きょうのコラム「時鐘」 2011年4月5日

 ベストセラーの一覧が、北陸と東京でこれほど違うのは前代未聞だろう。本紙読書欄の、これも強烈な震災報道のひとつだった

北陸では「老いの才覚」や「花物語」など、前週通りの本が上位を占めた。東京の書店は1週間で一変、「放射能で首都圏消滅」や「震災時帰宅支援マップ」など震災本が並び、とりわけ原発に関心が高いことが分かる

都民が受けた震災のショックが北陸とは桁違いに大きく、今も新たな不安におびえている事実を物語っている。その感覚差は日本各地にあり、突き詰めれば被災地の人々と、遠く離れた人の間に巨大な「断絶」が横たわっているようにも見える

しかし、震災を直接体験した者とそうでない者の距離感はどうしようもない。本来は人命救助が仕事の海上保安庁の潜水士が、遺体回収しかできないもどかしさを「これも人命救助」と話していた。遺体が戻ることで遺族は救われると言うのである

間接的であっても、残された者には残された者の役割がある。それが復興の力になる。被災者を思い続け、被災地との距離を「心の距離」にしない大切さを思う。