東日本大震災に伴う東京電力福島第1原子力発電所の爆発・破損の連鎖を受け、近隣のアジアを中心に、原発の安全性への懸念や、後手に回った日本の事故対応への批判が出ている。トラブルの深刻さや放射性物質の放出・拡散による環境への影響が判然としない中、放射能汚染の恐れという「風評」が広まる恐れもある。
15日付のタイ紙は、アピシット首相が2025年までに原発5基の操業開始を掲げた電源開発計画の再検討を命じたと伝えた。
タイは昨年、日本原子力発電と技術協力協定を締結したが、原発建設を撤回して火力発電所の新設で代替する可能性がある。タイ食糧安全当局は15日、日本からの輸入食料品が放射能汚染されていないか、抜き取り検査を実施する方針を示した。
既に原発21基が稼働している韓国の李明博(イミョンバク)大統領は15日、自国の原発の安全性を強調するとともに、事故に対する訓練強化を指示した。
李大統領は同日、韓国企業連合が受注したアラブ首長国連邦(UAE)の原発起工式から帰国。被ばくを想定した化学防護訓練の視察に直行し、「住民不安を取り除き、普段から避難訓練をしていかねばならない」と述べた。聯合ニュースによると、韓国も野菜など日本産生鮮食品の被ばく量を調査するという。
台湾の電力会社「台湾電力」も15日、北部の新北市石門区にある原発施設を急きょ公開し、「福島とは違う」と安全性をアピールした。稼働中の2基はいずれも運転開始から30年以上が経過し、福島第1原発と同様「老朽化」への不安が高まる。台湾電力は「原発は高台にあり、津波を受ける心配は少ない」などと強調した。
一方、プーチン露首相は15日、今後1カ月間で国内の既存原発と、新規建設計画の安全性を点検するよう命じた。首相は前日、原発の建設や輸出を変更しない考えを強調していたが、福島での相次ぐ事故を受けて慎重に対応する姿勢に転じたようだ。ロシアは2030年までに自国内で約20基の原発を建設するほか、海外向け輸出を経済外交の中心に据えている。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、相次ぐ爆発事象を防げなかった見通しの甘さを指摘。「電力が落ち、冷却に失敗したが、深刻な事態ではない」と説明した東電の姿勢を批判的に紹介した。
また、中国ではインターネットや携帯電話のメールで「15日午後4時(日本時間同5時)、最初の放射性物質が到着する」「広東で注意が必要」などと不安をあおる書き込みが飛び交い、市民に動揺が広がった。環境保護省は「日本の原発事故の影響はない」との観測結果を発表して平静を呼びかけた。
毎日新聞 2011年3月16日 東京朝刊