防衛省は17日午前、陸上自衛隊の大型輸送ヘリCH47Jで、冷却機能が失われた東京電力福島第1原発3号機への海水投下を実施した。午後には警視庁が、高圧放水車による放水を開始予定。防衛省も高圧消防車11両による消火活動にあたる。自衛隊は、米軍から東京電力に引き渡されたポンプ車2台も輸送中。空と陸から冷却機能の回復を目指す。【犬飼直幸、坂口裕彦】
CH47Jは午前8時56分、2機(各5人が搭乗)が陸自霞目(かすみのめ)駐屯地(仙台市)を離陸。午前9時48分、原発の上空約100メートルから、2機で交互に、バケット(最大容量7・5トン)にくんだ海水を投下した。投下は計4回実施し、午前10時ごろ終了。原発から約20キロの場所まで退避し、乗組員とヘリ、バケットの除染を行った。
北沢俊美防衛相は午前の作業終了後の記者会見で「(沸騰状態の)使用済み核燃料プールに水が入ることで、冷却効果は期待できるのではないか」と指摘。「現地に行って確認できない。対策本部から来るデータで成功を期した(と言える)ことを期待する」と述べた。
陸自は当初、16日に海水を投下する予定だったが、周辺の放射線量が同省が定める隊員個人の累積被ばく量を大幅に上回ったため、作業を断念していた。
海水投下に先立ち17日朝に行われた陸自のUH60ヘリ1機による現場周辺の放射線量のモニタリング調査結果は、高度1000フィート(約300メートル)で1時間当たり4・13ミリシーベルト、300フィート(約90メートル)で同87・7ミリシーベルトだった。その上で水の投下を決断した理由について、北沢防衛相は会見で「地上からの放水が(放射線量が)高濃度のためなかなか決断できないなか(3号機の現状から)『今日が限度』と判断した」と述べ、放射線量が相当に高いなかで、ギリギリの決断をしたことを明かした。
防衛省が定める隊員個人の累積被ばく量は50ミリシーベルト。記者会見に同席した折木良一統合幕僚長は、1回目の投下が300フィートより低い所から行われたことを明らかにした上で「安全上、現在のところは問題ない」と述べた。
防衛省は地上からの放水に向け、陸・海・空の各自衛隊が、航空機の事故が起こった際に活用する消防車計11台を常磐道「四倉パーキングエリア」(福島県いわき市)に集め、現地に向かわせた。
福島第1原発の使用済み核燃料プールの大きさは、縦横約10メートル、深さ約12メートルで、燃料棒(長さ約4メートル)を十分に冷やすため、通常1100~1200トンの水で満たされている。一方、自衛隊のヘリから放水された水は4回で最大計30トンで、すべてがプールに入ったわけではない。小林圭二・元京都大原子炉実験所講師(原子炉物理)は「プールの水量が減っている今、注水は必要な行為だ。だが、今回の放水は『焼け石に水』程度の効果しかないだろう。期待したいのは、外部電源の回復によって、プールへの給水ポンプが復旧すること。電源回復までのつなぎとしても十分とは言えず、『やむを得ず試しにやってみた』というレベルではないか」と話す。
東京電力福島第1原発では17日午前7時20分ごろ、3号機の原子炉建屋から再び白煙が上がった。経済産業省原子力安全・保安院によると、16日に撮影された衛星写真で2号機からも白煙が確認されており、いずれも建屋内の使用済み核燃料プールから放射性水蒸気が放出されているとみられるという。
保安院によると、3、4号機ともプールの冷却用電源が地震で失われ、使用済み燃料の余熱でプール内の水が沸騰しているとみられる。通常、使用済み燃料は7~8メートルの水深に置かれて放射線の外部への放出を避ける仕組みだが、蒸発でプールの水位が下がり、特に4号機では燃料が水から露出している可能性があるという。
使用中の燃料は厚さ十数センチの鋼鉄製の圧力容器の中にあり、さらにそれを格納容器に納め、全体が鉄筋コンクリート造りの原子炉建屋中央に固定されている。一方、使用済み燃料は原子炉建屋5階に水面が露出したプールに納められているほかは、何の遮蔽(しゃへい)物もない。
16日午後0時半に原発正門付近で10・85ミリシーベルトの高い放射線量が一時、計測された。同午後4時20分には1・47ミリシーベルトに落ち着いたが、東電は計測場所を1~4号機から約1キロ離れた西門近くに移動した。【山田大輔】
毎日新聞 2011年3月17日 東京夕刊