【萬物相】津波から生還した犬

 韓国犬協会会長を務めたユン・ヒボン氏の著書『珍島犬の話』で、犬の社会にも「五倫」があるということを知った。「知主不吠(ふはい)」とは、主人を見分けてほえないという意味で「君臣有義」に当たる。「小不大敵」(小さい犬は大きい犬とけんかしない)は「長幼有序」で、「毛色相似」(子犬の毛色が父親の毛色に似る)は「父子有親」だという。

 時が合わなければ一緒にならないという「有時有情」は「夫婦有別」に、1匹がほえれば集落全体の犬がほえるという「一吠衆吠」は「朋友(ほうゆう)有信」に該当する。2007年の初めにユン氏から、乳離れしてから70日ほど過ぎた黄色い珍島犬を譲り受け、5年間飼っているが「犬公五倫」が事実にほぼ合っていると証言できる。

 世界で最も有名な生物学者といえるリチャード・ドーキンス氏の本『進化の存在証明』には、大人のこぶしくらいの大きさのチワワと、子牛の半分くらいの大きさのグレートデンが並んで立っている写真が掲載されている。この写真を見ると、進化よりも人間が介入した育種のほうが偉大なのではないかと思ってしまうほどだ。世の中には犬が700種いるという。人間が交配を行いありとあらゆる体系、毛色、習性の犬を作り出した。最近の犬は体質が弱く、頻繁に動物病院の世話になるというのも、人間の好みどおりに自然に反した交配種を多く作り出したせいだ。

 日本で大地震の後3週間、建物の残骸に乗って海を漂流していた1匹の犬が発見され、日本の人たちが喜んでいるというニュースが飛び込んだ。写真で見ると特別な犬ではなく、焦げ茶色の毛の平凡な雑種犬だ。人間が無理やり足を長くしたり、ぺしゃんこにしたりせず、毛色もそのままの自然な犬が、生命力も強いのだろう。

 津波から生還した犬が浮遊物に乗って広い海をさまよっている間、何を感じ、どんなことを経験しただろうか。犬を飼っている人は分かるだろうが、犬も人間と同じように表情豊かだ。餌を与えるときは唾を飲み込みながら大喜びし、庭につないで外出するとすぐに不機嫌な表情になるのを見ていると、犬もいろいろなことを感じている。人と犬の情緒的なつながりも、そのような感情の共有から生まれるといえる。この犬の生還ストーリーに、日本人が一瞬でも悲劇を忘れ、希望と慰めを見いだすことを祈る。

韓三熙(ハン・サンヒ)論説委員

【ニュース特集】東日本巨大地震

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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