'11/4/9
国の被ばく上限引き上げ、現場は応じず
高い放射線量下で進む福島第1原発の作業で、厚生労働省が事故後急きょ100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた作業員の被ばく線量上限を、派遣企業の多くが「現場が納得しない」などとして適用せず従来基準に従っていることが9日、共同通信の取材で分かった。
基準緩和は経済産業省などの要請によるもので、線量管理下での延べ作業時間や作業員数を増やすのが狙い。電源復旧のほか、がれき撤去や汚染水の処理など作業が拡大・長期化する中、急造の新基準の妥当性が今後議論になる可能性がある。
厚労省は引き上げ根拠について、緊急時の上限を500〜1000ミリシーベルトとした国際放射線防護委員会(ICRP)見解を参考に「医学的知見から白血球の一時的減少など健康被害が出ない上限を採用した」としている。
上限線量は原発事故などで緊急作業従事者が被ばくする実効線量の限度とされ、1999年に茨城県東海村で臨界事故が起こった後も100ミリシーベルトを維持。福島第1原発事故を受け、放射線審議会への諮問を経て3月15日に引き上げが決まった。
東京電力によると、累積の被ばく線量が100ミリシーベルトを超えた作業員は4月9日現在で21人。3月24日には「協力企業」関電工の社員と下請け会社の3人が被ばくにより負傷し、作業員を派遣する多くの企業が作業員の安全に敏感になっている。
関電工の広報担当者は「いきなり引き上げても現場の作業員に納得されない」と漏らす。負傷した3人の外部被ばく量は173〜180ミリシーベルト。「うちは慎重にならざるを得ない。安全を考え、100ミリシーベルトを維持していく」と明言した。
東電子会社の東京エネシス(東京)は「現地での管理目標値は100ミリシーベルト。実際は、余裕を持って線量管理するためさらに低く80ミリシーベルトに設定している」と説明。がれき撤去にあたるゼネコンの鹿島や大成建設も100ミリシーベルトを基準にしている。
一方、日立製作所は「200ミリシーベルトを社内規定とした」(広報担当)。東電は新基準を適用したが、4月初めにはアラーム付きの個人線量計が現場で不足し、作業員全員が線量計を持てない状況だったことが明らかになっている。