2011年4月1日8時44分
東京電力福島第一原発の事故を受け、遠隔操作ロボットの開発が盛んな米国から、複数のハイテク企業が支援に名乗りを上げている。イラク戦争に使われた軍用ロボも投入される。原発事故という特殊現場での効果は未知数だが、期待は高まっている。
「日本政府が世界にロボット、無人機を求めています」。世界の注目が「フクシマ」に集まっていた3月22日、米バージニア州にある国際無人機協会(AUVSI)のホームページに会員企業向けの案内が載った。
ロボット開発に取り組む研究者や企業でつくる世界最大の業界団体で、現在55カ国から2千社以上が加盟している。協会によると、原発事故後、日本政府が米国務省にロボットや無人機の支援を要請。現時点で少なくとも3社が支援に動き出しているという。
キネティック北米社は、遠隔操作できる長いアームを備えた積み込み機(ローダー)を東京電力に提供した。前後のカメラ7台と熱探知カメラなどで現場の状況を把握。アーム先端のショベルや電動カッター、粉砕器なども操作できる。
国防産業とのつながりが深い同社は、無限軌道走行型の軍用ロボット「タロン」と「ドラゴン・ランナー」も日本に送り込んだ。
タロンは米軍ロボの先駆的存在で、路上の爆発物の探知・処理に多用されている。イラクやアフガンなどの戦地、同時多発テロの現場などに投入されてきた。今回のタロンには放射性物質の精密測定器や暗視カメラも搭載済みだ。
ドラゴンは米海兵隊向けに開発された小型ロボで、屋内の偵察や車両底部の不審物探査などの任務に適している。原発内部に入り込み、詳細な破損状況の確認などに使われることが想定されている。
遠隔操作ロボの開発は軍事利用が念頭に置かれているが、原発事故の直後には、日本の防衛省関係者の間で「今回は戦地に並ぶ危険任務。遠隔操作可能な無人機、ロボットを投入できれば、人的リスクを軽減できる」との期待が高まっていた。
国際無人機協会によると日本側が求めているのは、(1)運搬用ロボット、(2)原発の深部に入り込んで破損状況など詳細データを収集できる小型ロボット、(3)放射能汚染区域にも物資や機器を運べる、遠隔操作型の無人ヘリコプターやトラック――の3点だった。
世界における軍事ロボの広がりに詳しい米ブルッキングス研究所のピーター・シンガー上級研究員によると、多くの米企業がアイデアや技術の提供を申し出ている。原発という珍しいケースのため、試作品の投入も検討されているという。
シンガー氏は今回の危機には「ロボットのあり方が試されている。テクノロジーそのものは善悪を決めない。技術の進歩がどのような結果を生むか、それはひとえに人類がどのように技術を利用するかにかかっている」と朝日新聞の取材に語った。(金成隆一)
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日本のロボットも現地に1台が派遣されている。放射線計測器やカメラなどを積んだ「防災モニタリングロボット」だ。原子力安全技術センターが1億円弱をかけ、2000年に開発した。
これまで防災訓練で使われていたが、「実戦」は初めて。地震発生から数日後に東電側に引き渡された。ただ「使用状況に関する情報は入っていない」(同センター)という。
「ロボット先進国」の日本では、原子力施設の事故に対応する専用のロボットも開発してきた。
同センターのほかに、旧日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)も、99年に茨城県東海村のJCOで起きた臨界事故の後、放射性物資で汚染された場所の状況を把握することなどができるロボット5台を開発した。
だが、福島には派遣されていない。今はもう動かないからだ。予算がつかなくなり、維持管理ができなくなったためという。(小宮山亮磨)