FC 第一節「父、旅立つ」
第十六話 消えたカシウス
<ロレントの街 遊撃士協会>
次の日の朝、シェラザードは遊撃士協会に元気な姿を見せたアスカに安心した。
「一晩寝たらすっかり体の調子が良くなったわ。前より元気になったみたい」
アスカはやる気で満ちているようだった。
そして、エステル達が仕事前の朝のブリーフィングをしている所に、息を切らせたロレント市の市長が飛び込んで来る。
「大変じゃあ、ワシの家が空き巣に入られた!」
「「「「「ええーっ!?」」」」」
市長の言葉を聞いて、遊撃士協会の受付に居たエステル達は揃えて大声を上げた。
「朝の教会の礼拝に行って、家を留守にしている間に、金庫に入れておいたセプチウムの結晶が盗まれてしまったのじゃよ」
「それって、あたし達が運んだあの結晶?」
「うむ、君達がせっかく運んでくれたのに、すまないことになった」
エステルの質問に、市長は無念そうに答えた。
「分かった、私が現場検証に向かう。あなた達は入っている依頼を片付けなさい」
「えーっ、アタシ達が関わった事件なんだから、自分の手で決着を付けたい!」
シェラザードの言葉にアスカが不満を述べた。
そんなアスカに向かってシェラザードは言い聞かせる。
「大人数で行って現場を荒らしても仕方が無いでしょう?」
「シェラザードさんお願いです、アスカだけでも連れて行って下さい」
シンジに頼まれてしばらく思案したシェラザードは、アスカとシンジを助手として連れて行く事に決めた。
「アスカ、結晶を盗んだ犯人を突き止めてね!」
「もちろんよ!」
アスカはエステルにVサインをしてそう答えた。
エステルとヨシュアも街の人々から依頼された仕事を3人の分までこなすと張り切った。
<ロレントの街 市長邸>
市長邸に着いたアスカとシンジは、シェラザードに調査の分担を提案された。
事情を市長に聞くのはシェラザードが担当し、アスカとシンジは現場検証を担当する事になった。
シンジとアスカはまず金庫がある市長の書斎を調べる。
部屋は荒らされていたが、シンジとアスカは無くなったものがほとんど無い事に気がついた。
「空き巣の目的はただ1つ、金庫にあったセプチウムの結晶だったみたいね」
「じゃあ、部屋が荒らされたのはそれをごまかすためだったんだね」
アスカとシンジはそう結論を出すと、金庫を注意深く調べた。
すると金庫は傷1つなくこじ開けられた形跡は無い。
「犯人は暗証番号を知っていた人物に間違いないわね」
「市長さん以外に誰か知っていた人は居るのかな」
「それは市長さんの話を聞かないと分からないわね」
次は侵入経路を調査する事にした。
真っ先に確認したのは玄関。
しかし、市長達が教会から帰って来た時には鍵が掛かっていて、市長も鍵を肌身離さず持っていたようなので、玄関の線は消えた。
アスカとシンジが家中を捜索すると、2階のベランダの手すりに何かで引っかいたような傷があり、少しドロで汚れているような痕跡があった。
「侵入経路はここで間違いないわね。何か鉤爪のようなものを使って入ったのよ」
「あれ、葉っぱが落ちている」
シンジはベランダに落ちている木の葉を拾い上げた。
「葉っぱなんてどこにでも落ちているでしょ、この家の庭にも木が生えてるし」
「そうだけど、この街に生えている木の葉っぱじゃない気がするんだ」
アスカにそう答えてシンジはその葉っぱを回収した。
市長邸を調べ終えたアスカとシンジは1階で市長と話しているシェラザードの所へ戻り報告をした。
犯人の狙いと侵入経路を特定したアスカとシンジの働きに、シェラザードは満足した様子だった。
「それじゃあ次は、犯人の正体について考えてみましょう。市長さん、暗証番号が誰かに漏れてしまった可能性は無い?」
シェラザードの質問に対して、市長は首を振った。
金庫を開ける暗証番号は同居している妻やメイドにも秘密にしていて、市長の個人データから特定されにくい数字だと言う。
しかも、エステル達がセプチウムの結晶を運んで来るまで金庫は空っぽで、鍵を掛けずに開け放していた。
「市長さんはエステル達の目の前で金庫の鍵を掛けたんですね」
「うむ、暗証番号を入力して金庫の扉を閉じれば鍵が掛かるようになっておる」
シェラザードの質問に市長はうなずいた。
「じゃあ、アスカ達も番号を見たわけね」
「そんな、アタシ達の中に犯人が居るって言うの!?」
アスカは感情的になってシェラザードに言い返した。
しかし、シンジはそんなアスカの肩に手を置いて落ち着かせる。
「アスカ、あの場には僕達と市長さんの他にもう1人居たじゃないか」
「まさか……ジョゼット?」
アスカが聞き返すと、シンジは真剣な眼差しをしてうなずいた。
「どうやら、そのジョゼットと言う子に話を聞く必要がありそうね」
シェラザードも真剣な表情をしてそうつぶやいた。
アスカの脳裏には清楚な振る舞いで紅茶を入れるジョゼットの姿が思い浮かぶ。
お嬢様と言った感じで、とても泥棒とイメージは結び付かなかった。
「そっか、アンタの方がショックよね、好きだったジョゼットが泥棒だったなんて」
「アスカまでそんな事を言っているのかよ」
アスカがシンジに同情すると、シンジは怒った様子でアスカをにらみつけた。
「ほらほら、ケンカしないの。急いでジョゼットって子を捕まえるわよ。……それでは市長、失礼します」
シェラザードに続いてアスカとシンジも市長にあいさつし、市長邸を出た。
市長邸を出たアスカ達はジョゼットの泊まっていたホテルに向かう。
しかし、ジョゼットはホテルをすでにチェックアウトした後だった。
「そういえば、ジョゼットは今日飛行船でルーアンに帰るって話していたわ」
「……空港に急ぎましょう!」
アスカ達は空港へと走り、空港の受付の男性に話を聞くが、ジェニス王立学園の女子生徒は来ていないと言う。
追跡の手を逃れるため着替えた可能性も考えて待合室も探したが、ジョゼットの姿は見当たらなかった。
「もしかして、飛行船に乗るつもりは無いかもしれないわね」
「徒歩で逃げるつもりなのかな」
「捜索範囲を広げる必要があるわ」
とりあえず、アスカ達は街で依頼をこなしていたエステルとヨシュアを遊撃士協会に呼び戻し、今後の捜索について話し合う事にした。
「徒歩でロレントから出るとなると、ボース方面へ行くか、王都方面に行くか、分からないですね」
「ルーアンに帰るって言葉も本当かどうか分からないよ」
「まだロレント地方に留まっているにしても、潜伏場所は色々ありそうね」
「僕達4人だけで探すとなると、大変だね」
シンジはそう言っておでこに垂れて来た汗をふいた。
「バカシンジってば、葉っぱなんかで汗をふくんじゃないわよ」
「あっ、ポケットに入っていたからハンカチと間違えちゃった」
アスカはシンジが木の葉でで汗をふいているのを見て、あきれ顔でツッコミを入れた。
「ねえ、それってセルベの葉っぱじゃない?」
「えっ?」
エステルがシンジの持っていた木の葉を見てそう言うと、シンジとアスカは驚きの声を上げた。
「セルベの樹はミストヴァルトの森に生えている大きな樹よ」
「エステルはミストヴァルトの森に虫採りに行っていたから、間違いないと思います」
「この葉っぱは犯人の侵入経路のベランダに落ちていたのよね?」
「はい」
シェラザードが尋ねると、シンジは力強く肯定した。
「とすると、犯人の逃げた先はミストヴァルトの森!」
「そうね。……行くわよ、エステル、ヨシュア、アスカ、シンジ!」
エステル達は気合を入れてミストヴァルトの森へと向かうのだった。
<ロレント地方 ミストヴァルトの森>
シェラザードが森の入口を調べると、複数の人間が入ったとみられる足跡を発見した。
これは、逃亡した犯人に仲間が居る事を示している。
犯人達の規模の大きさによっては退却する必要性も出て来た。
エステル達は気を引き締めて森の中に足を踏み入れる。
「ちなみに……この足跡はエステル、あなたの足跡ね?」
「アスカが風邪を引いたから、お見舞いに面白い虫でも見せて元気を出してもらおうかなと思って」
「虫なんか見て元気が出るわけないじゃない!」
「蝶とかなら可愛いじゃない」
「まあ、蝶ならいいかもね」
エステルとアスカの会話をシェラザードがさえぎってエステルに尋ねる。
「しっ、静かにしなさい。それよりもエステル、昨日あなたはこの森の中へ入ったのに、怪しい人影は見なかったの?」
「うん、あたしは森の奥へは行かなかったから」
森の中に詳しいエステルを先頭に、セルベの樹のある場所へと向かうエステル達。
しかし、セルベの樹の下には犯人達の姿は見当たらなかった。
「もしかして、東の広場の方に居るのかも」
ミストヴァルトの森を自分の家の庭のように熟知するエステルの案内で、エステル達が森の広場へ行くと、人の話声が聞こえて来た。おうてい
エステル達は樹の陰に隠れて声のする方を見ると、ジョゼットと数人の男性達が話をしている。
なんとジョゼットの手には市長邸から盗まれたセプチウムの結晶が握られていた!
「さすがお嬢、あっさりと獲物を盗んで来るなんて」
「ボクにかかればちょろいもんだよ。あのお人好しの市長なんか、すっかり油断してボクの前で金庫の暗証番号まで見せてくれちゃってさ」
「ははは、そいつは傑作ですね」
ジョゼットと男達は盛大な笑い声を立てた。
エステル達は怒りに駆られて飛び出しそうになったが、シェラザードが押し止めた。
もう少しジョゼット達に関する情報を会話から聞き出したかったからだ。
「でも、遊撃士のやつらはなんか強そうでしたよ? 鉱山の魔獣達を追い払っちまったらしいし」
「ああ、キミが失敗して偽物をつかまされた時の話か。おかげでボクはくだらない演技をしなくちゃいけなくなったじゃないか」
「すまねえ、お嬢」
「気にすんなって、あんなやつらたいした事無いからさ。ボクがお菓子と紅茶をご馳走するって言ったら、アッサリついて来たよ。あいつら食い意地が張ってるから餌付けできるんじゃないか?」
またジョゼット達がエステル達の事をバカにすると、ついにエステルとアスカは堪忍袋の緒が切れてしまった。
「食い意地が張っていて悪かったわね!」
「アタシ達をよくだましてくれたわね!」
「げげっ、なんでお前達がここに!」
怒りに燃えるエステルとアスカの姿を見て、ジョゼット達は圧されているようだった。
「演技は上手かったみたいだけど、舞台を降りた後の後片付けが甘かったみたいね。痕跡が残されていたのよ」
シェラザードがジョゼット達に言い放った。
「遊撃士協会の規約に基づき、あなた達を逮捕します」
「もう犯行はバレているんだ、大人しくしてよ」
ヨシュアとシンジも武器を構えて、ジョゼット達に宣言した。
「ふん、あんた達なんかに捕まってたまるもんか! 行くよっ!」
「「「へい!」」」」
ジョゼットは銃を、他の3人の男達はナイフを構えてエステル達に襲いかかって来た!
エステル、ヨシュア、アスカが前衛の男達をそれぞれ1人ずつ相手にして乱戦になる。
シンジはどの敵を相手にするか迷っていたが、そんなシンジにシェラザードが指示を出す。
「シンジ、アンチセプト!」
「分かりました!」
アンチセプトとは、相手のアーツを一定時間使用できなくするアーツ。
ジョゼットがアーツを唱えようとしているのを見たシェラザードは、ジョゼットのアーツを封じるようにシンジに指示したのだった。
そして、シェラザードに自身もアーツを詠唱し始めた。
しばらくして、シンジのアンチセプトにより、ジョゼットはアーツを使えなくなる。
ジョゼットは舌打ちして、導力銃を抜いて戦闘に参加した。
「エステル、アスカ、ヨシュア、巻き込まれないように下がりなさい!」
シェラザードの言葉を聞いたエステル達は戦っていた男達に背を向けて、思い切り後ろへと移動した。
そして男達の立っている場所に、シェラザードの風のアーツ、エアリアルが炸裂する!
竜巻に巻き込まれた男達の体は空中に少しだけ浮かびあがり、地面へと叩きつけられた。
バランスを崩してしまって男達はすぐには立ち上がれない。
その隙をついてエステル達が戦闘を優位に進めた。
「さあ、これでまともに立っているのはアンタだけになったみたいね」
ムチを構えたアスカがジョゼットにゆっくりと近寄って行った。
「うわわ、こっちに来るな、赤毛猿!」
「なんですって!?」
アスカはジョゼットの言葉を聞いて、鬼のような形相になった。
赤毛猿とはレイが使っていたアスカに対する最大限の侮辱の言葉だった。
「そうだ、食べ物に釣られるし、キーキーうるさいし、猿みたいじゃないか!」
「このっ!」
「危ない!」
怒りが頂点に達したアスカがジョゼットに飛びかかろうとした時、近くに居たヨシュアがアスカを抱き寄せて引き下がらせた。
アスカの立っていた場所に、空中から砲弾が降り注いだのだった。
「ありがとうヨシュア、助かったわ……」
ヨシュアのおかげで砲弾をかわせたアスカはお礼を言った。
驚くエステル達の前に小型の飛行船が降り立った。
「ジョゼット、迎えに来たぞ!」
「キール兄、遅かったじゃないか!」
ジョゼット達は嬉しそうに小型飛行船に飛び乗った。
「しまった!」
「逃がさないわよ!」
シェラザードとエステルが慌ててジョゼット達を取り押さえようとするが、飛行船は飛び立ってしまった。
「セプチウムの結晶は頂いて行くよ、あははっ!」
ジョゼットは勝ち誇った声を残して、飛行船と共に西の空へと姿を消してしまった。
「まさか相手が空賊だったとは、完敗ね」
「くーっ、悔しい!」
「あのボクっ子、けちょんけちょんにしてやるわ!」
アスカとエステルは地団駄を踏んで悔しがった。
「どうやらボース地方へ逃げて行ったみたいですね」
「そのようね。でもここで、ずっと立ち尽くしていても仕方が無いし……遊撃士協会に戻りましょう」
セプチウムの結晶を取り戻せなかったエステル達は気落ちして遊撃士協会に戻るのだった。
<ロレントの街 遊撃士協会>
ジョゼット達を逃がしてしまったとは言え、シェラザードは今回の事件でのエステル達の活躍を高く評価した。
アスカとシンジは市長邸の現場検証は完璧だったと褒められ、エステルとヨシュアによりジョゼット達の逃亡先がミストヴァルトの森だと判明した事も評価された。
「あなた達は4人で1つのチームだなってつくづく思ったわ。これからも力を合わせて頑張りなさい」
「はい、分かりました」
シェラザードの言葉にシンジはしっかりとうなずいた。
「それにしても、ジョゼットがあんな性格だったなんて想像がつかなかったわよ」
「僕はもしかしてそうじゃないかと思っていたよ」
「鈍感なシンジに分かるわけないじゃん!」
「だって、猫を被っているアスカと同じようにどことなく無理して性格を作って感じだったから……痛っ!」
そこまで話したシンジはアスカに足を思いっきり踏みつけられた。
「へえ、アスカが猫を被っていた事なんてあるの」
「ずいぶんと昔の話よ、リベールに来るずっと前」
ニヤケ顔で見つめるシェラザードに、アスカは言い返した。
「そうだ、市長さんからも感謝状が届いているわよ」
「そんな、あたし達はジョゼット達を逃がしちゃったのに」
「でも、あなた達は犯人の正体を解き明かし、事件を解決させた。それは誇りに思って良いわ」
シェラザードはエステル達に感謝状を見せた。
そこにはエステル、ヨシュア、アスカ、シンジ、シェラザードの名前が書かれている。
「僕達、市長さんに功績を認めてもらったんだね」
「……そうね、大学の卒業証書より嬉しいかもしれないわ」
シンジとアスカにとっては感慨深いものがあった。
ネルフではエヴァンゲリオンで使徒を倒す事でしか評価されなかったからなのだから。
「遊撃士協会もあなた達の功績を認めているわ。だからほら、私も推薦状を書いたのよ」
シェラザードはそう言うと、4通の封書をエステル達に手渡した。
封筒の裏面にはシェラザードの名前とロレント支部の署名がされていた。
エステル達にさらなる笑顔が広がった。
「でも、これはロレント支部だけでの評価だからね。正遊撃士になるにはここの他にボース支部、ルーアン支部、ツァイス支部、グランセル支部の推薦を受けなければならないの」
「長い道のりになりそうだね」
「それだけ、やりがいがあるって事じゃない」
シンジのつぶやきに、アスカは胸を張ってそう答えた。
「それであなた達、次のステップに移るためにもボース支部に異動してみない?」
「それってロレントを離れるって事?」
シェラザードの提案を聞いてアスカは不安そうな顔でそう聞き返した。
「良いじゃんアスカ、新しい街に行けるなんて、ワクワクして来ない?」
アスカと対照的に、エステルは素直に嬉しさを表現した。
「でも、パパに聞いてからじゃないと決められないわ」
「カシウスさんなら聞くまでも無く賛成してくれると思うけど、アスカは甘えん坊さんね」
アスカの言葉に苦笑しながら、シェラザードは通信機を使い始めた。
通信の相手はカシウスが出張している帝国の遊撃士協会の支部のようだった。
シェラザードはしばらく話していたが、突然驚きの声を上げる。
「ええっ、それは本当ですか!?」
ただ事では無いシェラザードの様子に、エステル達も驚いた。
「……はい、本人達も遊撃士ですから、覚悟はできていると思います」
シェラザードはそう言って通信を切った。
「いったい、何があったんですか?」
「みんな、落ち着いて聞いてくれる?」
ヨシュアに尋ねられたシェラザードはそう言って大きく深呼吸をしてゆっくりと話し始める。
「……カシウスさんが姿を消したみたいよ」
「そんな、パパが!?」
アスカは青い顔をして倒れ込んでしまった。
シンジが慌ててアスカを助け起こす。
「シェラザードさん、カシウスさんが消えたってどういう事ですか!」
「追っていた事件の調査中で連絡が取れない状態になってしまっているのか……それとも考えたくないけど、事件に巻き込まれてしまっているかもしれないわね」
シンジの叫びにシェラザードは考え込んだ顔をしながらそう答えた。
しかし、エステルとヨシュアは声を荒げて否定する。
「父さんが簡単にやられるはず無いわよ!」
「エステルの言う通りです、父さんの事件解決能力は人並み外れています」
「私も先生を信じるわ。きっとしばらく経った後、何事も無かったかのように連絡してくるわよ」
シェラザードもエステルとヨシュアの言葉にうなずいて、シンジとアスカを励ますように声を掛けた。
しかし、アスカは青い瞳から涙を流して激しく首を横に振って答える。
「アタシ、頭の中が真っ白になって……今は冷静でいられないの……」
リベール王国で巡り合えた新たな家族。
アスカはまたそれを失ってしまうとなれば、ショックは大きかった。
「アスカ、今日の所は家に帰って休みなさい……」
今朝元気を取り戻したと思ったら、またアスカに辛い現実が降りかかった。
シェラザードはアスカの姉貴分として、アスカの苦しい胸の内を思いやる。
シンジとエステルはアスカの肩を支えながら遊撃士協会を出る。
アスカの事が心配だったシェラザードも一緒にブライト家まで付き添うのだった。
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