地獄の館

 

 

キャラクター作成&タイタンの歴史(1) --House of Hell-- 

 

 さあ、ホラーの時間が始まるよっ出だしだけ爽やか)

 

 今回のFFは、スティーブ・ジャクソン(英)の恐怖超大作『地獄の館』だ。暗い嵐の夜、主人公の君が迷い込んだのは、人里離れたところにある奇妙な洋館。悪夢のような住人たちがお出迎えダー(T△T

 それでは主人公の能力値を決めよう。今回は現代の特別編ということで、キャラは1から作り直すことにする。ハウスルールで4d6を振り、ダイスを適切に割り振る方式だね。

 はあっ!6,6,4,2・・・!キター*・゜゚・*:....:*・゜()゚・*:.. ..:*・゜゚・*!!!!!

 思いのほか、いい出目だった。よしよし、幸先いいぞ。6はもちろん技術点に入れて・・・体力点に62今回は食料も原点回復薬もないのだ。だからヒットポイントは多めの方がいい。残った4点を運点に割り振り、初期キャラの能力値はこうなりました。

 

 【原技術点12 原体力点20 原運点10

 

 ところが!ルール説明のところにこうある。

 

 『君は「地獄の館」で冒険を始めるときには、武器を持っていません。他のFFシリーズでは、技術点は武器を持っているときの戦闘能力を示しています。ですから、冒険を始めるにあたっては、原技術点から3点ひいた点数を開始技術点にしてください』

 

 おう、なんてこったい!(>o<)

 というわけで最初の技術点は9からスタートです。武器を手に入れれば、いずれ12点マックスに到達するかもしれない、というわけか。ここ、ちょっと注意必要な。

 それから、このゲームブックの特徴として、新しい能力値である「恐怖点」がある。これは最初は0なんだけど、1d6+6で決めた数値になるとサドンデス−−恐怖によるショック死−−を起こしてしまう。って、すげえなそれ。たぶんクトゥルフのSAN値のパクリなんだろうな。

 ふむ、なるべく高くしたいこの値はぁー・・・気合を入れてエエエ・・・はああああ!4だ!!

 まあ、平均よりは高くてラッキーだけどさ・・・かあ。縁起悪いかも???(´Д) ま、そういうわけで恐怖点の到達限界は10になりました。10点溜まると即死デッドエンドです。気をつけろっ!!

 

 さて、今回の主人公は現代(といっても1984年。今から20年前だ)のイギリス人。そうだな、職業は大学生にしよう。典型的な猟奇事件巻き込まれ職業ってことでひとつ(笑)。

 でもこの技術点の高さは・・・うん、たぶん軍隊にいたんだよ() それで除隊してから学生生活を再びやり直している、って設定。専攻分野は歴史? 性格はちょっと皮肉屋だけど、やるときはやる、みたいな。こう、戦わなきゃいけないときは、ジョンブル魂見せてやるぜ!みたいな。健全な神経の持ち主。

 名前は男の子がいいね。というわけで直感で決めました。アラン・スコット。22歳の男。父親はウェールズの炭鉱夫で労働者階級出身。実家は貧乏だったけど軍隊経験で学費を稼いでから除隊。優先入学枠でよくある二流大学へ。人生経験は普通の坊ちゃんどもよりかは豊富だけど、女性にはオクテ。語り口は少し皮肉を利かせるもののユーモアのセンスアリ。友達は少なくもなく多くもない。まあ、こんな感じか。

 それでは『地獄の館』を生き抜くのだ、アラン!がんばれアラン!!(^v^)ノ

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 さてそれでは、ここでいつものタイタン世界の紹介コーナー。今回の冒険の舞台は現代なんだけど、かまわず進めちゃおう。

 前回の歴史は「最初の戦い」が終わって、神々が去り、生きるもの全てに時間という制約のもとで寿命が与えられた、というところまでだったはずだ。さてそれでは、今回紹介するのは、その後のタイタンについて。とうとう神話から歴史になったわけだ。

 

 神々が去った後、どんなことが起きたかというのは、遺跡などからの出土品に刻まれている叙事詩的な遺文から判断するしかないのだが、どうやら英雄がたくさんがんばっていたらしい。今でも吟遊詩人がよく名前を出す「グラナットのハラール王」「兄弟殺しのビレル」「白い稲妻ゼルクール」「ハーフハンド兄弟」などといった、伝説の王や戦士、魔法使いが、古代の記述の中に力強い姿を見せている。

 この当時のタイタンは、まだひとつの大陸だった。今のようにアランシアとクールと旧世界に分かれていなかったんだ。原初のひとつの大陸、これを「イリタリア」という。

 イリタリアには「一の森」という巨大な森林があって、ここでエルフたちはガラナ神と接触しながら、魔法の力を追求してきた。この頃のエルフは、今よりももっと数が多くて、活発で、力強い種族だったらしい。

 それからドワーフのハンガール・ゴールドシーカーが最初の試し掘りをイリタリア北方の山地で行ったのもこの頃だ。この試掘坑は年月を経て今も実在している。やがてドワーフの精神故郷とでも言うべき広大な地下都市ファングセインに発展していくのだ。

 人間たちはというと、放浪していた部族が狩猟に代わって農業を始め、定住して村ができ、それが町になり、小都市に発展し、最後に国家が形作られた。

 

 そして人間同士の常として、国と国の間でいさかいごとが起きてしまう。アトランティスという土地を領土としていた暴君ファラモス23は特にひどいもので、最後には神々の怒りを買い、アトランティスは突然丸ごと海の中に没された・・・と、伝えられている。

 どうしてこんな伝聞の言い方しかできないかというと、その大災害を記した書物がほとんど発見されていないからだ。だからファラモス23世がどんな悪いことをしたのか、よくわからない。確かに吟遊詩人たちは自分の創作で尾ひれをつけて、彼の残虐な振る舞いを大げさに表現して歌うが、実際はどうだったのか、知る由もない。それはあたかも人々の記憶から都合よく消されているかのように、発掘資料によって証明できないのだ・・・。

 

とある地方では、アトランティスで神々を侮辱したファラモス23世は、魔王子マイユールの変身した姿だった、という伝説もある。本当だろうか?

 

 さて、アトランティスが滅亡した余波を受け、神々の怒りにより、イリタリアも3つに分割されてしまった。これが今の三大陸、アランシアクール旧世界の始まりだ。各大陸が新しい位置に落ち着くまで、巨大な津波などの天変地異が起こり、多くの生命が失われた。

 広大な「一の森」も3つに分かれてしまったので、そこに住んでいたエルフも散り散りばらばらになった。そしてそれにより、本来はもっとも有能な力を持つはずの種族であるエルフの衰退が始まる。

 大陸分割以降、徐々にエルフ人口は減少し、その下降線は現在でも続いている。学者によると、元は「一の森」だった森林地帯が減少していくのに比例して、エルフ人口も滅亡に向かっているらしい。

 今でも西アランシアのダークウッドの森や、クールのネクロス湖周辺の大森林に、「一の森」の一部がそのまま残っている。だけどそれはかつての巨大な、大陸中に広がっていた巨大な緑樹の壁の、色あせた影にしか過ぎないのだ・・・。

 

 というわけでタイタンの歴史、今回はここまで。現代人のアラン・スコット君が無事『地獄の館』を脱出できたら、続きを話すことにしよう。

 それでは・・・って、ち、ちょっと、待った (((( ;Д)))

 

 な、なんだ、あれは?窓に手が、手が!つかみはOK?

 

 

 

暗い嵐の夜 --House of Hell-- 

 

【技術点9/12 体力点20/20 運点10/10 恐怖点0/10

 

 <1984929日 2117分 イギリス ミングルフォード近郊>

 

 暗い嵐の夜だった。

 僕はフロントガラスに激しく当たる雨の中、ヘッドライトに照らされた前方の道を必死に見ながら、車を操っていた。路面はデコボコ道。少しハンドルを切りそこなえば、その時点で大事故だ。どう見てもこれが目的地までの正しい道とは思えない。

 「くそ!」思わず罵りの言葉が口に出る。おそらく二番めの曲がり角を左だったんだ。あるいは右だったのかも。しかし過去のことはどうでもよい。

 問題は、今日中に「カリテール・レンタカー・ショップ」に到着しないと、めちゃくちゃな遅延料金を払うはめになる、ということだ。

 

 僕の名はアラン・スコット。25歳。少しトウの入った大学1年生。父はウェールズの炭鉱夫上がりで、全うに貧乏の家系。

 18歳から24歳まで海軍に所属していたが、除隊してそれなりに一時金も出たので一念発起、なんとか大学に入学して、前々からやりたかった歴史考古学の研究を始めようと思った。中世イングランドとケルト文化の相関とか、まあ、そんなもんだ。

 そして今日は新入生歓迎パーティに出て、その帰り。同級生の良家子女の方々に(ほとんどが1960年代生まれ!)に合わせようと、背伸びして礼服を着込み、レンタカー屋で高級車のトライアンフを借りてはみたが・・・ああそうさ、非常に後悔している。

 労働者生まれ−−しかも軍隊経由!−−の僕が、彼ら坊ちゃん嬢ちゃんたちと話す話題なんて限られている。全英ポロ協会の定めた国際新規格ルールなんて、どう論評できる?

 「その体、鍛えていたのかい?軍隊で?そりゃあすごい!」なんて僕をスカッシュサークルに誘う先輩にしたって、自分より年下のそばかす野郎だ。「誘わないと、自分がケチな奴に見られる」から、社交辞令で上すべりの言葉を交わしてくる。

 なんだ、大学って、こんなところか。幻滅して早めに退散してきたものの・・・

 まさかこんな嵐に巻き込まれ、しかも、道に迷うとは!!!

 

 ついてない・・・本当についてない・・・。

 僕はそう一人ごとを呟きながら、ポケットに入れていたタバコを取り出そうとする。そのとき!

 危ない!!

 突然、ヘッドライトに人間の姿が浮かび上がる。僕は必死にハンドルを左に切り、借りたトライアンフは車道を外れ、ガタガタと揺れて、荒れた側道を乗り越え・・・ドシン!

 溝に落ちた・・・僕に怪我はなかったものの・・・

 やっちまった!人身事故を起こしたにちがいない。入学1週間で謹慎、いや除籍処分を受けてしまうのか?ああ!

 天を仰いだ僕は車を降りる。轢いた相手がまだ生きていることを祈りながら。だが、雨の中でずぶ濡れ泥だらけになり、僕は呆然と立ち尽くす。

 死体はいくら捜しても見つからなかった。

 本当に誰かを轢いたのか?目の錯覚では???

 いや、そんなはずはない。衝突寸前のことはしっかり覚えている。ヘッドライトに照らされた、恐怖に怯えた白髪の老人の顔。あの苦痛に歪んだ表情は、幻覚だとでもいうのか?

 

 寒気がする。

 僕は車内に逃げ戻り、トライアンフを再始動させようと、イグニッションキーを回す。スターターは咳き込むような音を立て、しばらく唸ってから・・・止まった。

 まるで命を吹き込むかのようにハンドルを何度も揺さぶる。だが、溝に落ちた衝撃でエンジンは死んだままだ。はっきりしていることは、今夜はもう、このトライアンフはここから動かせないということ。

 どうしようもない状況だった。

 いちばん近い町のミングルフォードに自動車修理屋はあったが、通り過ぎてここまで30kmは走ってきている。

 それに「カリテール・レンタカー・ショップ」!!何とか電話で事情を話して、遅延料金を割り引いてもらえるように交渉しないと。だが近くに公衆電話も・・・ありそうもない(1984年に携帯電話など存在しない)。

 

 そのときだ。

 まるで僕の絶望に応えるように、遠くに灯がともった。

 何たる幸運!すぐ近くに家があったのだ!

 僕はもう一度車の外に出る。建物の位置はちょっと前、左手に自動車道が曲がりながら、大きな館へと続いている。ずぶ濡れにはなるものの、5分ほど歩けば、そこにたどり着けるだろう。

 他に修理屋を呼び出せる手段はない。それに、家の中の人が親切ならば、服も乾かしてくれるかもしれない。

 やはり・・・あそこに行かなくては・・・。

 僕はレンタカーのトライアンフをここに置いたまま、襟を立てて館へと向かいだした。

 稲妻が時おり光って辺りを照らすものの、僕は強い雨に負けて下を向いていたため、不吉な光景をいくつか見逃してしまった。

 館は古く−−相当に古く−−廃屋寸前だということ。窓の明かりは電灯ではなく、おそらくランプであったということ。そして・・・館には電線が引かれていなかった、ということ・・・。

 それらに気づいてさえいれば、僕はたぶん引き返していたに違いない。

 だが、もう手遅れだ。

 

 僕にとって一生忘れることのできない夜が開こうとしていた。

 

 

 

裏口での不審な会話 --House of Hell-- 

 

【技術点9/12 体力点20/20 運点10/10 恐怖点0/10

 

 雨はまだ激しく降っていたが、この玄関口まで来れば、もう大丈夫。

 僕はふと玄関のドアで立ち止まる。館の中の人は、みんな寝ているんだろうか?そう考えていたときに、ふくろうが突然遠くでホーと鳴き、背筋がゾクッとした。

 あまりよくない状況だ。ずぶ濡れで素性の知れない若者が、深夜に家の中で安眠中の人を、ノックで叩き起こそうとしている。果たして信用してもらえるだろうか?

 だけどとにかく中に入り、電話を使わせてもらわねば。意を決してドアを叩こうとしたそのとき、僕は家の左手にぼんやりとした明かりを見つけた。

 そうか、裏口だ!これほどの大きい館なら、使用人用の出入口があるはずだ。何も主人に会わなくたっていいんだ。ただ電話を借りればいいだけなんだから・・・

 僕は正面玄関を外れ、明かりを調べるために家の周囲をそっと歩いていく。裏手の窓から光が漏れており、僕はそこに近づいてみた。

 

 光が漏れている窓は、台所の裏口の側にあった。台所から声が聞こえてくるが、その姿は見えない。彼らのいる場所は僕の視界から外れているのだ。男の声だ。数は2人。興奮してなにやらしゃべっている・・・

 

1「・・・ご主人様は準備に入られた。ワクワクしてきたぞ。こんなことってなかったもんな。本当に俺たちは呼び出せるんだろうか?」

2「いや、わしは今度のことは、ちょっと疑問をもっとるんだ。あの娘は若すぎるし、ここにまったく何も知らずに来ておる。どうなるか・・・」

 

 台所をうろつき始めた彼らの姿が見えた。2人ともまるでベッドシーツを被せたような白い衣を着ている。1人は年配で、もう1人は、若い男だ。

 呼び出す?何を?それに、何も知らない若い娘・・・?

 まあ、とにかく中に入れてもらおう。僕は裏口をノックした。すると男たちはぎょっとする。「何だろう?夜中のこんな時間に誰かがノックしているぞ?もう全員集まっていると思ったのだが・・・」などと言い、ヒソヒソ言葉を交わしている。

 

アラン「あのう、怪しいものじゃないんです、ただ道に迷って車が事故に遭い、電話だけでも貸してもらえれば・・・」

 

 その不審な態度に何となく胡散臭さを感じつつも、僕は精一杯、考えられる限りの礼儀正しさで、窮状を訴えることにした。

 するとドアが開き、年配の男が顔を突き出してくる。口は笑っているが、目は笑っていない。つまりは、警戒は解いていないというわけか。

 

年配の男「ほう、それは思いもかけぬ不運ですな。執事のフランクリンズが助けてくれるかどうか・・・聞いてみましょう。ウィリアム同志、行って彼を呼んできてくれないか?」

 

 ウィリアムと呼ばれた若い男は年配の男をにらみつけたが、黙って台所を去った。

 執事を待つ間・・・気まずい沈黙が・・・台所を支配する・・・。

 ただの場つなぎのためだが、僕は彼と言葉をいくつか交わそうとする。まずは怪しいものでないことをわかってもらわないと・・・。

 

アラン「あのう、さっき、ウィリアムさんのことを同志とおっしゃいましたね」

年配の男「ああ、いや・・・」

アラン「あなたの白装束から察すると、ここは、何かの宗教団体なのでしょうか?」

年配の男「・・・まあ、そんなものです。」

アラン「いえ、実は僕、大学で歴史を専攻する予定でして、あはは。もしケルト文化について何かお詳しいのであれば・・・」

年配の男「実は、あなたは困ったときに来られた!今晩・・・」

 

 彼は不快そうに僕のムダ話を遮る。確か、彼の着ている白装束は、異教のドルイド僧に似せて作られていると思うんだけど。やはり招かれざる客になってしまいそうな・・・

 

フランクリンズ「こんばんは」

 

 このタイミングで冷ややかな声が響いた。

 声の主は、黒い燕尾服を着た執事のフランクリンズだ。僕に何か言おうとしていた年配の男は、神経質そうに口ごもり、台所の隅に退く。

 その怖れるさまを奇妙に思いながら、僕はフランクリンズに事情を説明する。だが、いかにも執事といった厳格な風情漂う彼は、無表情でおごそかにこう告げた。

 

フランクリンズ「ここではあまりお客様をお呼びしておりません」

 

 即座に僕が反論しようとすると、フランクリンズは周りをひとにらみすることで制止させる。

 ・・・???

 ああそうか。僕を門前払いしたいわけじゃなく、「普通、台所はお客様が入るところではありませんよ」というのを、遠まわしに言いたかったのか。

 まったく、これだから上流階級って・・・!

 彼の言外の意図が通じて、僕はちょっとホッとした表情を浮かべる。するとフランクリンズも台所から館の中に通じるドアを開けた。どうやらここから中に入れるようだ。

 

フランクリンズ「私どもでお助けできるかどうか、主人に伝えてまいります。どうぞこちらへ」

 

 彼は僕といっしょに台所から中を抜けて、応接室へと案内し、椅子を指差して僕を座らせるのだった。そして「伯爵にお伝えするまで、ここでお待ちください」と告げてから、主人を呼ぶために応接室を去る。

 

 ・・・伯爵だって!?

 

 

 

絵の中の貴婦人は語る --House of Hell--   

 

【技術点9/12 体力点20/20 運点10/10 恐怖点0/10

 

 これから会う伯爵様とは、いったいどんな話をしたらいいんだろう。こっちは炭鉱夫の息子だっていうのに!

 僕は緊張しつつ木彫りの椅子に腰掛け、この応接室を見回す。外見のあばら家とは全く反した豪華なタペストリーや樫材で飾られている。

 壁には多くの肖像画がかかっていたが、その中でも特に、宝石つきの冠を被った若い女性の貴婦人画が目を惹いた。もっとよく見ようと近寄ってみる。

 きれいな女性だ。絵の下の飾り板には<ダンヴァーズのマーガレット嬢 1802-1834と刻まれていた。享年32歳。なぜそんなに早く死んだのか?

 ・・・え?

 僕はもう一度絵を見直す。絵の中の彼女の唇が、動いたように見え・・・いや、確かに動いている!そして、かすかに女性の囁き声も聞こえてくる!僕は思わず絵に耳をくっつけて、悲しみに満ちた彼女の警告を聞くのだった。

 

貴婦人の絵「客人よ、この館には気をつけなさい。呪われています。私を含めて多くの者が忌むべき力に屈しました。邪なケルナー卿はもうあなたを殺そうと謀っています。白ワインを飲んではなりません。早くここから立ち去るのです。とにかく逃げて!」

 

 僕は驚いて後ずさりする。ここは何てところだ!ゾッとする古びた廃屋の中には、高価な工芸品の詰まった部屋。そして話しかける肖像画ときた!背筋に寒気が走り恐怖点+1だ。

 この館に入ったのは、間違った決断だったのか・・・?

 僕はドアに向かって走って逃げたい誘惑に駆られたものの、ここはロイヤル・ネイビー上がりの意地で踏みとどまった。この応接室から逃げ出したとしても、玄関口まで館の中をどういう経路で歩けばわからないからだ。

 それよりも主人を待ち、(できれば電話を借りた後に)丁寧にいとまごいをして、彼らに送り出してくれる方がありがたい。

 だから僕は、じっと、この応接室で待ち続けた。

 

 足音だ!

 誰かがやってくる。さっき会った長身の執事のフランクリンズだ。そしてその後から・・・紫色の喫煙服を着た、もう一人の壮年男性がこの部屋に入ってくる。

 「ドラマーの伯爵、ケルナー卿でございます」執事がおごそかに告げる。彼は僕に握手を求めてきた。彼の握力は強く、僕を見る目は刺すように鋭かった。

 さっきの絵の中の婦人の忠告を思い出す。この男が僕を殺そうと謀っている・・・?

 僕は、外見的には健康そうで礼儀正しい、40-50代のゆとりある立派な貴族のケルナー卿に、おずおずと今回のトラブルを説明しようとしたが、彼は片手を上げて押しとどめた。

 

ケルナー卿「いや、あなたがこのひどい嵐でお困りのことは聞きました。どうぞ火のそばにでもお座りになって、くつろいでください」

 

 そして僕が口を挟む間もなく、彼は執事にテキパキと指示を下す。いや、別にかまわないでくださいとも言おうとしたが、ケルナー卿はそれを無視して、僕を客間に案内するのだった。

 まいったな、すぐには退散できない雰囲気になってきた・・・。

 

 客間は赤々と暖炉の火が燃えていた。

 ここまで来て拒絶するのはかえって失礼。相手の機嫌を損ねるのはいちばん避けたい(ましてやこの主人に怪しげなところがあるなら、なおさらだ)。

 僕はコートを脱ぎ、腰を下ろす。フランクリンズがブランデーの杯2つ持ってきた。僕は彼がブランデーを飲み干すのを確認してから、自分も口をつける。暖かい空気とブランデーのおかげで、僕の身体はホッと一息つき、緊張を解くことができた。恐怖点が-1だけ戻る。

 さて、本題に入らねば。僕はもう一度、ケルナー卿に事故の状況を説明する。

 

アラン「・・・そういうわけで、自動車修理を呼びたいし、レンタカーショップにも連絡したいのです。電話を貸してもらえないでしょうか?」

ケルナー卿「ふうむ。しかし、電話線は今晩の嵐で不通になっているのですよ。明日の朝、修理させましょう」

 

 なんてこった・・・。

 僕の暗澹たる表情に気づいたケルナー卿は、努めて元気そうに、僕の肩をたたいて励ます。その態度は余裕ある上流階級の紳士そのものだ。

 

ケルナー卿「とにかく、修理工もこの時間に来てくれませんから。心配されるな。今晩はここで存分にくつろいでもらったらよい。話し相手として歓迎しますぞ。明日フランクリンズが町へ案内します」

アラン「いえ、そこまでしていただくことも・・・」

ケルナー卿(全く聞く耳持たず)「ああ、彼が戻ってきた」

フランクリンズ「お食事の用意ができましてでございます」

ケルナー卿「・・・というわけです。さあ、いっしょに夜食を摂りましょう。子羊肉はお好きですかな?それとも鴨肉の方が?」

 

 向こうの食堂から美味しそうな匂いが漂う。確かに新入生歓迎パーティは早めに退散してきたから、腹は空いている。今日はもう散々だったし、ここで美味しい料理をいただいて眠りにつき、ぐっすり休息をとりたいところだ。悪くはない考えだ。

 だけども完全に彼−−立派な貴族のケルナー卿−−のペースで事態が進んでいるのが、どうにも不気味である。彼らは、まるでこんなことは慣れているかのように。そして、あの貴婦人の絵の忠告・・・。

 僕の心の中に、違和感が、鈍い鉛の錘のように重く引っかかっているのだった。

 

 

 

ケルナー卿との会食 --House of Hell-- 

 

【技術点9/12 体力点20/20 運点10/10 恐怖点0/10

 

 食堂は鮮やかな赤い壁に囲まれており、2つの見事な椅子の真ん中に長いテーブルが伸びて、銀色に輝く食器類が並べられている。部屋にはシャンデリアからの蝋燭の光がきらめき、きわめて豪華だ。

 受験の頃、僕が毎日食べていたマクドナルドとはえらいチガイだ。カチコチになりながら僕が席に着くと、執事のフランクリンズが尋ねてきた。

 

フランクリンズ「ワインは白にいたしますか?それとも、赤を?」

アラン「あー・・・っと、肉料理だそうですので、赤ワインを」

 

 『白ワインを飲んではなりません!』僕はこのときフラッシュバックのように思い出す。あの絵の貴婦人、マーガレット嬢からの忠告を・・・。

 思わず対面のケルナー卿の顔色を確かめる。だが彼は無表情のままだ。やっぱり気のせいだよな。は、はは・・・。

 

 赤ワインはこの上もなくすばらしい味わいで、その後にスープ。そしてこれも見事な味付けの子羊の香草焼きが皿に盛られて運ばれてくる。テーブルマナーに気をつけながら、ナイフとフォークで大皿と格闘している僕に対し、伯爵はいろいろ質問してきた。

 

ケルナー卿「ほう、君は大学に入る前、軍隊に!しかも海軍!!」

アラン「ええ、まあ。十分学費を稼いだので、歴史を勉強しようかと」

ケルナー卿「それは立派だ!・・・ところで、あの、大西洋の小さな島にも?」

アラン「ええ、行きました。ほんの3ヶ月ほどですが」

 

 1982年、フォークランド諸島。

 エグゾセ・ミサイルの空気を切り裂く飛来音。着弾の衝撃で大きく傾く艦内。燃え盛る炎で黒く焦げて動かなくなった戦友。そして総員退艦のちっぽけなカッター・ボート・・・

 封印していた過去の記憶。あまり話したくない。まだ2年前だ。

 いつしか僕はナイフとフォークを動かすのを止め、下をうつむいた。

 しーんとする室内。

 ケルナー卿は僕のトラウマに気がついたか気がつかなかったのか、それとも沈黙を嫌っただけなのか、今度は自分の一族のことを話しだした。

 

 ドラマーの伯爵家。彼はその一族の最後の生き残りだ。

 彼の領地は館の回りに何kmも伸びており、小作人も多く抱え、一族は健全な収入で暮らしていた。ところが・・・

 彼の姉のマーガレット32のときに不可解な状況で死んでから、状況が変わり始める。森の空地で見つかった彼女の死体の首には、妙な印がついていたという。

 それを聞いた無知な小作人たちは、魔女と黒魔術のことを噂しあった。彼らの目には、この館が呪われた屋敷のように映り始め、農夫たちはこの領地を避けて徐々に新たな耕地に移ってしまったそうだ・・・

 ここまで話してから、ケルナー卿は「全く馬鹿らしいことだ!」と半ば軽蔑、半ば憤慨して、小作人たちの迷信深さを存分に罵るのだった。

 

 こうした話を聞いているうちに食事は終わった。執事のフランクリンズが戻ってきて、食後の果物、コーヒー、ブランデーを受け取る。美味しそうなチーズもつまもうと思ったが・・・フランクリンズは、チラッと僕の顔を見た・・・ように思えた・・・。

 やめておこう。遠慮がなさすぎると思われそうだ。ケルナー卿は「ちっ」と舌打ちしてから(なぜか?)もとの快活な口調に戻ってこう言う。

 

ケルナー卿「さて、もう疲れておいでだろう。真夜中すぎだ。フランクリンに寝室を案内させます」

フランクリンズ「どうぞ、こちらへ」

アラン「伯爵閣下、寝る場所まで提供してもらい、何とお礼を言ったらいいか・・・」

ケルナー卿「いやいやどういたしまして。有望な青年と愉快なひと時を過ごせたのは、私にとっても、すごくうれしいことです」

 

 僕は館の主人に感謝して食堂を去る。フゥー!!次の瞬間、僕は大きく息をついた。やはり貴族の方とのご会食は相当気を遣うなあ。

 案内するフランクリンズは僕を広い階段の上に導く。館の2階は張り出し廊下が伸びていて、いろんな部屋に通じていた。

 それにしても、あの美人の貴婦人の肖像画が、ケルナー卿の姉だったとは。僕は満腹感で緊張も緩み、調子に乗ってフランクリンズに話しかけてみる。

 「伯爵のお姉さまは、どのような方だったのですか?」しかし彼の返事は「さあ・・・」とだけ。執事の性格からか、会話は弾んだとはいえなかった。

 それぞれの部屋には表札が貼り付けてあり、僕は<エラスムス>と書いてある部屋に通された。最後に一言、フランクリンズが、ドアを閉めつつボソリと言う。

 

フランクリンズ「では、よい夜を」

アラン「ええ、おやすみなさい・・・」

 

 バタンと、ドアが彼によって閉められる。

 このとき、本当に全く偶然に、僕の脳裏に瞬間でひらめくことがあった。

 それは本能による危険感知というところか。客間で僕に警告を語りかけてきた、あの貴婦人の肖像画のことだ。美人のご婦人の絵の下、飾り板に刻まれていたのは・・・しっかり覚えている。

 <ダンヴァーズのマーガレット嬢 1802-1834という流麗な文字。ケルナー卿の姉である彼女が没したのが、1834年だとすれば・・・

 

 ケルナー卿は、今、何歳なんだ!?

 

 

 

疑念が確信に変わる --House of Hell-- 

 

【技術点9/12 体力点20/20 運点10/10 恐怖点0/10

 

 僕はそのこと(ケルナー卿の年齢の件)を問いただそうと、部屋を去った執事のフランクリンズを追うため、ドアを開けようとする。しかし・・・ドアには鍵がかかっていた。

 赤々と燃える暖炉の側で頭をかく。どうやらこの館の人間は、僕にうろつきまわってほしくないようだ。

 何か嫌な予感がする。そう、背筋がぞくりとする悪寒。僕は本能的に悟った。

 この館は何かがおかしい。逃げた方がいい。

 そう決心したらネルソン・タッチ(見敵必殺=やらなきゃいけないことは今スグやれ、の意)だ。僕は鍵のかかったドアノブを回し、最後はぶち破ろうと突進の体当たりをかます。

 ここで技術点チェック。成功だ。ドアは大きく揺れ、振動が部屋中に響くも、鍵は持ちこたえた。

 イタタタ。腕を痛めて体力点-2か。うーん、技術点チェックに成功してもダメか。ドアの木材が頑丈すぎるんだ、ならばどうしようか・・・

 

 そう考えていると、ゆっくりこっちに近づいてくる足音が聞こえてくる。部屋の外で止まり、ドアの鍵を開けるガチャガチャという音に変わった。素早く決断せねば!

 僕はドアの陰に潜む。ドアが開いた。入ってたのは・・・

 澄んだ液体の入ったグラスを持った、背の曲がった小男だ。足を引きずっており、歩く動作はのろい。小男は−−僕が大人しく寝ていると思っているらしく−−ベッドに向かっていく。もう少し近づけば、僕がベッドにいないことがわかるだろう。

 相手がおかしいと気づく前に!!!

 僕は奴の背後から不意打ちで飛びかかった。小男は突然の襲撃に「ひいい!」と怯えながら、めちゃくちゃに拳を振り回して応戦してくる。こうして真っ暗な部屋で戦闘が始まる。ただし僕は武器を持ってないので技術点9で戦わなくてはならない。

 

【傴僂(小男) 技術点7 体力点7

1R (小男/15)(アラン/18) 小男/体力点-2

 ガス!僕の猛烈な右フックが決まる。

2R (小男/14)(アラン/18) 小男/体力点-2

 次は蹴りだ!奴のみぞおちに僕の膝が決まった。あれ・・・ここで・・・?

 

小男「堪忍してくれじゃ!お願いじゃ!お願い・・・!!」

 

 体力点が4以下になったこの哀れな生き物は、床にひれ伏して弱々しく許しを乞う。その姿はあまりに惨めだ。僕はさすがに良心の呵責を覚え、彼を一方的に殴っていた手を引っ込めて、一歩後ろに下がる。

 もう痛い目にあわないことに安堵して、小男は命を救ってもらったお礼を何度も繰り返す。さらには「命と引き換えに何でも話しますから!」と卑屈な視線を送ってきた。

 

アラン「なら聞こう。この館で何が起こっているんだ?」

小男「何が起こっているかじゃと!お前さんは無論知っているでしょう。ここにいるのはそのためのはず。今晩、同志イサクソンがご主人様の祝福を受けるでがす。今夜は祝宴の夜でがす!」

アラン「祝宴の・・・夜・・・?」

 

 わけがわからずきょとんとしている僕の顔を見て、小男はぎょっとした表情になった。

 

小男「お前はご主人様の友人ではなかったのじゃな。何という、よく考えるべきじゃった!」

アラン「祝宴・・・夜・・・サバト・・・そうか!!」

 

 僕はここまでの奇妙な出来事を思い出す。裏口で出会った白装束の2人組。あれは宗教関係の人なんかじゃない。秘密結社の儀礼服だ。そして貴婦人の絵の警告。

 

(客人よ、この館には気をつけなさい。呪われています。私を含めて多くの者が忌むべき力に屈しました。邪なケルナー卿はもうあなたを殺そうと・・・)

 

 疑念は確信に変わった。

 

小男「わしは、このままではご主人様に罰せられる。お知らせせねば!」

アラン「・・・っ!!」

 

 小男の足を引きずりながら移動するスピードより、海軍で鍛えた僕の身体の動きの方が素早かった。ドアの方へ逃れようとした奴よりも先に、僕は部屋を飛び出して廊下に出る。そしてドアの鍵を閉めて部屋の中に小男を閉じ込めた!

 ドン!ドン!内側からドアを叩く音を僕は無視する。あいつに館の中をうろつきまわられると、僕の脱出にとって厄介だからな。放っておこう。

 

 それから僕は周囲を見回す。さあ、どうしよう?

 僕は玄関ホールを見下ろすバルコニー型の張り出し廊下に立っている。右と左、どっちに進もうか?

 何の手がかりもないわけだし、当てずっぽうに歩くしかあるまい。僕はまず右手の突き当たりのドアの方に向かうのだった。

 

 

 

花嫁の亡霊 --House of Hell-- 

 

【技術点9/12 体力点18/20 運点10/10 恐怖点0/10

 

 廊下の前方には頑丈な木のドアがある。

 ごとっ。背後で音がしたのでハッと振り返る。ふう。壁掛けが風にあおられて音を立てただけか。ビックリさせやがる・・・

 

 !!!!!!!!

 

 前に向き直った僕は飛び上がった。

 ところどころ破れた白い花嫁衣裳を着た若い女性が、長い髪をたなびかせて、ドアの向こうからすうっと浮き出てきた。身体は半分透けて向こう側が見える。そして足がない!なぜなら亡霊だからだ!

 

女の亡霊「ああ!やっとあなたを見つけられたわ」

アラン「 ・・・ ・・・ ・・・ 」(パクパク口を動かすだけ) 

女の亡霊「すぐに聞いてもらわなければならないことがあるの。さあ、部屋に来てちょうだい」

 

 そう言うと亡霊は部屋の中にすうっと消えて入った。あまりの驚愕に、僕の心臓は早鐘のようにどくどく脈打っている・・・恐怖点に+1だ・・・。

 だが、彼女が本当の亡霊で、館の住人が仕掛けたトリックでないとするなら、ワナではない、ということだ。僕は意を決して、彼女から何か少しでも手がかりを得ようと、この<アポリヨン>の間へと入っていくことに決めた。

 

 そこは優雅な寝室で、巨大なベッドと、大鏡の美しい化粧台がある。女の亡霊は部屋の真ん中に飛ぶように進むと、僕をベッドに座るよう言った。そして彼女はしゃべり出す。それはまとめるとこのようなことだ。

 

ケルナー卿はやはり邪悪な存在で、別名を<夜の黒僧>という。彼は地獄の悪魔たちに捧げる生贄を探している(それについてはたぶん、僕も標的になっている!)。

今夜、ケルナー卿と、彼を信奉して邪教を崇拝する仲間たちは、近所に住んでいた美しい乙女を捕らえ、生贄の儀式を執り行うつもりである。

こんな呪われた儀式は止めなければならないが、そうするためには、クリス・ナイフ(隕鉄の小刀)を見つけなければならない。クリス・ナイフだけが彼の弱点であり、傷つけられるのである。たぶんこの武器は・・・

 

 ここまで、彼女が話したところで・・・

 がるるるるる・・・恐ろしげな犬の唸り声が聞こえてきた・・・

 

女の亡霊「いけない、早く!見つかってしまった。番犬の声が聞こえます。行って!ここから出るのです!」

 

 彼女は悲鳴を上げてドアを指差した。何も見えない・・・いや、いる!

 これもまた亡霊だ!2匹の巨大なグレートデンの幻がすうっと室内に入り込み、女の亡霊に噛みつき、襲いかかっていく!

 彼女は格闘するが、か弱い女性の力では引き剥がせない。僕は何とか加勢しようと前に一歩踏み出すが、ムダだ。常人の僕では猛犬の亡霊に触れることすらできない。やがて彼女は牙の餌食となって・・・ズタズタに引き裂かれ・・・姿が薄れ始め・・・消えてしまった・・・。

 

 グレートデンの亡霊も仕事をやり終えて満足したのか、ともに姿を消す。 

 無音の沈黙が<アポリヨン>の間を支配する。

 どうするアラン?ここから逃げ出すか?カーテンを引き、外につながる窓を開ける。しかし、やっぱりだ。窓には頑丈な鉄格子がかかっている。外には飛び出せない。つまり退却はできないのだ。だとすれば・・・正面突破か。

 やるしかない。僕は覚悟を決めた。

 呪いの儀式をやめさせ、『地獄の館』の主人のケルナー卿をやっつける。僕が生き延びるには、悪魔の生贄にされないためには、それしかない。

 しかし、海軍で肉体を鍛えていた自信は多少あるものの・・・。

 精神が発狂せずにどこまでもつやら・・・。

 

 悪の元締めのケルナー卿、さらには館にいるだろう様々な怪物に立ち向かうとするなら、とりあえず現状の技術点-3の状態は心細い。なにか武器になるものを探そうと、僕は<アポリヨン>の間を出て、張り出し廊下をそろそろと歩く。

 角を右に曲がると、左側にドアが2つあった。最初のドアには<アザツェル>2番目の方は<メフィスト>と表札がかかっている。 

 僕は苦笑する。堕天使に悪魔か。どっちもあまり縁起の良い部屋じゃなさそうだ。そう思いつつ、とりあえず最初の<アザツェル>の間に続くドアを開けるのだった。 

 

 

 

窓に浮かぶ謎のメッセージ --House of Hell-- 

 

【技術点9/12 体力点18/20 運点10/10 恐怖点1/10

 

 僕はドアを開けて中をのぞく。誰もいなさそうだ。ほっ。

 <アザツェル>の間は、まるで初歩の化学実験室のようだ。真鍮の望遠鏡があり、壁には図表や数式表が貼られ、骸骨の標本も1体あり、木の台の上はガラスの試験器具であふれている。どれも高価そうな骨董品風で、戦前に作られた、と言ってもおかしくないくらいに古びている。

 さらに調べるため部屋の中に入り、ドアをバタンと閉めた。とたんにキィキィ鳴き声が聞こえた!ドキィン!

 ああそうか・・・檻に入れられた標本のマウスか・・・ああびっくりした・・・。

 仕切りなおしで部屋を調べ直す。僕がいちばん興味を覚えたのは、木の台の端にあった、試験管立てに入ったカラフルな液体だ。試験管は4本あり、それぞれに色の違う実験結果の液体が入っている。

 緑、赤、無色、黄色。このうちどれを飲む???

 どれかというなら、黄色かな。この液体からは、爽やかなレモンジュースの匂いがしたからだ。ビタミン剤かな?僕は試験管を傾けて中身をすする・・・実際にレモンジュースの味がする・・・毒ではなさそうだ・・・。

 何も起こらない。どういうことだ?それもそのはず、この液体は戦いのときまで関係ないからだ。ルール的には−−『黄色の液体には治癒効果があり、君の傷を治してくれる。これを飲んだ君は、戦闘で2回分の傷が直ちに治ってしまう。敵に傷を負わされても体力点を引かなくてもよい(2回まで)』−−というわけだ。

 これでちょっと生き残る確率が増えた気がする。飲んでよかった!

 

 さて、次はどこを調べようか・・・というところで、突然、足音が近づいてくる!

 僕は物影に潜む。足音はドアの前で止まった。ここに入ってくるのか?応戦体制で拳を握り締める。ドアの外で2人の話し声が聞こえた。

 「・・・だが、ご主人様の許可を得たほうがよくはないか?」「うん、そうだな。それとランプの明かりを用意した方がよさそうだ・・・」

 そしてまた、部屋の前から足音が遠ざかっていく・・・。

 ほぉーっ。僕はため息をつく。あいつら(たぶん邪教団の一員だろう)がまたここへ戻ってくる前に、出て行くほうがよさそうだ。

 僕は右側からこの部屋に入ったんだ。あの2人から離れる方向だから・・・うん、もう一度このドアから出ればいいな。

 

 僕は何かの実験室だった<アザツェル>の間を出て、今度はもう一方の<メフィスト>の間に入ろうとする、が、この部屋のドアは少しだけ開くものの、これ以上動かない。無理やり開けてみようか?

 ・・・いや、無理は禁物。ここで大きな音を立てれば、さっきの2人組が聞きつけてやってきて、面倒なことになりそうだ。

 この部屋の中は何なのか興味もあったが、残念ながら先に進むとしよう。

 

 張り出し廊下の角に、また2つドアがある。

 手前の左側のドアには<バルサス>と書かれている。正面のもうひとつのドアには、何も書かれていない。<バルサス>か・・・なんとなく嫌な名前だ。子供のとき絵本で見た、怪物がたくさん潜んでいた悪の大要塞が、確かそんな名前だった・・・。

 僕は<バルサス>の間を回避し、もうひとつの何も書かれていないドアを開ける。

 

 するとその奥は狭い通路になっていて、その先は窓で行き止まりだ。僕はその窓を調べようと、用心して近づいてみる。

 窓にかかったカーテンを引く。すると・・・ピカっ!!ゴロゴロゴロ・・・驚かせやがる。ただの雷鳴か・・・。ふうううー。

 窓の外は季節はずれの雷雨だ。これはごく普通の窓だが、外にはがっちりはまった鉄格子。半ば予想はしていたが、やはりここから館の外には、出られない。ただ雨粒がガラスを流れるだけ・・・

 いや待て?

 風が吹き、水滴は徐々にガラスの上で模様を作り始める。いや、模様じゃない。これはアルファベットだ。何かのメッセージだ!?

 こうしてガラスに描かれたメッセージは、このような文字になった。

 

 『アバッドンにモルダナが』 (Mordana In Abaddon

 

 どういう意味なんだろう?だが意味はどうあれ何かの手がかりにはなるだろう。僕は繰り返しこの文句を唱えて記憶する。脱出行の過程で、この不思議なメッセージの役立つときが必ず来るはずだ。

 

(注;これで主人公は、その場面がきたら自動的にパラグラフ88番を参照することができるようになりました)

 

 僕は通路を逆戻りして張り出し廊下に戻った。そして左回りに進む。

 少し歩くと、1階に下りる大きな階段のところに来た。階段の前には名前のないドアもある。

 

 (1)『階段を下りるか?』

 (2)『表札のない部屋に入るか?』

 (3)『張り出し廊下を歩き続けるか?』

 

 このおぞましい恐怖屋敷から出るには、階段を早く下りて1階の玄関に着きたいところだ。

 だが焦ってはいけない。そこには外とつながる出入り口なわけだから、敵の邪教の一団が待ちかまえているのは容易に予想できる。とすれば、今の丸腰(技術点-3)の状況は厳しい。代用品でいいから何らかの武器がほしいな・・・。

 僕はここで(2)を選んだ。つまり手近な部屋に忍び込み、役立ちそうな武器を探すことにするのだった。

 

 

 

歩き疲れてたどり着いた部屋は・・・ --House of Hell-- 

 

【技術点9/12 体力点18/20 運点10/10 恐怖点1/10

 

 よしっ。

 ドアを開けた僕は、思わず小さくガッツポーズをとる。ここは小さな物置部屋で、棚がいくつもあり、様々な家庭用品が置いてあった。ここならきっと役立ちそうな物があるはずだ!

 誰もいないのを確認してから、僕はガサゴソと棚をあさる。陶器、食器用具、食料・・・そんな物はどうでもいい。僕のいちばん欲しい物は・・・あった!!

 僕はついに鋭い肉きり包丁を見つけた。手にしっかりくる軍用ナイフくらいで、ちょうどよい重さ。軍隊で訓練を受けた僕にはうってつけの武器だ。以後戦闘の際、僕は技術点+3される。つまりは原技術点で戦うことができるようになった!!

 僕は満足げにその肉きり包丁をベルトにさしてから、さらに棚を探す。するとニンニクと、白い液体の入ったビンも見つかった。

 今回の戦場は何でもありの『地獄の館』だ。吸血鬼が出てきたって不思議じゃない。というわけでニンニクは持っていくことにする。

 白い液体はここで飲んでおくか?いや、やめた方がいい。僕はさっき実験室でレモンジュースみたいな防御の薬を飲んだ。飲み合わせが悪くて中毒を起こしたら危険だ・・・。体力点にもまだ余裕はあるので、こっちは放っておくことにした。

 

 物置部屋の奥には、さらに奥に通じているドアがある。だがここはひとまず、さっきの張り出し廊下に戻り、さっさと階段で1階に下りて・・・武器も手に入れたし・・・

 というところで、僕はピタっと足が止まった。

 そうだ。思い出した。

 <アポリヨン>の間で出会った若い女の亡霊は、なんて言ってたっけ?「クリス・ナイフだけがケルナー卿の弱点で、傷つけられる武器だ」とかなんとか・・・。

 その言葉を思い返してから、僕は自分の手に入れた武器を見る。これは平凡なただの肉きり包丁だ・・・隕鉄製のクリス・ナイフではない・・・。

 だとすれば、もう少しこの館を探索し、その最終兵器を手に入れられる場所を探しておかねば。

 そう僕は判断して、階段を下りずに、まだ2階を歩き回ることに決めた。

 

 しかし・・・

 

 暗い嵐の夜に、恐怖心を抑えながら、たった一人で見知らぬ館を歩き回るのは、相当の苦行難行だった。

 様々な怪奇現象で精神をすり減らしている僕は、だんだんこの広い館の中で、どこを歩いているのかわからなくなる・・・。

 張り出し廊下を右に曲がり・・・左に伸びる新しい通路・・・奥には2つのドア・・・いや、そこは入らずに・・・前方で壁板に突き当たり・・・左手の通路へ・・・

 眠気も襲ってくる中で、あてどもなくフラフラと彷徨う僕は、だんだん精神が混濁し始める。なんてったって、こんな広い邸宅で生活した経験なんてないからな!

 こうして1時間ほど歩き回る。だめだ・・・方向感覚がなくなり、意識が朦朧としてきた・・・。

 

 だけど、僕は歩き疲れた足を、ある地点でぴたっと止めた。

 そこは両側にドアが向かい合った場所だ。左側には<ベリアル>、右側には<アバッドン>という表札がかかっているのに気づいたからだ。

 アバッドン、だって!

 それはつまり、僕がさっき、窓の水滴で謎のメッセージMordana In Abaddonを受けたことと、なんか関係がある場所なのだろうか?

 僕は自分の顔をぴしゃりと叩き、意識をはっきりさせる。そして気持ちを入れ替えると、この<アバッドン>の間へ入っていくことにした。

 

 そこは蝋燭が1本だけ灯されている寝室だ。どんよりしたカビ臭さが立ち込めている。それはこの部屋の中でさまざまな場所に置いてある鉢植えのせいだ。

 ベッドの中には老婦人が眠っていた。彼女はピクリとも動かない。ドアを開けた僕に気づかないのだろうか?

 僕は老婦人を起こすためにベッドへ近づく。そして優しく揺すろうとして・・・しわだらけの肌に触れると・・・ゾッとする。石のように冷たい!

 

 この老婦人は死んでいるっ!!!(ショックで恐怖点+2

 

 僕は呆然と立ち尽くしていると「うああー、ううあああー」と低い唸り声が聞こえてきた。そう、それは老婦人の口から発する声なのだ・・・!

 まぶたがぱちぱち脈動し、白目が天井をにらんでいる。彼女の目には瞳がない!

 やがて老婦人はベッドから上半身を起こした。そして僕の方を向き、唇を動かさないまま厳しい口調で語りかけてくるのだった。

 「よそ者よ、この館の私人の寝室に、なぜ無断で立ち入るのか!」驚愕で言葉をしゃべれない僕に対して、さらに畳み掛けるように彼女は非難の言葉を浴びせる。「去れ!よそ者!この老女を安らかに眠らせよ!!!」

 

 さあ、この局面で、僕はどうすればいい?

 

 

 

彼女の名はモルダナ --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点18/20 運点10/10 恐怖点3/10

 

 この老婦人は、例え死体であるにせよ、この館での生活が長いようだ。だから何か脱出法について手がかりを知っているかもしれない。

 僕はパニックを抑えてこの部屋で留まり、彼女に食い下がることにする。だが、老婦人は「この館がお前に何の関係があるというのじゃ!」と、全く取り付く暇を与えない。

 それどころか・・・「自分から出て行かないというなら、我が犬どもに送らせよう!」と言ってのける。そして壁の木の羽目板が滑って開き、そこから2匹のグレートデン−−今度は霊体じゃなくて本物だ!−−が飛び出して襲ってきた。

 こうして僕は否応なしに番犬との戦いに巻き込まれる。順番に1匹ずつ相手にしなければならないのだ。やむをえん!僕は腰からさっき手に入れたばかりの肉きり包丁を取り出して、応戦の姿勢をとった。

 

【グレートデン1 技術点7 体力点6

【グレートデン2 技術点6 体力点6

1R (グレートデン1/14)(アラン/24) グレートデン1/体力点-2

2R (グレートデン1/17)(アラン/1ゾロ) アラン/防御薬のおかげでダメージなし

 ファンブルだっ!!・・・と思った瞬間、実験室で飲んだ薬の不思議な効果が発揮された。

 そう、僕は戦闘で2回分ダメージを受けない体になっている。助かった!!

3R (グレートデン1/14)(アラン/15) グレートデン1/体力点-2

4R (グレートデン1/10)(アラン/22) グレートデン1/体力点-2 ←Kill!!

5R (グレートデン2/12)(アラン/19) グレートデン2/体力点-2

6R (グレートデン2/10)(アラン/17) グレートデン2/体力点-2

7R (グレートデン2/12)(アラン/17) グレートデン2/体力点-2 ←Kill!!

 

 一瞬ヒヤリとしたものの、実力差は歴然としていた。

 僕は犬たちの死体を放り投げ、肉きり包丁についた血しぶきを拭いながら、老婦人に近寄る。そして英国紳士として礼儀正しく言うのだ。「もしよろしければ、この館の秘密をお教えいただけませんか?」・・・と。

 老婦人は僕の戦闘スタイルに怯みながらも脅し文句を投げつけてくる。だが威勢は明らかに弱くなっていた。

 よし、もう一押しだ!ここで僕は、彼女のベッドの回りにあった観葉植物に目をつけた。特に大事そうに育てていると思われるベンジャミン・ツリーの鉢植えを手に取る・・・その瞬間、老婦人の表情がさあっと曇った。

 

アラン「いやあ、これは立派に育てたものですねえ」(微笑みながら)

老婦人「や、やめろ、私の育てた草花に危害を加えるな!」

アラン「あ!・・・っととと!!!」(わざと床に落とそうとする)

老婦人「・・・ひい!」

アラン「いやあ、あぶないあぶない。思わず手が滑ってしまうところでした。さて、ところで・・・」

老婦人「わかったわかった。話せばいいのだろう!だから鉢植えに触るな!」

 

 そうそう。その答えが欲しかった。さて、主導権はとったものの、ここで何を聞こうか?選択肢は3つだ。

 

 (1)灰色の男(マン・イン・グレイ)はどこで見つかるか

 (2)館の秘密の部屋について

 (3)今夜の祝宴とはなにか

 

 (1)の「灰色の男」というのは重要人物のようだが、僕は彼について情報を何ら得ていないし、情報をもらってもどうすればいいかわからない。だからスルー。(3)の祝宴というのも、大体どういうものか想像はついている。ここで質問する価値はないだろう。

 よって、(2)だ。僕は彼女に秘密の部屋の場所を尋ねた。ひょっとしたらそこに最終兵器のクリス・ナイフも・・・

 しかし、老婦人は答えを出し惜しみする。「その質問に答える前に、ひとつ私の質問に答えてもらおう−−私の名前は?」と、逆に質問してきた。僕は彼女の名前を知っているだろうか?

 ・・・知っている。

 僕はあの、謎のメッセージ−−『アバッドンにモルダナが』−−を、しっかり覚えている。そう、モルダナとは女性の名前なのだ。だから冷静に答えられる。

 

アラン「もちろんです。レディ・モルダナ。さあ、私の質問にお答えいただけますね?」

 

(正解!ここでパラグラフ88番に飛ぶことができる)

 

モルダナ「ちいっ。よそ者のくせに!わかったよ、お前さんの質問に答えてやろうじゃないか」

アラン「この館に秘密の部屋はありますか?」

モルダナ「秘密の部屋?(ケタケタ笑う)いやはや、この館は謎めいた秘密の通路と秘密の部屋だらけといってもいいくらいじゃ。その中でもいちばん巧妙に作られたのは、が絶対の信頼を置いている隠し部屋じゃな」

アラン「ほほう。続けて話してください・・・?」

モルダナ「そこへの入口はひとつしかなく、地下室から上がる階段の下から通じている。入るには合言葉がいるが、私は昔のものしか知らぬ。今は変えられておるじゃろう。シーコウなら新しい合言葉も・・・」

 

 ここまで重要な情報を一気にまくし立てたところで・・・会話に疲れたのか・・・老女の目は唐突に閉じられ、ベッドに倒れて、また動かなくなった。

 「おいおい、ここまで話しといて!」と、何回も揺すってみるが、もう二度とレディ・モルダナは反応しない。老婦人モルダナは完全な死体になってしまったのだ。

 

 やむを得ず彼女の側を離れ、与えられた情報を整理してみる。

 秘密の隠し部屋は地下室から上がる階段の下にある。これは間違いない。そして、その部屋に入るには「合言葉」が必要。最新のものを知っているのはシーコウという人物のみ。隠し部屋に何があるかはわからないが、とりあえず、最重要事項として覚えておいた方がよさそうだ。

 

(注;これで主人公は、秘密の部屋が見つかる位置「地下室から上がる階段の下」へ来たときに、そのパラグラフ番号から10を引いたパラグラフに飛ぶことができます!)

 

 そこまでたどりつけるかいささか不安だが、秘密の部屋の場所はわかった。だけどそこに入るための合言葉を教えてもらわねば・・・。果たしてシーコウとは何者なんだろう?

 僕は様々な疑念を胸にしつつ<アバッドン>の間を出た。そして張り出し廊下に戻り、1階へ続く階段を下りることにする。

 

 危険だが1階も調べてみるべきだろう。僕はおそるおそる階段を下りていく。

 そして1階の玄関ホールに立って辺りを見回した。ここには進むべき入口が3つある。向かって右のドア、左のドア、そして玄関のドアだ。最短経路の玄関ドアから、さっさと館を出て行きたいところだが・・・

 絶対何かが待ちかまえているのはわかりきっている!!!

 ・・・余計な危険を犯すことはない。まずは右か左の部屋を調べるべきだ。そこで僕は、とりあえず左のドアから開けてみることにした。

 

 

 

客間に潜む火の精 --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点18/20 運点10/10 恐怖点3/10

 

 ドアを開けると、広くて居心地のよさそうな客間があった。

 暖炉では火が消えかけようとしている。暖炉の周りには椅子とガラスのテーブル、そして、テーブルの上にはグラスが2つとデカンターがあった。

 デカンターの中の飲み物は、濃い茶色の液体だ。匂いを嗅いでみる・・・ブランデーだ!今夜の夜食で飲んだときのことを覚えている。見事な年代物で素晴らしい味だった。ゆったりくつろげた僕は恐怖点が軽減されたんだ。

 今回もそれを期待してチビチビ飲んでみる。恐怖点は軽減されなかったが、やはり身体が温まり、僕は少しだけ今夜の恐怖に立ち向かう勇気が出てくる。体力点+3だ。原点まで戻った!

 さらには片隅の棚にポケットビンもあることがわかった。僕はブランデーをこのビンに移しかえて携行できる。よしよし、いつかは役に立つはずだ・・・。

 次に僕は、暖炉をもっとよく調べてみることにした。木の暖炉棚の上には見事な置時計がある。その後ろには手紙類が散らかっている。何かの手がかりになるかもしれないぞ。そう考えて僕は手紙を読んでみることにした。

 食料品の請求書だの、経営監査報告書だの、大体は当たり障りのない文書類だ。しかし1つ、外国便で届いているレターがある。館の主人のケルナー卿宛てだ。ここは腰を落ち着けて読んでみよう・・・

 発信人はプラヴィーミ伯爵という人物だ。どうやら家が何者かに襲われ、当人は危うく難を逃れたらしい。そして追伸にはこう書かれている。

 

========================================

p.s.

 おせっかいかもしれないが、君は秘密の隠れ部屋の合言葉を変えて身を守ったほうがいい。例えば、僕はそれが山羊頭だと知っている。他にも知っている連中は多いだろう。ここは良き友の親切な忠告に従って、何か別のものに変えたまえ。

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 もしケルナー卿がこの忠告に従ったならば、つまり今はパスワードが変わって、秘密の隠し部屋の合言葉は山羊頭じゃないことは確かだ。なるほど、なるほど・・・

 うなづきながら、僕は手紙を棚にあった元の場所にしまう。そして暖炉の中をもう少し調べようと屈みこむ。

 おや?中には悪魔の顔をした小さな彫刻が。しかもこれ、スライドして動くぞ。その陰に隠されているのは小さなボタンだ。これを押すべきなのだろうか?

 考えていた僕は、いつの間にやら暖炉の火が再び盛んになりはじめ、炎がおかしな形をとっていることに気づかなかった・・・。

 

 ぱちぱち、と、火の爆ぜる音。僕の太ももがヒリヒリ熱を帯びる。

 

 ・・・ ・・・ ・・・ 熱い!

 ようやく危険を察知した僕は暖炉から飛びずさる。なんと暖炉の中から、小さな人影が飛び出てきたのだ。それはなんと、おとぎ話の世界から出てきたような奇怪な怪物、火の精だ!

 こいつらは僕の膝くらいまでの高さだが、身体中が燃え上がっており、恐るべき火の勢いがある。カーペット上の空中を飛び回り、触れた物を何でも燃やしているのだ!!そしてもちろん僕も燃やしてしまおうと、ぴょんぴょんと近づいてくる。冗談じゃない!

 こんな奴らに武器は無意味だ。僕は窓際に後退する。そして何か身を守るものはないかきょろきょろ辺りを見回す・・・

 あった。

 僕は植木鉢を手にとる。火の精たちは今まさに、僕に飛びかかろうとジャンプしてきた。そのタイミングを見計らって、ええい!

 僕はカウンターで、植木鉢の中に入っていた土塊を、このこしゃくな奴らにどさあっと降りかける。

 どうだ!火は土で消えるんだ。炭鉱夫の親父がよく言っていた。「周りに水がないときに炭鉱火災がおきたら、とにかく土を降りかけろ!」ってね。土塊に覆われた火の精たちは、もがき苦しむような表情を見せて・・・たちまち消えてしまうのだった。

 ふうう、ビックリした。だけど恐怖点が加算されなかったのは何よりだ。火の精を撃退した僕は、もう一度隠されていたボタンを調べてみることにする。

 リスクはある・・・リスクはあるが・・・。ここは賭けだ。押してみよう!!

 

 かちっ。ごごごごご・・・

 

 ボタンを押すと何か噛み合う音がして、棚の横の壁板が開いた。秘密の通路だ!館の秘密を暴いた(と思い込んだ)僕は嬉々としてそこに近づく。

 あれ・・・?これは通路じゃない・・・???

 壁板は確かに動いたものの、それは通路など無関係な、絵に描かれただけの偽の戸口だった。いったいなんでこんなものが?

 決まってる。ここに近づいた者をワナに嵌めるためだ。

 つまり偽の戸口の地面には落とし穴が仕掛けてある。その上に僕はまんまと誘い込まれ、立たされたわけだ。

 

 がこんっ

 

 背筋の凍るような音とともに、僕の身体は一瞬にして地下の奈落へと呑み込まれていく。こんなボタン、押さなきゃよかった!

 

 うわあーーーーーっ!!!

 

 

 

小男シーコウとの邂逅 --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点20/20 運点10/10 恐怖点3/10

 

 僕は暗黒の中を数m落下する。じたばたと手足をばたつかせながら・・・どさっ!!

 そして、何か柔らかい堆積物の上に落ちた。ここで運試し。凶なら手首もひねって技術点-1になるところだが・・・よし、2d6の出目は6、吉だ。身体には異常はない。しかし相次ぐ恐怖とショックで恐怖点+1が加わってしまう。

 はあ、はあ・・・助かった・・・。どうやら土混じりの干し草の上に落ちたらしい。あああ、上着が泥だらけだ。もうここに捨てていくしかあるまい。僕は礼服のジャケットを脱ぎ捨て、上半身はYシャツ1枚になった。ちょっと寒いが、仕方がないか。

 さて、ここはどこだ?1階の客間から落とし穴にはまったので、ここは館の地下室であることは間違いない。部屋はかなり小さくドアが一つあるきりだ。

 ・・・っ!!

 緊張して息を呑む。

 ドアの外で足を引きずる音が聞こえた。誰かが(いや、何かが?)ここにやってくる!近づいてくる存在に不意打ちを仕掛けようと、僕は急いで壁にぴたっと身を寄せた。

 きいっ、ばたん。

 ドアがゆっくりと開く。入ってきた男は、ずんぐりしていて身体を2つに追っているような姿勢の・・・あの小男だ。僕がいちばん最初の<エラスムス>の間で叩きのめした、傴僂の小男だ!

 彼は部屋をじっと見回すと頭を掻く。明らかに音がしたのに、来てみると誰もいないのを不思議がっている様子だ。その間抜けなさまに思わず警戒心が緩む。僕は一歩踏み出して名乗り出ることにした。小男はぎょっとして僕を見る。

 

アラン「やあ、驚かせてすまない。僕はケルナー卿に招待された客人のアラン・スコットだ」

小男「・・・あんたが、館の客人?」(疑わしげなヤブにらみの目付き)

アラン「なかなか眠れなくて客間に下りていったら、なぜかこんなところに落ちてしまってね。相当酔っているのかな?もしよろしければ1階まで案内してくれないか」

小男「もちろんお助けしますとも。ええと・・・さあ、こっちへ・・・。まったく、今日は何て夜なんだろう。こんなことしとる場合じゃないのに!」

 

 小男はぶつくさ言いながら僕を案内する。そして僕らは、小さな落とし穴の部屋を抜けて通路に出た。小男は言う。「ここをまっすぐ行けば階段がございます。それを上がれば、館の1階です。わしはここで仕事がありますので、これで・・・」

 本当にそうかな?今夜の一連の出来事で、僕は何事にも相当用心深くなっていた。なので去ろうとする彼の前に立ちふさがり、呼び止めてカマをかける。

 

アラン「ところで<エラスムス>の間では、僕に飲み物を持ってきてくれてありがとう」

小男「はて、何のことやら・・・」

アラン「親切な君の名前は?」

小男「ししし、シーコウです。この地下室をねぐらにしているでがす」

 

 なんと、彼がシーコウだったのか!死の老婦人モルダナによれば、秘密の地下室への合言葉を知っている、というキーパーソンだ。これは大事に扱わないといけないぞ。

 この惨めったらしい小男は、どうやら完全に僕の顔を忘れているようだ。あんなに殴りつけられ、最後は部屋に閉じ込められたのに・・・。相当頭が悪いか、健忘症なのか・・・。待てよ、知能指数が低いなら、こういう手は効くかな???

 僕はブランデーのビンを取り出して蓋を開け、芳香を彼に嗅がせる。ひくひく、と小男の鼻が動いたのを見逃さずに、僕はすかさずバッカス(酒の神)の誘惑をかける。

 

アラン「もしよろしければお礼をしたい。館の主人のブランデーを、ちょっと失敬してきたのだが、どうかな?いける口かい??」

シーコウ「こりゃぁありがてぇ!!」

 

 シーコウは誘いにかかった!

 彼はぐいっとブランデーをあおり、ぷはあっとおいしそうに唇を舐める。2口、3口、飲み進むにつれて、明らかに彼の警戒心は解け、口が緩んでくる−−限度を超えて、想像以上に!僕はおべっかで彼の忠誠心をほめそやし、さらにいい気にさせる。

 

アラン「しかし大したもんだ。君が館の地下の管理まで任されているなんて。まさにシーコウあってのケルナー邸だな!」

シーコウ「いやあ、そんな大したことはしとらんでがす」

アラン「またまた謙遜がうまい!主人にとってもすごく大事な場所が、この地下にあるんだろう?」

シーコウ「もちろん誰もが地下室を歩き回れるというわけじゃない。いくつかの秘密のドアを抜けるには合言葉が必要じゃ。ご主人様は秘密を守るため、合言葉をいつも変えておられる。実際、ほんの昨日もあの方は・・・」

 

 よし、もう少しだ、吐いちまえ!

 僕は表面は笑顔を作りながらも、脳の中は鬼の形相で彼に付き合う。ところが・・・ブランデーは、彼の頭にとって心地よすぎたようだ。彼はろれつが回らなくなる・・・。

 

シーコウ「それをプラヴィーミから・・・」

アラン「プラヴィーミから、どんな言葉に変えたんだい?」

シーコウ「えーと・・・おお、なんじゃったかな?舌の先まで出かかってるんだが。くそっ」

アラン「慌てなくてもいいよ、シーコウ。落ち着いて思い出して!」

シーコウ「確かこの恐ろしい館そのものみたいな言葉だったのだが・・・わからん!わけがわからんようになってしもうた・・・」

 

 おいおい、そりゃあないだろう・・・。僕は頭の中で舌打ちする。この低脳男め!

 卑屈なシーコウは、そんな僕の厳しい目つきに気づいた。どうやらしゃべりすぎたことに気がついたらしい。「きっとこれはお前さんのブランデーのせいでがす・・・」とモゴモゴ言うものの、その後は僕が何を語りかけても、答えようとしなくなった。

 その代わりに、彼はとある地点まで僕を連れてきた。まっすぐ伸びる通路の左右の壁にドアがある。そこで彼は左側の壁にあるドアに向き、「ここにお前さんのお仲間がいらっしゃるでがす」と指差す。どうやらここが1階への道順らしい。

 そしてシーコウは僕から離れて、すたすたと歩き、姿を消してしまった・・・くそっ!

 秘密の隠し部屋への合言葉の取っ掛かりはわかった。しかし彼は、合言葉そのものズバリは教えてくれなかった。僕の胸に少し悔いが残る。これが後々で厄介なことにならなければいいのだが・・・

 

 僕は周りをよく調べてから、左の壁にあるドアを開けようとする。

 そのとき、ドア越しに部屋の中から荒々しい唸り声が聞こえてきて、ギクッとドアノブを回す手を止める。なんだなんだ?

 

 オーオーオー オーアオオー オーオーオー ・・・ ・・・ ・・・ !!! 

 

 トランス状態に陥っている男たちの声、声、声・・・。

 民俗学の講座でカセットテープを聞いたことがあるぞ。これは唸り声じゃない。未開の原住民が上げるような宗教的な詠唱だ・・・とすると、ドアの向こうで行われているのは・・・暗黒儀式!ケルナー卿率いる邪教集団が、何かを為そうとしているのだろうか。

 どうするアラン?狂ったような雄叫びを上げている群集の中に足を踏み入れるのか?

 いや、それは自殺行為。彼らの生贄になるのはまっぴらだ。だから僕は、ここから離れるように、逆の反対側の右のドアを開けるのだった。

 

 

 

地下牢と拷問部屋 --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点20/20 運点9/10 恐怖点4/10

 

 こっちのドアを開けた僕は、激しく後悔した。まだあっちの変な儀式をやっている部屋の方がマシだったかもしれない。

 ここは捕らえた者を繋いでおく地下牢だったのだ。片側の壁に沿って鉄格子が並び、小部屋が4つある。囚人は全部で3(牢の1つは空だ。僕が入る予定の場所なのか?)。僕を見つけると、ただちに彼らは跳び起きた。全員ひどい身なりをしている・・・服はボロボロ・・・髪は乱れて薄汚れ・・・牢の床は糞尿の嫌な臭いがする・・・。ひどい、ひどすぎる。僕は思わず顔をしかめた。

 みなケルナー卿の邪悪な目的のために、ここに閉じ込められているのだ。

 僕は彼らを解放しようと、さっそく鉄格子を開ける手段を探す。だが、この鉄格子はあまりにも頑丈だ。できることは少ない。やむを得ず囚人たちを言葉で励ましてみることにした。

 囚人は3人いて、「出してお願い!」とひたすら助けを求めるかわいい娘。「今すぐ殺せ!」と勇敢にも死を覚悟した若い男。そして、いちばん年配で瞑目している、灰色の衣を着たはげ頭の男だ。

 僕は最後の灰色衣の男に話しかけてみる。3人の中で、未だ彼の表情は狂気に侵されていないと感じたからだ。男は低い声で呟く。その声は理性と知性に満ちていた・・・

 

灰色衣の男「ここで時間を無駄にするな」

アラン「しかし!君たちを放っておけないよ!!」

灰色衣の男「お前には我々を助けられぬ。唯一の望みは、我々が殺される前に、お前がこの館の邪悪な存在を倒すことだ。しかしそれは無理かもしれぬ。まず主(あるじ)を倒さねばならぬからな」

アラン「?つまりそれは、ケルナー卿のことか?」

 

 灰色衣の男は、ゆっくりと首を横に振った。違う。しかし、その名は絶対にここでは言えない。といった表情だ。

 

灰色衣の男「奴はクリス・ナイフでしか倒せぬし、闘いは赤い部屋でしか許されない−−地獄での戦いを象徴してるってわけだ」

アラン「赤い・・・部屋・・・あ!」(今まで通った部屋を思い出す)

灰色衣の男(うなずきながら)「そう、1階の食堂は赤い壁をしているが、いつもカギがかかっているし、そこのカギは儀式が行われる間、鏡の後ろに隠されている。もしお前がクリス・ナイフとカギを見つけることができれば・・・」

 

 僕と灰色衣の男は、二人同時にうなづいた!それが唯一の希望!!

 そう、隠されたカギで赤い部屋(食堂)に入り、をクリス・ナイフで倒せば、この館に潜む様々な恐怖から逃げきれるかもしれない。だが、時間はあまりにも少なく、道のりはあまりにも遠く、生身の人間である僕は、あまりにも非力だ・・・

 

灰色衣の男「我々はたぶん夜が明ける前に殺される。だけどお前は・・・時間を無駄にするな。だから早く行け。早くここから去れ!」

 

 彼の言うとおりだ。とりあえず僕に彼らを助ける手段は何もない。牢を開けるカギはここにはなく、誰かが持っていてしまったのだろう。このまま時間をかけてうろうろしていても、僕がいずれ邪教集団に見つかるだけだ。

 だから僕は、恥ずかしいけれど・・・黙って後ずさりし・・・地下牢を立ち去って元の通路に戻るしかなかった・・・すまない。何の力にもなれない。ごめん!

 僕が去っていくのを見て、背後で灰色衣の男以外の囚人、かわいい娘と若い男が、恨みと呪いと絶望の呻きを吐く。娘に至っては、完全に精神が崩壊してしまったようだ。

 

娘「みんな死ぬわ!私も、あなたも、みんな死ぬわ!うふ、うふふ、グフフフフっ!!」

 

 涎まじりの狂った哄笑を浴びつつ、僕は通路に戻り、ばたんと地下牢のドアを閉めた。

 そして大きくフーッとため息をつき、沈鬱した精神を切り替える。気合を入れて顔を両手でバンバンと叩く。こんなことはやめさせねば!絶対にゆるせない!!ケルナー卿め!!!・・・僕はそう固く決意すると、通路の先をずんずんと歩いていくのだった。

 

 通路を進んでいくと右側にまたひとつドアがある。

 僕はここを調べようとして近寄った。するとスムーズにドアが開き、まるでドアの前にいた僕を待ちかまえていたかのように、部屋の中から何者かに腕をむんずっと掴まれる!

 うわわっ!!こうして僕は強制的に部屋の中に連れ込まれた。ここはいったいどんなところなんだ?

 天井から吊り下がった2つの鉄製の檻、部屋の真ん中には伸張台、そして片隅に立てかけてあるのは−−魔女狩りの本で見たことがあるぞ。だが実物は初めてだ−−半開きの鉄の処女だ!背筋に冷たいものが走る。ここは拷問部屋なのだ!!

 僕の身体を羽交い絞めに押えつけているのは、屈強な身体を持った2人の拷問吏の下働き。黒い覆面と下半身のトランクス以外何も身につけていない。軍隊で鍛えた僕の筋肉以上のパワー。だめだ振り解けない。まるでこいつら、万力だ!!

 そして目の前に現れたのは、彼らのリーダーである中年男の拷問吏だ。がっしりとした肩幅で力強い二の腕を持ち、革の前垂れをつけ、左眼には眼帯をしている。醜いダミ声で彼は怒鳴り、ムチを振って地面に叩きつけた。

 

拷問吏「おい!我が住まいに侵入してくるとは、どこのどいつだ!!」

アラン「 ・・・ ・・・ ・・・ ぐっ!!」(完全に関節を決められ、痛みで言葉が出ない)

拷問吏「おい、しゃべらんか!舌をなくしてしまったのか?」

 

 男は僕の髪の毛を掴み、むりやり自分に顔を向けさせる。至近距離で見たサディスティックな表情は、かつて僕を鍛えた海軍の鬼教官そっくりだ。だが、彼と違うところは、こいつは本気で僕を殺すか、廃人にしようとしている!

 ここは慎重に言葉を選んで答えたいが、関節をギリギリ締め付けられる僕は、歯の間から小さな声を絞り出すのがやっとだ・・・

 

アラン「くっ、怪しい者じゃない・・・ケルナー卿に招待された客だ・・・」

拷問吏「ご主人様の友人だと?」(馬鹿にしたように)

アラン「ああ・・・そうだ・・・だから、放せ、この、腕を!」

拷問吏「お前などは見たこともないし、俺はご主人の友人なら、みんな知っているんだぞ!」(ムチで叩く!)

アラン「ぐはっ!僕は新しい友達だ。だからこそ、この館で、迷っているんじゃないか!」

拷問吏「む・・・?」

アラン「ケルナー卿に言いつけてやるぞっ!!」

 

 人を苛めるために生まれてきたような拷問吏は、僕の弁解に一瞬迷いの表情を見せた。もし本当に彼の言うとおりだったら?というところか。主人の同朋に危害を加えるリスクは、どうやら冒したくないらしい。

 拷問吏は僕を捕らえたまま、部屋の中をウロウロして、考えをまとめている・・・。そして何か思いついたようだ。「では、こうしよう」と言い、歯の23本抜けた口を見せ、僕に向かってニタアッと笑う。そして指をパチンと鳴らす。それが合図だった。

 いきなり僕は下働きの筋肉男どもに引きずられ、伸張台に寝かせつけられる!やめろ!放せ!じたばたするも何もできない。僕の手足に革バンドが装着され、あっという間に動きが縛られた。これからどうなる?拷問を受けるのか?絶体絶命だ!!

 拷問吏が僕の顔に近づき、臭い息を吹きかけながら、僕にこう告げた。

 

拷問吏「俺はまだ信用していない。だからチャンスをやろう。俺がお前をご主人の友人だと納得できたら放免だ。そのためには、まず、ちょっとしたテストに答えてもらおう!」

 

 

 

苦痛のテスト --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点20/20 運点9/10 恐怖点4/10

 

 伸張台ってのは、要するに、山折りになる木のテーブルで、台の上に犠牲者が縛り付けられる。で、テーブルの脇にあるハンドルをぐるりと回せば山折りの角度が厳しくなり、犠牲者は鯖折りになって背骨が痛めつけられる。最悪の場合、肩や股関節の可動範囲を超えて脱臼することもありえる拷問器具だ。え?どうしてこんなに詳しいかって?

 だって僕は、実際にこの上で拘束されたからな!

 拷問吏が出している指示を聞き取ると、僕を拘束している下働きの黒マスク2人組は、どうやらオーヴィルダークという名前らしい。そして拷問吏は−−それ以上でもそれ以下でもない、ただ単に純粋なる拷問吏だ。僕は彼の名前など知りたくもない。

 伸張台に寝かせられた僕に対し、拷問吏は誇らしげにテストの内容を告げた。

 

拷問吏「お前がご主人を本当に知っているかどうか、試してやる。ここにいるオーヴィルが50音のある行を言う。その行にある音(ア行ならア、イ、ウ、エ、オのどれか)が頭文字の、真っ先に思いつく言葉を1つ言ってみろ。答えるのに時間がかかるようだと、ダークがこの器具を締め上げる。いいな?」

アラン「どうせよくなくっても、始めるんだろう・・・。いてて、もう少し緩く縛れ!!」

ダーク「拷問吏さま、準備できましただー」

拷問吏「よし、では、始めるぞ!!」(景気づけにムチをピシッと振り下ろす)

 

 こうして大いなる苦痛のテストが始まった。

 僕は拷問吏の手下が告げる行音を最初に使って、この館に関係する言葉を言わねばならない(カタカナ名前が中心)。その言葉が主人のケルナー卿に近ければ近いほど、彼らは僕がケルナー卿の友人だと信じてくれるだろう。しかし背骨にギリギリと響く痛みが、僕の思考を集中させてくれない。どこまで思いつけるか。くうう!!

 

オーヴィル「んー。まずはダ行だ。ダ、ヂ、ヅ、デ、ド。だど」

アラン「ダ、ダ、ダ・・・」(思い出せない)

ダーク「だめだあ。ほんじゃあ、罰を与えるどー」(ぐいっとハンドルを回す)

アラン「・・・ーーーーっ!!!!」(声にならない叫び、苦痛で体力点-1

拷問吏「ぐはははは!愉快愉快!次だ、オーヴィル!!」

オーヴィル「ア行。んにゃ、これは多いな。じゃあ、アのつく言葉だ」

アラン「ア、アー・・・アポリヨンの間!」

拷問吏「ほほう?さあ、オーヴィル、どんどん出せ!」

オーヴィル「カ行で、どうだぁ?」

アラン「か、き、く・・・け、ケ!ケルナー卿!」

拷問吏「む。次は何にする、オーヴィル?」

オーヴィル「えーと、マ行。マミムメモだぁ!」

アラン「モルダナ!」

オーヴィル「続いて、サ行はどうだア?」

アラン「さ・・・し・・・す・・・ええっと・・・」(思い出せない)

拷問吏「ダーク、貴様の出番だ!」

ダーク「ぐふーふふふうう!」(また、ぐいっとハンドルを回す)

アラン「・・・ぐあーっ!!!」(涙目になるほどの苦痛で体力点-1

オーヴィル&ダーク「ぐふぐふ、痛そうだ。痛がってる。うひゃっほう!」

拷問吏「よーっし、そこまでだ、オーヴィル!!」

 

 こうしてテストは終わった。5つの設問のうち3つしか思い出せなかったが・・・。僕は亀のようにを首を伸ばして、彼らの表情を探る。判定結果はどうなったのか?拷問吏とオーヴィルとダークは、なにやらひそひそと話している。

 やがてオーヴィルとダークは、伸張台に寝かせられた僕に寄ってきて、拘束していた手足の縛りを解いた!

 と、いうことは・・・合格???

 どうやら彼らは、僕はケルナー卿の友人だという嘘の弁解を信じたらしい。拷問吏がなにやらバツの悪そうな顔で、頭をポリポリと掻く。 

 せっかくだからもう少し騙し続けてやろう。クソッタレどもが!!伸張台からゆっくり立ち上がった僕は、拷問吏の顔に唾を吐く。

 

拷問吏「こ、これは失礼を・・・。あなた様がご主人の友人とは、つゆ知りませんで・・・」

アラン「この侮辱は忘れないぞ!」

拷問吏「な、何か償いでも・・・外の道をお聞きでしたね?」

アラン「いらん!自分でケルナー卿を探す!そして君たちに厳罰を下すよう、お願いするつもりだ!」

 

 どうせ奴らの知っている経路なんて、あの暗黒儀式の部屋に戻る道筋が関の山だ。だから教えられることもない。そう考えた僕は、奴らを腹立ち紛れに脅してやることにする。

 案の定、ケルナー卿が下す罰という言葉を聞いて、3人は震え上がった!

 

拷問吏「そ、それだけはご勘弁を!!」

オーヴィル「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさあい!」

ダーク「いやですうー。お仕置きは、俺、いやだあ!」

アラン「今度は君らが伸張台に載せられる番だ。覚悟しておけよ!」(バタン、とドアを閉める)

 

 言葉を吐き捨てて僕は拷問部屋を去った。部屋の中からは「だから俺は反対だったんだ!」などと怒鳴りながら、拷問吏が責任転嫁して下男2人をムチで八つ当たりしているのが聞こえる。

 ははっ、いい気味だ。少しの間だが怯えているがいいさ!この凄惨な夜に、ちょっとだけ胸がスッとした僕は、気分を高揚させて通路を先に歩き続ける。

 もうそろそろ1階に上る階段が、出てきてもいい頃だが・・・。

 

 

 

合言葉はMURDER(殺人) --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点18/20 運点9/10 恐怖点4/10

 

 通路が広くなり、小さな部屋になった。暗いながらも数m先、地上1階への階段が見える。よし!これでこの陰鬱な地下からは、おさらばだ!!

 僕は喜んで前に一歩踏み出す。ところがここで・・・キィキィキィ・・・何の音だ?さえずるような声が上から・・・ピシャ!うわ!何かが僕の頭を引っかいた!

 僕は反射的に肉きり包丁を振り回し、その飛来物を叩き落す。小さな革に包まれた物のような手応えがした。床に落ちたそれはピクピクと羽根を動かしている・・・コウモリだ!そう、コウモリだ。キイキイキイ・・・まだ泣き声が・・・す・・・る・・・!?

 見上げると、部屋の天井にびっしりとコウモリがっ!ひいい!!(恐怖点+1

 奴らは僕を音波で認めると、100匹ほどの大群でいっせいに襲いかかってくる!

 

 キイキイキイ  キイキイキイ  キイキイキイ  キイキイキイ ・・・ !!!

 

 うわあー!僕はパニックになって肉きり包丁を振り回すも、いかんせん数が多い!奴らは空を飛ぶネズミみたいなもので、僕の顔や腕、足首など、服で防護されていないむき出しの肉の部分が爪や牙で引っかかれ、無数のミミズばれが作られていく。

 こりゃあ、だめだ!撤退だ!!

 僕は階段を上ることをいったんあきらめ、階段の下にある三角コーナーに避難する。そして両手で頭を守り、ただ座って縮こまるのだった。

 立っている姿勢と違って全方位から襲われないから、これ以上コウモリに噛みつかれる心配はないが・・・さて、これからどうしたらいい?

 一気にダッシュで階段を駆け上がろうか・・・。僕がそう考えたとき・・・。

 

 !!!!!

 

 フラッシュライトのように、ある記憶が呼び覚まされた。老婦人モルダナの最後の一言だ。

 

『・・・そこへの入口はひとつしかなく、地下室から上がる階段の下から通じている。入るには合言葉がいるが、私は昔のものしか知らぬ。今は変えられておるじゃろう。シーコウなら新しい合言葉も・・・』

 

 地下室から上がる階段の下!そうか、ここが! 

 

(このパラグラフから10引いた番号のパラグラフに飛びます。すると・・・)

 

 僕は手近のレンガ壁をコツコツと叩く。やはり!反響を調べると中空の部分があるのがわかる。指でなぞると、おおよそ小さなドアの形となった。

 向こうに秘密の隠し部屋がある。だがここに入るには・・・合言葉が必要なんだ・・・それを知っているはずのシーコウは?あの小男のシーコウは、なんて言ってたっけ・・・ええっと!

 さあ時間がないぞ。隠し部屋に入る合言葉は何か?ここでの選択肢は4つだ!

 

1)プラヴィーミ

2)山羊頭

3)殺人

4)クリス・ナイフ

 

 ・・・落ち着けアラン、よく考えろ。ここが勝敗の結節点だ。

 合言葉は主人のケルナー卿によって、ちょくちょく変えられている。プラヴィーミまたは山羊頭だったときもあったが、今はもう変更されて、これらではない。だとしたら現在の合言葉は(3)か(4)だ。どっちだ?

 上空で飛び回るコウモリのキイキイ声の中、僕は必死で思い出す。そう、ブランデーに酔っ払いながら、合言葉を知っているシーコウは−−そのものズバリは教えてくれなかったが−−「(合言葉は)確かこの恐ろしい館そのものみたいな言葉だったのだが・・・」と言っていたんだ。間違いない。確かに言っていた。

 と、すると・・・

 僕は秘密のドアの前に立ち、ゆっくりと、次の言葉を告げた。

 

アラン「殺人(MURDER)」

                      ・・・

                          ・・・

                              ・・・ ぎぎいっ

 

 レンガがきしみ、埃が舞い上がって、壁は動き始める。

 ゆっくりと秘密のドアが動き出し・・・???ところが意外なことに、ドアは僕の見つけた隙間の面積の片側半分しか開かなかった。残り半分のスペースは囮だったか、それとも、間違えた答えを発したときの罠の部分だったんだろうな・・・いや待て。

 ひょっとしたら僕の答えは間違いで、こっちの方が罠?それもありえる話だ!

 僕はこの場で考え込む。

 秘密のドアの向こうには小部屋があった。その真ん中にテーブルがあり、テーブルの上には、まるで僕の好奇心を煽るかのように、が置いてある。もしこれが罠ならば、地獄が手招きしているような光景だ・・・

 小部屋の中に入って箱の中を見るか?それとも無視して、階段を上ってしまう方がいいのか??

 

 ・・・よし!

 僕は決心した。これは賭けだ。根拠はない。根拠はないが、これだけ合言葉を厳重に管理しているのならば、あそこには大事なものがあるに違いない!

 そう信じて僕はこの小部屋の中に足を踏み入れる。辺りを見回しつつ慎重にテーブルへ歩み寄っていく・・・。

 テーブルの上の箱はしっかりした木製の長方形で、真鍮の止め具がついている。決闘用ピストルが収められているような年代物だが、カギはかかっていない。

 僕は心臓をドクドク響かせながら、カパッとその蓋を開けた。

 すると・・・!!

 

 

 

クリス・ナイフを手に入れる --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点18/20 運点9/10 恐怖点5/10

 

 箱を空けたその瞬間、僕の目は輝く。

 賭けに勝った!

 中に敷いてある赤いビロードの上に、真珠の柄の短剣が横たわっている。銀の刀身は波打っていたが、見事に磨き上げられ、剃刀のように鋭い。蓋の裏側にはこのような銘文が彫ってあった。

 

========================================

* * * クリス・ナイフ * * *

 わが真のである地獄の悪魔たちを慶び、その栄光を讃えて作られたる刃。伝授者にのみ使われるべし。ただしあるときは、それを用いるべからず。

========================================

 

 畏怖の念が心に沸き起こる。これこそがクリス・ナイフ!!

 見事な短剣を手にした僕は、丁寧にそれを点検しつつ、23回、ヒュンヒュンと振り回す。海軍の白兵戦闘訓練を思い出すなあ。それからポケットに滑り込ませた。この僥倖によって運点に+3される。原運点は10なのでそこからは上がらないが、こいつがどれだけ大事なアイテムか、わかろうというものだ。

 さあ、最終兵器は手に入れたんだ。ここで閉じ込められてはたまらない。

 僕は隠し部屋を急いで出て、コウモリから身を守りつつ、ダダダッと1階への階段を駆け上る。

 

 階段の上にあるドアを開け、1階に出た。まだ雨は降っているようだ。

 正面にドア、そして通路が行き止まりになる右手にもドアがあった。さらに行こうと思えば、左に曲がって玄関ホールにまで行ける。

 さあ、今度は、灰色衣の男からの助言によると、僕は赤い部屋−−すなわち食堂−−に行き着く必要がある。あのおいしい子羊料理を食べた場所だ。しかしそこに入るには、どこかに隠されたカギ(またそのパターンか!)を手に入れなければならないのだ。

 とすれば、近くにあるドアから片っ端に開けて、部屋の中を調べてみよう。そういうことで僕は正面のドアを開ける。

 

 その部屋は接客室だった。

 テーブルと椅子が6つある。それから一方の壁に広がるのは、田園を描いた巨大な壁画だ。おそらくドラマーの荘園がまだ平穏だった頃の風景だろう・・・。

 そして、向かい側の壁には大きな鏡がある。壁画を鑑賞した僕は、振り返って、その鏡の方を向いたのだが・・・ええっ!?

 僕は目を見開く。確かに、僕の姿が、鏡に映っていないのだ!

 鏡におそるおそる近づく。後ろのテーブルや椅子はハッキリ映っているのに、僕の姿だけが見えない!まさか・・・もう、僕は死んで・・・いやばかな、そんなはずはないさ。ふ、はは・・・

 忍び寄る不安を打ち消すために僕は作り笑いを浮かべる。この薄気味悪さに恐怖点+1(とうとう過半数突破。あと4点で僕は発狂してしまうだろう!)。

 とにかく、こいつは悪趣味なトリックに違いない。僕はもっとよく調べようと、鏡の表面を触る。すうっ・・・手が、ガラスの中を突き抜けた!

 慌てて僕は手を引っ込める。そして、どうにも気持ち悪いこの鏡はとりあえず放っておいて、接客室の中で他に何か見つからないか、もう少し調査してみることにしたのだった。

 すると、テーブルの下にが見つかった。ただの空箱のようだが?

 いや違う、箱の下に小さな突起がある。これは隠し底になっているぞ。そこを開いてみると中に革の小袋が入っていて・・・待て!あの音は何だ?

 

 カツ、コツ、カツ、コツ・・・

 

 ドアの外で靴音が響く。この部屋に入ろうとしている。早く隠れないと!

 僕は革の袋をつかんで潜伏場所を探す。得体の知れない鏡の中を通り抜けるのは危険だ。よし、カーテンの後ろに隠れよう!

 がちゃ。ドアが開いた。入ってきたのは2人組の男。厚手のカーテンが邪魔で姿は見えないが、山羊の頭が重いとか、僧侶はインチキ説法だとか毒づいている。どうやら邪教団の一味、手下クラスの下っ端だ。

 彼らはテーブルに近寄っていく・・・かちっと音がした。そして怒りの叫び!

 

手下1「おい、ここにあった革袋は!?」

手下2「くそ!誰かに盗まれちまってる。まずいぞ、非常にまずい!」

手下1「早く探せ、たぶんあの若造、アラン・スコットとかいう小便たれの仕業に違いない!」

手下2「奴ならまだ近くにいるはず・・・おい待て、あそこ・・・!!??」

 

 うっ。背筋に冷や汗が伝う。

 カーテンは寸詰まりだったのだ。僕の足首まで、奴らの視線に晒されていた!

 ・・・じり、じり、と2人組が無言で近づいてくるのが気配でわかる。

 もし彼らに捕まったら容易に想像がつく。地下牢の最後の部屋に押し込まれ、死ぬまでケルナー卿の慰み者だ。または、拷問吏を騙したツケを手ひどく支払わされるか・・・。そうならないために、闘いは避けられないな。やむをえん!

 僕は肉きり包丁を密かに利き手に持つ。さっき手に入れたばかりのクリス・ナイフを使ってみようとも思ったが、生身の人間相手なら、殺傷力はこっちの方が高い・・・はずだ・・・。

 焦るな。海軍の訓練どおりにやればいい。相手を人間だと思うな、藁くず詰めたカカシだと思うんだ。勝負は一瞬・・・生き残りたければ・・・いくぞ!!!

 がばっ!カーテンがひるがえる。

 髪をかきむしって猛り狂った邪教団の男どもがそこにいる。瞬間、僕の視界が真っ赤になった。

 

手下1「見つけたぞ、この、こそ泥!」

手下2「おい!気をつけ・・・こいつ武器を・・・!!!」

アラン「ゴーゥ・トーゥ・ヘーーール!!!!!」

 

 僕は奴らの機先を制し、白兵戦闘態勢で跳びかかっていった!!

 

 

 

邪教団員2名を・・・屠殺!! --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点18/20 運点10/10 恐怖点6/10

 

 僕は肉きり包丁で邪教団員の手下2人に斬りかかる。

 追い詰めた逃亡者が、まさかこんな凶器を持っているとは思っていなかったに違いない。手下たちは恐慌を起こして逃走しようとするが・・・逃がさん!海軍で身体を鍛えていた僕の方が、弱い者苛めをしていた奴らより、動きは早い!!

 

【手下1 技術点7 体力点8

【手下2 技術点8 体力点9

1R (手下1/13)(アラン/15) 手下1/体力点-2

 どすっ!

2R (手下1/13)(アラン/17) 手下1/体力点-2

 ぐさあっ!

3R (手下1/15)(アラン/19) 手下1/体力点-2

 やめろ!助けてくれ!!という手下1の悲鳴。

4R (手下1/10)(アラン/18) 手下1/体力点-2 ←Kill!!

 そして「ぎゃあーーーーーー!!!」断末魔の叫び。

5R (手下2/13)(アラン/23) 手下2/体力点-2

 あわあわと逃げ回る手下2の背筋に・・・

6R (手下2/15)(アラン/16) 手下2/体力点-2

 ・・・肉きり包丁が突き刺さった!そして・・・

7R (手下2/15)(アラン/15) Draw

 ・・・這いずって逃げようとする男の身体を押えつけ・・・

8R (手下2/17)(アラン/18) 手下2/体力点-2

 ・・・脇腹を切り裂く!どぼどぼと流れ出す腸。

9R (手下2/20)(アラン/15) アラン/防御薬のおかげでダメージなし

 いつっ!奴は必死の抵抗で僕は引っ掻く。

 だが実験室で飲んだ防御薬のおかげでダメージはない。無駄な抵抗をするな!

10R (手下2/16)(アラン/21) 手下2/体力点-2

 いたい、痛いよう。助けてくれ何でもするから、と弱々しく敵は呻く・・・

11R (手下2/13)(アラン/19) 手下2/体力点-2 ←Overkill!!

 だが、僕の耳には聞こえない!死ねええええ!という獣にも似た雄叫び。

 

 こうして、邪教団の手下2人は、僕に切り刻まれて肉塊と化した。

 はぁー、はぁー。僕は息使いも荒く、血まみれの肉きり包丁を振り下ろすのを止める。そして辺りを見回し・・・極限の興奮状態が覚める・・・やっと我に返った。

 あ、お、ぐ・・・おうっぷ!僕はひざまづき激しく嘔吐した。さっき食べた子羊料理が、異臭とともにカーペットの上へ吐き散らされる。

 ああっやっちまった!僕は何てことを!!

 恐怖点が半分を超えており、正常な判断ができなかったとはいえ、こんな残虐な凶器で2人も殺してしまうとは・・・どうしよう、どうしよう・・・僕は自分のしでかしたことに恐怖する。だが、殺さなければ僕が捕らえられ、緩慢な死を与えられるだけだったのだ。

 そんなこと信じてくれるだろうか?警察は正当防衛だと信用してくれるだろうか?

 

 動こう。

 とりあえずここに留まっていてもしょうがない。僕は肉きり包丁についた血を丁寧にカーテンでふき取り、またベルトに刺す。血を拭ったカーテンは邪教団員の2人の遺体の上にかける。せめてそれくらいやるところに、僕はまだ正気が残っていたのだろう。

 そのとき、ふと気がついた。そう、こいつらがない、ない、と騒いでいた革の小袋のことだ。中には何が入っているんだろう?

 中には黄金のカギが入っていた。この黄金のカギはどこで使うのだろうか?ああ、ひょっとしたら・・・あそこかもしれない・・・

 僕は用心しながら、あの怪しげな大鏡−−僕の体が映らず、手を触れたらすり抜けた−−に近寄っていく。もしこれがトリックミラーとしたら、なぜトリックを仕掛けるのか、絶対に意味があるはずなんだ。たぶんここは・・・

 やはりそうだ!鏡の後ろには小部屋があった!この小部屋にはドアが左右についている。僕はカギがかかっている右のドアを、この黄金のカギで開けてみることにする。

 がちゃっ。黄金のカギはぴったり合う。

 邪教団員たちがあれほど必要にしていたものだ。ということは、ここから先は特別に重要なエリアなのか?

 

 ドアが開いた先は、また別の小部屋だった。

 埃と蜘蛛の巣から判断して、ここはめったに使われていないだろう。しかし、この一晩で極限までに研ぎ澄まされた僕の警戒心は、床の塵の上についた足跡を見逃さない。

 誰かがここにやってきて・・・僕は足跡を辿る・・・ドアの陰、右手の壁・・・石壁が緩く組まれたところがある・・・ぼこっ。石のブロックが外れた。

 誰かがここに隠した物は、大きな鋳鉄のカギだ。かなり年代物で不器用なつくりだが、そこには27という番号が刻まれている。

 このカギの発見によって運点が+2された(しかしすでに原点となっているため、これより上がらない)。ということは、これは、さっきの小さな黄金のカギよりも、もっと重要なアイテムなのか???

 僕は直感する。そうか、これが隠されたカギというやつだ!ケルナー卿、そしてとの最終決戦の場所である、赤い部屋に入るための!!!

 

 これ以上は何も見つからないだろう。僕は小部屋に戻り、さらにはトリックミラーを抜けて、接客室に戻る。

 ほっ。まだ誰も来ていないようだ。カーテンを被せた2人の遺骸に向かって十字を切ったのちに、僕は静かにドアを開け、部屋を去るのだった。

 そう、まずは生き残らねば。この『地獄の館』より、刑務所の方が、まだましだ・・・。

 

 

 

「赤い部屋」での決戦 --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点18/20 運点10/10 恐怖点6/10

 

 クリス・ナイフは手に入れた。決戦場である「赤い部屋」に入るためのカギも、この手にある。

 とすれば、もうこれ以上、他の部屋に入る必要もない。むしろ凶悪なクリーチャーに遭遇して、恐怖点が溜まってしまうリスクの方が怖い。

 だから僕は、まっすぐ食堂に向かうことに決めた。幸い、ケルナー卿との会食後、執事のフランクリンズに食堂から客用寝室である<エラスムス>の間に案内されていた。だから、おぼろげながら館の1階の構造は記憶している。

 

 通路に誰もいないのを確認する。それから右に通路を進み、少し行くと別の通路がある。そう、そうだ。それを辿れば・・・うん、両側に向かい合っている2つのドアがあるんだ。

 このうち左側のドアが「赤い部屋」すなわち食堂だ。

 ドアにはカギがかかっている。この錠は取っ手とカギが装飾風に一体となっているタイプだ。僕は27」と刻まれた鋳鉄のカギを取り出す。

 

(注;文章中では『この項の番号からカギに記された番号を引いた項に進め』と指示されています。このパラグラフは323なので、323-27296を参照します。するとそこには・・・)

 

 カギが回り、ドアが開いた。

 ここは食堂だ。長いテーブルには銀の食器が並べてある。蝋燭が灯されたシャンデリアが部屋の中を煌々と照らし、壁は・・・赤だ・・・赤いフランテンの壁紙で覆われている。

 ここが「赤い部屋」だ。

 全ての決着をつけるときがやってきた。

 だが待て、罠が仕掛けられていては元も子もない。僕は注意深くこの部屋を捜索する・・・が、怪しい仕掛けは何も見つからなかった。

 もう1回見直してみよう。ここで運試し!・・・吉。それでもやっぱり、何も見つけられない。

 

 よし、では、はじめよう。

 僕は深呼吸して心臓の鼓動を抑えると、カーテンの側に垂れ下がっている、執事を呼ぶための紐を引いた。

 間もなくして執事のフランクリンズがやってくる。彼は、前に会ったとおりの沈鬱な表情だが、呼び出したのが主人のケルナー卿ではなく僕だったので、いささか驚いた様子も見せる。

 僕は冷静さを装いつつ、ケルナー卿にもう一度面会したい旨を話した。言われた仕事をこなす以外に何も知らないような、羊のように従順な彼は、素直にそのことを主人に告げに行く。

 どくん・・・どくん・・・

 やがて来る、避けられない戦いに、心臓が高鳴っている。落ち着け!落ち着くんだアラン!!

 そうだ。フォークランドのときを思い出せ。撃沈されて死を覚悟した駆逐艦シェフィールド号の修羅場を・・・あのときに比べれば・・・

 

 「こんな夜中に、どうして私が眠りを乱されないといかんのかっ!?」

 廊下に響く怒声。ついにドラマーの伯爵、ケルナー卿がやってきた。後ろに続くは執事のフランクリンズだ。

 ところがケルナー卿は、食堂に一歩入ると表情を豹変させ、紳士の顔に戻った。

 騙されるな!その笑顔に潜む、獣のような目の凶暴な輝きを、僕はすでに気づいている。

 

ケルナー卿「いや、これはこれは、アラン・スコット君」

アラン「・・・ ・・・ ・・・」

ケルナー卿「いかがしました?眠れないのかな?夜酒の嗜みは当方控えており、付き合えないのですが。あしからず・・・」

アラン「夜酒の嗜みがないとするなら、来客を幽閉するのが、あなたの嗜みですか?」

ケルナー卿「・・・何をいったい?」

アラン「僕は見ました。地下牢を」

 

 ここで、ケルナー卿の表情が一変した。

 

ケルナー卿「こそ泥のように嗅ぎまわっていたというわけか!」

アラン「呪いの儀式。悪魔へ捧げる生贄。灰色衣の男・・・」

ケルナー卿「やめろ!!!」

 

 ボーン、ボーン、ボーン。緊張した空気を切り裂くように、置時計が午前3時をうった。

 

ケルナー卿「では、接客室で、貴重な同志2名を斬り殺したのは・・・」

アラン「ええ、僕です」(カラン、と肉きり包丁を彼の足元に投げる)

ケルナー卿「貴様っ!」

アラン「これ以上はさせない。僕は、あなたを殺してでも、この地獄の館を出る!!」

 

 僕が力強く宣言するのを見て、ケルナー卿とフランクリンズは顔を見合わせ、うなずく。

 そして彼らは二手に分かれ、長いテーブルを回って、僕にズンズンと向かってきた。左手に伯爵、右手に執事だ。どちらを先に攻撃するか、早く決断しなければならない。

 僕は目まぐるしく頭を回転させる。21か。だったら敵を1体素早く倒し、イーブンの状況を作り出さねば。執事の方が老いぼれていて戦いには不向きそうだ。よし!

 僕は戦うのにくみしやすそうな、執事のフランクリンズの方に回る。案の定、相手は前進をやめると後ずさりした。さらにずい、と、進み出る。逃げ出そうとする老執事。

 「フランクリンズ!おい!立ち向かえ。止まって攻撃しろ!」と伯爵が叫ぶ。だがフランクリンズは、神経質に顔を引きつらせるだけだ。

 おおっと、そっちには行かせるものか!僕はこの執事の退路をフットワークでふさぐ。とうとう部屋の隅に追い詰めた。そしてクリス・ナイフを引き抜く!

 鋭利な隕鉄製の小刀であるクリス・ナイフは僕の技術点を+3させる。すなわち、僕は原技術点の12で戦えるのだ。相手は明らかに暴力に弱いタイプ。これなら勝てる!

 

【フランクリンズ 技術点8 体力点8

1R (フランクリンズ/18)(アラン/20) フランクリンズ/?????

 

 老いぼれのパンチをかわしてのカウンター。ぐおー!腕を斬りつけられた執事が悲鳴を上げる。そして・・・彼の悲鳴はずっと続く・・・

 

 オーオーオー オーアオオー オーオーオー ・・・ ・・・ ・・・ !!! 

 

 うるさい!僕は両手で耳をふさぐ。何だこの叫びは?

 フランクリンズが、今までとは違う、冥府の底から響いてくるような声色で叫んでいる。

 そしてたちこめるこの煙は、何だ?まるで硫黄の臭い???

 

 お・・・!

 おお・・・!!

 おおおおお・・・!!!

 

 何だ、いったい僕は、何を見ているんだ!!!!!

 

 

 

アラン・スコットの黙示録。 --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点18/20 運点9/10 恐怖点6/10

 

 『君の眼前でフランクリンズの身体は溶けさり、おぞましい悪魔のような獣の姿となった。』

 

 う、う、うわああああ!!!

 

 『口からは蒸気がしゅうしゅうと吐き出される。鱗のある肌は黒い。手にはおぞましい鉤爪が伸び、それが空気を切って、君のほうに伸ばされる。足にはひづめがあった−−山羊のようなひづめが』

 

 なんだこいつは!助けてくれえ!!

 

 『地獄の底から呼び出されたこの悪魔を目の当たりにして、君は恐怖点を3点加えること。それでもまだ生き延びていて、クリス・ナイフを使えるなら・・・』

 

 7・・・8・・・9・・・!

 僕の恐怖点は9点で止まった。辛うじて精神は崩壊していない。僕はあえぎながら、何とか必殺兵器のクリス・ナイフを片手に構え、襲撃の姿勢をとる。そうだ、戦うんだアラン!

 ・・・って、できるのか?

 眼前に迫った巨大な悪魔を、このちっぽけな小刀で倒すことができるのだろうか?

 できないなら、この恐るべきに八つ裂きにされることは、確実・・・

 

 ピカァ!

 このとき、クリス・ナイフは、まるで煌々と夜空に浮かぶ月光のような輝きを見せた!!

 その輝きをまともに受け、悪魔は咆哮をあげつつ怯む。僕の技術点は今や+6された。原技術点を越えて技術点15で戦うことができる!

 

(注:Fighting Fantasyのルールでは、原則として原技術点を越える技術点回復は認められていません。しかしこの『地獄の館』では、特例で最終戦闘のみクリス・ナイフがあれば、それが認められているようです。ルール説明部分12p.に、訳者からの註釈が加えられていました。やれありがたや安田均八幡大菩薩!)

 

 よし、いける、戦える!やれ、やるんだ、アラン!うああああああああ!!!!! 

 こうして僕は雄叫びを上げ、煉獄の炎をまとう悪魔に特攻していった。極限の興奮状態で視界が真っ赤になり、周りの音が何も聞こえなくなる・・・。

 いや、何かの声だけがはっきりと聞こえる。はるかな上の高みから。あれは何の言葉だっけ。そう、幼い頃、親父に連れられて行った教会で聞いたんだ。たしかあの文句は・・・?

 

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ああ、わざわいだ、わざわいだ。地に住む人々は、わざわいだ。

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【地獄の悪魔 技術点14 体力点12

1R (地獄の悪魔/20)(アラン/21) 地獄の悪魔/体力点-2

2R (地獄の悪魔/18)(アラン/22) 地獄の悪魔/体力点-2

3R (地獄の悪魔/22)(アラン/21) アラン/体力点-2

4R (地獄の悪魔/22)(アラン/24) 地獄の悪魔/体力点-2

5R (地獄の悪魔/22)(アラン/26) 地獄の悪魔/体力点-2

6R (地獄の悪魔/22)(アラン/21) アラン/体力点-2

7R (地獄の悪魔/24)(アラン/19) アラン/体力点-2

8R (地獄の悪魔/23)(アラン/20) アラン/体力点-2

9R (地獄の悪魔/24)(アラン/19) アラン/体力点-2

10R (地獄の悪魔/22)(アラン/19) アラン/体力点-2

11R (地獄の悪魔/17)(アラン/20)  運試し吉 地獄の悪魔/体力点-4 ←Kill!!

 

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なお三人の御使がラッパを吹き鳴らそうとしている。

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 僕の最後の一撃が悪魔の胸を突き刺す。

 邪悪なこの館のは巨大な吠え声を上げ、ひづめの足がよろめき、テーブルの上にどずうううん!と倒れた。

 倒れると同時に、振り回していた腕が天井のシャンデリアにぶつかり、床に蝋燭が散らばった。火のついた蝋燭は、カーペットの上にまんべんなくばらまかれ・・・

 

 ぽっ・・・ぼおお・・・ごおおおおおっっ!

 

 瞬く間に部屋中が火の海となる!!

 

 

 

400!そして地獄の館の最期 --House of Hell-- 

 

【技術点12/12 体力点6/20 運点8/10 恐怖点9/10

 

 「うああ・・・あ・・・あるじ、我が、あるじよ・・・」

 

 僕の後ろで別の哀れな叫びが聞こえる。

 ほとんど忘れかけていた、もう一人の敵だ。ケルナー卿・・・。

 彼はテーブル越しにやってきて、その化け物をいとおしげに抱いていた。僕はこいつも殺してもよかった。しかし、悪魔の巨体の傍に屈みこみ、すすり泣く哀れな男など、もはやどうでもよくなっていた。

 砕けたシャンデリアから散らばった蝋燭は床を転がり、厚手のカーテンに火をつけた。これが決定打となり、炎は館全体に燃え広がっていく・・・

 外は雨嵐で湿気があるにもかかわらず、この燃え方は早い、早すぎる。ここからすぐさま脱出しなければ、僕も焼死体になってしまう。

 走るぞ。もう少しだけ動いてくれ、僕の体よ!

 

 こうして僕が命からがら玄関のドアを抜けたとき、館には煙がモクモクと立ち昇っていた。

 出血で意識が朦朧としながら、自動車道の、壊れたトライアンフまでよろよろと辿り着く。そして後ろを振り返ると・・・すでに館の1階には急速に火の手が回っていた・・・

 炎が梁を舐め、そのうち、館全体がズドドドドと崩れた。もう1時間もすれば、あの館は跡形もなくなってしまうだろう。

 彼方からパトカーと消防車のサイレンが聞こえてくる・・・。

 

 みんな燃えてしまったんだ。

 悪魔も。ケルナー卿も。シーコウも。灰色衣の男も。拷問吏も。オーヴィルもダークも。地下牢の美しい娘と勇気ある若人も。邪教集団の一味も。レディ・モルダナも。

 その他邪悪なものが一切合切なにもかも、みんな・・・みんな・・・

 

 地獄の館には−−と、僕は思う−−ふさわしい最期だ。

 

「フ・・・フフ・・・フハッ・・・ハ・・・ハーーーハハハハッ!!」

 

 僕は夜の嵐の中、雨の滴が降る空を見上げて、笑う。

 

「ハハハ、ハハッ、ヒ、ヒイッ、アハハハハッ!!」

 

 呼吸も苦しく、涎を撒き散らし、地面を這いずり回り、泥だらけになりながら、笑う。

 

「アーッハハハハッハハハハ・・・!!!」

 

 いつまでも、いつまでも・・・

 

 

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現場付近で大学生を緊急逮捕−ケルナー卿殺人放火事件−

 (1984101日付 ロンドン・デイリー朝刊)

 

 ミングルフォード近郊のケルナー・ダンヴァーズ卿含め多数が殺害され、邸宅が全焼した事件について、ドラマー郡警察はウェールズ出身の大学生、アラン・スコット(25)を殺人と住居侵入、放火の容疑で緊急逮捕した。スコット容疑者は事件現場付近の路上で精神錯乱状態になっているところを発見、通報された。

 調べでは、スコット容疑者は929日深夜から30日未明にかけ、友人とパーティを催していたケルナー卿邸宅へ裏口から客人を装って忍び込み、1階で応対したフランクリン執事長をナイフで殺害。また逃走の途中で他の客人2名も肉きり包丁で斬殺し、館に火を放った疑い。現場検証の結果、出てきた焼死体はケルナー卿含め10数名に及び、その多くは地下で発見されている。おそらく急激に回った火勢で呼吸困難となり、パニック状態が起こったものと考えられる。

 警察の発表によれば、スコット容疑者は精神が極度の損耗状態にあり、取調べは難航し一時中断。精神鑑定の結果を待って再開される見込み。ここまでの彼の供述には大学の専攻であった歴史考古学の専門用語による妄言に似た意味不明の言葉が並び、信憑性は薄い。また、犯行の動機についても未だ明らかにされていない。

 近年まれに見る凶悪事件として事態を重く見たサッチャー首相は、イングランド南部の治安維持に関する緊急声明を内閣府より本日午後発表の予定。また、スコット容疑者がフォークランド帰還兵だったことについて、海軍省は・・・

 

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【特別編『地獄の館』はこれでおしまい】

【次は『死神の首飾り』です。ファンタジー作品ですが、タイタン世界とはちょっと違いますよ〜】