新学期を前にして福島県の小学校を中心として学校や幼稚園の空間線量率(普通に発表されている放射線の強さ)が測定されて公表されました。
それを見ると、高いところでは1時間当たり20マイクロ(シーベルト、省略)を超えるところもあり、10マイクロ程度の学校が相当多いようです。
そこでここでは「大人の目線」ではなく、現実に学校に通って被爆する「児童生徒の目線」で、子供達がどれぐらいの被曝すると予想されるかを計算してみたいと思います。
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お子さんが通う小学校の測定値(地上1.5メートル)が20マイクロとします。もし、ご自分のお子さんの小学校が2マイクロでしたら、以下の値を10分の1にしてください。
まず、大人は1.5メートル付近の空気を吸いますが、お子さんは50センチから1メートル程度です.それに走り回ったり砂場で遊んだりしますので、地面にかなり近いところ、しかもホコリが舞っているような環境です(これは子供目線の一つ)。
労働衛生関係でよく知られているように、地面から30センチまでがホコリが舞う高さです。「放射性物質」は「黄砂」のような物ですから、ホコリと同じように舞い上がります.
読者の方からのご連絡などから、1.5メートルの地点と比較すると50センチぐらいのところは線量が1.5倍程度になっているようです。
そこで、地上1.5メートルの測定値が20マイクロの学校は、子供目線では30マイクロとなります。
また、事故が起こる前まで文科省は「被曝は外部と内部を合計すること」と指導していましたが、事故が起こってからは「外部だけ」
を発表しています.
「子供目線」では、「原発事故を小さく見せる」とか「パニックを避ける」などは関係なく、「自分がどのぐらい被曝するか」だけです。
外部被曝と内部被曝の比率は自然放射線では、外部被曝の2倍が内部被曝です(公的発表値).またチェルノブイリの時にはほぼ同じでした(私の調査)。
そこで、ここでは少し甘いのですが、ラドンの影響があるので、内部被曝を外部被曝と同じとします。
なぜ、子供が内部被曝をするかというと、「放射性物質のホコリ」を吸い込むからです.これは牛乳に放射性物質が含まれていたことと同じです.
空間からの被曝=外部30マイクロ+内部30マイクロ=60マイクロ
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次に食事や水、洋服、持ち物から児童生徒が被曝する量ですが、この計算では「自治体が「地産地消だから地元のものを食べよう」とか「給食には地元の食材」とか、さらには「魚が汚染されているといっても、限度の1年1ミリより低い0.6ミリだから」ということを信じている(政府や自治体の言っていることを信じている)校長先生や給食の方のもとで食事をする子供を想定します.
地元の野菜などは基本的に「地元の汚染レベルになる」ということです。野菜などはベクレルで表示されますから、これをシーベルトに直すのには、子供がなにをどのぐらい食べるかを決めなければなりません.
報道は錯覚するように情報が伝えられています.
たとえば、ホウレンソウですが、「一年にホウレンソウを食べ続ければ・・」と言い、「1日100グラムのホウレンソウを1年間、食べ続けると」と報道されますので、親御さんは「そんなに食べない」と錯覚します。
でも、汚染される時にはホウレンソウも、小松菜も・・・野菜やその他の食材も同じく汚染されることになります.その場合は、「ホウレンソウの汚染=食材の汚染」となりますので、お子さんがおかずを一日300グラム食べるとすると、逆にホウレンソウの値を3倍しなければなりません。
東電が発表した魚の汚染も同じでした。実に不誠実な発表で「大丈夫です」というのは、その魚しか食べず、息もせず.水も飲まず、空高く浮いている人の場合という前提を抜かしていました。
また、水についても同じで、水に含まれる放射性物質は空気中のものが川に落下するのですから、これも同じような量になります。でも現在では少し減っていますので、「環境から」ということで、水+衣服+道具などを合計します。
つまり、子供は、食材と水などから約30マイクロの被曝を(もし大人が放射線を気にせずに給食などをしたら)受ける事になります.
この計算は、現在では栄養士の方が「カロリー」より、「被曝量」を計算する方が重要な事を意味しています.保護者の方は学校の栄養士の方に「給食を出すなら被曝量を「ベクレル」ではなく、「シーベルト」で示すこと」を求めてください。
たとえば独身の女性なら自分で食材を選べますが、子供は出されるものを食べるしかないので、保護者の方の責任です.
ここでは、今までのやり方に合わせて、
外部(30)+内部(30)+食材(30)+水など(30)=120、
で計算を進めます.今後、地域地域でお子さんの被曝についての計算が進むでしょうから、この数値が小さくなることを望んでいます.
また、もともとの空間線量率が2と低いところは、食材や水はかなり緩和されるでしょう.
食材などは現在、ヨウ素、セシウムを計測していますが、ストロンチウムなどがまだ未測定なので、原理的には食材からの被曝は30の1.5倍、つまり45になります.ストロンチウムは骨に入りますので、本当は重要ですが、まだ発表はありません。
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この小学校に通う子供は1時間に120マイクロの被曝を受けます。
すでに事故から1ヶ月になりますから、
最初の1ヶ月: 120×30日*24時間=86.4ミリ
ビックリするほど多いのですが、胸のレントゲンが1回あたり50マイクロなので、もともと1時間あたり120マイクロというと、幼稚園や小学校の子供が1時間に胸のレントゲンを2回以上撮り続けるというのですから、このような値になるのは当然です.
国際勧告や法律の線量限度は1年に1ミリですから、すでにその80倍を被曝した可能性があります。また政府が引き上げた被曝限度の20ミリからみても4倍です。
何も知らない子供が、「政府を信じている」と繰り返す教育委員会の犠牲になるのは可哀想です.
また、普通なら最初の1ヶ月でかなり放射線は減るのですが、福島原発の場合、まだ漏れているので、これから3ヶ月は2分の1、それから10分の1になるとすると、
3ヶ月 86.4×3÷2=129.6ミリ
8ヶ月 86.4×8÷10=69.1ミリ
で最初からの合計の被曝量は、285ミリになります。これは非常時の作業員の被曝限度(福島原発の前は100ミリ、その後250ミリに変更)の上限ですから、大人でも急性白血球減少が見られる急性領域になります。
つまり、福島県で線量率が20マイクロぐらいの値のでた小学校では児童を福島原発の作業をさせているということです。
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私たちはまず「もっとも被害を受けると考えられる子供達」に焦点をあてなければなりませんから、この計算は決して「誇張されたもの」ではないと思います。
もし、2マイクロの場所(福島県東部、茨城県北部の多く)ではこの10分の1ですから、28ミリぐらいになり、これも1ミリの限度の28倍、政府の新基準を越えます.
まず学校は、すぐ「正しく、ごまかさず」に計算することがどうしても必要です.政府が安全と言っているからといって子供の健康が害されて良いということはありません。それが教育委員会の独立性なのです.
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まず、教育委員会、校長先生など管理関係の方は被曝量を計算して公表してください。学校にいるときだけではなく、家庭も含めて児童生徒が守られているかという見地で実施してください。
校長先生、学校の先生は、「児童の目線」にたって、測定をしてください(地上20センチが適当です)。
先生は、下校の時に児童の衣服にどのぐらい放射性物質がついているか測ってください。また、放射線としては、教室の中は「室内」にはなりません。
給食の方は、食材の線量を測ってください。一つ一つの食材が「規制値内」であっても、合計するとかなりになります。また農業の人も「汚染された食材を子供に食べさせる」ことは反対と思いますから、生産者や自治体に遠慮なく子供本位でリストアップしてください。
(普通の時には規制値内で良いのですが、あちこちから放射線をあびるときには、規制値は関係がなく、足し合わせなければなりません。外国産、北海道産、3月11日以前の食材を使えばグッと減ります.)
また、最近測定値の「すそきり・・・少ない数値の場合ゼロにする」をし始めていますが、これも子供のために止めてください。小さい数字も足し合わせるとかなりになります。
各家庭に計測器を置くことはできませんから、学校で測定してあげてください。また「計測器がないから」など「子供の被曝」とは関係の無い大人の事情は先生方の間でも会話を控えましょう.
(平成23年4月8日 午前9時 執筆)
武田邦彦
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