2011年4月4日11時48分
壊れて配線がむき出しになった加速器の制御装置。建屋の壁が崩れて外が見えていた=茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構
東日本大震災は、科学技術研究にも深刻な打撃を与えた。震度6弱に見舞われた茨城県つくば市の研究所では、長年かけて蓄積した生命科学の試料が失われ、世界有数の大型加速器などが損壊、被害の全容や今後の影響もわからない状態になっている。
約300の研究機関や企業の研究所が集まるつくば市。国内の遺伝子組み換え植物研究の中核機関の一つ、筑波大遺伝子実験センターが2日間停電した。マイナス80度に保っていた冷凍庫が0度近くに上昇。研究者から預かっていた遺伝子サンプルなどがダメージを受けた。
鎌田博センター長は「20年近くかけて作ってきたサンプルも失われた。やりなおしても作れない可能性もある。被害の算定もできない」と頭を抱えた。
産業技術総合研究所では、電子顕微鏡や化学実験で出る有害な気体を浄化する排気装置が大きく壊れた。被害総額は数十億円に上るという。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、小林誠さんと益川敏英さんのノーベル物理学賞受賞に貢献した大型加速器が破損した。電子などを加速する装置が破断し、重さ400キロ以上の電磁石が落下、制御装置も損傷した。
東京電力から通常の30分の1以下の電力しか受けられず、機器点検もできないため、被害の全容も分かっていない。5月に予定されていた小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の分析も難しそうだ。
同県東海村の大強度陽子加速器施設J―PARCも、構内の道路が陥没し、多くの機器が損傷した。運転には大電力が必要。電力需要が高まる夏場を避け、運転再開は少なくとも半年後になるという。
生命科学分野では実験生物の維持は研究者にとって死活問題だ。東北大薬学部の青木淳賢教授は、停電で水温の維持ができず、実験用の熱帯魚を東京の知人の研究室に託した。しかし、運べたのは3千匹ほどのうち約50匹。青木教授は「なんとか絶やさずにすんだが、研究は半年から1年は遅れる」と話す。
被災地以外にも影響が広がっており、東京大も節電のため大規模な電力を使う実験を自粛。静岡県三島市の国立遺伝学研究所は計画停電で動植物の遺伝情報のデータベースの一部が停止中だ。
研究の停滞は避けられない状況に、小林誠さんは「被災地の研究を国内の研究機関で支え、国際的な協力も得れば遅れはカバーできる。日本の科学研究の歩みを止めてはいけない」と話した。(中村浩彦、瀬川茂子)
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