〜その恋、俺が頂く・6〜

一般的に、風俗店では接客側は客と一緒にシャワールームへ入り身体を洗ってやる。

それはサービスの一環と共に、相手のペニスを納得いくまで洗う事が泡姫にとって自らの安全に繋がるからだ。

慣れている客ならば堂々とそれを受けるか優しさから断る場合もあるようだが、逆に不慣れな客はその特殊な行為に戸惑うらしい。

確かに、彼女や嫁に自分の身体を───それも下肢部を集中的に洗ってもらう人は少ないだろう。

上杉は風俗どころか性経験も未経験だというのでどうするかと聞けば、赤面しながら「一人で」と呟きバスルームへと消えた。

世の中には未経験者を有り難がり、女子高生や妙齢の女性の初体験に何十万も支払ったという話をまことしやかに語られているが、正直益田にそういった趣味はない。

色々な面で面倒そうで、益田の職業が直接性にかかわっているともあり出来るならば遠慮したいのだが、それが上杉だというと話は違う。

白く細そうな身体に触れるのが自分が初めてかと思えば、ドキドキと嬉しい緊張がせり上がる。

薄い壁の向こうからシャワーの水音が聞こえた。

覗き見たい衝動に駆られるなど中学生男子でもあるまい、と益田は自分自身に悪態を吐く。

ソファーに深く座り煙草を吹かしてみても、どうにも落ち着かない。

それどころか、今から上杉と唇を合わせるのだと考え、どうやら喫煙の習慣が無いらしい彼を考慮しまだ火を付けたばかりの煙草を揉み消した。

「・・・・・」

シャワーの音が止まる。

落ち着かなさを隠す為に立ち上がり、ジャケットを脱ぐとハンガーへ掛けた。

「・・・お待たせ、しました」

ガチャリとドアノブが捻られる音が聞こえ、バスローブに身を包んだ上杉が眼鏡片手にメインルームへ戻って来た。

濡れた前髪が左右に分けられ、白い頬が熱で薄紅色に染まっている。

眼鏡の無くなった面持ちは予想通り大きな目がとても可愛く、女性的な可愛らしさというよりは、少年のようなそれと例えた方がしっくり来るだろうか。

どちらにしても27歳の男にしては、と周囲の視線を集めてならないはずだ。

上杉はそれを知って眼鏡を掛けているのか、ただの視力の補正の為かは解らない。

「いえ。では俺も入って来るので、少し待っていてください」

「はっ、はい。」

硬い声の上杉を残し、益田は入れ違いにバスルームへ向かった。

再び一人になると、益田は柄にも無く赤面を浮かべている事に気づいた。

バスローブ姿の上杉の扇情的な事といったら。

男にしては細い首や顎、そして鎖骨の浮き出た胸元が、益田を直接的に欲情させる。

下賎な例えをすれば、「下半身に来る」とでも言えばいいだろうか。

女性のどんな姿を見ても、全裸だろうがチラリズムだろうがコスチュームだろうが、今や視覚で興奮など覚えないというのに。

脱衣から身体を洗う全ての工程を高速で行いたい気持ちで一杯だったが、そんな余裕の無さを見せるなど格好悪いことこの上ないので、出来うる限りゆっくりとシャワーを浴びた。

店の女性達から聞いた「嫌な客」の話を脳裏に描き益田は瞼を閉じる。

少数派の意見は様々だが、なんといっても一番は「ケチ」と「がっついている」だろう。

実はこの二つは同義語で、「ケチだからプレイ時間の全てを全力で求めてくる、がつがつした男」がその全貌である。

もちろん、今夜の益田は接客側であり客は上杉だ。

益田が性的なサービスを行うのは初めてだが、泡姫達にその心得やプレイの流れを教えている為戸惑いはしていない。

たっぷりの時間をかけて上杉を満足させようとは思っているが、「どちらが客であるか」「これは仕事である」などとは考えられなかった。

どんな詭弁を並べ立てても、益田が上杉を欲しいだけである。

必要以上の時間をかけて身体の隅々まで洗った益田は、意を決したようにシャワールームを後にしたのだった。



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小さな電球だけを照明とし室内を暗くすると、キングサイズベッドの布団の中で互いにバスローブを纏ったまま、益田は硬直する上杉と向き合う形で抱きしめた。

10cm以上小さな身体は、すっぽりと益田の腕の中に納まる。

スーツの上からでも解ってはいたが、薄い布切れ一枚しか着衣していない身体からは彼の細さがリアルに感じられた。

男ながらの肩幅や首の太さ骨っぽさはもちろんあるのだが、その全てが嫌ではない。

勃起しないのでは、という危惧は微塵も浮かばず、それどころかこうして触れ合っているだけで益田のペニスは立ち上がってしまいそうだった。

彼のそこはどうなっているのだろうか、ととても気になったのだが、すり合わされた膝を無理やり割るのは早急だと判断し、楽しみは取っておく事にした。

何せ性体験が初めてだというのだから、そこに何が待ち受けているのか本人も益田も解らない。

端的に言えば、ゲイだと言っていても生身の男相手に立つかどうか未知数なのだ。

ここまで来て、むしろ上杉の方が勃起しなければ益田のショックは大きすぎる。

愛しむように上杉の髪にキスを落とすと、益田は彼の背を撫でた。

「怖がらなくても大丈夫ですよ。痛かったら遠慮なく言ってくださいね。無理をすれば、後々恐怖が残るかも知れませんから」

「あ、はい。」

ビクッと身体を震わせ、無意識なのか益田に身体を寄せる仕草が可愛らしくて仕方がない。

宥めるつもりで口にした益田の言葉は、余計に彼の不安を煽ってしまったようだ。

「大丈夫ですから。」

片手は油断なく彼を抱きしめながら、益田はバスローブの腰紐を解いた。

僅かに彼が息を呑むのが伝わる。

密着しながらの愛撫には限度があったが、上杉のメンタル面を優先に考えるなら仕方が無い。

彼の腰をしっかりと己の方へ引き寄せ益田は手探りで上杉の乳首を探り、すぐに見つかった突起はとても小さいようで指先に僅かな引っかかりだけが伝わった。

しかし、そこは数度撫でるだけで敏感に硬くなっていく。

「んっ・・・ふっ・・」

唇を噛んでいるのか、押し殺したような上杉の声が聞こえた。

瞼もきつく閉ざされており、小刻みに動く瞼が愛しい。

「ここは、お嫌じゃないですか?」

キュッと乳首を摘みながらわざとらしく尋ねると、上杉は無言で頷いた。

益田のバスローブを肩辺りで握り締め、時折ビクリと背を振るわせる。

たったそれだけでも、性経験が豊富だと自負している益田には彼が本当に未経験だと確信出来た。

乳首から指を下へと滑らせてゆき、下着を着けていない腹部まで到着する。

わき腹や足も撫でたが、早々に太ももをなぞり下肢部へと手を滑り込ませた。

膝をすり合わされていたそこに隠されていたのは、既に硬く起立をするペニスだ。

「はず、か・・・しいです」

益田の手が上杉のペニスに触れると、彼は蚊の鳴く声で呟いた。

胸に預けられた頭は最大限俯いており表情を伺う事は出来ないが、彼は離れて行こうとはせずそれどころか密着を深めてくれるので嬉しい。

どうやら彼は恋慕の情だけではなく、身体もしっかりとゲイのようだ。

握った感覚だけで判断した限りでは標準よりも大きく感じられた上杉のペニスを、ゆっくりと優しく扱き始めた。

「何も恥ずかしい事はないです。声も、出して」

「っあっ・・・あ、はぁっ・・ん」

益田の言葉に素直にこくこくと何度も頷き、上杉は唇の戒めを解いた。

「はっ・・・あっ・・」

触れれば触れるほど上杉は声を漏らしてゆく。

可愛らしい声が本格的なそれに変るのに時間は掛からなかった。

竿への刺激だけではなく亀頭や睾丸への愛撫も送ると、すぐにねっとりとした蜜を指に感じた。

それを塗りつけるように更にペニスへの愛撫を続ける。

「気持ち・・・いい、です。どうしよ・・・っん、人の手って・・こんなにも熱いんだ・・・」

まるで独り言のように呟いた上杉の腰が自ら揺れているなど、彼自身は気づいていないようだ。

「一度いきましょうか」

意見を伺うわけでもなく言うと、彼の反応を見るにそこが一番感じるのだろうと察した先端を集中的に刺激し始めた。

指先で擽ると、亀頭の口がヒクヒクと震えているのが解る。

益田は吐精を促すかのように先端の括れを握りこんだ。

「あっあぁっ・・でも、そんな・・・恥ずかしいっ」

彼が息を呑んだと知った次の瞬間───上杉の熱い証が益田の手の中に放たれていたのだった。