東日本大震災に関する便乗商法や義援金詐欺の相談が、阪神・淡路大震災時の2倍のペースで国民生活センターに寄せられていることが分かった。中には誘いに応じ、実際にお金を払ってしまったケースもある。日本で観測史上最大のマグニチュード(M)9・0を観測した地震は、“便乗犯罪”の広がりもケタはずれ。善意や不安な気持ちにつけ込む、許しがたい手口とは−。
長野県警は6日、インターネットのサイトで東日本大震災の被災者を装い義援金をだまし取ったとして、詐欺の疑いで長野市の無職、岡沢克彦容疑者(39)を逮捕した。岡沢容疑者は2日、「私はイタリア系の2世で、仙台の親戚の家に遊びに行って地震の被害に遭った」とのうその書き込みを見て義援金を申し出た広島県呉市の30代女性から12万円を詐取した疑い。荒唐無稽なうそが「地震」という言葉で真実味を持ったようだ。
北陸地方に住む50代の男性も、募金活動だと思い込んで義援金を払ってしまった。
「数日前、自宅に『役所の者です。震災の義援金をお願いします』と、スーツ姿の2人組の男がやってきた。信じて5000円を渡したが、あれは本当に役所の人だったのだろうか」
市役所など公的な機関が各家庭を訪問し、募金活動を行うことはない。ほどなく義援金詐欺だと判明した。
甲信越地方の40代の女性は、被災したという水産業者から支援の意味も込め、約1万2000円のタラバガニを購入した。
「電話で『震災で被害を受けた。商品は安く出します』と勧誘され、つい買ってしまって…。ところが届いた商品の品質が悪く、驚きました」
こちらも、「被災者を助けたい」という心理につけ込んだ悪質な便乗商法だった。
国民生活センターには、11日の大地震発生直後から震災に関する相談が寄せられている。3月31日までに同センターが受けた相談件数は計3948件。地域別にみると、東京を中心とした南関東が1660件と最も多く、次いで栃木など北関東が701件、福島など東北南部が462件、北海道・東北北部で321件となっている。
1995年の阪神・淡路大震災では、地震発生の1月17日から2月28日までの43日間に4623件の相談が寄せられた。今回の震災では21日間で3948件。「阪神−」と比べ、およそ2倍のペースだ。
とくに首都圏では、便乗商法が横行している。こんな相談があった。
「年老いた母親宅の屋根瓦が地震でずれた。業者が『点検してあげる』と訪れ、2階の室内から屋根を見ただけなのに『点検料として5万円払え』と言われた」(50代男性)
■不安につけ込む悪質便乗商法も
「『震災は大丈夫ですか』と突然電話があり、勧められたペットボトル入りの水を申し込んでしまった。事業者名も連絡先も聞いていない。後で考えるとだまされたと思う」(年齢不明の男性)
国民生活センターでは「震災の被害は関東地方も大きく、水の安全性も大きな問題となった。そのため、不安な気持ちにつけ込んだ便乗商法が増えている」とみる。
義援金詐欺は、被災地から離れた地域にも広がっている。
「北海道産のカニを買えば『売上金の一部を震災の義援金にする』と電話で勧誘された」(近畿地方の40代女性)
「『貴金属の売却代金を寄付したい。貴金属を売ってほしい』という電話が頻繁にかかってくる」(北陸地方の50代女性)
埼玉県警にも「義援金の一部になる」とリンゴを売りつけようとする男や、「給湯器内に放射能がたまって危険です。給湯器の清掃をしませんか」という電話勧誘などの相談が寄せられており、県警は住民に注意を促している。
国民生活センターではこうした事態に対応するため、「震災に関する悪質商法110番」((電)0120・214・888)を開設。「不安、不審に思ったらすぐに相談していただきたい」と呼びかけている。
だまされないため、過去の事例に学ぶのも大切だ。「阪神−」のほか、新潟中越沖地震など以前の大震災ではどんな悪質商法が横行したのか。同センターに一例を挙げてもらった。
「被災地に送るため『ボランティアで布団を集めている』と訪問。布団を寄付した人に『いい布団なのでもったいない。打ち直しをした方がいい』と、高額な布団リフォームを勧誘された」
「家屋の補修費、生活費の融資に『返金保証金』を入金したが貸し出しは実行されなかった」
「震災後の住宅を訪問し、雨よけのブルーシートをかけた後に屋根工事を勧誘された。断ると高額なブルーシート代を請求された」
善意が大きければ大きいほど、それにつけ込む悪意は増殖する。被災地や復興に役立つお金の使い方を心がけたい。