未曾有の大災害が起こってしまったいま、さまざまなニュースに触れるにつれてどうしても気持ちがふさいでしまいます。仕事や日常生活に支障をきたす前に、「自分でできる対処の方法」をなんとか見つけたいものです。
そこで、精神科医でゆうメンタルクリニック院長のゆうきゆう先生にお話をうかがいました。
――大災害などのとき、被災していなくても不安を感じ、憂うつな状態になります。このときの心のメカニズムを教えてください。
災害の直後に当院を受診される方の多くは、その震災から直接的な被害を受けているわけではありません。
大災害が起こっていることがテレビなどで生々しく放送されると、たいていの人は強い不安感を覚えます。仮に、被災地から遠く離れていて直接の影響を受けない場合でもそうです。漠然とした不安感を覚えると、自分が感じているその不安感の理由を探そうとします。
「自分の住んでいる地域にも震災が起こるのでは?」、「もしかしたら物資が不足するのでは?」というように、不安感の理由付けをしてしまうのです。
その結果パニックに陥り、ガソリンや食料の買い占めなどが引き起こされ、余計に社会が混乱状態になります。このように一人一人の判断能力が低下したせいで、全体が不合理な行動をとる現象は「群集心理」と呼ばれます。
――気分の落ち込みに対処する方法はありますか。
とにかく、不安になるような情報にはなるべく触れないようにすること。
もちろん、自分が置かれている状況に対しての具体的な情報は必要ですが、「混乱の様子を伝えるニュース」、「将来の不安をあおるニュース」からは可能なら遠ざかるべきでしょう。
情報収集の手段を自分で決めたニュースサイトなど一つにして、要点だけを説明している記事を見る程度にとどめておきましょう。それだけでも、不安感は随分と減るはずです。
そして、「不安を消そう消そう」と思わないこと。不安を消そうとがんばっても、余計に不安なことについて考えてしまいます。それよりも、ほかの何かに集中するほうが不安感を忘れるのには有効です。
たとえば、働いている方であれば、「いつもの仕事を、いつも通りに、むしろいつも以上の質で仕上げる」という意識でいるようにしましょう。
――心の不安が高じると、どのようは症状が出るのでしょうか。
過剰なストレス負荷がかかったときの心の反応は、もともとその人に備わっているストレス反応の機構によって主に二つのパターンに分けられます。
まず「神経症」タイプ。こちらはいわゆる「パニック」を起こし、日常の生活に支障が出るくらい不安感で何も手につかなくなるタイプです。
そして、「双極性障害」タイプ。こちらは「自分が何かしなくては!」という使命感を強く感じたり、「あんなことを言うなんて許せない!」と好戦的になったりするタイプで、いわゆる躁(そう)状態ですね。
もちろんこの二つの特徴が混在することもあります。
――社会不安時、心の落ち込みが回復するまでにはどのぐらいの時間を要するものなのでしょうか。
震災直後は、どのチャンネルをみても震災の映像ばかりでしたが、徐々に震災以外の情報が増え、それにつれて、被災者以外の方のパニック状態もおさまってきます。
過去の例から言いますと、経済の混乱なども回復の兆しが見える3カ月程度でしょうか。
一方、震災からトラウマを負った被災者の方は、状態が落ち着いてきてからPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされ、不眠やパニック発作、震災の記憶が突然よみがえるフラッシュバックなどが起こるケースが多く、治療には何年・何十年も時間がかかることも珍しくありません。
――「有事にパニックにならない方法」はありますか。
・いつもしている作業をする
例えばスポーツ選手は、試合前に、毎日行っている道具の手入れをすることがあります。緊張を解くための方法ですが、「毎日していること」は、それだけで心を落ち着かせる効果があります。「お茶をいれる」といった簡単な習慣でかまいません。
・甘いものを食べる
副交感神経が刺激され、リラックスできます。また、糖を摂取することで頭が働きやすくなり、パニックに陥りにくくなります。
・募金をする
「自分が何かしなければ」と感じるタイプならば、不安を感じるたびに少額でも募金することで焦りやいら立ちは軽減されます。
・深呼吸をする
ゆっくり呼吸をすることによって副交感神経が刺激され、思考もクリアになるためパニックに陥りにくくなります。
――有事でも、パニックを起こしにくくする方法はあるでしょうか。
日ごろから、日記やブログなど、記録として「残る」ものを書いておくことです。
パニックになりそうなときは自分の気持ちを吐き出すだけでも心が落ち着きます。
インターネット上のつぶやきなどは時間とともに消えてしまいますが、後々まで残るものに書くことによって、事態が落ち着いてから見直すことができます。後で見ると、「こんなに慌てる必要はなかったな」と冷静な目でパニック状態の自分を見つめることができ、その経験を今後のパニックに陥りそうなときに活かすことができるでしょう。
社会不安に直面すると、頭では「不安を抱いて当然の状況だ」とわかっていても、心の状態をセルフコントロールすることはなかなかに困難だということに気づきます。一日でも早く回復するために、ゆうき先生ら専門家のアドバイスに耳を傾け、こつこつと実行していきたいものです。
監修:ゆうきゆう氏。精神科医。『マンガで分かる心療内科』(少年画報社)ほか著書多数。ゆうメンタルクリニック(上野院 http://yucl.net/ 池袋院 http://yuik.net/ 新宿院 http://yusn.net/) 院長。
(海野愛子/ユンブル)
(著:COBS ONLINE編集部)