さきのエントリーへのご批判について
今日は日帰り出張でして、朝からもぞもぞ動き回っておりましたが、何通かご批判のメールを頂戴しまして、また誤解される書き方を私が確かにしている部分もあり、また内容については補足、反論を入れておくべきと思いましたため、ご本人さまがたのご了承を頂戴しまして、一部ここで弁明めいた回答をするものであります。
ご批判内容のそのままの引用は良くないとのことですので、掻い摘んでしまいますことをご容赦ください。
● 「お前、結局なんなんだよ」
ただの一国民で、市場動向について詳しいので語れということで呼ばれた次第です。
● 日銀の引き受けについて
日銀法の改正を行って、日銀に直接国債を買わせようという試みについては、現段階では反対です。ECBでも政府への直接融資や国債の引き受けは禁止されていますし、通貨の信認を維持するには中央銀行の規律を護持することが必要という議論を支持します。
ただし、論戦はおおいにやるべきだと思います。争点を定めて、議論することは望ましいことですし、市中の消化能力に問題が出そうだという前提となれば、私もいまの意見に拘泥するかと言われるとまだ判断しきれていません。
よって、デフレ脱却なんたらについては、今回議論すべき復興そのものの対策と復興後の成長シナリオで言えば後者に組み込むべきもので、復興国債が何らか発行され、事態の進捗が明らかになってからでないと物事が進まないのではないかと思います。少なくとも、いまの政治状況では無理でしょう。
だから、政治状況を変えて閉塞感を打破するためにはどうするべきか、という本来の市場での判断や意見とは違う次元の問題が山積みで、先に為すべき手続きが多いですよね、と論じたのです。
「ではデフレを放置しておくべきだと考えているのか」とお怒りになった参席者もおありでしたが、いまの経済状態は緊急時であり、3月4月の前年対比が何割も下落してもおかしくないぐらいの状況です。その状況でデフレ脱却だリフレだ国債の日銀引き受けだというのは、真の意味で「どさくさに紛れて従前平時の政策主張を無理に通そうとしている」のであって、外野的には少し頭を冷やしてもらうほかないよなあと思う次第です。
● 「これからグランドデザインを考えようという話にケチをつけるのか」
前項と話が前後しますが、いまは緊急時でございます。
なので、浅学ながらも経営を長くやってきた私の見解でいうならば、少なくとも問題を短期、長期に分け、おのおの重点分野を抽出して優先順位を作り、予算をつけて、担当者にきちんと権限を付与しながら進捗を見守り、まずかったらなるだけ早めに手続きをして修正する、という作業が必要だろうと思います。本当に、基本的なことです。
実際にいまの某所で取りまとめている陣容は、本部を6つも作って横の連携を取らず、実際の担当者は長らく現場を見てきた官僚であるのにこれを外して未経験の政治家や政治任用者を充当し、しかし首相のご意見番は元副官房で、エネルギー調達に詳しかった人を理由つけて外に出しちゃったという状況であります。
内容も、短期で為すべき地域金融の処理(破綻処理や受け皿化、政策金融公庫など制度融資の窓口業務の拡充など)による地域経済正常化と、長期で考えるべき東北地方の復興プラン(東北成長戦略、新産業育成、学術機関の誘致・拡大など)が並存して議論しているように見受けられます。公的融資枠拡大で東北に新産業を、とか一口に言われてもねえ。
誰かがリーダーシップを取って、短期も長期もしっかり一体化して考えて実行していくのだと言い切れる状態であるならば誰も問題視しないと思うのですが、はたして貴方がた自身は来年も菅さんが首相の座にあると信じているでしょうか。
誰かが「復興管理内閣構想」を言いました。その直前に、「復興庁構想」が潰れたからという理由はあるにせよ、その場で否定した人はおらず、それは取りも直さず復興関連法案が何らかの形で通せたら総辞職という、短期のお話を専権で行う内閣にしようという案です。要は、誰も菅さんを支えよう、長期政権として短期も長期も菅さんの指導下で対処していこうとは思っていない、ということの証左なのではないでしょうか。
● 政治任用について
今回、官邸に然るべき知識のある対処を指揮しうる人材の「プール」が枯渇していて、結果的に東工大の皆さんが一本釣りされる形で召し上げられ、東工大自身が困惑するという事態となっておりました。
緊急、短期、長期と内容を分けて対処するという基本ができなかった理由は、政治主導と言ったものの然るべき知識と経験を持った人材の登用を行う仕組みができておらず、結果として自衛隊と米軍が主たる緊急対応の主力を担ったという点は、真の意味での無為無策、また党を含めた組織の「政権を支える」意識の薄さを露呈したと思います。
政治主導の路線を掲げるのであれば、政治が然るべき専門知識を調達し危機対応していくための政治任用をより大きく拡大する必要があり、ポリティカルアポインティーといいますか、そのためにはある程度官僚と民間の人事交流や転職転入を認め、行政に必要な専門職をきちんと確保できる体制が必要であることは、今回痛感したのではないかと思います。
簡単に言えば、市場関係者もいろいろと意見を言う、でもその意見が正しいかはともかく、重要かどうか、どの順番で対応するべきかの判断がつかなかったら、意見が採用されるかどうか以前に「正しい政策に反映されるか」が担保できないじゃないですか。
分からないなら、聞けばいいんだと思います。ただ、聞いても分からない、重要度が判定できず判断できないというのは、組織として無能だというしかありません。ピンポイントで分かっている人はいるんですが、彼らには何の権限もないわけで。
● 結論として
宴会も含めれば20回以上意見交換や勉強会などでご一緒してきたわけですが、この数年の動きを見るに、いまの官邸の無能の原因を官僚制度や警察に押し付けるのは間違っていると思います。
政治主導がいけないという話じゃありません。ただ、やはり準備は必要です。どの分野に、どういう人材がいて、どういう権限を与えて行政を仕切るのか。また、政治家は選挙のことがまず頭にありますから、票になりづらい国家の経済政策なんて勉強しません。だから、海江田さんみたいに経済評論家だったはずが経済閣僚になったらエネルギー政策も産業政策も分からず「早く案を出せ」とレク待ちしている不思議な人が大臣になったりするんです。当選五回ですよ。
もちろん、他にも様々要因はあるのでしょうが、やはり定数の是正、議席数が振れやすい小選挙区制、機能の割に強すぎる参院、充分な政策スタッフを置けない党本部や各議員といった、複合的な政治機能の制限、弱体化が問題の根幹だろうと思います。
だから、危機対応で指導力を発揮できるリーダーシップあるトップが現れない、情報が現場から上がってきているのに咀嚼できない、あるいは上に報告したくない情報を持っている現場に開示を迫れない、対処するために権限を与えようにも充分な能力や知識を持った人材がプールできていない、国民にとって充分な情報開示が必要にもかかわらずきちんとしたコミュニケーションが行えない、結果として、一ヶ月が経とうとしているのに事態の収拾のめどが立たないどころか事態が悪化して解決の見込みにリーダー自身が自信を持てない。
若者や移民が少ない日本だから暴動こそ起きないけれども、地震津波や原発爆発そのものの衝撃とは違うところで日本社会が融解していたのかなと思います。
● 「グランドデザインの対案を考えろ」
そういう状況であるので、グランドデザインといってもそれを実現できる指導力を持った長期政権が果たして日本にできるのか、という話であります。
逆説的にいうならば、我が国のグランドデザインというのは「日本を(どうであれ)維持するために改革させられる、本格的な長期政権をどう創るのか」という政治不信の脱却がまず第一義に来てしまうような気がして仕方がありません。
メディアやネットが注目を浴びたいがために流す不思議な言説とそれを支持する国民という制限要素はあるものの。
その指導力の担保があって、はじめて我が国の競争力を立て直すための幅広い分野での規制撤廃や新産業育成のための技術支援や創業支援、海外戦略、新税創設や消費税上げを含めた財政バランスの改善、エネルギーの調達の問題と安全保障といった太い枝葉が議論できるような気がするんです。
それは、日本人の政治態度の問題です。社会においては、互助の精神がここまで発揮できるのに、為政に関しては極力無関心であろうとするのは「隣人との宗教や政治の話は不和の元」という気持ちがどこかにあるからなんでしょうか。
正直、この大災害でも日本が変わらなかった、変えられなかったとするならば、被災地で犠牲になり、また安住の地を追われた人々に対して、日本人として本気で申し訳が立たないと思います。
● (蛇足)柄でもなく我が身を振り返る
いままで結構お気楽に「お金もあるし、結婚もして子供も出来て、とても幸せだから、人生楽しく暮らして駄法螺でも散らかしつつ稼ぐところはしっかり稼いで前向きに仕事に取り組んでけばいいや」的に思っていて、別に誰かからどう思われようが気にしていなかったのが、震災での無力感や原発爆発での不安を経て、なんかこのままで私はいいんだろうかとか思うようになってきました。
まあ、池田信夫を煽ってるときが一番輝いているのかなあと感じるんですけどね。
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Comments
難しいことはわかりませんが、
発売前の商品に「絶対売れない。間違いない。」と
断言してしまうのはまずかったということですね。
Posted by: 行商人 | 2011.04.07 at 12:36
秘書や役所上がりの地方議員や本部職員は大バトル後は山本さん大絶賛してましたよ。
海江田さんは赤っ恥だけど、それだけの粗相をしてますからね。また来てください。
Posted by: | 2011.04.07 at 12:45