関東一円の浄水場から乳児の飲用基準を上回る放射性物質が検出されたことで、首都圏などの小売店でミネラルウオーターなどペットボトル入り飲料水の品薄が続いている。農林水産省はメーカー各社に増産を要請したが、東日本大震災後の被災地支援や首都圏などでの買いだめで需要が急増した一方、メーカー側も「被災や計画停電の影響で生産条件が制約された現状では既にフル生産状態」としており、需給逼迫(ひっぱく)はしばらく解消しそうにない。【小倉祥徳、太田圭介、谷多由】
不要な買いだめを防ぐため、イトーヨーカ堂は24日、乳児のいる親向けの優先販売を東京、千葉の計40店で始めたが、25日には東京、千葉、茨城、栃木、群馬、埼玉、神奈川の計117店舗に拡大した。母子手帳を提示すれば飲料水2リットル入り1本を優先的に販売する。サミットは一般販売を中止し、乳児を持つ家庭か妊婦に限り、1家族に2本(1本当たりの分量不問)販売している。
だが、店頭での品薄は続き、今月長男が生まれたばかりのさいたま市の主婦(32)は「隣の川口市で一時基準値を超えて不安。どこに行ってもミネラルウオーターが手に入らず、西日本の親戚に入手を頼んだ」と話す。こうした状況を打開するため農林水産省は25日、飲料メーカーと業界団体にミネラルウオーターの増産を文書で正式に要請したと発表した。
しかし、メーカーは既に震災発生後から増産体制に入っている。ミネラルウオーター国内最大手のサントリーホールディングスは阿蘇工場(熊本県嘉島町)など4工場で稼働時間を延長するなどし、3月の出荷量を前年同月比1・6倍、4月は1・5倍に増やす計画だ。サッポロ飲料も3月は8割増産する。日本コカ・コーラも6工場で24時間生産を続ける。ただ、「計画停電で操業時間が限られる」(キリンビバレッジ)、「ペットボトル容器などの資材が生産工場の被災で不足している」(日本コカ・コーラ)などと震災の影響が増産のネックになっている。
各社は輸入増にも動いており、伊藤園はフランス産「エビアン」を追加注文し、大塚食品は米「クリスタルガイザー」製造元に増産を要請した。だが、「輸入の船便は到着まで1カ月以上かかる」(伊藤園)と出荷増には時間がかかりそうだ。
日本ミネラルウォーター協会によると、10年の国内のミネラルウオーター類の市場規模は251万7925キロリットルと01年からほぼ倍増した。各社の生産能力は公表されていないが、同協会は「各社の水源は被害が出ていない西日本に多い。増産に向け、他の飲料からの生産ライン変更などに手間取っていることもあり、現在は供給が需要に追いつかないが、生産余力はまだあり、中長期的な供給に心配はない」と話している。
毎日新聞 2011年3月26日 東京朝刊