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逆風にさらされる風力発電

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 【ヒューストン】米国最大級の風力発電所開発会社、ホライゾン・ウィンド・エナジーのガブリエル・アロンソ最高経営責任者(CEO)は、目標は「再生可能エネルギー革命」ではなく、「金をもうけること」だと折に触れて従業員に言う。

 そして今、彼の戦略は縮小方向に向かっている。

イメージ Bloomberg News

スズロン・エナジーのタービンのブレード(昨年秋、イリノイ州)

 風力発電は、嵐のような急成長の後、一部の主要市場で逆風に直面している。多くの先進国では電力需要が低迷、米国では競合する天然ガスの価格が底値に張り付き、政府補助金にも世界的に不透明感が強まっている。風力タービンのメーカーは、一部の工場で減産を実施、従来の拡張計画を見直すなどしている。

 アナリストによると、風力は、太陽光やバイオ燃料から海洋波エネルギーまで、主な投資対象とされる再生可能エネルギーのなかで、最も大きく、安価なエネルギーだという。ブレード(回転翼)とタワーの大型化やソフトウエアの改良で効率性が向上、今や、風車スタイルの大型タービンは、アイオワ州からインドまであらゆる風景に存在している。また、日本の大震災後、原子力発電の見通しが不透明となっており、風力発電の魅力は高まると思われる。

 しかし、風力発電は、実際のエネルギーのほんの一部に過ぎない。米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)によると、入手可能な最新の統計では、2009年の米国の電力の約2%が風力発電によるものだった。国際エネルギー機関(IEA)によると、08年の世界の電力のうち、風力発電は約1%だった。

 米政府の調査は、風力発電が米国の電力に占める割合が20%と、現在のデンマークに肩を並べる日が来る、としている。しかし、そのためには、最も風の強い中西部から大都市のある沿岸部に電力を送るため、大型で高価な送電線の建設が必要になる。

 風力発電の燃料にあたる風は「無料」なため、コストの大半は風力タービンの建設費となる。これとは対照的に、石炭やガスによる発電は、プラントの建設ではなく、継続的に調達が必要な化石燃料がコストの大半を占める。

 消費者が風力発電に支払う価格は、場所によって大きく異なる。たとえば、グレートプレーンズ(米中西部)など、強い風が常に吹く地帯に設置されたタービンは、北東部など、強風を常に期待できない地域よりも大量の発電が毎年可能だ。その結果、この「グリーン燃料」のメガワット時の価格は、グレートプレーンズの方が北東部よりも安くなる傾向にある。

 EIAは、2016年には、ノースダコタ、サウスダコタ、コロラドといった米中央部の最も風の強い地域で、新設の風力発電所の発電コストが、ガスを燃料とする新設発電所のそれと大体等しくなるとの見通しを示した。ただ、中部大西洋沿岸地域と南東部など、風の弱い地域では、依然として、風力発電コストがガス燃料発電の2倍となるという。

 各国政府は以前から、風力発電事業者に税制優遇措置を与え、市場レートを上回る価格での「グリーン燃料」調達を電力会社に義務付けてきた。主な目的は、国内のエネルギー生産向上であり、不安定な天然ガス価格への対策、雇用対策の意味もあった。

 しかし最近、風力発電業界に「二重苦」が襲った。米国で新たな天然ガス田の発見が相次ぎ、風力発電と直接競合する天然ガス価格が下落。また、景気後退を受けて、新たなプラント需要が伸び悩み、より多くの政治家が再生可能エネルギーへの補助金を疑問視している。議会はこれまでのところ、再生可能エネルギーの利用を全米で義務付ける法案を可決できていない。

 一部の風力タービン製造大手は、減産を実施している。1年以上前、風力タービン世界大手のインドのスズロン・エナジーは、タービンのブレードを製造するミネソタ州の工場でレイオフに着手した。トゥルシ・タンティCEOによると、この工場は、現在、3分の1程度しか稼働していない。またタンティCEOは、全米規模で再生可能エネルギーの利用を義務付ける動きがみられないことから、テキサス州の工場建設計画を延期したと述べた。

 風力発電会社にも、事業拡張計画を見直す動きがみられる。世界最大の風力発電会社、スペインのイベルドローラは先月、2012年の風力発電所の開発計画を半分に縮小すると発表した。

 今、風力発電所を建設し続ける企業にとって、風が強いというだけでなく、補助金の厚さが発電所の立地を決める重要なポイントだ。

 冒頭に登場した、ヒューストンを拠点とするホライゾン社は、まさにその傾向を象徴している。ホライゾンの前身は1990年代後半に幾つかの風力発電事業者が設立した企業で、2005年にゴールドマン・サックスが買収。ゴールドマンは07年、同社をポルトガル電力公社に売却した。

 ポルトガル電力公社は、風力発電事業を拡大するため、欧州の再生可能エネルギー優遇策の恩恵を享受していた。ポルトガル電力公社は米国参入を視野にホライゾンを買収、その後まもなく、再生可能エネルギー事業を別会社としてスピンオフした。

 欧州企業の傘下にあるホライゾンは、07年から2010年までの間に風力発電能力を5倍以上に増やした。その後、同社は、守りに転じた。

 たとえばイリノイ州では、議員らが、再生可能エネルギーの州法の緩和を検討していた。しかし、ホライゾンのアロンソ氏は、より厳しい義務づけを議員に説得できたと胸を張る。

 その努力の甲斐もあり、昨年12月、ホライゾンは、中西部にある自社の風力発電所2カ所からイリノイ州法の義務付けに従い、対応に迫られる電力会社2社に電力を売却する内容の契約(期間20年)にこぎつけた。しかし、この契約でさえ、現在の風力発電の窮状を浮き彫りにしている。

 調査会社のIHSエマージング・エナジー・リサーチのアナリスト、マシュー・カプラン氏は、ホライゾンなどの開発会社が12月に契約した価格は、09年の水準を約20%下回っていると指摘する。カプラン氏によると、天然ガス価格が高止まりしていた時期に建設、計画された風力発電所が今、供給過剰状態にあり、業界は買い手を求めて殺到しているという。そして、現在の低いガス価格を受けて、風力タービンの製造会社は採算を合わせるためにコスト削減を余儀なくされている。

 ホライゾンは、今年設置を計画していたタービンの数を半分以上減らす予定だ。また、同社が建設する風力発電所の大半が、強風の中西部ではなく、補助金が見込める沿岸部となる予定。カリフォルニアや北東部の州では、電力会社が支払う風力発電の長期契約料金は、メガワット時あたり約80ドルと、風のあるイリノイ州を約50%上回る。

 ホライゾンのアロンソ氏は、再生可能エネルギー利用の義務付けがなされないかぎり、米国の風力発電所の大半が採算の取れる場所、つまり中央部での建設に限られてしまうと指摘。しかし、それでは、風力は「持続可能な、この国の成長の源泉とはならない」とアロンソ氏は述べた。

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