きょうの社説 2011年4月5日

◎景況感悪化 自粛の悪循環に歯止めを
 東日本大震災発生前後で再集計した日銀の3月企業短観で、震災後の先行きの景況感が 予想通り、悪化に転じた。市場関係者の多くが予測していた大幅悪化にならなかったのは、企業が震災の影響を十分に見極められなかったためとみられ、今は先行きの判断がさらに下振れしている可能性が高い。

 企業の生産活動は取引先の工場が被災したり、首都圏での計画停電の影響などでかなり 落ち込んでいる。福島第1原発の事故が収束せず、長期化が避けられないことも企業の不安感を強めている。さらに先行きの懸念を拡大させているのは、自粛ムードの広がりによる消費の落ち込みである。

 北陸をみても、富山市の全日本チンドンコンクール(4月8〜10日)、福井市の越前 時代行列(4月16日)が中止となり、小松市でも5月のお旅まつりの曳山行事を縮小する動きがある。大震災への配慮を理由にしているが、それぞれの市を象徴する春の大型イベントだけに、地域の他の催しにも連鎖しないか気がかりである。

 自粛ムードに覆われて消費が低迷すれば、企業の収益減や雇用不安につながり、さらに 消費を冷やす悪循環に陥りかねない。日本経済全体の足を引っ張り、被災地復興へ向けても大きなマイナスである。イベントにしても、普段通りの活気を維持し、むしろ賑わいを呼び込みながら、そこで被災地支援を訴える工夫がなされていい。

 輪島商工会議所と門前町商工会は合同で、10%のプレミアムを付けた商品券を5月か ら発行する方針を固めた。発行総額は3億3千万円で、上乗せ分は輪島市が負担する。このような消費喚起につながる前向きのアイデアは他の地域にもほしい。官民一体で旗を振ることで自粛ムードを払拭する効果も見込めるだろう。

 景気の一時的な後退は避けられないとしても、長期化させないためには被災地の復興需 要を確実に経済の安定につなげていく必要がある。政府は景気を冷やす恐れのある安易な増税に頼らず、国債増発による思い切った財政出動で「震災不況」を回避する断固たる決意を示してほしい。

◎竹島支配強める韓国 情け容赦ない領土争い
 韓国政府が先ごろ、竹島(韓国名・独島)に敷設してあるヘリポートの改修工事に着手 したことを明らかにした。韓国は東日本大震災に見舞われた日本に救助隊をいち早く派遣し、水や食料などの救援物資や義援金でも手厚い支援を行っているが、そのことに感謝しながらも、情け容赦のない領土争いの現実にも目を向けなければならない。

 韓国政府は、日本の中学校教科書検定を通った社会科公民や地理の教科書に竹島が日本 の領土と明記されたことに反発し、その対抗措置として竹島のヘリポート改修を公表したとみられる。

 日韓両政府は対北朝鮮で連携を強化している。李明博大統領は、教科書問題と切り離し て日本への災害支援を続ける韓国国民を「成熟した姿勢」と称賛し、落ち着いた対応を呼びかけた。それは、感情的反発を抑えた大人の態度を見せながら、竹島の実効支配を強め優位に立つという、したたかな計算があってのことだろう。

 韓国の竹島実効支配に対して、民主党政権は「不法占拠」という表現を避けて、韓国側 を刺激しない姿勢をとってきた。その民主党政権が、大震災と原発事故対応に忙殺され、韓国の竹島実効支配強化に対抗する有効な手を打てないのは由々しいことである。

 韓国内には、竹島に関する日本の教科書検定結果は震災を契機とした日韓協力の雰囲気 に冷や水を浴びせるものという批判がある。しかし、日本からすれば逆に、竹島の実効支配強化で、韓国に対する感謝の念に水を差された苦々しい思いも禁じえない。

 日本の震災被害に世界中が支援の手を差し伸べており、中国、ロシアも救助隊を出し、 エネルギー支援をしてくれている。が、その一方で、日本海上空ではロシアの電子偵察機が日本領空に接近し、東シナ海では中国海洋局のヘリコプターが海上自衛隊の護衛艦に異常接近するという緊迫した事態が震災後に起きている。大災害で混乱する日本の統治、領域防衛体制を試す動きとみられる。励ましの声に包まれていても、外交・安保で気を抜くことはできない。