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時は現代。場所は裏日本の山と海に囲まれたとある街。
そこでは最近、数十人の若い女性が一度に姿を消してしまうという、同時多発行方不明が起こっていた。街の住人であるか旅行者であるかを問わず、互いに何の関連性もなかった女性たちが突然いなくなった。当初、若い女性だけを狙った大規模な誘拐組織のしわざと思われた事件だが、その捜査は遅々として進まず、現代の神隠しと人々の不安を掻き立てていた。 |
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女刑事、日米クォーターのミレイ・レティシア・ハヤミは、他の捜査員以上に事件解決にやっきになっていた。なぜならば、警察女子寮で同室の交通課、峰岸あかりもまた神隠しにあった一人だったからだ。
捜査の過程で、あかりを始め、失踪した女性たちが海沿いの漁村、綿山町に向かっていたことが明らかになる。
しかし、当の綿山町の警察は事態の重大さを分かっていないかのように、ノラリクラリとした態度を取るばかりだった。綿山町にある「私立綿山学園」にいたっては、女子生徒の十数人が行方不明となったにも関わらず、きわめて非協力的だった。 |
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■綿山町
場所は裏日本の山と海に囲まれた町。一方を海、三方を山に囲まれた、特に観光地というわけでもない地方の小都市。市街地に近い地域では住宅が密集するが、少し外れると田畑や緑が残っている。住宅と学校とスーパー・コンビニ以外は何もないような地域。街の何処にいても綿山が見え、そこにある綿山神社が住人の信仰の対象となっている。地理的にも、住民の気持ちの上からも、社会から隔絶され、閉鎖された町。舞台となる季節は、昼夜問わず常に町にうっすらと霧がかかっていて、どこか現実ではないような不気味さが感じられる。 |
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■神隠し
神隠しは、古くから人体消失現象として知られている。有名なものには、1769年のオウェン・パルフィット氏の事例がある。数日前に足を怪我したパルフィット氏は立つことができなかったため、家の玄関に腰掛けていた。パルフィット氏の世話をしていた従兄弟は、彼の足にかける毛布を取りに行こうと家の中に入った。そして従兄弟が毛布を持って家から出てきたとき、パルフィット氏はすでに姿を消していた。従兄弟は慌ててパルフィット氏を探したが、彼は永久に戻ってくることはなかった。パルフィットの氏の家は人里離れた場所にあって、周りには他の家もなく、身を隠すような場所もない。それは時間にして、たった一分ほどのできごとだったという。1975年、ニュージャージーからニューヨークに向けて車を走らせていたジャクソン・ライトとその妻マーサの事例もある。霧の中、車がトンネルにさしかかったとき、夫のジャクソンはフロントガラスを拭こうとし、マーサは後部座席の窓を拭こうとした。ジャクソンがガラスを拭き終えてふと横を見ると、妻の姿は忽然と消えていた。走行中の車内での出来事である。歴史をひもとけば、このような奇怪な事件は確かに存在している。だが、それは極めてまれにである。また、信憑性に欠ける事例も多い。今回のように同時多発的に、しかも女性のみが次々と消失するなどという異常事態はかつて例がない。まさに現代の神隠しである。 |
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■綿山
町の人は御山と呼ぶ。古くは「海の山」と書いて、「海山(わたやま」といった。そこにいるとされる神の名が「ワタラ」であると伝えられている。「海の山で海山とはね。海だか山だかはっきりして欲しいわ」はミレイ談。 |
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