〜その恋、俺が頂く・8〜

一口に風俗と言えどそのシステムは様々であるが、現在の日本で一番多いとされているのはヘルス形式だろう。

「キャッチ・キャット」もその一つで、手や口を使って射精を促すサービスを主とし、本番行為と呼ばれる膣を使った性交渉は風俗法で禁止されている為「表立っては」行われていない。

その代わりとして活用されているのがAF───アナルファックだ。

だがこれは本来とは違う用途で肛門を使用する為、身体に大きな負担がかかる。

膣と同じように濡らしもせずに挿入をしようとする客が多いらしく、負担どころか危険にも繋がっていた。

そうでなくても肛門交渉を嫌がる泡姫も沢山居るので、「キャッチ・キャット」では女性の自由意志で断って良い事になっている。

「A−ファントム」にしてもそれは同じで、誰でもが「AF、OK」という訳ではなかった。

ゲイ向けの店と謳っていても、その実態はゲイもいればノンケもいるし、というのが実態だからだろう。

勘違いをしている客も多いようだが、手淫や口淫だけというBOYもめずらしくはなく、客にしても皆が皆挿入まで望むのかと言えば否であり、ネコならば尚更だ。

上杉がどこまでを望んでいるかは、益田には解らなかった。

益田としては直ぐにでも挿入に持ち込みたいのだが、胸の中で小さく悶え震える上杉の細い身体を思えば強行は出来ない。

どうしたものか、と随分とゆるくなった後孔を押し広げつつ上杉の唇を啄ばんでいると、彼が荒い息を繰り返しながら益田を見上げた。

「・・・・入れ、ないんですか?」

「・・・・・」

「入れて、くれないんですか?・・・・初めては、やっぱり嫌ですか?」

益田の首に腕を回し、熱で瞳を潤ませまるで寂しいとばかりの口調で上杉が言うから。

いえもせぬ期待を抑えきれなくなってしまう。

出会って数時間しか経っていないのだから、一目惚れをした自分はいざ知らず、二人の間には性行為しかなく彼が自分を好きになる筈なんてないのに。

ただ彼はロストバージンがしたいだけなのだろう、と考えても、邪な想いが脳裏を過ぎる。

淡い期待は今まで益田が知らなかった部類のもので、対処方法すら解らない。

「駄目、ですか?」

言葉通り駄目押しとばかりの上杉の問いかけは、益田の理性など吹き飛ばしてしまう。

彼の気持ちがどこにあるかは、今は関係ない。

元々そのつもりで連れてきたのだから、問題は無いはずだろう。

「そんな事を言うな。馬鹿な男が勘違いをしてしまうだろ?」

やっと搾り出された声は、酷く掠れたものだった。

「・・・え?馬鹿なっていうのは・・・」

上杉の言葉を遮るように唇を合わせると、益田は彼に覆い被さり己のバスローブの腰紐を解くと滾るペニスを露にした。

すでにコレでもかと起立する雄は剛根と呼ぶに相応しく「標準よりも少し大きい」上杉とは比べものにならない。

「んっ・・・はっ・・・・」

完全に上杉を組み敷いた益田は唇を離し、シーツの上に転がるローションの入ったボトルを拾いあげると、それを自身のペニスへと纏わせる。

冷たいジェルが、いよいよだと心を逸らせた。

チュッと音を立て軽いキスを落とせば、益田はペニスを上杉の窄まりへと宛がう。

「痛かったら言うんだぞ?」

上杉の細い身体を抱きしめながらゆっくりとけれど着実にペニスを推し進め、ローションによって冷たい感覚にあったペニスが彼の中の熱に溶かされていく。

先端の太い所を押し込みさえすれば後は楽なのだろうがそれまでは益田自身も辛く、鬱血しそうな程ペニスが締め付けられながらもそんな痛みなど、正に身を裂かれている上杉には敵わないだろうと耐えた。

「息をして。力を入れないで」

「はっ・・・・い」

上杉は益田の言葉通り呼吸をしようとしているのだが、どうにも口をパクパクしているだけにしか感じられない。

呼吸をして力を抜くというのは、意識をすればするほどなかなか難しいのだろう。

「・・・・・・・・・・・・入ったよ、大丈夫?」

「・・・はい。少し、苦しいけど、嫌じゃないです。」

数分にも思える数秒が経ち、益田のペニスがしっかりと上杉の後孔に収まると、彼は額に汗を滲ませながらもニコリと笑って見せた。

その顔を見れただけで、止めずに居て良かったと思える。

それほど嬉しげで愛らしくて、こんなにも純な存在など今まで知らなかった。

惹かれて止まない由縁を言葉にする事は難しかったが、ただただ欲してしまうのだ。

益田の背に回した腕に力を込めながら、上杉は小さく呟いた。

「動いて、くれますか?」

「辛かったらすぐに言うんだぞ?」

上杉の唇を小さく啄ばみ、益田はゆっくりと腰を使い始めた。

「くっ・・・」

初めて雄を受け入れたはずのそこは、すぐに解れてゆき次第に易々と益田を許した。

元々の身体が男と交わりやすいようになっていたのかもしれない。

まるで益田の形に変形しているのではないかと思える内部は、そのペニスを逃がさないとばかりに心地よく締め付ける。

挿入時の痛みに萎えていた上杉のペニスも、いつの間にか二人の間で立ち上がっており、益田の腹にヌルリとした感触を感じた。

首にしっかりと腕を巻きつけた上杉の荒い息が益田の耳元で上がる。

彼が感じていると教えられれば、それだけで益田も絶頂に駆け上るというものだ。

「あっ・・はっ・・・凄い・・・指と、全然、違う・・・」

うわ言のように呟く上杉の声は甘く、こんなにも焦らされるSEXは初めてで、どうにも我慢がきかない。

益田は耐えるように上杉を抱きしめ、髪を撫でた。

「気持ち・・いいですか?僕の・・・その・・・中は」

「っあ、あぁ。もう、我慢が出来ないくらいに、ね」

「いって・・・いってください。僕の・・中で」

「お前はっまた・・・」

肛門交渉で妊娠はもちろんしないが、処理が面倒だという事もありゴムの着用または外出しはマナーといえた。

だが、それを知ってか知らずか、多分知らないのだろうが、上杉はそんな事を言う。

彼の言葉を深読みしてはいけないと思いながらも、愛しく思う気持ちがこれでもかと止められない。

益田は身体を離すと上杉のペニスを握り、扱き上げながら己の腰も早く使った。

「あっあっあぁぁっ・・・」

「くっぅ・・・・」

ドクン、と大きな波を感じ、益田は上杉の「望み」通り彼の中へと精を放った。

「はぁ・・・はぁっ・・・」

益田の下で、上杉がビクビクと身体を痙攣させる。

目をきつく瞑ったかと思うと、彼もまた益田の手の中に少し薄くなった白濁を放出した。

力尽きたかのようにぐったりと横たわる上杉を、益田は汚れていない手でしっかりと抱きしめる。

様々な思いを胸に宿しながらも、結局のところ絶対に逃したくないのだと答えに辿りつくしかないのだった。