原発報道について思う事
久しぶりのブログ更新になります。東北地方太平洋沖地震の発生から一週間が経ちました。何よりもこの度の大地震で亡くなられました方々のご冥福をお祈りいたします。余震が続いていますが、私の住んでいる茨城県つくば市では割と早くから元通りの生活に戻る事ができたと思います。このブログ記事では福島の原子力発電所の冷却作業についていくつか気になったところを書いてみます。
まず、私の立場ですが、原子力発電に関して専門家ではありません。大学で化学を専攻した者が普通に持っている程度の知識しかありません。それだけでも原発の報道を見て明らかにおかしいと思うところが幾らかありましたので指摘したいと思います。大部分がどうでも良い話なのでそういう話が好きな方だけお付き合い下さい。
一番目は何と言っても専門家を自称する内閣総理大臣の奇行です。専門家なら原子炉を停止させた後に冷却作業が必要である事くらい知っていると思いますが、どういう訳か地震発生の翌日に原子力発電所を視察に行きました。それがどのような結果をもたらすのか想像する事ができなかったのでしょうか。それともわかっていてあえて冷却作業を邪魔しに行ったのでしょうか。本当に理解に苦しみます。菅直人は東京工業大学理学部応用物理学科卒、東工大の恥です。
同じく頓珍漢な事を言っているのが日本共産党の代表をやっている志位和夫。大津波が発生すれば原発の冷却機能が損なわれる危険性を指摘していたと言っているようですが、共産党が言ってきたのは津波の後の引き潮の影響で海面が低下し海水が取水できなくなるという事、今回の事態を警告していた訳ではありません。もっとも、菅直人が余計な視察をする事を予測できる人も滅多にいないと思いますが。都合の良い所だけ強調して主張の根幹を隠すような真似はしていただきたくないものです。それにいつから日本共産党は原発容認になったのでしょうか。志位和夫は東京大学工学部物理工学科卒、東大の恥です。
人物批判はこれくらいにしておいて科学の話をしたいと思います。よく「放射能汚染」だとか「放射能漏れ」だとかと言いますが、放射能は漏れる事も汚染する事もありません。放射能の定義は単位時間(1秒間)に壊変する原子の数であって、それが大きいとか小さいとかという事で論じられる事はあっても汚染するという概念で語られるべき言葉ではありません。一般に使われている「放射能」という言葉は誤った使われ方をしております。そして、今回、格納容器から放射性物質が外に出たという事ですが、これは本当です。おそらく圧力容器の圧力を下げるために中のガスを抜いてその時に核分裂生成物が外に出たのでしょう。セシウムとヨウ素が検出されたとありますが、核分裂生成物はセシウムとヨウ素だけではありません。詳しくは「核分裂生成物 収率曲線」で検索してみて下さい。収率が高い核種としてはストロンチウム-90(収率6.8%),ジルコニウム-95(収率6.3%),ヨウ素-131(収率3.1%),セシウム-137(収率6.2%),バリウム-140(収率6.4%),セリウム-144(収率6%)等が知られております。ほかにも核分裂生成物はたくさんあるのですが、今回、ヨウ素とセシウムが報じられたのは、単にそれらが検出しやすい核種であるからだと思います。ヨウ素-131はβ-壊変してキセノン-131になります。そのβ-壊変に伴ってγ線を放出し、そのγ線のエネルギーの値(何本か出てきますが代表的なのは364 keV)からヨウ素-131を確認したものと思われます。セシウム-137はβ-壊変してバリウム-137mになり、そのバリウム-137mが核異性体転移を起こして662 keVのγ線を放出します。このγ線のエネルギー値からセシウムの存在を確認したのでしょう。正確には検出されたのはセシウムではなく、バリウムです。放射線計測においてγ線により核種を識別する事は比較的容易ですが、β線から核種を判断するのは困難です。今回、放射線障害としてセシウムとヨウ素を心配する人が多々見られますが、それだけではない事を知っておくべきでしょう。そして放射線障害の観点からα線,β線,γ線を比較してみると線エネルギー付与の高いα線 > β線 > γ線の順で危険性が高くなる事も知っておいた方が良いでしょう。上に挙げました核分裂生成物は全てβ-壊変し、β線を放出します。核種の半減期(放射能)との兼ね合いもありますので一概には言えないのですが、一般に透過力の高いγ線より透過せずに物質と相互作用しやすいβ線を放出する核種の方が恐ろしいのです。核分裂生成物の化学的な毒性については無視して良いと思います。今回検出されている放射能はどんなに高く見積もっても数kBq(キロベクレル)程度だと思います。放射線の量としては気になるところかも知れませんが、我々が物質として扱う数g(グラム)のオーダーと比べてみると20桁くらい落ちる事になります。もはや化学的な物質として取り扱う事ができない水準です。
気になるところと言えば、マスコミが報道している放射線量はどのように計測したものなのか知りたいところです。上記のセシウムやヨウ素の検出に使われたのはシンチレーション検出器かGe半導体検出器だと思います。実効線量を計測するのに様々な検出器が使われますが、最も簡単なのはデジタル式のポケット線量計です。ただし、このポケット線量計は近くで携帯電話を使用すると放射線源が近くになくても数分で数十mSv(ミリシーベルト)という高い値を出力します。いわゆる電離放射線以外に携帯電話の電波も一緒に検出してしまうためだと思います。正確な値を知りたければ、蛍光ガラス線量計やOSL(optically stuimulated luminescence,光輝尽性発光)線量計のような個人線量計で測る必要があります。昔は個人線量計としてフィルムバッジというものが使われておりましたが、現在は使われておりません。上記の二種のどちらかです。個人線量計の場合、すぐに結果が出る訳ではなく、使用した線量計を回収してそこから蛍光体を取り出し、記録された放射線量を計測する仕組みとなっております。今回出てきた値がどのような検出器で計測されたものなのか、そしてそこに携帯電話等のノイズがどの程度含まれているのかがわからないと数字だけが一人歩きしてしまうような気がします。
気になるところはともかくとして、今現在の福島第一原発の状況ですが、放射線障害として確定的影響が出るレベルではないと考えられます。今のところ安心して見守っていられる状況です。不安であれば、NHKにシルクロード取材に行った職員の被曝量(推定値)と彼等の放射線障害について公表を求めれば良いと思います。実際に核実験の被害を受けて放射線障害が出てしまった人と今の状況を比較するのが一番わかりやすいでしょう。
長々と思うところを書いてきましたが、今回、排害社代表の金友隆幸氏と話をして、彼の方が私よりもずっと原子力発電の知識がある事を知りました。本当によく勉強しているなと思います。恥ずかしい話ですが、私はチェルノブイリの黒鉛減速型原子炉と我が国の軽水炉との構造上の違いが全くわかっておりませんで、上では偉そうな事を言っておきながら、実はこの程度である事を会話の中で実感しました。
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