きょうの社説 2011年4月10日

◎大震災1カ月 地方再生の復興ビジョンを
 東日本大震災の被災地は発生から1カ月を迎えても爪痕が深く、7日の巨大な余震でさ らに死傷者が増え、大規模な停電が各地に混乱を広げた。余震におびえ、被災者は先のことを考える余裕さえないのが現実だろうが、当面の生活再建とともに、その歯車を軌道に乗せ、将来の希望を見いだすためにも復興の青写真を描いていく必要がある。

 政府は大震災1カ月となる11日に「復興構想会議」を設置する。外部の有識者に加え 、被災自治体の知事らも中心となる。阪神大震災のときに市街地再開発などを提言した「阪神・淡路復興委員会」をモデルにしている。

 この委員会は神戸など被災都市の「創造的復興」に一定の役割を果たしたが、今回は被 災地が広範囲に及び、過疎、少子高齢化に直面する農漁村が多く含まれる。第一次産業の担い手不足や医師不足も進み、被災でそれらの課題がより深刻化するおそれがある。これまでの復興計画の考え方では地域の将来像は描けないだろう。

 全国総合開発計画(全総)に代わって2008年に閣議決定された国土形成計画は、人 口や産業が東京、太平洋ベルト地帯に集中する「一極一軸」の是正が目標である。被災地復興へ向けては、この計画の理念に沿い、日本のかたちをつくり変えるくらいの大きな視点がいる。復興ビジョンを通して、他の地方の再生にもつながる道筋を描き出してほしい。

 菅直人首相は復興案の例として▽山を削って高台に住み、海岸沿いの水産業施設や漁港 に通勤する▽バイオマス(生物資源)活用の地域暖房を完備したエコタウンをつくる▽福祉都市の性格を持たせる−などを示した。災害の被害を減らす「減災社会」を目指すのは妥当な方向性としても、地域の実情とかけ離れた理想論では住民の支持は得られない。コンクリートで要塞化した防災都市を構築しても過疎の進行で住む人がいなくなっては意味がないのである。

 大津波に見舞われても、その土地に蓄積された固有の文化はそう簡単には失われない。 地域資源の何を磨き、何を次の世代に伝えるか。復興ビジョンは地域に根ざした形で議論を深めてほしい。

◎クラフトで復興支援 「創造都市」の底力で貢献
 金沢市工芸協会などは13日から東日本大震災の復興支援チャリティー工芸展を開催す る。ユネスコのクラフト(工芸)創造都市に認定されている金沢らしい芸術面からの貢献策であり、多数の来場を募って協力を呼びかけ、クラフト分野での金沢の底力を発揮したい。

 金沢市では先に、新たなクラフトの販路拡大をめざして「金沢クラフトビジネス創造機 構」が、金沢都心の複合施設「香林坊ラモーダ」内にオープンした。金沢の手仕事が生み出す新ブランドを世界に向けて発信する同機構のスタートの時期とも重なったことで、復興を願う気鋭の作家の作品が並ぶ展示の場を、クラフト創造都市を発信する弾みにもしたい。

 工芸展は「Craft for the people―工芸はひとびとのために展」 と銘打って、金沢を拠点に活動する陶芸、漆芸、染織、金工、ガラスなどの作家や、金沢美大と金沢学院大の教員、学生ら約140人が約250点を出品する。

 来場者が金沢21世紀美術館など市内の3会場を巡ると100円を募金したことになる スタンプラリーが実施され、募金は市内に避難した被災者支援に充てられるという。多くの工芸ファンの協力が得られるように、「文化市民」としての役割を果たしてもらいたい。

 震災の復興支援という性格上、緊急性の高い出品要請となるが、美術の会派や所属団体 の別なく作品が並ぶ今回の展示企画は、同時に、作家の自由な競い合いの舞台とも位置付けられよう。金沢で活動する多彩な工芸作家が、未来の工芸のあり方を見据えた意欲作を携えて、チャリティー展に結集することを期待したい。

 クラフト創造都市に認定されてやがて2年となる金沢市の金沢創造都市推進プログラム では、クラフトビジネス創造機構の活性化も柱である。芸術性の追求と売れる工芸品の開発をマッチさせることが大きな課題だが、創造機構の誕生や、復興支援の工芸展の開催などを機に、工芸関係者が社会の中での工芸の在り方を話し合う談論風発の雰囲気も作り上げたい。