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【オピニオン】菅首相、日本を復興に導け

マイケル・オースリン

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 日本の東北地方に壊滅的な被害をもたらした地震と津波が起きてから半月が経過した。しかし、被災した福島第1原発での事故は危機的な状況が続き、約1万5000人が依然行方不明となっている。多くの避難者が生活必需品の供給再開を待っている。

Associated Press

指導力を発揮できるか

 さらに悪いことに日本は現在、大規模な電力不足に見舞われており、当面続きそうだ。状況の制御には程通く、菅直人首相は今後数カ月、今まで以上の試練に直面するだろう。

 菅首相に対しては日本人はこれまで寛容な態度をとっていたようにみえるが、その一定期間が過ぎた現在、その指導力を疑問視する見方が強まっている。菅首相は、福島第1原発を運営している東京電力を非難しているが、自身の震災救援計画については明確なリーダーシップを発揮していない。共同通信の調査によると、政府の原発危機対応については60%近くが「評価していない」と回答している。

 菅首相はまだ、被災地に足を踏み入れておらず、数十万人が身を寄せている一時避難所も訪れていない。震災から約3週間が過ぎた時点で被災地視察が計画されたが、悪天候のため延期された。これとは対照的に被災者救援活動での自衛隊の奮闘に国民は感謝の念を抱いている。

 政治的な混乱が露呈したことで、被災地の自治体などから一段と辛辣な批判が出ている。福島県の知事は菅首相の震災対策にかなり疑問を差し挟み、原発事故についてより完全な情報開示を要請している。菅首相は震災と原発事故対策強化のため、前官房長官の仙谷由人民主党代表代行を官房副長官に起用した。これは賢明な行政上の措置であるかもしれない。しかし、菅首相が救援活動への積極的関与から離れるとの見方を強めることになる。

 震災と原発事故の規模の大きさからいって、恐らくすべてを菅首相に帰すことは不公平だ。1995年の阪神・淡路大震災後の自民党に比べ、現在の民主党政府はかなりうまく対応している。当時の対応は完全に機能不全状態で、自民党の権威も失墜した。さらに菅首相は当時の自民党とは違い、特に米国など外国から支援要請を即座に受け入れた。

 しかし菅首相は今後数カ月、二つの大きな、かつ関連した障害に直面する。電力と経済成長の問題だ。日本は今回の地震により、原子力・火力発電で2万メガワットの発電能力を失った。これは国内の電力供給の20%に相当する。この電力不足により、自動車・石油化学・電子部品などのメーカーは生産を削減するか一時的に停止している。

 ゴールドマン・サックスによると、日本の自動車会社の1週間当たりの損失額は15億ドル(1250億円)。日本はアジアでは第2位の石油化学製品の生産国であるほか、半導体集積回路に使われるウエハー製造では世界の半分以上を占めている。これらのメーカーの減産や生産停止で日本経済は短期的には影響を受けないが、グローバル・サプライチェーンを通じて影響は拡散する。

 例えば一部のアナリストの間では、アップルのタブレット型端末「iPad(アイパッド)2」は、一部主要部品の日本メーカーが注文に応じられなくなれば、世界での発売が遅れる可能性がある、との指摘もある。電力が夏までに復旧しなければ、日本は急激な経済成長の減速に直面するだろう。国民はエアコンの利用を減らし、猛暑と湿気に対応することになり、日常活動も影響を受ける。

 過去10年間の日本経済の強みはグローバル・サプライチェーンに自らを組み込み、重要な産業部品を提供することで発揮されてきた部分が多い。活動停止が長引き、これらの部品供給が不足すれば、日本企業は顧客を失うリスクに直面する。日本企業の顧客はほかで供給元を探さざるを得なくなるためだ。

 韓国と台湾のほか、欧州の企業も日本の苦境で恩恵を受ける可能性がある。危機が後退すれば、日本のハイテク輸出の全般的な見通しは一段と暗いものになっている可能性がある。日本経済全体も問題が増えていることになる。

 今後、菅首相が直面する最大の試練は経済の立て直しだ。これまで彼が送っているシグナルは交錯している。ポジティブな面は、政府が子供手当を増額しようとする計画を見送る方針を示唆していることだ。子供手当は、政府の財源にとって不必要な支出と長い間批判されてきた。ただ心配なのは、菅首相が増税の可能性を否定せず、法人税についても40%から35%への引き下げ案を撤回することを検討していることだ。

 今回の危機を受けて日本の団結を示す例として挙げられるのは、ある世論調査でほぼ70%が増税に賛成している点だ。日本経団連会長でさえも法人税の据え置きを支持することを示唆している。

 これらの自己犠牲的な感情は称賛できるが、増税は日本が必要としているものではない。日本企業は今回の危機でいままで以上に競争力を付けなければならない。減税を実施すれば、企業は収益を設備投資や研究開発に振り向けることができる。また、日本はずっと消費低迷が続いており、所得税や消費税を引き上げれば、さらに個人消費が冷え込み、国内市場に焦点を当てている企業に悪影響が及ぶ。

 日本政府は、被災地に工場を建てたり製品などを調達するなど、被災地への投資を決めた企業に対しては、優遇税制措置を講じる必要がある。経済産業省も、地元の起業家に対し、被災地での小規模事業立ち上げを奨励すべきだ。

 もちろん被災者救援が終わり、復興が始まるまでにはまだ多くの時間がかかる。しかし、菅首相は、復興のための成長戦略を採り、財政逼迫を理由とする増税は行わないといった政策を積極的に行うことで、経済界・金融市場・世界などに力強いシグナルを送ることができる。菅首相の評価は、震災直後の混乱への対応だけではなく、日本をこの大災害から可能な限り力強く脱却させたかどうかで決まる。

(マイケル・オースリン氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長)

原文: Lead Japan to Recovery, Mr. Kan

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