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人生は短い 何をするべきか 「わたしを離さないで」映画化

2011年4月5日15時54分

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写真:カズオ・イシグロ=郭允撮影拡大カズオ・イシグロ=郭允撮影

 長崎生まれの英国人作家カズオ・イシグロ(56)が、自作『わたしを離さないで』の映画化を機に来日した。日本では3月末から公開されている。原作発表から6年を経て再び注目される作品は、短い人生を懸命に生きる切なさを基調にしながら、世界が抱える矛盾を深く映している。

 『わたしを離さないで』は、同じ寄宿学校で育った少年と2人の少女の恋が物語の一つの軸になっている。英国で最も権威のあるブッカー賞を受賞した『日の名残(なご)り』を上回るベストセラーとなり、日本でも文庫を含めて20万部以上売れている。

 主人公の少年少女は、普通の人々と変わらない感情を持ち、成長していくように見えるが、実は特殊な状況で育てられている。「30歳ぐらいまでしか生きられないという設定がスタート地点。人生は短いということが強調され、そのなかで私たちが何をするべきかを考えさせられる」とイシグロは語る。

 イシグロ作品には、こんな「人生は短い」というモチーフが繰り返し現れる。

 「海洋学者の父の都合で5歳の時にイギリスに渡り、1、2年のはずが、気がつけば16、17歳になっていた。そうなると、ことばの問題などで日本人ではなく、イギリス人として生きるしかなくなった。人生は短く、間違いを正すチャンスはほんの何度かしか巡ってこないと思っているのは、こんな原体験があるからです」

 物語の内容に踏み込めば、彼らは臓器移植のために生み出されたクローン人間という設定になっている。「ドストエフスキーやトルストイの時代とは違って、人間とは何かを小説のなかで議論すると古風と思われてしまう。だが、クローンとしたことで、人間とは何かという問いかけを含むものになった」

 2006年の邦訳刊行時、若い世代がいくら働いても豊かになれない格差社会が問題になっていた。

 「この小説がメタファーとして生きているとすれば、日本やイギリスの階層差よりも、南北問題など世界的な貧富の差にあると思う。どの国へもわずかな時間で行けるのに、どんなに働いても豊かになれない貧しい国の人たちを、私たちは見ていないのです」

 マーク・ロマネク監督による映画化には、自身もエグゼクティブ・プロデューサーとして加わった。

 「私は成瀬巳喜男や小津安二郎の映画が好きだったが、ロマネク監督も同じころの日本映画が好きだった。主演女優のキャリー・マリガンの演技は、高峰秀子や原節子を思い出させる。顔の表情をあまり変えずにわずかなセリフで深い感情を喚起させる方法で、見ているとイギリス人が出演している日本映画のような気がした」(加藤修)

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