2011-03-17 大阪府への要請書
大阪府に対する要請の呼びかけ
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
このたびの東日本大震災で被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。また近しい方の安否を気遣っておられる方々には、ご無事をお祈り申し上げます。
さて、あまりにも規模の大きな震災被害に、報道もそれに総動員されている状況で、埋もれてしまっている数多くの問題があります。その一つが朝鮮学校への補助金支給問題です。間もなく学校年度が終わりを迎えようとしていますが、朝鮮学校に対する「高校無償化」制度の適用手続きは依然として「停止」のままですし、それに加え、大阪府の橋下徹知事は二つの補助金から大阪朝鮮高級学校のみを排除する「決定」を下しました。
この大阪府の暴挙に対し、大学関係者として声をあげることにしました。これは大阪府のみの問題ではありません。「高校無償化」の議論に乗じて、長年支給されてきた朝鮮学校に対する地方自治体の補助金の問題を云々しはじめ、踏み絵のような条件を朝鮮学校に突きつけたのが橋下知事であり、それが各地へと飛び火していきました。地方の補助金は朝鮮学校の財政にも少なくない比重をしめており、その支給停止は「高校無償化」制度にともなう就学支援金の「停止」にまさるともおとらぬ大きな問題です。この問題に対し、大阪府をこえて大きな抗議の声をぶつけたいと思います。
要請書をお読みいただき、賛同してくださる方は、3月27日(日)夜12時までに、下記の要領で署名してください。
【署名の要領】
下記の署名用フォームのページにアクセスし(携帯からでも可能)、必要事項を記入のうえ、送信してください。
https://ssl.form-mailer.jp/fms/a77fdec8143164
※アクセスが集中して送信できない場合は、お手数ですが、しばらく待って再度送信してみてください(1時間に50人以内しか受け付けられません。アクセス制限は1時間毎に更新されます。たとえば10時台にアクセス制限ページが表示された場合は、11:00には解除されます)。署名がうまくいかない場合や、その他ご不明の点については、次の問い合わせ先にご連絡ください。
問い合わせ先: msk_oskアットyahoogroups.jp
※今回の呼びかけは、大学教職員をはじめとする「大学関係者として」という立場からのものです。何らかのかたちで高等教育・研究の場に職を得ていれば教職員の別、常勤・非常勤・有期雇用などの別は一切問いません。もちろん国籍・居住地の別も問いません。
※署名簿は3月末に大阪府に提出予定ですが、大震災の影響が諸方面に出ていますので、署名の集まり具合によっては、第2次募集をする可能性もあります。
※最新情報や大阪府の状況についての解説等は、下記ブログにアップロードする予定です。
大阪府知事 橋下徹様
大阪府教育委員長 生野照子様
大阪府議会議長 長田義明様
大学関係者の要請書
さる3月8日、橋下徹大阪府知事は大阪朝鮮高級学校に対して、2010年度は私立外国人学校振興補助金(以下「振興補助金」)と「私立高等学校等授業料支援補助金」(以下「授業料支援補助金」)を支給しない方針を明らかにしました。私たちは、高校に直結する高等教育に携わるものの責任として、大阪府による朝鮮高級学校のみを対象とした差別的措置を黙認してはならないと考え、これに強く抗議するとともに、大阪朝鮮高級学校に補助金を速やかに支給することを要求します。
「振興補助金」は1992年度以来、大阪府が府内にある外国人学校の教育条件向上のため支給してきたものです。これは納税者である大阪府在住外国人に対する教育に関わる行政サービスとして、朝鮮初・中・高級学校、大阪中華学校、大阪インターナショナルスクールなどに支給されてきました。また大阪府は2010年度に、国の「高等学校等就学支援金制度」(以下「高校無償化制度」)と歩調を合わせ、従来の「私立高等学校等授業料軽減補助金」と「私立専修学校高等課程等生徒授業料軽減補助金」を改めて「授業料支援補助金」を発足させました。この補助金は私立高校の生徒だけでなく、元来は朝鮮高級学校の生徒も対象となっており、年収350万円未満の世帯の授業料無償化などを実施する予定でした。
ところが橋下知事は、大阪朝鮮高級学校に対してのみ、これらの補助金を支給しない措置を取ったのです。周知のように、大阪朝鮮高級学校の生徒は2010年4月に始まった国の「高校無償化制度」からも事実上、排除されている状態にあります。すなわち大阪府の公立・私立高校等に通う生徒に対しては授業料の「無償化」ないしはそれに近い経済的な就学支援が実施されているのに対し、大阪朝鮮高級学校の生徒は一切の経済支援を打ち切られることになったのです。大阪朝鮮高級学校の生徒とその保護者に対してのみ、狙い撃ち的に二重三重の不利益をもたらす大阪府のこの決定を、私たちは決して容認することはできません。
2010年3月に橋下知事が大阪朝鮮高級学校などを視察した後、大阪府は朝鮮学校に対して、金正日総書記などの肖像画を外すことや、学習指導要領に準じた教科書の使用など4つの条件を提起し、この条件をクリアしなければ振興補助金と授業料支援補助金を支給しないと明らかにしました。しかし1992年以来、さらに橋下知事就任後の過去2年間も、これらの条件は問題とされず、振興補助金が支給されてきました。そもそも各種学校として民族教育を維持してきた朝鮮学校に対して、教育の内容にも関わるこれらの条件を補助金支給の条件として突き付けること自体が不当な要求です。補助金を盾に、いわゆる「一条校」で義務化されている学習指導要領に準じた教科書を各種学校たる朝鮮学校に強要するのみならず、教室内の掲示物にまで干渉することは、行政権の濫用であり、民族教育を否定する不当な支配であるといわざるを得ません。「子どもの権利条約」には、「マイノリティーの子どもたちが自己の文化を享受する権利を否定されない」という趣旨の条項があります(第30条)。私たちは、この精神にのっとり、国や地方自治体は、在日外国人の子どもたちが、自らの文化的アイデンティティーを健やかに形成するための施策を講じる義務があると考えます。橋下知事の今回の措置は、このような国際的な合意にも逆行するものです。
20世紀の日本は朝鮮人の民族教育を弾圧してきました。植民地支配下での民族教育の監視と弾圧、日本の敗戦後に広まった朝鮮人学校の強制閉鎖措置、その後自主的に再建された朝鮮学校に対する様々な排除の政策など、日本政府は一貫して民族教育を敵視してきたのです。特に大阪府では1948年に民族学校閉鎖措置に反対する「阪神教育闘争」が起こり、それに対する弾圧の過程で16歳の少年が射殺されるという痛ましい事件が起こりました。今回の大阪府の措置は、まさにこのような民族教育に対する敵視、弾圧の歴史に連なるものであり、阪神教育闘争の時代以来、さらに遡れば朝鮮植民地支配の時代以来の、あからさまな弾圧政策であるといわざるを得ません。
在日コリアンの最大の居住地域である大阪府の動向は、府民のみならず、民族教育問題に関心をよせる日本、南北朝鮮および世界の人びとに注目されています。橋下知事の恣意的な「決定」一つで、大阪府が朝鮮学校をはじめとする外国人学校に振興補助金の支給を行ってきた歴史と意義を無に帰してよいのでしょうか。府の誤った政策が大阪のイメージを傷つけるであろうことも深く憂慮します。
私たちは、大阪朝鮮高級学校に振興補助金と授業料支援補助金を速やかに支給することを、重ねて強く要求します。
呼びかけ人(五十音順)
庵逧由香(立命館大学)、板垣竜太(同志社大学)、伊地知紀子(愛媛大学)、宇野田尚哉(大阪大学)、太田修(同志社大学)、長志珠絵(神戸大学)、河かおる(滋賀県立大学)、金尚均(龍谷大学)、駒込武(京都大学)、高龍秀(甲南大学)、酒井裕美(大阪大学)、滝沢秀樹(大阪商業大学)、蔡徳七(大阪大学)、鄭雅英(立命館大学)、冨山一郎(大阪大学)、仲尾宏(京都造形芸術大学)、中島智子(プール学院大学)、朴一(大阪市立大学)、廣岡浄進(大阪観光大学)、藤永壮(大阪産業大学)、裴光雄(大阪教育大学)、細見和之(大阪府立大学)、水野直樹(京都大学)、文京洙(立命館大学)
参考資料
大阪府はこれまで朝鮮学校も含む外国人学校とその保護者に、(1)私立外国人学校振興補助金(以下「振興補助金」)と(2)私立専修学校高等課程等生徒授業料軽減補助金(以下「授業料軽減補助金」)を支給してきました。
(1)「振興補助金」は私立外国人学校の設置者に対し、人件費・教育研究用経費等の経常的経費を補助するもので、学生1人当たり単価69,300円に、学生数を掛けた額で支給されています。朝鮮学校では大阪府内にある幼稚班と初・中・高級学校10校を対象として支給されてきました。2010年度は、朝鮮高級学校(学生数約390人)で約2700万円、幼稚班・初・中級学校(学生数約1310人)で約9100万円、合計1億1800万円が府の予算に計上されていました。
(2)「授業料軽減補助金」は、高校に相当する課程の生徒の保護者に対して、所得に応じて修学上の経済的負担を軽減するために支給されてきました。例えば生活保護世帯には年35万円、そこから年収に応じて数段階に分けられ、年収約680万円以下なら年6万円が支給されました。2009年度は朝鮮高級学校の保護者に6410万円が支給されています。一方、私立高校の場合には、この(2)に相当するものとして「私立高等学校等授業料軽減補助金」がありました。
2010年度に、国の「高等学校等就学支援金制度」(以下「高校無償化制度」)が始まったため、従来の「私立高等学校等授業料軽減補助金」と(2)の「授業料軽減補助金」(私立専修学校高等課程等生徒授業料軽減補助金)を改めて「私立高等学校等授業料支援補助金」(以下「授業料支援補助金」)を発足させ、従来よりも支給額を増額させました。2010年度予算では朝鮮高級学校の保護者に7600万円の予算が計上されていました。
なお(2)の「授業料軽減補助金」と2010年度からの「授業料支援補助金」の支給額は、私立高校、専修学校高等課程、朝鮮学校などの外国人学校に対して、すべて「生活保護世帯には年35万円」(授業料軽減補助金の場合)などとなっており、違いはありません。
これに対し、(1)「外国人学校振興補助金」の単価69,300円は、私立高校、専修学校高等課程(単価275,528円)の4分の1程度です。これまで朝鮮学校の保護者・関係者などは「同じ納税者に対する行政サービスでこれほど差別があるのは不当だ」と、この増額を求めていました。
今年3月8日の橋下発言は、朝鮮高級学校を対象とする(1)の「外国人学校振興補助金」2700万円と、(2)の「授業料軽減補助金」を受け継いだ「授業料支援補助金」7600万円の、合計1億300万円を支給しないというものです。
国の「高校無償化制度」によって大阪朝鮮高級学校の学生に支給されるべき予算は約7000万円ですが、現在支給されていません。この金額と比較しても、今回の大阪府の助成金削減が大きな悪影響を及ぼすことは明白です。
さらに、振興補助金の幼稚班・初・中級で約9100万円について、大阪府は特定の政治団体などの干渉を受けないための「ガバナンス基本方針」を3月末までに策定することなどを条件に支給するとしました。しかし3月15日現在、大阪府はこのガバナンス基本方針の内容についても承諾せず、いまだに9100万円を支給していません。
なお大阪府内の他の自治体のうち、大阪市(2650万円)、東大阪市では、それぞれ市内の朝鮮初・中級学校を対象に従来どおり2010年度も補助金が支給されていて、大阪府の対応が突出して異常なものとなっています。
記事リンク
(リンク切れの場合はご容赦ください。)
朝日新聞 2011.3.9
毎日新聞 2011.3.9
大阪府:朝鮮高級学校補助金不支給 「政治、子どもには無関係」 保護者らに戸惑い
読売新聞 2011.3.9