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東日本大震災の被災地支援のため、政治も行政も、力を尽くしている。だが、考えてもらいたい点がある。被災者一人ひとりの支えになる対策を滞りなく打てているか。そのための態勢をつくれているか、である[記事全文]
福島第一原発の事故を受け、放射性物質が検出された魚介類を食卓に載せないための仕組みが検討されている。魚については、「放射性物質は海中で薄まる」「魚の体内に入ってもある程[記事全文]
東日本大震災の被災地支援のため、政治も行政も、力を尽くしている。だが、考えてもらいたい点がある。被災者一人ひとりの支えになる対策を滞りなく打てているか。そのための態勢をつくれているか、である。
自民党の小野寺五典衆院議員は、宮城県気仙沼市に住む被災者である。国会や記者会見で、次のような話を紹介している。
ある経営者が、被災した700人の従業員を支えるため、雇用調整助成金や失業手当の受給方法について役所の担当者に相談した。すると「2千枚の書類が必要だ」「全員にハローワークに来てもらわなければならない」と言われた。そのための資料も、最寄りのハローワークも津波に流されたのに。
別の被災者は、車を買うため3時間かけて中古車店まで歩いた。だが、印鑑登録証明などが必要と言われた。証明を出す役所もなくなったのに。
先月中には、避難所で助成金や手当に関する出張相談が始まり、印鑑登録証明も不要とされた。だが小野寺氏は「すべて遅い。首相官邸に申し入れ、数日して動いている。頭が原発に向いていて、避難民の声が届いていないのではないか」という。
平時のルールにとらわれている場合ではない。なのに今の政治や行政には、非常時に臨機応変に対処する力が足りない。
押さえておかなければならないのは、被災地のニーズは刻々と移り変わることである。
食べるものにも事欠いた当初の状況は、関係者の努力によって改善されてきた。
しかし、流通が回復し、店が開けば当座の金が必要になる。
何より、いつになれば仕事を始め、日常を取り戻せるか。不安の代わりに希望を抱けるようにしなければならない。震災時に落ち着きを失わず、助け合った被災者も、長期にわたり、不安に耐え続けるのは難しい。
さらに、災害の様相も必要な支援も、地域ごとに異なる。地震に津波、原子力の複合災害のうえ、広域にわたる。一方で多くの自治体が被災し、目配りする人手が不足している。
乗り切るには、中央集権型意思決定システム、「東京目線」の発想を改める必要がある。
小野寺氏のように地元の事情に通じた与野党の議員を現地の対策本部に配置する。各省、自治体の職員も集め、権限を委ねる。それを官邸に直結させて、情報の目詰まりを防ぐ。例えばそんな態勢を組んではどうか。
被災地の状況、被災者の思いを肌で感じなければ、事態に先手を打つことはできまい。
福島第一原発の事故を受け、放射性物質が検出された魚介類を食卓に載せないための仕組みが検討されている。
魚については、「放射性物質は海中で薄まる」「魚の体内に入ってもある程度排出される」など、農産物に比べて安全だと説明されてきた。しかし、茨城県沖のイカナゴ(コウナゴ)から暫定基準値を超える放射性物質が検出された。イカナゴのような小魚を他の魚が食べる食物連鎖を通じて放射性物質が濃縮される恐れも指摘される。
一方、検査で暫定基準値を下回っていながら、千葉県産の魚介類の相場が大きく下がるなど漁業者への悪影響が広がり始めた。国民の健康を守りつつ、安全な水産物まで売れなくなる風評被害を防ぐために、検査に基づいて出荷停止・解除を重ねていく仕組みを早く作りたい。
農産物では、放射性ヨウ素やセシウムの暫定基準値をもとに、市町村単位での出荷停止・解除の仕組みがひとまず整った。魚介類でも検討が進んでいるが、課題は多い。魚は海の中を回遊して特定の漁場にとどまっていないし、漁業者が一度に複数の漁場を回ることも多いからだ。
まずは、福島第一原発の沖合での観測データをもとに、潮の流れや海底の地形なども踏まえて、汚染が心配される海域を絞り込めないか。その上で、水揚げ港での検査を対策の中心にすえることだ。
暫定基準値を超える放射性物質が検出されたところをはじめ、自治体に一定のルールで継続的な検査を義務づける。それ以外の自治体や漁協も、たとえば広く回遊する魚種については積極的に検査してほしい。漠然とした不安から消費者が買い控える事態を防ぐことにもつながるだろう。
小売業者も一翼を担えないか。検査されていない魚介類を中心に自ら調べる。安全だと判断すれば、店頭でわかりやすく説明し、被災地応援セールなどで売り込んでほしい。
政府は、魚介類だけを当面の対象としているが、ワカメなどの海藻には「放射性物質がたまりやすい」との指摘もある。放射性物質も、ヨウ素、セシウム以外にストロンチウムなどに検査対象を広げたい。
食品衛生法には放射性物質の基準がなかった。暫定基準値は、政府が文字通り暫定的に決めたものにすぎない。放射性物質が長期間漏れ続ける事態を前提に、食品安全委員会は科学的・医学的な分析に基づく基準値作りを急いでほしい。