1961年4月12日 ユーリ・ガガーリンの長い1日 ~人類初の宇宙飛行から50年~
人類初の宇宙飛行を成し遂げた、ユーリ・ガガーリン。
その飛行から、今日で50年。
彼の1日を、追いかけてみましょう。
まとめられたつぶやき
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4月12日がやってきました。宇宙開発史において4月12日はとても重要な日ですが、特に今年は人類初の宇宙飛行士ユーリィ・ガガーリンが宇宙を飛んでから50年、そしてコロンビアによるスペースシャトルの最初の打上げが行われてから30年と、例年以上に意義の深い日です。
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あと忘れてはいけないのは、1955年4月12日には、ペンシルロケットの初の公開試射実験が行われ、日本の宇宙ロケット開発が産声を上げた日でもあります。今年は56周年と、ガガーリン、シャトルと比べてキリの良い数字ではないですが、瑣末な事ですね。
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ところで、このあと9時からこのアカウントを重点的にチェックして頂くと、少しばかり楽しいものが見られるかも知れません。
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1961年にようこそ。今からガガーリンの宇宙飛行において起きた出来事を、時間を合わせてツイートして行きたいと思います。例えば、1961年の今は、セルゲーイ・パーヴロヴィチ・コロリョーフ立会いの下、ヴォストーク宇宙船の打上げに向けた最後の確認が開始された所です。
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セルゲーイ・パーヴロヴィチ・コロリョーフって誰? ヴォストークって何? ……ごもっとも。ガガーリンが旅立つまではまだ時間があります。まず最初に、これから登場する人物や乗り物、施設を簡単に紹介します。
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なお、今回のこの試みは、TweetDeckの予約投稿機能を使っています(この文章を打ち込んでいるのは11日の夜です)。万が一トラブルが起きた際はご容赦ください。
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さて、セルゲーイ・パーヴロヴィチ・コロリョーフさん。彼はソヴィエトの宇宙開発を率いた人です。存命中はその正体は強く秘匿され、名前は喧伝される事なく、「主任設計者」と呼ばれていました。幼少期から空に憧れ、学生時代はグライダーを建造、その延長線上として、ロケット開発に目覚めます。
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しかしスターリンの大粛清に巻き込まれ、無実の罪で逮捕され、シベリアで強制労働に従事させられます。第二次世界大戦が終わり、ソヴィエトはドイツのロケット技術を吸収しようとしますが、それにはコロリョーフの力が必要でした。彼は強制労働から解放され、裏切られた祖国の為に再び働き始めます。
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コロリョーフは大戦中にドイツが開発したV-2ミサイルの技術をコピーする事から始め、着実にロケット技術を会得していきます。そして彼が苦心の末に開発したのが、R-7と呼ばれるロケットです。これは核弾頭をアメリカまで飛ばす事が出来る、大変強力なロケットでした。
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R-7は1957年10月4日に世界初の人工衛星スプートニクを飛ばす事に成功します。そしてほぼ同時期に人を宇宙に飛ばす検討も始まり、そして開発されたのがヴォストークです。球形のカプセルに人が乗り、その後部にロケットエンジンなどの装置が載った部分があります。アイコンの左側を参照の事。
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ヴォストークとは「東方」を意味します。これは明らかに、アメリカなどの"西"側諸国を意識したものです。1人乗りのこの宇宙船は、まず犬やマネキンを飛ばす事からはじめ、ロケット開発と同じく、着実に宇宙船の技術を会得して行きました。
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一方で、宇宙船に乗る人間、すなわち宇宙飛行士の選定も同時に行われました。厳しい検査と訓練を乗り越え、栄えあるヴォストーク宇宙船の第1号機の搭乗員として選ばれたのが、ユーリィ・アレクセーエヴィチ・ガガーリン宇宙飛行士でした。
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そしてもう一人、ガガーリンが健康状態などを理由に急遽飛べなくなった際に、その代わりを務める事になっていた宇宙飛行士がいます。ゲールマン・ステパーノヴィチ・チトーフ宇宙飛行士です。彼はガガーリンの打上げ直前まで、ガガーリンと同じ訓練を受けていました。
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ガガーリンが今から打上げられようとしている場所についても説明が必要です。現在バイコヌール宇宙基地と呼ばれているこの場所は、ガガーリンが飛んだ瞬間にはまだその名前が付いていませんでした。ここに置かれた地上局のコールサインはザリャー(夜明け)1、ちなみにガガーリンはケードル(杉)です
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この他、コルパシェーヴォにはザリャー2、エーリゾヴォにはザリャー3の各地上局が設置され、これらはVHF帯による宇宙船との交信が可能でした。またモスクワやハバロフスクにはHF帯による交信が可能な地上局がありました。各局が連携を取り、ヴォストーク宇宙船とガガーリンの飛行を支えました。
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この画像の左に描かれているのがヴォストーク宇宙船、右がそれを打上げたヴォストークロケットです。http://bit.ly/dMwPKr この画像の両者の比率は全く異なっており、ロケットの先端部分に、宇宙船がそっくり納まります。残念ながら、実際の写真はあまり多くは残されていません。
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いよいよその時が近づいて来ました。11時30分から"リアルタイム更新"が始まります。発射場のある現地の時間で空想するには、日本時間からマイナス3時間で計算してください。今回の試みが、今からちょうど50年前に起きた歴史的に大きな出来事を追憶する、その一助になれば幸いです。
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1961年の今: ヴォストーク宇宙船に搭乗するガガーリン宇宙飛行士と、ガガーリンのバックアップ要員であるチトーフ宇宙飛行士が起床。朝食として宇宙食(歯磨き粉のようなチューブに入った宇宙食のミートピューレ2つ、チョコレートソース1つ)を食べる。
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1961年の今: ガガーリンとチトーフ、飛行前の検査を受ける。二人とも無事合格。
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1961年の今: チトーフ、宇宙服を着用。
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1961年の今: ガガーリン、宇宙服を着用。ガガーリンとチトーフ、ロケットの待つ発射台に向けて出発。
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1961年の今: ガガーリン、発射台に到着。スピーチを録音。
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1961年の今: ガガーリンとコロリョーフ、飛行前チェックを開始。
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1961年の今: 無線チェック。ガガーリン「私の声が聞こえますか?」 ザリャー1「ああ、聞こえる。こちらの声は?」 ガガーリン「大丈夫、聞こえます」 また、先ほど録音されたガガーリンのメッセージが放送される。
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1961年の今: ガガーリンがヴォストークに搭乗。宇宙船のハッチが閉じられる。しかし、閉鎖を示すセンサーが反応かなかったため、再度ハッチを開き、閉じられる。今度は異常は無かった。
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1961年の今: ザリャー1「退屈していないか?」 ガガーリン「音楽でも流してくれないか」
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1961年の今: ザリャー1から無線を通じてガガーリンにラヴソングが流される。
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1961年の今: ガガーリンが飛ぶ事はほぼ確実な為、バックアップとして控えていたチトーフが宇宙服を脱ぎ、今度はガガーリンの飛行を地上から支援する為に観測所へ。
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1961年の今: ガガーリンは手袋を嵌め、ヘルメットのバイザーを下ろす。
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1961年の今: ロケットに推進剤を供給していたアンビリカルタワーが離れる。
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1961年の今: ヴォストークロケットの第1段、第2段エンジンが咆える。ガガーリンの耳には雑音として聞こえる。ロケットを支持していた4本のアームが花が咲く様に開き、ヴォストークロケットが離昇。コロリョーフ「万事問題なし、良い旅を!」 ガガーリン「さあ行くぞ!!」
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1961年の今(打上げから119秒): 4基の第1段が燃焼終了、分離。コアステイジ(第2段)は燃焼を続ける。
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1961年の今(打上げから156秒): 宇宙船を覆っていたシュラウド(フェアリング)を分離。この時からガガーリンは外を見る事が可能に。
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1961年の今(打上げから300秒): 第2段の燃焼が終了、分離。第3段エンジンに点火。
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1961年の今: ロケットは順調に飛行を継続。ガガーリン「飛行は順調です。窓から地球が見えます。視界はとても良好です」
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1961年の今: ヴォストークロケット、中央ロシアを通過。ガガーリン「何もかも順調です。すべてのシステムが機能しています。どんどん行きましょう!」
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1961年の今: ヴォストークと、打上げ場所(現在のバイコヌール宇宙基地)にある地上局ザリャー1との交信が出来なくなる(地上局から見てヴォストークが地平線の下に行った為)。ガガーリン「ザリャー1、ザリャー1、そちらの声が聞え難い。私は順調です。飛行を続けます」
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1961年の今(打上げから676秒): ロケットの第3段が燃焼終了。ヴォストーク宇宙船を地球を周る軌道に投入。世界初の有人宇宙船が誕生。ガガーリン「宇宙船の状態は正常です。地球が見えます。すべて予定通りに進んでいます」
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1961年の今: ガガーリン、眼下に広がる北太平洋を見る。
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1961年の今: アメリカのレーダー基地がヴォストーク宇宙船からの電波を受信。
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1961年の今: 軌道到達から6分経過。ガガーリンがハバロフスクにある地上局に軌道について詳細を尋ねる。ガガーリン「軌道のパラメータを教えてください」 地上局「コロリョーフから何の連絡もありません。飛行は順調ですよ」(軌道投入後6分なので、まだ詳細が判っていなかった)
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1961年の今: ガガーリンからハバロフスクの地上局へ「素晴らしい気分だ。最高! 最高! 最高だ! 飛行の詳細を教えてくれないか」 しかしこの直後、VHF(超短波)による通信可能圏外へ。交信が不可能に。
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1961年の今: ヴォストーク宇宙船、地球の夜の領域に突入。
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1961年の今: 北太平洋を赤道に向けて南下。
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1961年の今: ハバロフスク地上局がヴォストークにHF(短波)で"КК"というメッセージを送信。これは宇宙船の自動帰還システムに地上からの指示を送るので、その結果を監視して報告せよ、という事を意味していた。
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1961年の今: 前述の指令に従ってガガーリンが報告。
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1961年の今: ヴォストーク宇宙船、赤道を通過。HF(短波)による交信は継続。
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1961年の今: ガガーリン、地球の夜の領域を飛んでいる事を地上に報告。
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1961年の今: 太陽指向する姿勢制御システムを起動。窒素ガススラスタを噴射し、姿勢制御を実施。
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1961年の今: ハバロフスクにある地上局が、ガガーリンに「宇宙船は安定した軌道に乗っている」と報告。
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1961年の今: ガガーリンが少佐になった事が発表される(しかし軌道上に居たガガーリン本人には伝わらず)。
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1961年の今: ニュージーランドからチリにかけて、南太平洋上を通過。
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1961年の今: ヴォストーク宇宙船、マゼラン海峡上空を通過。
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1961年の今: モスクワ放送、ミッションに関するニュースを放送。
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1961年の今: ガガーリン、状況報告を送信。しかし地上局で受信できず。
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1961年の今: ガガーリン、状況報告を送信。しかし今度も地上局で受信できず。
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1961年の今: ヴォストーク宇宙船、南大西洋上を通過。地球の昼の領域に突入。
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1961年の今: ヴォストーク宇宙船、南大西洋上を通過。
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1961年の今: タス通信、人間を宇宙に送り込む事に成功したと全世界に向け発表。
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1961年の今: 状況報告を送信。しかし今度も地上局で受信できず。
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1961年の今: 状況報告を送信。しかしまたもや地上局で受信できず。飛行から1時間が経過、逆噴射の瞬間が近づく。
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1961年の今: ヴォストーク宇宙船の後部にあるサーヴィスモジュールのロケットエンジンに点火し、逆噴射を開始。燃焼時間は42秒。
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1961年の今: 帰還カプセルとサーヴィスモジュールを分離させるコマンドが発信される。しかし分離に失敗。
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1961年の今: 帰還カプセルとサーヴィスモジュールが繋がったまま大気圏に再突入。想定外の状態なため、機体が大きく揺さぶられる。
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1961年の今: ハーネスが空力加熱で焼き切れた事により、帰還カプセルとサーヴィスモジュールが無事分離。帰還カプセルは正常な姿勢に。ガガーリン「すべて順調です」
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1961年の今: ヴォストーク帰還カプセル、エジプト上空を通過。
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1961年の今: 地上からの高度7km。ヴォストーク帰還カプセルのハッチが開く。射出座席が起動し、ガガーリンはカプセルから放出。
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1961年の今: ガガーリン、パラシュートで地球に帰還。着陸場所はサラトフ州エーンゲリスから南西に26kmの、北緯51度、東経45度の地点。飛行時間は108分。
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1961年の今: 地上に降り立ったガガーリンは2人の女性(農作業をする女性とその娘)に近づく。恐怖で後ずさる2人。ガガーリン「怖がらないで。私はあなたと同じソヴィエトの人間です。宇宙から降りてきたんですよ。それで……電話を貸してくれませんか。モスクワに連絡しないといけないので!」
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ガガーリンの"リアルタイムじゃないリアルタイムツイート"、ご覧頂きありがとうございました。いくつか補足の説明をしたいと思います。
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ハーネスとは: ヴォストークが地球の大気圏に再突入した際、ハーネスが中々切れずに姿勢が乱れたと書きましたが、ハーネスというのは車のシートベルトのようなもので、宇宙船のカプセルと、エンジンなどが詰った部分とを、縛るような感じで結ばれていました。これが正常に切れなかったのですね。
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射出座席とは: 射出座席は戦闘機の座席にも使われており、万が一の際に飛行機は捨てる事になるけれども、人の命だけは救おうというものです。簡単に言えば座席の下にロケットモータが付いていて、座席ごと人間を発射、その後椅子を捨て、パラシュートを開き、地上に降ります。
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(続き) ガガーリンが飛んだ当時、人間+宇宙船の質量を持った物を、中に乗っている人が怪我をしないよう、やんわりと地上に降ろす技術はありませんでした。そこで空中で人を宇宙船から放り出し、人は人、船は船で、それぞれ別々に地上に降ろすという方法が使われました。
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ところでスペースシャトルの第1号機、STS-1 コロンビアが打上げられた時間まで、後5分を切りました。打上げられたのは今から30年前の、日本時間1981年4月12日21時00分03秒です。
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STS-1にはジョン・ヤングとロバート・クリッペンの2名の宇宙飛行士が搭乗していました。ジョン・ヤング飛行士はジェミニ宇宙船、アポロ宇宙船で何度も宇宙飛行を経験しており、特にアポロ16号では船長として月に降り立ちました。ロバート・クリッペン飛行士はSTS-1が初の宇宙飛行でした。
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スペースシャトルのオービタ(翼を持った宇宙船の部分)は、コロンビア、チャレンジャー、ディスカヴァリー、アトランティス、エンデヴァーの5機が製造されました。コロンビアとチャレンジャーの2機は残念ながら事故で失われ、残った3機の内ディスカヴァリーは3月に最後の宇宙飛行を終えました。
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エンデヴァーも今月末に、アトランティスも6月にそれぞれ最後の宇宙飛行を予定しており、つまり今年、スペースシャトルはすべて引退する事になります。引退したスペースシャトルはアメリカの各地の博物館などに展示される予定で、その展示場所は日本時間13日2時頃に発表される予定です。
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