次世代に伝えるべき最低限の事実が教科書に記載されたと言えるか疑問が残る。文部科学省が検定結果を発表し、2012年度から生徒たちが使う中学教科書のことだ。
沖縄戦については「集団自決」という表現を申請7社全てが記述した。住民が集団で死に追い込まれた事実について、7社中4社が日本軍の関与に触れたが、軍命や強制は明記されなかった。
ちょうど66年前(1945年)の今ごろ、沖縄は日米両軍の激烈な地上戦に巻き込まれていた。
沖縄守備軍(第32軍)に与えられた任務は「本土決戦」の準備が整うまで一日でも長く沖縄に米軍をとどめておくことだった。
そして国土が戦場となり国民が地上戦に巻き込まれたとき、自国軍は住民の生命・財産を守るどころか、その命さえ奪った。
「軍隊は住民を守らない」。これが多大な犠牲を払って導かれた沖縄戦の教訓だ。
だが日本政府は再三、この教訓を教科書から消し去ろうとしてきた。82年に沖縄戦で軍が住民を虐殺した記述が削除された。2008年度から使用された高校歴史教科書は、住民が日本軍による強制と誘導などによって集団的な死に追いやられた事実について、削除・修正された。
当時(07年)民主党代表代行だった菅直人首相は、衆院予算委員会で住民の集団死について「軍の関与が否定されるということはあり得ない」と明言。文科省の介入を批判し、検定意見の撤回を福田康夫首相に求めた。
このとき、針の穴をくぐり抜けるようにして生き延びた人々が声を上げ、県民総ぐるみで検定内容の撤回を求めた。
今回、申請した7社が「集団自決」という表現を使っているが、それだけでは不十分だ。自国軍によって住民が死に追いやられたという事実が明確に記述されていないからだ。
教科書検定の透明性が求められている。どういう議論を経て結論が導かれたのか国民にきちんと説明してもらいたい。
さらに教科書執筆者や出版社が自己規制しているとしたら問題だ。文科省の顔色をうかがうのではなく、見識を発揮してほしい。
過去の過ちに目をつぶるような教科書、教育によって、国の行く末を危うくしてはならない。
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