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社説:レベル7 「最悪」の更新を防げ

 世界の原発史上最悪の事故は86年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故と考えられてきた。国際評価尺度(INES)では、「放射性物質の重大な外部放出」を伴うレベル7と評価されている。

 政府は、東京電力福島第1原発で続いている事故もまた、レベル7に相当すると認めた。

 これによって事故収束に向けた作業が変わるわけではない。今は安定した冷却に向け、あらゆる対策をとっていくしか選択肢はない。

 しかし、なぜ今ごろになって評価を引き上げたのか、疑問は残る。事故に対する認識の甘さや、情報公開への及び腰な態度を反映してのことなら、問題だ。

 政府は福島原発の事故を3月18日にレベル4から5に引き上げている。この時すでに、原子炉周辺では次々と爆発や火災が起きていた。周囲の放射線レベルを見ても、かなりの量の放射性物質が放出されているのは明らかだった。

 ところが、レベル7の判断材料となる放出総量の試算はなかなか公開されなかった。精度を上げるのに時間がかかったというのが政府の説明だが、レベル7を認識しつつ、毎日「試算中」と答えるにとどまったとすれば信頼を損なう。

 計画避難の判断基準となる積算線量の公開にも、もたつきが見られた。積算線量は住民の安全を守るために不可欠なデータで、情報公開に不透明さや遅れがあってはならない。

 政府は、チェルノブイリと福島原発の事故の違いも強調している。確かに、放射性物質が一時に大量放出され、被ばくによる急性放射線障害で死者が出たチェルノブイリとは状況が異なる。これまでのところ放出量も10分の1と見積もられている。

 一方で、福島原発では4基が一度に制御不能に陥るという前代未聞の事態が起きた。だらだら続く放出は、周辺住民を翻弄(ほんろう)している。それがいつまで続くのか、もっと深刻な事態が起きるのか。予測はつかない。

 そう考えると、事故の程度を比較するより、改めて福島原発の深刻さを受け止め、対処することが国際的にも求められる。日本ではチェルノブイリのような事故は起こり得ないと考えた東電や政府の甘さが過酷な事故につながったことも再確認すべきだ。

 福島だけでなく各地で大きな余震が続いている。地震で外部電源が失われやすいという原発施設の弱点も浮き彫りになった。全国の原発の中に巨大地震や津波のリスクを抱えているものがあることも明らかだ。

 福島の事態収拾とは別に点検と対策を急ぐべきだ。レベル7をもうひとつ抱えるような事態は、決して引き起こしてはならない。

毎日新聞 2011年4月13日 2時31分

 

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