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「羽田」目指したメガフロート、原発へ

2011/4/6 23:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 福島第1原子力発電所の放射性物質を含む汚染水を一時的に貯留するため、静岡市の清水港で海釣り公園として使われていた「メガフロート」に出番が回ってきた。

 このメガフロートは長さ136m、幅46m、高さ3mの鋼製の浮体構造物。内部には約1万8000m3の空洞があり、1万トンほどの汚染水を蓄えられる。

 2011年4月5日に清水港を出て、横浜市の造船会社までえい航。内部を仕切っている隔壁の一部に穴を開けて配管を通すなど注水しやすいように改造した後、福島第1原発の沖合まで運ぶ。改造には1週間程度かかる見込みだ。

 静岡市によると、東京電力から譲渡してほしいと打診があったのは3月31日のこと。メガフロートは水深1mほどの浅瀬に係留でき、タンカーよりも機動性が高い。「汚染水を処理するための最も迅速で有効な手段だ」と東電の担当者は市に説明したという。

 「緊急性が高いので、海釣り公園を休園して譲渡することを決めた。有償が前提で、条件は東電などと協議していく」。静岡市の小嶋善吉市長は4月1日の記者会見でこう語った。

■かつて羽田D滑走路の候補に

 静岡市が譲渡するメガフロートは、当初から海釣り公園のためにつくったものではない。造船会社や鉄鋼会社などが共同で設立したメガフロート技術研究組合が1999年、羽田空港D滑走路への採用を目指して神奈川県横須賀市沖での実証実験のために建造したものだ。

 実験では、水深20mの海面に長さ1km、幅60~120mの滑走路を浮かべて、海底に杭を打ち込んでつくったドルフィンに係留。波や風による影響を調べたほか、航空機を使った離着陸実験も行った。

 国土交通省は2002年3月に「羽田空港再拡張事業工法評価選定会議」を設置。羽田空港D滑走路の工法として、多摩川の流れを妨げない桟橋工法のほか、桟橋と埋め立てを組み合わせたハイブリッド工法、メガフロートを使った浮体工法の3工法を中心に検討した。

 同会議が2002年10月にまとめた報告書によると、建設費と100年間の維持管理費を合わせた費用は、桟橋工法が6080億円、ハイブリッド工法が5780億円、浮体工法が5897億円。工期はいずれも2年半程度だった。

 同会議は3工法とも施工可能だと判断。工法を一本化せず、工法の選定を施工者に委ねる設計・施工一括発注方式の入札を実施するよう国交省に提言した。

 その後、鹿島を幹事会社とし15社で構成するJV(共同企業体)が1者だけ入札に参加して、5985億円で落札。同JVはハイブリッド工法で工事を進め、滑走路は2010年10月にオープンした。

 一方、浮体工法を推す造船会社のグループも入札への参加を目指していた。しかし、建設会社などの協力が得られずに断念した。国交省が入札参加要件として、土木工事やしゅんせつ工事など計5工種に登録する会社によってJVを結成するよう義務付けていたからだ。造船会社だけのJVは、入札参加が認められなかった。

■兵庫や三重でも活躍

 海上空港の夢がかなわなかった実証実験用のメガフロートは、分割されて自治体などに引き取られた。静岡県清水市(現在の静岡市)は03年、その一部を約5億円で購入して、海釣り公園として転用していた。

 同様のメガフロートは、兵庫県南あわじ市の「うずしおメガフロート海釣り公園」や、三重県南伊勢町の「マリンパークくまの灘」などにも係留されている。東電はこうしたメガフロートの一部も譲渡が可能かどうか、自治体などと交渉を始めた模様だ。

 メガフロートの研究が活発になったのは、1995年に起こった阪神・淡路大震災以降のこと。軟弱な地盤や水深に関係なく、耐震性に優れた防災基地を海面に整備できることなどが売りだった。

 しかしその後、羽田空港D滑走路への採用が見送られたり、造船の受注が回復したりしたことで、メガフロートの開発は下火になっていた。

 各地でひっそりと余生を送っていたメガフロート。思いがけぬ災害をきっかけに、世間の注目を浴びることになりそうだ。

(日経アーキテクチュア 瀬川滋)

[ケンプラッツ 2011年4月6日掲載]

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