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東日本大震災:福島第1原発爆発 揺らぐ安全、世界衝撃 「日本に厳しい目」

 ◇技術の信頼性低下も

 東京電力福島第1原発の相次ぐ水素爆発や燃料棒の露出は、世界各国に衝撃を与え、技術大国日本の「安全神話」を揺るがす事態になっている。

 米CNNや英BBCはじめ欧米メディアは「(旧ソ連で86年に起きた)チェルノブイリ原発事故の再発を防げるのか」などと日本政府の対応に批判的な論調を強めている。スイス紙NZZ・アム・ゾンタークは、ビルディ・ジュネーブ大教授の話として「日本政府は事故の重要性を低く見積もっている。被ばくの危険性を低レベルに公表しているが、半径20キロ圏外に住民を避難させた事実は原発を制御できていない証拠」と伝えた。

 インドでは日印原子力協定交渉への影響を懸念する声が広がっている。ニューデリーのシンクタンク「エネルギー資源研究所」のダディッチ上席研究員は「世論が(日本の原発技術に)厳しい目を向ける可能性が高い」と指摘。シン首相は14日、国内20カ所の原発で安全対策の再点検を命じたことを明らかにした。

 韓国の青瓦台(大統領府)は任太熙(イムテヒ)大統領室長が緊急会議を開催し、放射性物質の周辺国への影響などが論議された。聯合ニュースによると、2月に放射能漏れ事故を起こした大田市の研究用原子炉の再稼働が14日、「安全に万全を期す」という当局の判断で、15日に延期された。

 ■見直し求める声

 クリーンエネルギーの一つとして原発促進政策に転換した米国では、複数の議員から原発見直しを求める声が上がっている。民主党のマーキー下院議員は、連邦政府が緊急事態への対応策を強化するまで、新規建設計画の一時停止を求める手紙をオバマ大統領に送った。米国では31州65カ所の発電所で104基の原子炉が稼働し、総電力の2割をまかなっている。オバマ大統領が提案した360億ドル(2兆9520億円)の原発建設融資策を巡り、議会で議論を呼ぶのは必至だ。

 スイス政府は14日、新しい原発建設の認可を当面見送ると発表した。日本の原発事故の原因解明後、これを分析し、新しい安全規定を作ってから改めて審査を行うという。

 英国も、中断していた原発建設を再開しているが、政府は今回の事故を機に、安全面を中心に原発懐疑論が高まることを警戒している。日本の事故を受け、オーストラリアのギラード首相やイスラエルのネタニヤフ首相は自国での原発建設に反対する姿勢を表明。フィリピンの大統領府副報道官も凍結中の原発再稼働を否定した。20年に初の原発操業開始を目指していたタイのアピシット首相も、「(原発に消極的な)私の意見は皆知っている。日本の出来事がわが国の意思決定にどう影響を与えるか、検討している」と述べた。

 一方、中国では原発の冷却装置が機能しなかった点に注目が集まっているが、「第一財経日報」は「中国の新型原発では冷却をめぐる問題は生じない」と報道。原発専門家の話として、中国の新型原発は原子炉の上部に数千トンの水をためるようになっており、非常時には動力なしでも重力で水が落下して冷却する仕組みのため問題は起きないとしている。

 ロシア国営原子力企業ロスアトムの当局者は、旧ソ連で86年に起きたチェルノブイリ原発事故では炉心溶融から爆発につながった点を取り上げ、現時点では福島第1原発の原子炉が爆発する可能性は小さいと指摘する。ただロシアは1月に日本との原子力協定を批准したばかりで、日本企業の技術に着目してきたが、事故を受けて、日本製技術の安全性について再考する可能性もありそうだ。

 ■イランは続行

 中東初となるブシェール原発を近く稼働予定のイランは計画を続行する方針。国営通信によると、原子力庁のラストハ副長官は福島第1原発のケースについて「(原子炉が入る)金属製の構造物自体は破壊されておらず、放出された放射性物質は少ない」とし、似た構造のブシェール原発の安全性を強調した。

 ◇欧州原発耐震性、EUが総点検へ

 【ブリュッセル福島良典】欧州連合(EU)は14日、ブリュッセルで環境相会議を開いた。15日には加盟国エネルギー担当相と専門家の特別会合を開き、欧州にある原発の耐震性など安全対策を総点検する。

毎日新聞 2011年3月15日 東京朝刊

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