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インフルエンザとはなにか? (4)




「トリ」だと思っていたら,それが突然,「豚」になり,「パンデミック」というのは大変な災厄で,バタバタと人が死んでいくのかと思っていたら,「感染者が広がることを言うのであって,死ぬ人が多いことではない」とWHOに言われる。

その点では,まだ私たちは「正確な情報」には接していないことがわかる.

でも,そんなことにかかずらっているわけにはいかない.私たちは私たちで正確な情報と判断をしていかなければならないからだ.

速報としては,

1) メキシコだけに集中している死者は医療費が高いことが原因になり,医者にかかることができずに放置されている人が多い.

2) 比較的,若い人に感染者が多いので,もしかすると類似のウィルスが数10年前に流行したかも知れない.

3) 日本では毎年1500万人,死者1万5千人,4月現在のインフルエンザ感染者20万人(いずれも推定)だから,日本で「感染の疑い」と報道されるA型の発病者が新型である可能性は理論上は20万分の1である.

4) 今度の新型インフルエンザは,現在のところ感染力,致死率ともに普通のインフルエンザとそれほどは変わらない.(インフルエンザは流行中にも変化することがあり得る.)

5) 治療が成功しているので,「感染しても死亡しない」人が増える.このことは素晴らしいことで,その人が免疫を持つようになり,次の流行の時に防波堤になってくれる可能性がある.

と言ったところだろう。

・・・・・・ところで,もう少し本質的なことも・・・・・・・・

最近では「季節性インフルエンザ」と言われるようになった「従来型インフルエンザ」もかつては「新型インフルエンザ」だった.Aソ連型,A香港型という名前から判るように,ある時に新しいウィルスが出現し,それが蔓延して,時に定着する。

それまでに蔓延していたウィルスは,新しいウィルスの出現と共に姿を消すときもあれば,共存する場合もある.ウィルスは遺伝子を数個持った簡単なものだから変幻自在であるし,それが人間とどういう関係になるかはその時次第である。

でも,ウィルスも人間も長い(少なくとも数億年)つきあいだから,とんでもないことにはならない.どんな強力なウィルスでも宿主を全滅させることはできない.

せいぜい,運が悪いものが命を落とすだけだが,動物はそもそも死亡率100%だから仕方がない.生物というものはすべてそうだからだ.

そして,人間以外の動物は,消毒もできないし治療も受けられないし,ワクチンも作ることができない.それでいて,定期的に襲ってくる「新型ウィルス」に襲われるわけだが,生き残っている.

実は,現在,地球上に生存している動物は,ウィルスやその他の外敵と戦って生き残ってきた種だから,そう簡単には死滅しない.敵に対してしっかりした防御機構を持っている。

私の研究生活の後半生は「自己修復材料」というテーマを進めてきた.生物のように自分で自分を防御する人工的な材料を合成してみたいと思ったのだが,その研究過程で,生き残っている動物の巧妙な防御機構を知り,人間の考えることはそれに較べて,ずいぶん幼稚なことを感じたものである.

とても面白い研究だったし,本来は物理の専門だった私が生物を詳しく知る機会にもなった。

その一例として,常識とは反するが一つの例を挙げたい。それは「放射線に対する生物の防御」である.

一般には放射線はとても危険だと思われている.そして,原子力産業という産業があるので,「安全だ」などと言っても,それは産業の回し者がいい加減なことを言っていると思われるので,本当のところが良く分からない.

マスメディアは「危険を強調する義務がある」と錯覚し,これも正しい情報を流さない.つまり,産業は安全だと繰り返し,マスメディアは危険だと言うので,普通の人は判断ができないのである。

放射線の害を一言で言えば,「放射線で障害を受けることは,少ない.なかなか障害を受けることはできない」と言える。

そして,その理由を一言で言えば,「太陽が原子炉だから.宇宙は原子力ばかりだから」というのが正しいだろう。

さらに,注意することといえば,「普通の生活をする事」と言うことに尽きる.日本の原子炉はまだ自身で倒壊する可能性があるので,やや危ないが,そのほかで放射線の被害を受けることはまずない.

どうしてこんなに放射線が安全かというと,もともとは危険なので,防御機構が発達するからであり,なぜ防御機構が発達しているかというと太陽が原子炉で,そこから有害な放射線が降ってきた時代に,生物は頑丈な防御を作ったからである.

原始的な生物の一つ,大腸菌ですら放射線に対して5段階の防御を持っていて,容易にはやられない.まして高等動物中の高等動物である人間は,ものすごく精密な防御システムを持っている.

だから,容易なことでは放射線で障害を受けない.むしろ,あまりに複雑なので,長く使わないとリストラされる。むしろ,免疫と同じだから,少しは放射線を浴びておいた方が「異物を取り除く体の中の自衛隊」を育てておくことができる.

放射線と人体の関係を研究している人の多くが「放射線を少し浴びた方が発癌性が低い」と考えている。でも,決して口に出さない.口に出すと袋だたきにあうからだが,民主主義だから専門家はおそれずに「本当の事」を言うべきだ.

・・・・・・

ここはウィルスの話なので,放射線についてあまり深く説明をしないが,事の本質は「危険に対して人間がどれほどの防御を持っているか」と言うことであり,それが「新型インフルエンザ」の当確予想を正確にするポイントなのである。

(平成2155日 執筆)


武田邦彦



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