4回、ゴンサレスのパンチを受け、ダウンを奪われる長谷川(右)=神戸ワールド記念ホールで(横田信哉撮影)
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◇WBC世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
(8日・神戸ワールド記念ホール)
もう一度、立ち上がれ−。長谷川穂積=真正=が4回にTKOで敗れ、WBC世界フェザー級王座の初防衛に失敗した。阪神大震災を経験している長谷川は、自分の勝利で東日本大震災の被災者を力づけるという目標がかなわず、試合後は「やるもやらないも最後は自分で決める」と進退も明らかにしなかった。だが、8500人の観客からは現役続行を望む声が続出。ファンは日本のエースに被災者の姿を重ね合わせ、再起の夢を託した。WBC世界スーパーフェザー級王者・粟生隆寛=帝拳=とWBC世界スーパーバンタム級王者・西岡利晃=帝拳=は、ともにKOで防衛に成功した。
後ろ姿が泣いていた。しかし、ガックリ肩を落とし、リングを後にする前王者の背中に温かい声援が降り注いだ。
3人の世界王者それぞれが、ガウンなどに喪章を着け、東日本大震災の犠牲者に哀悼の意を表してリングイン。粟生と西岡はKOで相手を沈めた。大トリの長谷川がKOで締めればハッピーエンドのはずだった。しかし、勝負の神様は残酷だった。
「きれいな顔でリングを降りる」。そう宣言してリングに上がった。だが、1回にゴンサレスの左フックを食らってムキになった。そして、エンディングは突然訪れた。4回、体を左に傾けた瞬間、ゴンサレスの右のロングフックをまともに食らい、後ろに吹っ飛んだ。ダメージは深かった。立ち上がったものの、ふらつく足を見て、レフェリーが試合を止めた。
「倒れた瞬間、何をもらったか分からなかった。もっとできると思ったけど、レフェリーがダメと判断したんだから、仕方ありません」
世界戦に向けて、追い込みの練習をしている最中に東日本大震災が起きた。兵庫県生まれで、阪神・淡路大震災を経験しているだけに、被災者への思いは大きい。自分の戦う姿を見せて、立ち上がろうとしている人たちに勇気と元気を送りたい−そんな気持ちでいっぱいだったが、その一方で「こんな時期にボクシングなんかしてていいのか?」と、心底悩みもした。だが、背中を押してくれたのが、ほかでもない被災者たちだった。自分のブログに「世界戦楽しみにしてます」などとコメントが寄せられたのだ。
「申し訳ない。東北の方に元気を与えられる試合を見せられなかった。ファンの声? 聞こえましたよ。でも、次やるんだったら、相当な覚悟がいる。簡単に復帰できるほど甘くない。やるかやらないは自分で決める。衰えは感じていない。自分が弱かっただけです」と、進退には微妙な発言。
1年前、モンティエルにあごを割られて世界バンタム級王座から陥落した時は、不屈の魂でよみがえった。傷だらけの日本のように、もう一度はい上がる。 (竹下陽二)
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