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東日本大震災:福島第1原発炉心溶融 「想定外」繰り返す東電 危機対策機能せず

 ◇最悪招いた対応、批判も

 東日本大震災で被災した福島第1原発1号機。地震発生から1日たった12日午前以降、放射性物質の漏えい、国内初の炉心溶融、そして爆発による原子炉建屋(たてや)崩壊と、想像を超えた深刻な事態に見舞われた。東京電力は最終的には、廃炉につながりかねない海水注入という「苦肉の策」で決着を目指す。幾重にも用意されたはずの安全対策がことごとく機能しない事態に、東電は「想定外の事態」を繰り返すが、専門家からは批判の声が上がる。

 原発の安全対策の至上命令は「止める」(緊急停止)「冷やす」(炉心の過熱を抑える)「閉じこめる」(放射性物質が漏れ出さないようにする)の三つ。今回、1号機が実行できたのは、最初の「止める」だけだった。

 元原子炉設計技術者で、福島第1原発4号機の設計にも携わったライターの田中三彦さんは、地震や津波の影響で非常用電源が動かせなくなったため、緊急炉心冷却装置が作動しなくなり、その結果、圧力容器内の水位が低下し、炉心にある核燃料の集合体が水中から露出した、とみる。

 この状態が続いた結果、水による冷却ができず、燃料集合体の温度が急上昇。核燃料を覆うジルコニウム合金が溶け始める。いわゆる「炉心溶融」だ。1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故では、この状態が続いた。

 非常用電源が故障したのは、想定外の津波が原因。さらに炉内では、燃料棒を冷やすはずの水の水位が予想に反して下がり続けた。経済産業省原子力安全・保安院は12日の会見で「炉心溶融が発生したとみられる」と認めた。

 小林圭二・元京大原子炉実験所講師は「地震によって、原子炉だけでなく、電源も損害を受ける。楽観的な想定が問題だった」と指摘した。【日野行介】

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 ◇福島原発ドキュメント

 <11日>

14時46分 東日本大震災が発生し、宮城県栗原市で震度7を観測

       運転中の福島第1原発1~3号機と第2原発1~4号機が緊急停止。そのほか女川1~3号機(宮城)、日本原子力発電東海第2(茨城)も揺れを感知して停止

15時42分 福島第1原発1~3号機で停電が発生し、東京電力が国などに通報

15時45分 オイルタンクが津波で流失

16時36分 第1原発1、2号機で緊急炉心冷却装置の注水が不能になり、東京電力は原子力緊急事態が発生したと判断

16時54分 菅直人首相が記者会見で「一部の原発が自動停止したが、これまでのところ、外部への放射性物質等の影響は確認されてない」と説明

17時35分 第2原発で原子炉冷却材漏えい

17時50分 第2原発1号機について、国に通報

18時33分 津波で海水ポンプの起動が確認できず、第2原発で原子炉除熱機能喪失。国に通報

19時03分 放射能漏れの恐れがあるとして、菅首相が原子力緊急事態を宣言

19時46分 枝野幸男官房長官が会見で「原子炉に今は問題なし」と発言

20時00分 第2原発で外部電源確保

20時50分 福島県が半径2キロ内の住民1864人に避難指示

21時23分 国が半径3キロ内の住民に避難、半径10キロ内の住民に屋内退避を指示

21時50分 枝野長官が会見で避難命令を発表。冒頭に「全体を聞いて、落ち着いて対応していただきたい」と切り出す

23時00分 第1原発1号機のタービン建屋内で放射線量が上昇

 <12日>

 0時15分 住民避難開始(1時45分までに3キロ内の避難完了)

 0時49分 第1原発1号機で原子炉格納容器内の圧力が高まったと東電が国に報告

 1時57分 第1原発1号機タービン建屋内で放射能レベル上昇

 3時ごろ  第1原発1号機で国が格納容器の圧力を下げるため放射性物質を含む可能性がある蒸気を弁から放出すると発表

 5時22分 第2原発1号機で圧力抑制機能喪失

 5時32分 第2原発2号機で圧力抑制機能喪失

 5時44分 首相が半径10キロ内の住民約5万人に避難指示

 6時01分 第2原発1、2、4号機で原子力緊急事態が発生したと通報

 6時07分 第2原発4号機で圧力抑制機能喪失。除熱できず、圧力抑制室の温度が100度を超える

 6時25分 第1原発の正門近くで、通常の8倍以上の放射線量を検出したことが判明

 6時38分 第1原発1号機の中央制御室の放射線量が通常の1000倍になったことが判明

 7時11分 菅首相がヘリで第1原発を訪れ現地を視察。東京電力副社長の武藤栄原子力・立地本部長に「住民のことを第一に考えて、しっかりと早め早めの対応をお願いしたい」と要請

 7時40分 第2原発の1、2、4号機が冷却機能を失い、東電が国に緊急事態を通報したことが判明

 7時45分 第2原発にも「原子力緊急事態宣言」を拡大。半径3キロ内の住民に避難、10キロ内に屋内退避を指示

 8時03分 東電が第2原発の炉4基すべてで蒸気を放出する準備に入ったことが判明

 9時すぎ  第1原発1、2号機の格納容器内の蒸気を放出する作業を開始。第2原発1、2号機でも作業開始

 9時10分 第1原発正門近くの放射線量が通常の70倍以上に上昇

 9時15分 2回目の原子力災害対策本部

11時20分 第1原発1号機で、炉心水位が低下し燃料が最大90センチ露出したことを示す数値。燃料破損の恐れ

11時36分 3回目の原子力災害対策本部。視察から戻った菅首相は「国民の健康をきちんと守る態勢を取っていきたい」

14時すぎ  第1原発1号機の周辺で放射性物質のセシウムが検出されたことが判明。炉心の一部溶融を確認

15時30分 第1原発1号機の格納容器から蒸気を外部に放出するのに成功したと発表

15時36分 第1原発1号機建屋で爆発音がして白煙が上がった。東電社員ら4人がけが

17時46分 枝野長官が会見で「何らかの爆発的事象があった」とし、「万全の対応を期す」と繰り返す

20時32分 菅首相が記者会見。「一人でも多くの命を救うために、全力で今日、明日、あさって頑張り抜かねばならない」と強調。その後枝野長官は「放射能の濃度は上昇していない。むしろ少なくなっている」と説明。

毎日新聞 2011年3月13日 東京朝刊

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