県石巻市で津波に巻き込まれた中国人1人の死亡が確認された。在日中国大使館が17日、公表したもので、中国人の死亡確認は初めて。

 ■EU

 ◇「制御不能に陥った」輸入食品検査勧告

 欧州連合(EU)の行政府・欧州委員会は16日、日本からの輸入食品に対する放射能検査の実施を加盟国に勧告したと明らかにした。また、エッティンガー欧州委員(エネルギー担当)は福島第1原発について「制御不能に陥っている」と発言した。

 検査は15日以降に輸入された食品と家畜飼料が対象。欧州委員会によると、EU加盟国は昨年、日本から約6500万ユーロ(約73億円)の果物、野菜などを輸入している。

 一方、エッティンガー委員は16日、欧州議会で「今後、さらなる惨事が起き、人命が脅かされる可能性もある」と指摘、「これまで日本の技術能力と信頼性を極めて高く評価していたが、認識を見直す必要があるかもしれない」と述べた。

 共同通信によると、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は「この時期に『制御不能』などと言うべきではない」と苦言を呈した。【ブリュッセル福島良典】

 ■英国

 ◇チャーター便、香港まで手配

 英政府は16日、東京とそれ以北に住む英国人に対し、域外への避難を検討するよう勧告した。また、緊急性のない同地域への訪問を控えることも勧告。定期便で国外退避できない英国人のために、東京から香港までチャーター便を手配する。英外務省は勧告の理由として原発事故の事態悪化のほか、「日用品の供給や交通などの混乱の可能性」をあげている。【ロンドン笠原敏彦】

 ■台湾

 ◇航空チケットの予約代行開始

 台湾の馬英九政権は17日、日本にいる台湾人で早期の帰郷を希望する人に代わって、東京の台北駐日経済文化代表処が航空チケットの予約をする措置を始めた。航空会社への電話が通じにくく、チケット予約が困難なため。馬政権は日本からの退避命令を出していないが、立法委員(国会議員)から「政府専用機で退避させるべきだ」との批判が出ていた。【台北・大谷麻由美】

 ■ロシア極東

 ◇放射線量、24時間体制で監視

 福島の北西約800キロのウラジオストクでは、当局が24時間体制で放射線量を監視し、データをテレビや非常事態省のサイトで公開している。極東ロシア軍は深刻な事態を想定し、サハリン州や北方領土を含むクリル諸島(千島列島)の住民をロシア本土に避難させる準備を進めている。

 また、ウラジオストクでは放射線測定器や、被ばくによる健康被害を抑えるヨウ素剤の売り上げが急増。86年のチェルノブイリ原発事故後にロシアの学者によって開発されたヨウ素成分入りのパンも売れているという。今のところロシア極東で放射線量に異常は観測されておらず、非常事態省はパニックに陥らないよう市民に呼びかけている。【モスクワ田中洋之】

 ■韓国

 ◇日本政府の発表・努力を信じ対応

 韓国外交通商省は17日、福島第1原発から半径80キロ以内に居住する韓国人に対し、避難または屋内に退避するよう勧告した。金星煥(キムソンファン)外交通商相は会見で「(米国や英国の措置を)準用する」と述べ、「基本的に日本政府の発表と努力を信じ、これを基に対応する」とも語った。一方、韓国政府は同日から、日本路線のあるソウル近郊の仁川空港、金浦空港で乗客の放射能汚染調査を始めた。【ソウル西脇真一】

 ■米国

 ◇大使館職員家族の国外退避認める

 米国務省は16日、東京の米大使館や名古屋の総領事館、横浜の語学研修所の計3施設について職員家族約600人の自主的国外退避を認めたと発表した。また自国人に対し日本への渡航延期を求めるとともに、日本からの退避も検討するよう呼びかけた。在日米大使館はすでに、福島第1原発から約80キロ以内に居住する米国人に圏外避難を求めている。

 ホワイトハウスによると、オバマ大統領は同日、菅直人首相に電話で「可能な限りすべての支援」の意思を改めて伝える一方で、日本にいる米国人の安全確保の措置を説明した。一方、米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)は福島第1原発から漏れた放射性物質が、早ければ18日(日本時間19日ごろ)にも米西海岸に到達すると報じた。健康への影響はないという。【ワシントン草野和彦、ロサンゼルス吉富裕倫】

 ■豪州

 ◇「予測不能」と警戒呼びかけ

 オーストラリア放射線防護・原子力安全庁は17日、福島第1原発の半径80キロ圏内に滞在中の同国人に退避を勧告した。地元有力紙「オーストラリアン」(電子版)が伝えた。同庁は「原発は不安定な状態で、何が起こるか予測できない」と指摘。半径80キロ圏外の地域でも「少なくとも今後48時間は放射線被ばくの恐れがある」として警戒を呼びかけた。【ジャカルタ佐藤賢二郎】

 ■タイ

 ◇航空機と船舶で必要なら退避も

 タイのカシット外相は17日、日本国内の「危険地域」に滞在するタイ人について「必要なら、航空機と船舶で韓国、中国などに退避させる」と語った。また、救援物資を積んだ空軍輸送機が17日、バンコクから日本へ向かい、「日本にいるタイ人を輸送機で帰国させる用意がある」(空軍)としている。日本には4万2686人のタイ人がおり、ほぼ半数が震災や原発事故の影響地域に滞在している。【バンコク西尾英之】

毎日新聞 2011年3月18日 東京朝刊

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