きょうの社説 2011年4月11日

◎津波の想定 北陸でも海底調査が必要
 東日本大震災で北陸でも大津波の対策が迫られるなか、太平洋側と比べて調査は十分と 言えず、研究者も限られている。能登半島地震の際も津波を引き起こす沿岸の海底断層を把握する必要性が指摘されたが、本格的な調査は依然として進んでいない。

 北陸電力の志賀原発が5メートルの津波を想定し、沿岸自治体もそれぞれ津波の高さな どを設定しているが、各地の被災経験に基づく地震の備えと違い、手探りの印象がある。津波が発生しうる科学的な根拠が増えれば、それに基づいて規模や襲来のパターンなどを分析し、ハード整備や避難の対策も立てやすくなる。住民の意識を高めることにもつながるだろう。

 政府の地震調査研究推進本部は2009年から、沿岸の海底にある主要活断層の調査を 始めた。原発建設などに伴い電力会社が調べた沿岸域のデータがあるとはいえ、陸域より把握が難しい海底活断層は過小評価されやすく、既存のデータも活用しながら調査を進めている。

 活断層の位置や形状、活動歴を明らかにするには、高精度の海底音波探査やボーリング などによる堆積物調査などが必要になり、相応の予算がいる。地震の発生確率の高い海域は優先順位が高いだろうが、津波を想定するデータや歴史的な記録が乏しい北陸のような海域についても、国内の地震調査の弱点を補強する点で大きな意味がある。

 1983年に秋田沖で日本海中部地震が発生し、100人が津波の犠牲になっている。 それまでは日本海側では津波がこないというのが定説になっていた。だが、金大の宮島昌克教授(地震工学)によると、1833年の山形沖の地震で、輪島に数メートルの津波が押し寄せた記録が古文書にある。さらに歴史をさかのぼり、長い時間軸で考えれば、津波が繰り返されてきた可能性があるという。

 地震工学の研究者をはじめ、北陸の大学関係者も国内外の津波被災地に足を運び、デー タ収集に乗り出している。関連する研究者間のネットワーク強化を望むとともに、そこから得られる新たな知見を北陸に反映させ、津波対策の向上につなげていきたい。

◎福島の避難指示 「警戒区域」の指定を早く
 福島第1原発事故で、政府が避難指示を出している半径20キロ圏内について、災害対 策基本法に基づく「警戒区域」の設定を急いでほしい。警戒区域の設定により退去命令や立ち入り禁止区域の設定ができるようになる。

 圏外の避難所などに移った住民が家財を持ち出すため、警察官の制止を振り切って自宅 に戻るケースが相次いでいるが、被ばくの恐れがあり、危険極まりない。持ち帰った品が汚染されていた場合、危険が避難所全体に及ぶ可能性もある。立ち入りをやめさせるために罰則を伴う措置が必要だ。

 着の身着のままで避難した人々にすれば、家や家財道具が気になるのは当然だろう。貴 重品などを持ち帰るための一時帰宅を求める気持ちも分かる。希望者を少人数のグループに分け、防護服を着てもらうなどの準備が必要であり、放射線量の測定機器を持って誘導する人員や移動の足の確保を含めたルールづくりを急ぎたい。

 福島第1原発は今、放射性物質を含んだ汚染水対策や原子炉格納容器への窒素ガス注入 作業に追われ、原子炉を安定した状態にする冷却作業が難航している。炉内が水循環で冷やされ、炉内の水が100度未満になる「冷温停止状態」になれば、放射性物質の外部流出は止まり、危機は遠のく。政府はそこに至るまで数カ月かかるとの見通しを示している。ある程度、長期化を覚悟して、避難生活の質を高める努力が欠かせない。

 政府は半径20キロ圏内を「警戒区域」にする一方、屋内待機を指示している20〜3 0キロ圏内についても避難指示に切り替える検討を始めている。事故対応の長期化が避けられない現状では、屋内待機指示は実態に合わない。政府に求められるのは合理的な説明と、避難住民が自分たちの生活設計を中長期で考えられるよう数カ月から数年先の見通しを示すことである。

 避難所生活を数カ月も続けていくのは不可能だ。温かい食事がとれ、清潔なベッドで休 むことのできる場所に一時期、移ってもらうのが望ましい。全国の自治体が受け入れを表明しており、地域ぐるみでの「集団疎開」を進めたい。