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東日本大震災:福島第1原発事故 2号機の危険回避、注水頼み 放射線増で作業困難

 ◇抑制プール「穴開いた可能性」

 15日早朝、原子炉を納めた格納容器の一部で爆発音が確認された東京電力福島第1原発2号機。その後の4号機のトラブルによって、周辺の放射線量が急激に上昇し、ただでさえ手間取っていた炉内への注水作業は一層困難になった。注水が止まれば、核燃料の崩壊熱によって温度が上昇し、再び危険な「空だき」状態になる恐れもある。

 ◇「あと1~2日入れれば改善」

 東電によると、2号機で爆発音がしたのは、原子炉格納容器につながる圧力抑制プール。その後、プール内の圧力が、それまでの3気圧から外気と同じ1気圧に下がったため、経済産業省原子力安全・保安院は「プールの一部に穴が開いた可能性がある」という。

 もし格納容器が損壊していれば、炉心を守るのは原子炉圧力容器しかなくなる。東電によると、炉内を冷やす水の量は回復しつつあるが、それでも午後4時10分現在、燃料棒の上部1・8メートルが水面上に露出し、危険な状態には変わりない。

 元原子炉設計者で科学ライターの田中三彦さんは「海水で水浸しにするしかないが、入れようとした水が(内圧の影響で)入らなければ燃料棒が溶け落ちるメルトダウンが進行する」と危惧する。

 東電は約70人の作業員を短時間ずつ交代で注水作業に当たらせている。

 住田健二・大阪大名誉教授(原子炉工学)は「あと1~2日も注水すれば、燃料棒からの発熱も減り条件が改善される。これ以上の燃料溶解を防ぎ、高い放射線レベルの核分裂生成物も出なくなる。事業者が責任を持って取り組むべきだ」と話す。

 一方、吉川栄和・京都大名誉教授(原子炉工学)は「原子炉圧力容器に海水を注入する作業は近づいてしなければならない分、(遠隔操作で対応した)米スリーマイル島の事故より状況は悪い。作業員の被ばくを防ぐためにも、圧力容器内の水を自動的に循環させるなどの経路を人為的に構築すべきでは」と話す。【酒造唯、藤野基文、高野聡、河内敏康】

 ◇1、3号機も危険--専門家

 高濃度の放射能が漏れた今回の事故の影響はどこまで及ぶのか。京都大原子炉実験所の小出裕章助教(原子核工学)は「既に米スリーマイル島の事故(79年)をはるかに超えている。もし福島第1原発2号機の炉心が溶け落ちてしまえば、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)になりかねない。1、3号機もその危険を抱えている」と指摘する。

 スリーマイル島の事故では、半径80キロ圏内の住民約200万人が被ばくしたが、健康への影響は小さかったとされる。一方、史上最悪とされるチェルノブイリ原発事故では、北半球全体で放射能が検出され、原発従業員や半径30キロの範囲内の住民ら数百万人が被ばくした。世界保健機関(WHO)によると、事故に起因するがんで約9000人が死亡した。

 小出さんは「風向きや地形も考慮しないといけないが、チェルノブイリの場合で想定すると、放射性物質が日本列島をほぼ覆ってしまうことになる。住民は被ばくをしないように逃げることしかできない。(政府や東京電力は)海水でも、泥水でもとにかく原子炉に入れて燃料棒が溶け落ちることを防ぐ一方、時々刻々知っている情報を国民に開示しないといけない」と話す。

 原子力施設の安全に詳しい技術評論家の桜井淳さんによると、米国には70年代、出力100万キロワットの原発が炉心溶融事故を起こした場合の被害想定データがある。放射性物質が上空1500メートルまで上がったとの想定で被害状況を予測した結果、快晴で風速10メートルの場合、約800キロ先まで放射性物質が拡散する恐れがあるとの結果が出たという。

 桜井さんはこのデータを踏まえ、2号機で炉心が完全に溶けてしまうような事故が起きた場合について「半径20キロは多数の死者が出るなど致命的な被害が出る。50~100キロでは健康面の被害は少ないかもしれないが、交通制限などの障害が生じ、社会的機能は損なわれる」と指摘する。

 さらに、今回は隣接した複数の原発で事故が起きていることから「86年のチェルノブイリ原発事故は一つの原子炉の事故だったが、今回は複数の原子炉で連鎖的に起きている。今後2号機に加えて1~6号機に保管された使用済み核燃料でも問題が起きると、悲惨な事態になりかねない」と話す。【樋岡徹也、堀智行、福永方人】

毎日新聞 2011年3月16日 東京朝刊

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