麻生太郎元首相が2009年、漫画などを振興するために設立の準備をすすめた「国立メディア芸術総合センター(仮称)」。同施設は、「国営マンガ喫茶」だと揶揄され、構想のまま日の目をみることは無かった。しかし今、隣の韓国では漫画振興のための巨大施設がつくられ、国を挙げて漫画産業に取り組んでいることをご存知だろうか。世界的に評価の高い「クールジャパン」の代表であるとも言える「漫画」は、これからどうなっていくのか――韓国の漫画事情を知るため、現地を訪れてみた。
■ アジア最大規模の漫画施設・韓国マンファ映像振興院「KOMACON」
京畿道(キョンギド)の富川市(プチョン)にある韓国マンファ映像振興院「KOMACON」は、2009年に韓国政府により「マンファ」と呼ばれる韓国の漫画の国際競争力を高める目的で設立された。「アジア芸術のハリウッド的存在」を目指して2万4,500平方メートルもの広大な敷地に設立されており、これは漫画関連の建物としてアジアでも最大規模だそうだ。
この施設には漫画の博物館や図書館、アニメーション上映館、キャラクター商品館があるほか、漫画家やアニメ会社に格安で作業場を提供しているオフィスビルが併設されている。このオフィスビルには、高い倍率の競争をくぐり抜けた22人の漫画家と17のマンガ業者が入っているそうだ。さらに2013年までに、周辺にマンガテーマパークを造成し、市の境界や電車の駅などにマンガ都市の象徴物を建てる計画だという。
■ 日本より進んでいる? 韓国ではオンラインで読まれる漫画
日本では漫画を雑誌で読むのが一般的だが、韓国では漫画雑誌は衰退してしまっている。その代わりに、韓国では「ウェブトゥーン」と呼ばれるオンライン漫画が一般的だ。ウェブトゥーンは、ウェブサイト上で読む形態の漫画で、韓国の巨大ポータルサイト「NAVER」「Daum」などで安価で閲覧できるようになっている。最近のヒット漫画でありドラマ化もした「偉大なるキャッツビー」もウェブトゥーンから火がついたものだ。漫画の"電子化"という面では、日本より韓国の方が遙かに進んでいるのかもしれない。
■ 端々に感じられる日本の漫画の存在感
しかし、韓国が日本より漫画の先進国であるかどうかは疑問だ。KOMACONの博物館にある商品館に並べられているのは、見慣れた絵柄のグッズの数々。「黒執事」のセバスチャンやシエル、「ONE PIECE」のルフィやゾロといった日本の漫画に登場するキャラクターで埋め尽くされていた。
また、展示室にある雑誌コーナーで過去に発行された韓国の漫画雑誌を開いてみると、「名探偵コナン」が連載されていた。日本からマンガを輸入し、韓国紙でも連載しているようだ。
さらに、図書館に行き、整然と棚に納められていた大量の漫画を見てみると、7、8割が日本のマンガのハングル訳であった。立派な国営施設を構えているものの端々で日本の漫画の存在が感じられ、韓国の漫画産業は日本の漫画に大きな影響を受けているとも言えそうだ。
■「クールジャパン」日本の漫画が世界へ
日本にも国営ではないが、新宿の「現代マンガ図書館」や「京都国際マンガミュージアム」などがある。さらに2014年には、明治大学によって、漫画などの収集・保存と展示・閲覧、そして学術・文化的活用を可能にしていく事を目的とした「東京国際マンガ図書館(仮称)」が設立される予定だ。この施設には200万点のマンガ・アニメ関連の作品が収蔵され、世界最大級の漫画保管施設となるという。インターネットの漫画ファンの間では、この取り組みに対して「数年後、漫画の原点は韓国かと思われるのは御免だ。国際マンガ図書館が漫画の研究拠点として機能出来るようになればいい」「日本がアニメやマンガなどのサブカルチャーやメディア芸術の中心地なんだなっていうのが、世界的に再認識されるようになれば嬉しいな」といった期待の声が集まっている。
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※この取材は2011年2月26日に行われたものです。
【関連サイト】
KOMACON 公式サイト
明治大学 東京国際マンガ図書館 公式サイト
(中村真里江)