<リプレイ>
●家の前に杉並木作った奴出て来い! 晴天! 正午! アスファルト上! 東野・桜(暁に舞え煌きの散華・b07659)はひたすら遠い目をして呟いた。 「今年のワインは良い出来だとか、今年の花粉とインフルは厳しいとか……そういう話はアテにしないようにしている」 毎年記録的な花粉ってそれただの年表じゃねえか。毎年ひたすら危機感を煽りやがってからに畜生め。 ……そこまで言ってはいないが、桜は口元にそっとハンカチを当てた。 今回のメガリスゴーストのことを考える。 「無理矢理症状を引き出されるとは恐ろしいものだな。うろたえないようにしなくては」 「ええ、周りに与える不快指数はこれまでのゴーストで屈指ですよ」 額に指を立てる蒼穹・克(碧羅蒼天・b05986)。 「……花粉はカレーの具にもできませんしねえ」 おい何考えてるやめろ! 「花粉かぁ、きっついんだよなあ……でもなんでダリンなのに花粉?」 十六夜・蒼夜(インフィニティゼロ・b44935)はふと振り向いてみたが、気にしたら負けだと察して前に向き直る。 代わりと言ってはなんだが錘江田・水歌(鬼火・b23273)が口元に手を当てる。 「まあ、いつも通り尽力するだけよ……何か、悪いとは思うわ」 自分達の後方でひたすらくしゃみする連中を見やりつつ、水歌は呟くのだった。
一方。 「へっくし」 遠野・英史(魔術師・b77804)は食パンみたいな立体マスクをつけて背中を丸めていた。 「こんなのと運命の糸が繋がるなんて……ああ」 「まあまあっくしゅん!」 慰めようとした涼風・ユエル(高校生真貴種ヴァンパイア・b47845)がそのままくしゃみ。 「おっかしいなあ。ボクは花粉症じゃないのに……風邪ひいたかな。花粉症はこの数倍キツイらしいよね」 「え? ええそうですね。私は幸いにして花粉症ではないんですけどね!」 栢沼・さとる(メテオリックハイウィザード・b53827)が謎の気迫を見せながら振返る。 鼻内部に薬を塗ったのか少々呼吸が面倒そうである。 「花粉無差別テロとか、普通にテロの域じゃないですか……まあ私は幸いにして花粉症ではないんですけどね!」 何故か二回言うさとるである。 ……花粉症予備軍なんだろうか。 そんな中、キリーズ・ヴェルガグズ(気まぐれ過ぎる野良猫・b56856)がクールな顔をして振り向いて見せた。 「大丈夫だ。俺は今回秘策を用意して来た」 「へえ、秘策ですか」 錠剤飲みつつ相槌を打つ英史。 「ああ、とっておきだぜ」 キリーズはニヤリと笑って、彼方の戦場へ目をやったのだった。
●鼻に蛇口つける手術っていくらかかるんだろう……。 「ぶえっくしょい!」 キリーズは鼻水を流しながら仰向けに倒れていた。 「……凄いくしゃみだ」 別に自分のくしゃみで倒れたわけではない。 花粉カーに猫変身状態で突っ込んだからである。 そりゃ解けますよ。 「まあ、ダメージはダメージ……だから」 名指し難い目で見下ろす水歌。 そんな彼女達の目の前には、世にも恐ろしきスギ花粉発生マッスィーン搭載メガリスゴーストが悠然と佇んでいた。 水歌が予め撒いておいたまきびし的なものをめりめり踏み潰しながらこちらせ(あえてゆっくり)迫ってくる。 対して優雅に身構える水歌。 「まあそういうものよねゴーストは…………ックシュン」 「…………」 「…………」 ユエルと克が名指し難い目で水歌を見た。 意外に可愛い声が出たとか、くしゃみは本性が出るものとか、そんなことは言わない。 くしゃみの語尾にマモノとかつかない。 「確実に止めるわ……」 無表情で何か怖いオーラを放つ水歌。 むっくりと起き上がったキリーズが普通に身構える。 クールキャラで始めた分、いきなりキャラを捨てるわけにはいかないのだろう。 「折角だから俺はこのクールキャラでいくぜっくしょい!」 鼻水を飛ばすキリーズ。 目を反らす克達。 「太古より続く魔よその力今こそ我にわっくしょえ邪魔せんとずる敵を打ち倒す糧とな……な……なぁっく……ふう」 ぜーぜー息をしながら魔弾の射手を展開するキリーズ。 目を反らす克。 でもガスマスクを装備しているのでイマイチ表情の読めなかったりする。 それだけでなく、防塵マスクやカレーライスもしっかり装備済みだ。 「……何故カレー」 「カレーは私にとってのギンギンカイザーみたいなものです。これを食べれば勇気百倍。浴びても気力が回復します」 「浴びても!?」 人間の常識を多少超えることを言う克に、ユエルは珍獣を見――間違えた、尊敬の眼差しを向けた。 「あ、でもカレーを食べるにはマスク外さないといけませんね」 「…………」 「…………」 顔を見合わせる克とユエル。 何かを察したユエルは話を打ち切ってメガダーリンへと向き直る。 (メガダーリンとは、メガリスゴーストさまよえる舵輪タイプの略である) 「見つけたわよメガダーリン!」 これまでの900字に渡るやり取りなど初めから無かったかの如く、ユエルはメガダーリンににじり寄った。 「スギ花粉を撒き散らして花粉症を引き起こすなんて許せない! 魔法少女ドリーム☆ゆえるん、只今参上!」 お前は別のメガリスゴースト戦に来い。 そんな外野声を跳ね除けサンシャインドライブ発動。 「みんなの夢とお鼻はボクが守っくしゅん!」 ユエルは、盛大に決まり文句を外すのだった。
で、他のメンバーはと言うと。 「うわあああああん聞いてない! ここまで酷いなんて聞いてないですよう!」 「なんだよこれ、どこの悪夢の産物だよ!」 さとると英史が口元を押さえながら涙を流していた。 いや別に誰かと感動の再会を果たしたとかじゃなくて。 メガダーリンがひたすら黄色い粉を散布しまくっているのである。 必死に蒼の魔弾やら雷の魔弾を叩き込むさとると英史。 「やめろ! 今すぐやめろー!」 「メディーック! いやまじでメディーック!」 そんな中、蒼夜は堂々と胸を張ってみせる。 「はっはっは。万年鼻炎のボクにとって花粉症なんて関係な……っくしょん!」 「効いてるな……」 ずびーっと鼻をかみながら呟く桜。 「い、いや、今日はもう一つ手を用意してるんだ」 「上手くいくかは兎も角やってみろ」 ずびーっと鼻をかむ蒼夜と桜。 「はい、鼻炎スプレー!」 ぱらぱらっぱぱー! 蒼夜は効果音つきで取り出したスプレーを鼻に当て、しゅっと鼻の奥へと吹きかけた。 「よし、これで解――っくしゅん!」 「…………お疲れ」 諸行無常。 桜は小さく呟いて結晶輪を振り上げた。 「面倒な敵だ。すぐに終わらせてやっくしょん!」 斜め下を向いてくしゃみする桜。 「全く、嫌がらせに特化したゴーストっくしょい!」 身体をがくんと傾ける桜。 「人をこんな目に合わせるとはっく……ごほっ! ゲホッゴホガハァ!」 仰向けになった直後にびくびく痙攣する桜。 今の彼と同じ気持ちを味わいたい人は。仰向けの状態で鼻に粉末コショウを小さじ一杯づつ詰め込んでみよう。その所為でどんな地獄を見ても責任は持たないぞ! 「みなさん大丈夫でっくしゅ! うえ、うえっほふ!」 「前が、前が見えな……ぶぇっきしゅ!」 そんな地獄の中、彼らは必死にもがくのだった。
●杉よ燃えろ 「……………………………………」 無表情の水歌が、メガダーリン目掛けてひたすら幻楼七星光を撃ちまくっていた。 鬼気迫るものがあり過ぎて誰も声をかけられない。 その脇で泣きながら魔弾を連射するさとると英史。 「み、皆さん大丈夫ですか! ええと作戦何でしたっけ!?」 「そんな余裕なんてないよ! いいから早く壊れろ!」 無数の魔弾が命中し、杉の木型花粉発生マッシーンがぐわんと揺れる。 舞散る黄色い粉。 「うわあああああああああああ!」 「ぎゃあああああああああああ!」 「………………!」 幻楼七星光を切らしたのかダッシュで射程圏外に逃げる水歌。 「だ、大丈夫ですか?」 「気のせいでありたいけど……石化しても花粉が減らないのは何故かしら」 「いや、それはちょっと……」 色々答え辛い克。 彼はガスマスクをつけたままメガダーリンへと突撃を始める。 ちなみに花粉症は今回BS扱いなのでマスクをしてても意味が無い。 マスクの下は大変なことになっている筈だが、あえて平然と振舞う克である。 「凍える中にもスパイシーな一撃で、打ち倒すとしましょう」 メガダーリンにフロストファングを叩き込む。 そこから更に龍尾脚。 ぐわんと揺られたメガダーリン。 舞散る黄色い粉。 「ぎゃああああああああああ!」 「ひゃああああああああああ!」 悲鳴をあげるさとる達。 蒼夜は口元を覆いながら魔道書を構える。 「……所で、粉が大量に舞ってる中に火花散らしても爆発しないよね」 「いいから撃て!」 「わ、分かった!」 蒼夜、蒼の魔弾発射。 メガダーリンの動きが少しだけ止まる。 「今だー!」 その隙を狙っていた。 ユエルはクラウチングスタートの態勢から猛然とダッシュする。 今までかけられた言葉を思い出しながら、ユエルはぐっと拳を握った。 無謀だと。 自爆行為だと。 皆から言われたが構わない。 「ボクは一番弱い所を狙う。極限まで高めた……この頭突きで!」 「頭突きで!?」 身を乗り出す蒼夜と桜。 「やめろ、杉に頭から突っ込むなんて!」 「食らえドリーム☆ヘッドバット!」 「ユエルーーーーーーーーー!!」 ライジングヘッドバットで突っ込んでいくユエル。 大きくしなる杉の木マシーン。 ばさばさ落ちる黄色い粉。 「わっぷ! げほっえっほえほ、こんなのにボクが負けっしゅ! げひゅ! わふゆふっ!」 「ユエルさーーーーーーーーん!!」 「駄目だ、あいつはもう助からない!」 黄色くなって転がるユエル。その姿から桜は咄嗟に目をそむけた。 キリーズがしゅばっとレイピアを振り上げる。 「ヒャッハァー! 杉の木は消毒だー!」 炎の魔弾乱射。 クールキャラの壊れた瞬間である。 炎の上がった杉の木目掛けて桜とキリーズが突っ込んでいく。 「君がっックシ! するまでっ! 斬るのを! やめックション! こんちくしょうがあああああ!」 「うおおおお滅びろおおおおおおおおおお!!」 瞬断撃とさよならの指先が打ち込まれる。 そして。 ある意味今年最強のメガリスゴースト杉花粉は、ただのスクラップへと姿を変えたのであった。
●ニドトコナイデッ! 「憎しみを露にしていた過去の自分を垣間見たようだ」 「……………………」 一緒に鼻をかむ桜と水歌。 その横で、蒼夜は額の汗を拭って微笑んだ。 「これで花粉症も解決。鼻もすっきり!」 「元から鼻炎だったんじゃ?」 「ハッ……意味無いじゃん!」 頭を抱えて蹲る蒼夜。 「恐ろしい敵でしたね。にしてもこの杉、どうにかしてカレーに使えませんかねぇ……」 涼しい顔(ガスマスク)で呟く克。 桜達が一瞬で振返った。 「おいまじでやめろ」 「皿やスプーンにするとか香りを引き立てる何かに利用するとか」 「本気でやめて!」 「そうだ。もう花粉はやだ……」 鼻をつまんで、涙声で呟く英史。 その後ろでは、ユエルがうつ伏せのままひたすら痙攣していた。 彼女と同じ気持ちを味わいたい人は洗面器にタバスコと水を1対1で満たし顔を突っ込んでみよう。そして鼻から全部吸え。 「…………」 「…………」 何故やった。とは聞かないキリーズとさとる。 「それにしても、大変な敵でしたね。まだむずむずします」 「ああ、これが切欠で花粉症デビューしたりしないよな?」 顔を見合わせる二人。 そしてほぼ同時に……。 「「クシュン!」」
その日。 果てしなく青い空に何人かの絶叫が響き渡ったと言う。
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参加者:8人
作成日:2011/04/07
得票数:楽しい4
笑える8
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冒険結果:成功!
重傷者:涼風・ユエル(高校生真貴種ヴァンパイア・b47845)
死亡者:なし
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