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東日本大震災:福島第1原発事故 原発の問題点を聞く/下 /京都

 日本のエネルギー政策の柱として推進されてきた原発だが、東日本大震災による東京電力福島第1原発の事故で根本的な見直しが迫られている。事故前から原発のコストを検証し、国民にとって最も割高だと指摘してきた大島堅一・立命館大国際関係学部教授(経済学)に聞いた。【聞き手・太田裕之】

 ◇推進路線、転換は不可避--大島堅一・立命館大教授

 --福島第1原発の事故をどう受け止めるか?

 まさに未曽有の事故だが、明らかに“原発震災”であり、懸念されていたことが現実のものになった。福島第1原発にとどまらず影響は大きい。

 これまでの私の計算では対象外にしてきたが、東電には事故に伴う原発自体の被害と周囲への被害補償費が生じる。全容は不明だが、少なくとも数兆円規模になるだろう。議論が先行している農業被害や漁業被害は全体の一部で、観光産業や原発のため操業できない事業などにも及ぶ。住民の健康や資産への被害もある。健康被害はアスベスト(石綿)と同様に長期的に見る必要がある。避難に伴う経済的損失も大きい。土地の価格も下がるだろう。人が住めなくなれば、その地域の人々の全財産が対象となり、天文学的金額になる。想像を絶するとしか言いようがない。

 次に原発自体も廃炉が必要で、その費用も膨大になるだろう。これまでも廃炉費用は積み立てられてきたが、以前、見積もりが甘かったとして積立額が引き上げられている。事故による汚染もあって膨れ上がるのは間違いない。

 事故を考慮すれば、原発は生み出す経済的利益よりも損失の方が大きいのではないか。福島第1原発事故のようなことがあれば、普通の企業なら倒産する。東電は、営業利益や内部留保を被害補償に充てていかなければならない。過去の巨大津波の経験から、危険性が国会でも指摘されていたにもかかわらず、東電は対策を怠ってきた。被害者には迅速な補償が必要だが、国が丸抱えで肩代わりしたらモラルハザードが起きる。

 --東電以外への影響は?

 他の電力会社も当然、津波対策や耐震強化の見直しが必要になる。震度も従来の想定でいいのか。福島第2原発も、女川(東北電力)も止まっており、きちんと検証する必要がある。新潟県中越沖地震(07年7月)で被災した柏崎刈羽原発もそうだったが、何年も要するだろう。今回の震災を基準にすれば全国の原発全てが基準外になるのではないか。浜岡原発の1、2号機は新潟県中越沖地震の後、より厳しい耐震性が求められて廃止を決めたが、そんな事態に及ぶ可能性がある。原子力損害賠償保険の限度額(1200億円)も大幅に引き上げる必要があるだろう。

 また、今回の事故では使用済み核燃料の危険性も浮き彫りになった。前述のように廃棄物の処理コストは一応は計算されてきたが、過小評価であり、今回の震災でさらに見直さないといけない。

 --今後の原発の行方は?

 少なくとも東電は原子力なしでやらざるを得ない。福島第1原発は再起不能だろうし、福島第2原発と柏崎刈羽の稼働も不透明だ。もはや原子力という選択肢はなく、太陽光や風力など自然の再生可能エネルギーを増やすことになるだろう。東電は今まで需要開拓に躍起だったが、事故後は需要抑制、節電に転じている。契約上、産業界の需要調整は可能なので、計画停電は不要になると思う。

 ドイツは再生可能エネルギーの電力に占める割合を10年間で約10%引き上げた。次の10年間でさらに15%上げようとしており、2030年には35%くらいまでに達する。日本でも、10年で20%に上げることは可能だ。周りは海で日差しもドイツより強く、可能性は高い。20~30%になれば基幹電源となる。原発も1基を新設するのに10年かかる。再生可能エネルギーは今の原発に匹敵する基幹エネルギーに十分なりうる。

 --他の電力会社はどうか?

 今まで電力会社は原発推進で一枚岩だったが、東電が原発を失い、路線を転換する影響は大きい。東電以外は置かれた状況がまだ分かっていないかもしれないが、東電に出来て、他社はなぜ出来ないのかとなる。大きな転換点だ。原発の安全神話は崩壊した。新規立地は全国どこでも無理だろう。事故防止のコストが高くなり過ぎて、電力会社にとっても割に合わなくなる。加えて事故処理と放射性廃棄物の「負の遺産」がある。原発はもはや割に合わない産業に成り果てた。他の原発も今後次々と廃炉となっていくから、20年、30年先を見るとなくなっていくしかない。

 国として「脱原発」に転じれば、原発向けの予算をほとんど再生可能エネルギーに使える。国の財政資金は原発費用として年間4000億円ぐらいある。さらに、再処理費をやめれば、その分の11兆円も回せる。再処理のため税金のようにキロワット時当たり0・5円ほど電気料金に上乗せ徴収されている金額は年間3000億円くらい。これらを使えば、再生可能エネルギーは市場でも十分に離陸できる。

毎日新聞 2011年4月10日 地方版

 
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