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[26751] 【習作】無題(NARUTO)
Name: マルマ◆22abc75d ID:24c4c46c
Date: 2011/03/28 01:26
はじめまして。

このSSは、自サイトに載せているものです。
多くの方に見ていただきたくてこちらに投稿しました。
続きができれば、サイトにではなくこちらに載せていきたいと
思っています。

【設定】
・ナルトが20歳になり、アカデミーの教師になっています。
・サスケが里に戻ってきています。
・オリジナルキャラクターが出てきます。
・アカデミーの校長は、特別上忍になったイルカ先生です。
・特にドラマチックな事件は起きません。

どうぞよろしくお願いいたします。



[26751] 入会.
Name: マルマ◆22abc75d ID:24c4c46c
Date: 2011/03/31 23:50
ウトウトしていたナルトは、いきなり脇腹をつつかれてハッとした。
目を開ければ、アカデミーの職員全員の白い目が自分一人に向いている。
・・・やべぇ、職員会議中だった。
ナルトは着物の袂に手を入れ、教師仲間にえへっと笑って見せた。
「すんません。オレってば、なんかヘンな寝言言っちゃったみたいで」
上席についたアカデミー長の特別上忍が、盛大にため息をついた。


二人でアカデミーの廊下を歩きながら、たなノセルは文句を言う。
「僕何度も起こしたのにナルト先生、全然起きないから」
翡翠色の髪を振って困った顔をする同僚に、ナルトはうんざり
と手を振った。
「もーイルカ先生の説教の後にお前までやめてくれよー」
昨日、任務から帰ったばっかだからオレだって疲れてんだよ・・・
と言うナルトに、ノセルはムッと口を尖らせる。
「僕だって同じ任務でしたけどね」
でも僕は絶対居眠りなんてしません、と言い張るノセルの頭を、
ナルトはぐしゃぐしゃなでた。
「やめて下さいよっ」
もー、と顔を真っ赤にしたノセルに手を払われ、ナルトは苦笑いした。
「いや、可愛いなーと思ってさ」
言ってからナルトはため息をついた。
「お前ガンバリすぎ。暗部とアカデミーの両立なんて超過任務すぎる
だろ。ちょっとは考えろよ」
サスケもナニ考えてんだか、と呟いたナルトにノセルは声を上げる。
「隊長はこの場合関係ありません。僕が我侭言って、アカデミーに残れる
ようにしてもらっているんですから・・・」
ナルトは手の舞扇でペシリとノセルの唇を押さえた。
「ノセル先生。廊下で騒がないよーに」
ナルトの口調は軽いが、ノセルはハッとして口を噤んだ。
ナルトが上忍であることは子どもたちには秘密だし、
ノセルが暗部の者であるということもアカデミーでもごく限られた
人間しか知らないことだ。いつだってアカデミーでの自分たち二人は、自分の
行動に責任を持たなくてはならない。それはいつも、ノセルの方がくどい程
ナルトに言っていることだ。
子どもたちが、「先生こんにちはー」と言いながら二人の脇をすり抜けてい
った。
ノセルは笑って手を振りながら、「とにかく」と咳払いをする。
「アナタの寝ている間に、会議でそのサスケさんの話になったんですよ」
「サスケぇ?なんでアイツが?」
ナルトは怪訝そうな顔をする。
暗部隊長がアカデミーに、一体なんの繋がりがあるのか。
ノセルはため息をついた。
「『ウ之字友ノ会』ですよ。最近すっごく活動が活発になっちゃってるみたい
で・・・」
「うのじとものかい?」
ナルトは首を傾げる。ノセルが口を開こうとした時、予鈴が鳴り出した。
ノセルはとにかく、とナルトに指を上げた。
「ナルト先生、くノ一クラス担当でしょ。アナタが特に気をつけて下さいよ」
じゃ、と手を上げて去っていくノセルの背に、ナルトは、なんのこっちゃと
呟いた。


高く弦の音が鳴った。枝を肩に乗せた三人の少女たちが一斉に振り向く。
ナルトは扇で床を弾いて拍子を取る。舞踊「藤娘」の稽古中である。
「右肩下がる、次左肩。はいドッチリチン、はいイチ、二、サン」
ナルトは地方に手を上げた。曲が止まる。彼は立ち上がり扇を肩にかついだ。
「この時な。顔を動かす時は三つの後まっすぐ顎を右から左、わかったか?」
少女たちが、はーい、と声を上げて、元の立ち位置に戻っていく。
ナルトも定位置に座りなおした時だった。
「こらっ!」
稽古場の外から野太い怒鳴り声がした。窓際に控えていた少女たちの「いやー!」と
いう悲鳴が上がる。
「信じらんなーい!」
「ナルト先生たすけてー!」
咄嗟にナルトは裾を蹴り上げホルスターから手裏剣を引き抜いた。
「みんな窓から離れろっ!」
一斉に窓の下から離れる少女たちの上を飛び越え、ナルトは窓の外の不審者に
飛び掛った。
「うちのくノ一になんの用だこの変質者っ!」
小太りの身体に乗り上げ太い首を押さえると、変質者はぐえぇと声をあげ、
バシバシとナルトの腕を叩いた。
「・・・です。ナルト先生っ、わたしですよっ・・・」
ぐへっと喉を鳴らす男を、ナルトはきょとんと見下ろした。
「・・・あれ?」
よく見ると、白目を剥いて気絶寸前の男は、同じアカデミーの教師だった。



授業が終わってからその後は本日二度目のお説教タイムだ。アカデミー以来、
こんなことは初めてだと思う。
ゲンナリと職員室から戻ってきたナルトに、稽古場で待っていた少女たちが一斉に
駆け寄って来た。
「ナルト先生、だいじょうぶ?」
「まーな」
少女の一人が頬を膨らませた。
「ヒドイよね、ナルト先生を怒らなくたって」
「ほんとー」
ナルトは苦く笑う。
「まあ、相手を確認せず取り押さえたオレも悪かったんだけどな」
でもなあ、とナルトは盛大にため息をつき、少女たちを見回した。
「お前たちも悪かったんだぞ。授業に関係ないもの持ち込むから」
少女たちは顔を見合わせ、ゴメンなさい、と舌を出した。
反省してんのかよ、とナルトは肩を落とす。


つまりあの教師は、稽古場を通りかかり何気なく中を覗いたら、脇で稽古の順番待ち
をする少女たちが紙切れを回し読みしているのを見た、だから叱ったのだと言うこと
だった。
同僚に飛び掛ったこと以上に、授業中の子どもたちの規則違反を叱らなかったという
点でナルトは注意を受けたのだ。
・・・まあ、とナルトは思う。
おかげで、『ウ之字友ノ会』が何なのかはわかったけどな。
ナルトは袂から「ウ之字友ノ会 会報」と書かれた紙を取り出し、少女の一人に
渡す。少女たちは歓声を上げて紙を覗き込んだ。
「ナルト先生、取り返してくれたんだー!」
「ありがとう先生!」
「もう授業中に見るなよ」
「はーい」
やれやれとナルトは窓の桟に寄りかかった。教室に戻らず、自分の目の前できゃあ
きゃあと浮かれる少女たちをしばらく見て、ナルトはところでさぁ、と切り出した。
「・・・それ、いったい何なワケ?」
少女たちは会報をナルトに見せて、口々に説明を始めた。
「今ちょー話題の上忍、うちはサスケさまのファンクラブの会報でーす」
「とってもキレイなお顔の人なんでーす」
「里の中で、たった一人の「うちは」の人なんでーす」
「すっごい強いらしいんでーす」
「恋人募集中らしいでーす」
きゃあーと騒ぐくノ一予備軍を、ナルトはへーと見た。
サスケのファンクラブなぁ。オレたちがアカデミーの頃も、アイツくノ一クラスですげぇ
人気だったからなあ。まあツラは昔から良かったもんな。性格はヒネちまったけど。
ナルトはちょっと身を乗り出した。
「どんな活動すんの?」
「まず、月に一回会報を発行します。クイズに答えたらサスケさまグッズが当たる
コーナーありまーす」
サスケさまグッズ?!
ナルトは笑いをこらえた。こらえたあまり、顔が引きつる。
「そんなんあんのか?」
思ったより本格的だ。
「あります!うちはの家紋がついたキーホルダーとかー」
・・・そういうの、なんやかやとややこしいことにならないんだろうか。
「会員が作ったサスケさま人形とかー」
げ、人形?あんな可愛くねーの何人もいるの?!
私持ってる!と橙色の髪の少女が手を上げ、小さなぬいぐるみを持ってきた。
黒髪に鋭い目つきのソレはけっこう良くできている。
ツネりてぇという衝動を抑えるナルトである。実行したらこのチビッコは
自分を一生憎むと思う。サスケを見習って里抜けされては悲しすぎる。
髪をくるくるに巻いた子が声を上げた。
「そういえば、サスケさまとナルト先生、同い年だよね」
ギク。
「先生、サスケさまとアカデミー同じだったんでしょ?友達だった?」
「あー・・・」
ナルトはあらぬ方向を見た。
ここでうちはサスケと知り合いだとは言えない。言えば「サスケさまに会わせて!」
という成り行きになるだろうし、そうなれば・・・シカマルじゃないけど・・・。
はっきり言って。


メンドクサイ。


ナルトは咳払いをした。
「確かにアイツとはアカデミーで同期だった。でもそれだけで、できのいいアイツは
オレを相手にしなかったし・・・」
言いながら、この点は事実だよなと思うナルトだ。
「ま、それだけの仲だってばよ」
言ったら、えー、と子どもたちは顔を見合わせた。
「でも、ナルト先生もすっごく格好いいしー」
「友達になっちゃえば?二人揃ってたらすっごく美しいよ!」
はは・・・とナルトは顔を引きつらせた。
・・・笑えねぇ。お前ら、サスケの前でんなこと言ってみろ。ガキといえどもアイツ容赦ねーんだぞ。
きゃー!とかまびすしい少女たちを見ながらナルトとしては、とにかくコイツらが不用意に
サスケの傍に近寄りませんように、と祈るばかりである。
袂がくいくいと引っ張られた。見下ろしたら、少女たちの輝く瞳。
「・・・どした?」
「ナルト先生、先生も『友ノ会』に入会しなよ!」
え・・・。
「オレも入っていいの?」
少女たちは、勿論です!と頷いた。
「男の子の会員もすっごく多いの、やっぱり憧れるのね」
「ナルト先生がサスケさまとお友達になれるように、私たちも協力します!
そのためにも!」
えいっ、と会報をつきつけられ、反射的にナルトは受け取る。
少女たちの宣言。
「まずは第一歩として、ファンクラブに入会しましょー!」
「そうしましょー!」
わーわーと拍手をされ、ナルトはサンキュー、と呟いた。


・・・ま、いいよな。
これをネタにしばらく面白い思いができるかも知れない。
ナルトはそう納得し、紙を懐にしまったのだった。



その日の夜。
ナルトがサスケの家の茶の間で仕事をしていたら、風呂上りの家主が
怪訝そうな顔で卓上の紙切れに目を留めた。
「・・・ナルト。これは何だ」
『ウ之字友ノ会』?と読み上げたサスケにナルトはぷっと吹き出す。
「・・・なんだよ」
「いや、なんでも」
サスケは肩をすくめて紙を放った。
そのまま部屋を出て行こうとするサスケの背に、ナルトは顔を上げず言う。
「それさぁ」
「なんだよ」
「サスケさまとお友達になれる紙らしいぜ」
「は?」
「オレとサスケさま、お似合いなんだってよ」
サスケは振り返る。ナルトのニヤけた顔に柳眉をひそめ、呆れたように手を
振る。
「次の任務までにそのクサれた脳を治しとけよ」
部屋を出て行くサスケの後ろ姿にナルトは肩をすくめ、広げた巻物
に目を戻した。



ナルト『ウ之字友ノ会』会員としての、初めての夜だった。

End.



[26751] 職員室.
Name: マルマ◆22abc75d ID:24c4c46c
Date: 2011/04/02 00:33
職員室の扉を開けたノセルは、生徒たちから集めたテスト用紙を
片手に肩を落とした。
・・・やっぱり、ここにいた。
ノセルは人少なになった職員室の真ん中を抜け、ちょっと奥に離れた
自分の席に戻った。彼の向かい側のデスクには藍色の着物を着た金髪の同僚がいて、
熱心に何かを縫っている。
「・・・ナルト先生、なにやってるんですか?」
んー?と、男は手元から目を離さずに生返事をした。
「オレが踊ってるように見えんのノセル先生」
「今週はもう、授業ないんでしょ」
「うん、ない」
「・・・今日、用事があるって言ってませんでしたっけ」
「そーだったっけ?」
ノセルはため息をついて自席に座った。他の教師たちが少し離れた
ところで談笑しているのを確かめた彼は、男のほうに身を乗りだし声を潜める。
「うちの隊長が、アナタを捜してるらしいですよ。班員がさっき来て
言ってました」
「へー」
「彼ちょっと泣いてましたよ。アナタが見当たらないからサスケ隊長
カンカンだって。先生、今日は次の任務の打ち合わせだったんじゃ
ないんですか?」
「厄介なやつ」
「え?」
男は――うずまきナルトは、大きく息をついてノセルを見た。
「出てけっつったり出てこいっつったり、厄介なやつだって言ったの
お前らの隊長のこと」
困ったやつだよな、としみじみ言うナルトを見て、ノセルはまたか、と思う。
ナルト先生とサスケさん、また、何かあったんだ。
金髪男は机上の黒いフェルトを取り上げる。肌色の丸いものにそれを
くっつけながら、ナルトは平坦に言った。
「お前も同じ隊のやつに言っとけよアイツはしばらくほっとけって。
サスケもそんないきなり爆発したりはしねえだろ」
「はあ」
ノセルは暗部での上司の顔を思い描く。
あの人は爆発したりはしない。でも周りの空気を氷点下にする。
ノセルなんぞは、サスケの多少の機嫌の悪さはある程度放っておけるタイプだ。
上司の気温が下がったところで即凍死というわけではない。胸倉を掴まれようと
三発続けざまにどつかれようと、すぐ任務にさし障るというわけでもない
(痛いけど)。
でも他の仲間は、ノセルのように構えるわけにはいかないらしいのだ。
ここはさっさとナルトをサスケの元へ返すのが、人として正しいと思う。
「ナルト先生。何度も聞きますけどなにやってるんですか。
踊ってるようには見えません念のため」
「これ?活動してんの、オレ」
「活動」
「ほら、それ」
ナルトが顎でデスクの上を指す。ノセルはその先にある紙を覗き込んだ。
「『ウ之字友ノ会』会報・・・ナルト先生、ホントにこれ入会しちゃったんですね」
「おー、したした」
生徒たちの軽いノリに乗っかったナルトが気安く入会してしまったらしい
『うのじとものかい』。
それは、うちはサスケという上忍のファンクラブだ。たった今、ナルト本人が
「厄介なやつ」だの、「困ったやつ」だのとこきおろした、あのうちはサスケの
ファンクラブのことなのだ。
ナルトは顔を上げてノセルを見、無言で右手の丸いものを掲げた。
黒い髪をした、手のひらサイズの人形だ。でも顔がない。
「それって」
「『サスケさま人形』」
「ええ?」
「サスケさま人形だよ。みんなでサスケさまグッズ作って会員同士で
交換するんだってさ、くじびきで。その準備してんの」
「へ、へええ・・・」
ナルトは、へへ、と笑った。
「オレってば、こーいうの結構得意なんだよな。どうノセル先生、
この人形?」
「どうって・・・」
ノセルは言葉を濁した。
サスケさまグッズとか、そういうことを楽しそうに話す暇があるのなら、
その「サスケさま」の機嫌をどうにかしてほしいと思うノセルだ。
今この時、ノセルの仲間が、「サスケさま」の傍で凍りつく思いを
しているのだ。
「ナルト先生・・」
「なに?ノセル先生」
ノセルは少し考えて口を開いた。
「先生。ここは職員室です。そういう内職なら、持って帰って続きをやった
ほうがいいですよ」
「オレはここでやりたいの。職員室、好きだもん」
「仕事場を好きなのはいいことだと思います。でも、やっぱりここは職場ですから・・」
だから、その内職は持って帰ってやるといいですよ、サスケさんの家で。
・・・と、ノセルは続けるつもりだ。とにかくナルトをここから出すこと、
そしてサスケのところへ向かわせること。これが彼の使命だ。
ノセルを見たナルトはあきれたように「お前さあ」と言いかけてから、
思いなおしたように口をつぐんだ。突然黙ったナルトの表情が寂しげに見えたのを
ノセルは怪訝に思う。どうしたのだろう急に。
「ナルト先生、あの・・・」
「オレってば、ここにいちゃダメなんだな、ノセル先生」
「え?」
「授業ないのにわざわざここにくる教師なんか、邪魔でしょうがねえよな。
オレってば気がつかなくってさ・・」
「ええ?いや、邪魔とかそんなんじゃなくって」
ナルトは、「はは」と笑い、遠い目をした。
「なあノセル先生、憶えてるか?オレがこの職員室に、教師として入ってきた
最初の日のこと」
「え、まあ・・」
このアカデミーを卒業した小さな生徒は成長し、ある任務での調査のために
戻ってきた。
臨時の講師の姿で現れた男、それがナルトだった。
「オレ、昔は職員室なんか嫌いだった。アカデミーの頃のオレは、
なんかやらかすたんびにイルカ先生に職員室で叱られてたからさ」
「先生・・・」
「イルカ先生に叱られんのは、オレ楽しかったよ。あの頃のオレなんて、
他の教師たちは誰も構ってくれやしなかったから。本気でオレにぶつかってくれる
イルカ先生がいてくれんのが嬉しかった」
ふとナルトの青い瞳が曇った。その様子が幼く見えて、ノセルは思わず、ナルトに
小さな生徒たちの姿を重ねてしまう。
「オレが職員室を嫌いだったホントの理由はさ。イルカ先生に怒られてるオレを
遠巻きに見て、そのくせ無視を決め込んでる教師たちがいたからだったと思う。
オレを見たくない大人が、怖いもの見たさってカンジでやっぱオレを見るんだよな。
オレの居場所なんてまったくない場所、それが職員室だった。だから任務とはいえ、
ここに戻るのはいやだなって思ったよ、正直」
ノセルは胸を打たれた。
人柱力として火影に守られていた存在。そして監視されていた存在。
それが子供の頃のナルトだったのだ。周りの大人たちの弱さが、どれほど
小さなナルトを傷つけたのだろうか。ノセルなどがその幼い胸中を
推し量ってみても、時間が巻き戻るものではないけれど。
でもさ、とナルトはノセルを見た。
「そんなオレでも、今はこの職員室、けっこう居心地いいなって思ってるんだってば。
イルカ先生やノセル先生のおかげかもな」
「ナルト先生・・・」
ナルトは照れたように笑った。
「ゴメンなヘンな話しちゃって。じゃあオレ、邪魔みたいだから帰るわ」
立ちあがろうとするナルトに、「待ってください!」とノセルは叫んだ。
ナルトの青い瞳がこちらを見る。
「どしたのノセル先生」
ノセルはいきおいよく立ちあがり、手を伸ばしてナルトのデスク上にあった
人形を取り上げた。周りからは女の子みたいだと言われる顔を上気させ、
ノセルは人形を握りしめてナルトを見た。
「人形作り、ボクも手伝いますよ。ここで一緒にやりませんかナルト先生」
「ノセル先生・・・」
ナルトは自分の席に座ったまま、でも、と言い淀んだ。ノセルを見上げて、
「でもさ、オレってば、やっぱいないほうがいいんじゃない?帰るよ」
「邪魔なことなんてないですよ!だから、もう少しここにいてください」
ノセルは決意していた。
ナルトをこのまま帰してはならない。小さな心を重くしただろう職員室を、
今は好きだと言うナルトだ。そんな彼を、自分の都合だけでここから
冷たく追い払うことなどできやしない。ナルトもかつてはアカデミー生
だったのだ。生徒に今も昔もない。どの子も自分の生徒なのだ。生徒の心は
守ってあげたい。
ノセルは教師としての使命感に燃えていた。
一方で、暗部での仲間と上司の問題は彼の中で完全に雲散霧消している。
ナルトはノセルに笑いかけた。
「ホント?ノセル先生。オレ、ここにいていいんだね?」
ノセルはナルトに笑い返した。
「もちろんいいですよ。悪いわけないじゃないですか」
ボク、お茶淹れてきますね、とノセルは席を離れた。ありがと、とナルトの
声がノセルの背中を追いかけてきた。





ノセルの背中が給湯室に消えるのを見たナルトは、「ふー」と息をついて
椅子の背にもたれた。頭の後ろで両手を組んで伸びをしたら、ノセルが置いて
いった丸いものが目にとまる。
・・・ウソを言ったつもりはない。でも、調子に乗ってしゃべりすぎたかな
とも思う。ナルトは、人形に向かって苦笑いした。
「なあサスケ、ノセルはいいやつだぜ。あんなかわいい部下、あんまり
いじめてやるなよな」
ナルトは腕を伸ばし、人形をくすぐった。
顔のないサスケ人形は答えず、ころんと転がり下を向いた。

End.



[26751] 一抹.
Name: マルマ◆22abc75d ID:24c4c46c
Date: 2011/04/03 01:37
ノセルはナルトと並んで職員室を出た。急いでいるので二人とも
限りなく小走りに近い早歩きになる。しかもナルトの
ほうは手元の資料を繰りながらの移動だ。甚だ不用心である。
「ノセル先生、次の資料くれ」
「はい」
二人は資料を交換しながら廊下を曲がる。
紙に目をおとしたまま、ナルトは呟いた。
「おいノセル先生」
「はい」
「横暴すぎね?あと30分でこの資料の内容頭にたたき込んで
作戦に合流しろとかよ」
「そうですね」
ノセルはため息をついた。
「・・・やっぱりボクが行きますよその任務。本当はボクが
呼ばれたんだし」
つい10分ほど前、サスケの使いで暗部面の男が書類を持参した。
急ぎの任務があるからノセルに至急参加しろとのことだった。
ノセルは弱った。1時間後に、イルカについてアカデミーを
出なければならない。事前に言っといてくれたらやりようも
あったのに。
「その任務、オレが行くわ」
ノセルの傍にいたナルトが、使いの男から書類を取り上げた。
暗部面の男は「困ります」とナルトのほうを見た。ナルトは
男を見返した。
「困るって何が」
「今回の作戦にはこの者を呼ぶように言われていますので」
「そ。でもオレが行くってお前らの隊長に言っといて」
「しかし」
「このうずまきナルトが行くってサスケに言え」
使いの男は言葉に詰まったようにしてからマントを翻して消えた。
10分たっても男が戻ってこないところを見ると、サスケはナルトの
代打で納得したのだろう。
いいのかなあ、と思うノセルだ。
アカデミーでは「中忍」と身分を逆詐称しているナルトだが、
実際は歴とした上忍だ。上忍に任務を下すことのできる者は、
本来ならば火影のみのはずなのだが。
ナルトは「よし」と言って書類をノセルによこした。
「出席取ったらオレ行くわ。時間ねーし」
「わかりました」
「あとからスズメ先生来てくれると思うからそれまで頼む。イルカ
先生と出かける時間までには間に合ってくれると思うから」
「はい。すみませんナルト先生」
「気にすんなってばよ。あんな勝手な上司でお前も苦労するよな」
「はあ・・・」
答えを濁したノセルの前で、ナルトが突然止まった。
どうしました、と声をかけるノセルに、「し」とナルトは手を上げて、
あれ、と教室の入口を指差した。扉は少し開いていて、上には
黒板消しがはさまっている。
「古典的ですね」
「ガキはいつの時代もかわらねーよな。入ったところにはワックスを
ぶちまけてあるぜきっと」
ヒヒ、とナルトは笑う。ノセルは眉をひそめた。
「ナルト先生、悪い笑い方になってますよ」
「そっかあ?」
「何考えてるんですか」
「へへ、いいこと」
見てな、とナルトはノセルに目配せして、教室の扉をがらりと開けた。
黒板消しがナルトの鼻先をかすめて床に落ちる。
ナルトは教室を見まわす。子供たちが着席したまま、いっせいにナルトを
見た。みんな普通の顔を保っているつもりのようだが、実際は好奇心満載の
瞳でこちらをうかがっている。
「よう、いい挨拶だな。誰がやったんだ?」
子供たちは答えない。ただ目配せをして笑いをこらえているようだ。
「答えたくねーんだな。ま、すぐに言いたくなると思うけど」
ナルトは軽く言いながら教室に入った。瞬間、
「うわああああ」
と大げさな叫び声を上げながら盛大に足元を滑らせた。
え、と思うノセルの前で、ナルトが派手に転倒した。わっと教室が盛りあがる。
「ひっかかった!」
「ナルト先生がひっかかった!」
ちょ、ちょっと!
囃したてる子供たちを押さえることを忘れて、ノセルはナルトに駆け寄った。
床に軽く足をとられたが踏みとどまる。確かに床にはワックスが盛大に撒かれて
いた。ナルトはこのことに気づいていたはずなのに。
「大丈夫ですか?!」
ノセルがナルトにかがみこんだら、ナルトが起き上ろうとした姿勢でうめいた。
右腕が震えている。ナルトが脂汗をかいてノセルを見た。
「ノセル先生・・・」
「腕?!腕をどうしたんですか?!」
ノセルがナルトの右腕にふれようとしたらナルトが顔をゆがめた。
「折れたみたいだってば・・」
「ええっ」
転んだ時に折ったのだろうか。上忍なのに。転倒しただけで腕を折ったのだろうか。
転び方は確かに普通じゃなかったけど。
気が動転しているノセルの目の前で、ふっ、とナルトは倒れたまま笑った。
「利き腕が折れたんじゃあオレも忍として終わりだってばよノセル先生・・・」
「し、しっかりしてくださいナルト先生!」
ノセルはどうしていいかわからず、ナルトの上半身を抱き起した。
笑うのをやめた子供たちが、ナルトとノセルの周りに駆け寄ってくる。
「先生!」
「ナルト先生大丈夫?!」
子供たちの心配そうな声に、ナルトは弱く笑った。
「みんな、ゴメンな・・・腕がダメになったんじゃ印も結べねぇし扇も持てねぇ。
もう忍としても先生としてもやってけない・・・お別れだってばよ・・・」
「先生、いなくなっちゃやだ」
女の子たちがすすり泣きを始める。男の子たちは目を赤くしてナルトを見ている。
子供たちは騒ぎだした。特に女の子がすごい。
「ちょっと謝りなよ!」
「ナルト先生に謝りなよ!」
「ノボリ、イコマ、あんたたちがやったんでしょ!」
気まずそうにしている男の子二人を見たノセルに、ナルトが手を上げた。
「ノセル先生・・・」
ノセルはあわててその手をつかんだ。
「ナルト先生」
「オレがいなくなっても、子供たちのこと、頼む・・・」
「気の弱いこと言わないでください!きっと腕は良くなります!」
ノセルはナルトの手を握りしめた。ナルトもノセルの手を握り返す。右手で。
・・・え?
「・・・ナルト先生。折れた腕って、どっちでしたっけ」
ナルトは、「おっと」とつぶやいた。ノセルの手から右手を離し、左手に
持ち替える。
「ナルト先生・・・」
ゲンナリとしたノセルに、それまで弱弱しかったナルトがニヤリと笑った。
「誰がいたずらしたか、わかったよなこれで」
子供たちが、「ええええーっ!」と叫ぶ中、ナルトは一気に上半身を起こして
立ちあがった。子供たちは大ブーイングだ。
「ナルト先生ひどい!」
「ひどくねーよ」
「私たちホントに心配したのよ!」
「おう、サンキュー」
ナルトは子供たちに騒がれても平気な顔だ。まったくツラの皮が厚い。
「ウソはいけないのよナルト先生!イルカ先生に言いつけるんだから!」
「言っただろオレ。誰がやったかすぐに言いたくなるってよ。ホントに
なったじゃねーか」
子供たち相手にまったく楽しそうな同僚を見て、ノセルは少し不安を覚えた。

この人を、このままのテンションでSランク任務に行かせて大丈夫だろうか。

End.



[26751] 朝礼.
Name: マルマ◆22abc75d ID:24c4c46c
Date: 2011/04/09 20:33
道場では今、アカデミー生たちがクラスごとに整列して、
壇上の男の話を聞いている。
「――であるので、来週火影さま、風影さまが参観にいらした時は
みんな日頃の成果を発揮するように、さらには――」
話が長い。
道場の端には教師たちが立っている。その列に混じっている若い金髪男は、
着物の袂に両手を入れてあくびをした。うずまきナルトだ。
上背のある彼は、隣の先輩教師に身体を少し傾け、声をひそめた。
「ねー、まだ終わんないの先生?」
日舞の講師を務めるナルトは着物を着ているが、彼が話しかけた相手は
額当てにベストという標準装備だ。教師たちの中でも古株に入る教師は、
苦笑してナルトを見た。
「まあ、もうちょっとで終わるさ。我慢してろ」
「んなこと言ったってよー。オレヒマでヒマで」
はは、と教師は笑った。笑うと人懐っこい様子になる。
「お前はこういうの、昔っから苦手だもんな」
「まーね」
ナルトは、それにしてもさ、と壇上に目をやった。
「やっぱイルカ先生がやるべきなんじゃねーの?ああいうこと」
「いや、オレはああいうの苦手だからな」
「しょうがねえ校長先生だなあ。見てみろってばよ、教頭の
調子よくしゃべりまくる顔をよ」
「いいじゃねえか。オレは助かってるよ」
イルカは笑っている。
うみのイルカという先生は、特別上忍に昇格しても中忍のころから
まったく変わらない。人が良くて、それでいて恬淡としている。
かつての教え子としては、それが嬉しくもあるのだけれど。
ナルトは恩師の頓着なさげな様子にため息をついて、隣をちらと
見た。
「あとこっちも」
みてくれよ先生、とナルトは言い、扇の柄のほうでイルカとは
反対の隣を指した。ナルトの指した先では若い優男が手元の巻物に
見入っている。ひとりでぶつぶつ言いながら、巻物を巻きなおし、
新しい巻物を取りだす。ナルトは扇で彼の肩をつついた。
「ノセル先生、先生ってば。おいノセル」
男は振り向かない。ナルトは、「な?」とイルカのほうを振り返った。
「こいつなんて内職しちゃってんだぜ?これって悪いよね、イルカ先生」
イルカは苦笑した。さきほどノセル宛てに、また次の任務の予習資料が
届いたのだ。イルカはそれを知っている。
「いそがしいからなノセル先生は。大目にみてやれよナルト」
ナルトは「ええー」と声を上げた。
「イルカ先生。ここはゲンコツなんじゃねーの?オレが昔おんなじことしてたら
先生、いっつもゴチンゴチンてやってたじゃん」
イルカがくっくっと笑う。
「そりゃ、おめぇはくそガキだったからなあ」
「ひっでえ。校長先生がくそガキとか言っちゃっていいの?」
「生徒たちには聞かせられないな」
ナルトは「シシ」と笑った。
「だよね」
言ってナルトはイルカに、手のひらを差し出した。イルカはナルトを見る。
「どうした?」
ナルトはニヤリと笑う。
「校長先生がくそガキって言ったこと、先生同士の秘密な。ラーメン一杯で
手をうつよ?」
「まったく、ちゃっかりしてんなお前は」
イルカはおかしそうに笑い、片手を上げて、差し出されたナルトのてのひらを一つ
打った。商談成立だ。
その時、壇上の男の話が終わった。子供たちも教師の列もホッとしたような空気になる。
ナルトは袂が腕までまくれるのを構わずに伸びをした。
「やっと終わったってばよ。おいノセル先生」
ナルトが隣を見たら、既に巻物を片付け終わった同僚が「はいナルト先生」と
こちらを見返した。可愛い顔をして、まったくソツがない。
自分の額当てを結び直したイルカは、ナルトとノセルを見た。
「それじゃいきましょう。ナルト先生は、くノ一クラスの生徒をそのまま稽古場まで
引率してください」
「おっす」
ナルトは手の扇を帯にぐいとねじ込んで、くノ一たちを呼んだ。


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